121. ヒュー
「目を覚まして! ソフィア!」
カイトは魔王とソフィアの攻撃を切り裂きながら、ソフィアに呼びかけ続ける。
「!!」
攻撃の衝撃に耐えきれなかったのか、カイトの剣が折れた。SSランクになったお祝いにユエンがプレゼントしてくれたミスリル製の剣だ。柄の部分に魔力を増幅させる魔石をはめ込んだ特注品であり、カイトの宝物である。
「くっ!」
いかに勇者と言えど、素手で魔王と戦うには分が悪すぎる。カイトは折れた剣で攻撃を受けながら、じりじりと押されていた。
「カイト! 私の剣を使って!」
「サラちゃん!」
3階から瓦礫の足場を駆け上がってサラが近づいて来た。サラが投げた剣を受け取る。
「傷は大丈夫!?」
「うん! 治した!」
サラが結界を張りながらカイトの横に並んだ。
「カイト! 私の力は、『共感と共有』なの。ヒューか、ソフィアの心と繋がって、内側から力を弱めてみる!」
「そんなこと出来るの!?」
「分かんない! でも、やるしかない!」
「分かった。……この剣、凄いね。古代龍の爪に古代エルフの加護がついてる! これなら、魔王にも届くよ!」
カイトは今まで使っていた剣を鞘に戻し、『聖女の剣』を構えた。
「サラちゃん。ソフィアを、助けて……!」
「……全力で頑張るっ!!」
切実なカイトの願いに、サラは気合を入れて応えた。
「僕が隙を作るから、見逃さないで!」
「うん!」
現実世界では初めての勇者と聖女の共闘だ。
だが、サラは幾度となくゲームでカイトと共闘してきた。これはゲームではないと分かっているが、カイトの強さと真っ直ぐな心をサラは信用している。
カイトは剣を体の正面に構えると、魔力を込め始めた。
「光の精霊よ!!」
カイトの呼びかけに応え、精霊達が剣へと集まっていく。
ミスリル製の剣では強度と容量が足りずに使えなかった、勇者の固有スキル『聖剣生成』だ。
「いっくよおおおおおおおおおお!!」
カイトは叫びながら、魔王目掛けて聖剣を突き出した。
激しい衝撃が大気を揺るがす。
「いっけええええええええええ!」
カイトの気合と共に、剣が魔王の結界に穴を開けた。
「今だ! サラちゃん!」
「うん!」
ヒューの心は、ほとんど残っていない。ヒューと共感するのは難しだろう。
だが、ソフィアはまだ魔族になったばかりだ。まだ、ソフィアの清らかな魔力と、魔族特有の禍々しい魔力が融合できていない。
(入り込むなら、ソフィアだ!)
そう思いながら、サラはありったけの魔力を身体に満たして、意識を飛ばした。
しかし、二人の結界内へと入り込んだサラの意識は、膨大な『魔』によって方向を見失っていた。
意識して『共感と共有』の力を使うのは初めてであり、上手くコントロール出来ていないせいもあるだろう。
(ソフィア! ソフィアどこ!?)
焦るサラの前に、ふわり、と光が見えた。それは誰かの手のようにも見えた。手はサラに向かって伸びている。サラは、迷わずその手を握った。
「まおう、とは何だ?」
(!?)
突然、自分の口から出た言葉にサラは驚いた。
見慣れない、薄暗い部屋。左右で太さの違う、自分の腕。胸はペタンコだ。
(……これは、ヒューだ!!)
ソフィアに共感できれば御の字、と思っていたが、まさかヒューに直接辿り着けるとは思ってもみなかった。
サラは今、ヒューとなって過去を見ている。
目の前には、穏やかだが、少し困ったような顔をしたガイアードがいた。
その顔を見て、サラは自分がこれまでにも何度も同じ質問をしたのだと分かった。
「魔王、とは、『魔』を統べる者………………魔族と魔物の王様だ」
なぜか、ガイアードは途中で言い方を変えた。難しい言葉は通じないと思ったのだろう。
「おうさま、とは何だ?」
サラは首を傾げた。
「民を幸せにする者だ」
「? 俺は、ガイアードとソフィアが幸せなら他はどうでもいい」
「……そうか。では、俺とソフィアを守れるほどの、強い魔王になってくれ」
そう言ってガイアードは微笑むと、サラの頭に手を置いた。
「分かった」
サラは大きく頷いた。
ガイアードがいなくなると、サラは暗い塔から空を眺めた。遠くに古代龍の姿が見える。半年前に現れた、この国を覆うほどの結界を張る強大な力を持った魔物だ。ガイアードは憎々しく思っているようだが、ソフィアは古代龍に懐いているらしく、サラも不思議と嫌いではなかった。
「!」
窓から離れた途端、ゾワッと胸の奥に悪寒が走った。
胸の奥から、何か得体の知れないモノが這い出して来るような気味の悪い感じがした。
サラはいつものようにベッドに潜り込むと、胸を押さえて丸くなった。
(ガイアード! ガイアード!)
必死で、ガイアードの名を呼ぶ。大きな手の温もりを思い出し、頭の中を直接触られているような不快感に堪える。それでも、何かがサラの心を浸食してくる恐怖に震えが止まらない。
(ソフィア! ソフィア! ソフィア!)
