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5. 深淵のダンジョン

『深淵のダンジョン』


 そう呼ばれる、世界でも有数の高難易度ダンジョンがある。

 『深淵』の名にふさわしく、世界一深いダンジョンと言われている。現在、確認されているのは地下50階層までだが、更に奥まで続いているらしい。


 『深淵のダンジョン』があるのは、エウロパ大陸の南端、トルク王国と呼ばれる小国の密林地帯である。トルク王国は巨人族の王が治める、国土の95%が緑に覆われており、人族よりも獣が多いことで有名な国だ。トルク王国の人族は、巨人族、妖精族、トラや猿、ゴリラの獣人族、そして、他国では魔物として扱われることの多いリザードマンである。レダコート王国と異なり、人間族やエルフ族の姿はほとんど見られない。

 『紅の鹿』のメンバーであるピコの生まれ故郷でもある。


 このダンジョンの最大の特徴は、その気になれば40階まで一気に10階ずつショートカット出来る点である。通常のダンジョンだと、『ボスの間』でボスを倒さないと転移魔法が使えないのだが、このダンジョンでは『ボスの間』の手前にも転移装置があり、1階から一気に10階まで行き、ボスを倒した後に出現する転移装置を使って、次の20階まで転移できる。同じ要領で、40階まで行くのに3体のボス魔物を倒すだけでいいのだ。

 ある程度実力のある冒険者パーティにとって、簡単に下層まで潜って行けるダンジョンは非常に魅力的である。本来であれば、40階まで行くのに数カ月かけなければならないところを、上手く行けば半日で辿り着けるため、運び込む物資(水・食料・寝具など)の量を極限まで減らすことが出来るからだ。空間魔法を持たないパーティにとって、これほど有難いダンジョンはない。

 しかも、一度『ボスの間』に入っても、「あ、こりゃ駄目だわ」と思えば手前の部屋にすぐに戻れるという親切設計だ。

 このダンジョンは手軽に自分の実力に見合った階層まで行くことができ、しかも良質なアイテムが手に入るとあって、各ランクの冒険者達から絶大な人気を誇っている。


 だが、このダンジョンの本当の人気の秘密は、別のところにあった。


「今日こそは……今日こそは念願の30階層クリアだ!」

「「おお!」」


 『紅の鹿』の男性陣の気合が、いつもより入っている。

 女性陣は「死ねばいいのに」と冷たい視線を男性陣に送っており、サラとロイは「?」と首を傾けた。


 サラ達『紅の鹿』一行は、ロイのダンジョンデビューの舞台を『深淵のダンジョン』に定めた。初心者には難易度が高いが、闇属性の敵が多いこのダンジョンは、聖女であるサラや闇の精霊であるロイにとってはむしろ低難易度ではないかと考えたからだ。もちろん、他にも理由はある。


「男ども、このダンジョン、すっごい好き。私は嫌い」


 苦虫を嚙み潰したような顔でピコが言うには、各層のボスに原因があるのだという。


 10階層のボスは『可愛さ稲妻級』B級魔物のリリム。

 20階層のボスは男性型セクシー魔物A級のインキュバス。

 30階層のボスは『踏まれたい悪魔1万年連続No.1』Sランクのサキュバスである。


 多くの男性冒険者の夢は、30階に辿り着くことだ。

『紅の鹿』も、女性陣の反対を押し切って挑戦すること6回。

 毎回、男達は10階で心をときめかせ、20階で気分を悪くし、30階でテンションMAXで戦いに挑み、色々折られて帰還する、という道を辿った……らしい。


「でも、止められないんだよなあ。会いに行きたい魔物、っているんだな」

「1階から一気に30階まで行ければ最高なんじゃがな」

「治癒魔法の使い手がいないと、確実に死ぬけどな」

「「「死ねばいいのに」」」

 ライラとピコに会わせて、思わずサラも口に出してしまった。


 女性陣によると、それでも付き合っているのは、サキュバスを倒した後に手に入る宝箱に、ランダムで『100%惚れ薬』『若返りの秘薬』『見えない矯正下着』『不老長寿薬』『幻視の宝玉』『自白剤』等々の強力なアイテムが入っているからである。

「じ、自白剤?」

「そうよ。何でも、使用者に対して一切嘘がつけなくなるばかりか、自らペラペラと喋ってしまうそうなの……過去の異性関係を」

「う、うわあ」

 効能が知られているということは、被害者がいたということである。実際に、男性1名、女性3名のSランクパーティが、リーダーの華々しい自白により解散したという。

 ご愁傷様である。


 ちなみに、まな板のエルフ・ライラが欲しいのは『見えない矯正下着』、人族の中でも寿命の短い巨人族であるピコが欲しいのは『不老長寿薬』である。


 ライラの願いはともかく、ピコのためにサラもロイも気合を入れて『深淵のダンジョン』に臨むことになった。


 人気のダンジョンと言うだけあって挑戦者が多く、冒険者ギルドで整理券が配布されている。サラ達は、ダンジョンに入るまでに街で3日も足止めを喰らうことになった。とはいえ、初めて来た街の賑わいにサラもロイも大興奮ではしゃぎ回り、身分を隠していたにも拘わらず、二人はすっかり街の人気者になっていた。僅か3日にして、『S会トルク支店』が冒険者ギルド内にオープンすることになったのだが、それはまた別のお話である。


 ようやく順番が来て、サラ達が転移装置を使って10階層に辿り着くと、『ボスの間』の前ではギルドの職員が改めて整理券を配っていた。転移で10階まで来たパーティと、1階から地道に潜って来たパーティが争うのを防ぐためである。


 1時間ほど待って、サラ達は10階層のボス『リリムの間』に足を踏み入れた。


 目の前には、薄紫の長髪が美しい、愛らしい幼女が微笑んでいる。リリムの得意魔法は幻術と電撃魔法である。

 が。

「くっ! なぜ、俺達は争わなければならないんだ!?」

「魔物なんて辞めて、うちに来いよ」

「ワシの孫になってくれ!」

「氷槍」

「「「リリムちゃーん!!」」」

 ライラの攻撃により、開始10秒で決着がついた。


「ライラさん、怖いね」

「うん。逆らわないようにしよう」


 能面の様に凍り付いた笑顔のライラに震えながら、サラとロイは手を握り合った。


 宝を回収した後、心に傷を負ったままの男性陣をロイの笑顔で癒しながら、サラ達一行は20階の『ボスの間』へと向かう。


 ……そこには、憂いに満ちた表情で横たわる、美貌の魔物がいた。


ブックマーク、評価、感想などありがとうございます!


今回は早速ダンジョンに潜ってみました。

第3章はサクサク進みます! 60話くらいで終わればいいなと思ってます。

課題が山積みですけど、1つずつ、解決できればなと思ってます。

サラちゃんも、もう大人です。……少女時代の恋とかにも、決着をつけねば!


とはいえ、次回も楽しくダンジョンです。ではでは!

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