右腕を抱きしめて、ソフィアの心と繋がろうと意識を集中させる。
サラは……ヒューは、魔王になどなりたくなかった。
ガイアードは「立派な魔王」になることを望んでいるが、恐らく、ガイアードが期待するようなモノにはなれない、と本能的に理解していた。
(呑まれたら、終わりだ)
サラは歯を食いしばり、体中に爪を立てて意識を保った。
「!」
不意に、温かな風が胸の中を駆け抜けた。
(ああ……。ソフィアが、喜んでいる)
ソフィアの腕と入れ替わった時は愕然としたものだが、この腕のおかげでヒューは何度も救われた。『魔』に呑まれそうになる度、ソフィアの楽し気な感情が流れ込んできて、ヒューの意識を繋いでくれるのだ。ソフィアが外で何をしているのかは知らないが、ソフィアが「幸せ」なのは分かった。
(大丈夫。まだ、大丈夫)
―――ガイアードと妹がいれば、俺は、俺でいられる。
サラは、ゆっくりと目を閉じた。
目を開けると、場面が変わっていた。
サラはガイアードと剣を打ち合っていた。今日のガイアードはいつもと違う。真顔だし、鼻息が荒い。あっという間に、2本とられて休憩になった。
「ソフィア様から『お父様』と呼ばれて喜んでいるんですよ」
レオナルドがこっそりと耳打ちをしてきた。
「『お父様』?」
「はい。女性は父親のことをそう呼ぶんです。男性が呼ぶなら『父上』でしょうか」
「ちちうえ……?」
胸の中で、何かがストン、と落ちた。
「ガイアード」
半ば衝動的に、ガイアードのマントを掴んでいた。
「俺も『父上』と呼びたい」
「…………………………………………好きにしろ!」
その後の2本は、あっさり勝った。
益々怖い顔になって、長く伸びた鼻の下を隠す様に手で覆う父の姿がなんだか可笑しくて、サラは生まれて初めて大声で笑った。
(父上、父上、父上……)
その夜は暖かい気持ちで胸がいっぱいで、『魔』が現れることはなかった。
また、画面が変わった。
サラは、右腕に激痛を感じて早朝に目を覚ました。
ソフィアに何かあったのだと、すぐに分かった。
昨日、人間の町に遊びに行ったソフィアが戻ってこなかった。父と共に探しに行ったが、父の乳母でレオナルドの母とかいう女も、その家族も殺されていた。血の匂いでむせ返る屋敷を隈なく探したが、ソフィアの姿はどこにもなかった。結界の外に連れ出されたのだと、父が拳を握りしめている。
初めて、この結界が邪魔だと思った。
ソフィアが結界の外にいる時は、ぼんやりとしか感情を読み取ることが出来ない。だが、それでもソフィアが恐怖と哀しみを感じていることが伝わって来た。
サラは、不安で仕方がなかった。
「父上、ソフィアが痛い想いをしている……!」
父の胸に縋りつき、大きな手の温もりを感じながら、いつの間にか眠っていた。
そして、突然の激痛。
目を覚ますと父はいなくなっており、代わりに父のベッドでキトと一緒に布団に包まっていた。
「ソフィア……?」
胸の奥に、ぽっかりと穴が開いた感じがした。
転移して外に出ると、黒山の人だかりができていた。
その中心に立つ父と父に抱かれた妹。
「ソフィアアアアアア!」
魔物達を薙ぎ払って駆け寄ると、冷たくなった妹に触れた。
そして、気付く。
お腹の中に、別の命があったことに。
その命共々、ソフィアが死んでしまっていることに。
父を見上げると、父は初めて見る表情をしていた。
父はサラの目を見つめて、大きく頷いた。
―――胸の奥から、黒い魔力が溢れ出した。
それから後の記憶はほとんどない。
サラは、大海原を漂っていた。
「……じょ……聖女よ」
誰かが、サラを呼んでいる。
ここはヒューの心の中のはずだ。だが、呼んでいるのはヒューではない別の誰かだ。
「聖女よ」
はっきりと、声がした。
意識はまだヒューの中だったが、サラの意識はヒューの記憶とは切り離されていた。
姿は見えないが、誰かの気配を感じる。
「聖女よ。俺をソフィアの中へ連れて行ってくれ」
ふわり、とサラは手を取られた感触を覚えた。
サラはこの手を知っている。
何度もヒューの頭を撫でた、温かな手。
先程、ヒューの心の中へ導いてくれた、大きな手。
「……ガイアード……!」
サラは再びガイアードに導かれ、ソフィアの中へと移動した。
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私事ですが、昨日、誕生日でした!
ついでに、就職〇年記念で休暇をもらったので、あさってから日田と湯布院に旅行に行きます。
パソコンを持っていく予定なので、更新も頑張ります!
当初、カンボジアの予定でしたが、コロナのため北海道に変更し、北海道から大分になりました。
近いな!毎年行ってるしな!(笑)
北海道にはコロナ騒ぎが治まってからリベンジしたいと思います。ゴールデンカムイのスタンプラリー、まだやってるといいな(笑)
元気だしてください、北海道~っ!!大好きです!




