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108. 奇跡を願う者達

「よく来たね、勇者君。待っていたよ」


 カイト達が結界を越えると、結界の主であるリーンがヒラリと舞い降りてきた。


「リーン! アラミスを何とかして!」

 カイトは自分の封印の解除よりも先に、アラミスの治療を望んだ。アラミスは気を失ったまま、巨人のゼダの腕に抱かれている。

「わお! ゼダ君、そのコどうしたの?」

「俺がヘマをしました。彼女は俺を助けるために従魔に腕を食わせたんです。その少年が抱えているのが、その従魔です」

 ゼダが簡潔に説明する。

「オッケー! 僕ちゃんに任せて。でも、先に勇者君の封印を解くね。封印に使っている魔力が勿体ないから」

 そう言うと、リーンはカイトの額に右手の人差し指を当てて「解除!」と唱えた。

「? ……っつ!」

 激しい痛みがカイトを襲った。

 無理やり閉じられていた体中の魔脈が一気に解放されて、洪水のように魔力が巡る。細胞の一つ一つが膨れて弾けそうなほど、力が湧いてくる。

「うわあああああ!」

 蛇を落とさぬように抱きしめたまま、カイトは膝を突いた。身体と意識が爆発しそうな感覚に歯を食いしばって耐えながら、カイトは以前の自分に戻っていくのを感じていた。

 勇者の力の復活を前に、どこからともなく光の精霊達が集まってくる。精霊達はカイトの頭上に集まると、ギュっとお互いを抱きしめ合い、歓喜のあまり一気に弾けた。


 世界が、揺れた。


「うわお!」

 リーンが思わず歓声を上げた。


 勇者、復活である。


「凄いね! 今、一瞬、僕の結界が消し飛んだよ! すぐ直したけど! やっぱり勇者の力は破格だね。魔王君が覚醒した時くらいの衝撃だったよ」

 リーンは、顔は笑っているが目は笑っていない。リーンは勇者が苦手なのだ。とは言え、勇者の力を封印するために割いていた魔力も戻り、リーンも本来の実力を発揮できるようになったことは喜ばしい。

「じゃあ、そのコの腕を治すね。蛇君、君も弱っているみたいだし、またそのコの身体に戻るかい? ……オッケー。じゃあ、戻すね! 『元気になあれ!』 ……はい、治療終わり! 僕ちゃん、凄い!」

 あっという間にアラミスの腕が再生した。あまりのあっけなさに、カイトもゼダも目が丸くなった。アラミスは穏やかな表情でスヤスヤと眠っている。痛みもない様だ。

「ありがとうございました!」

 ほっと息をついて、カイトはリーンに頭を下げた。「おや」とリーンは面白いものを見付けた子供の様な表情になった。

「君は、ずいぶん成長したみたいだね」

「成長? 自分でも、変わったなとは思いますけど……あ! リーンさん、結界の外で仲間が戦っているんです! 僕、行ってきます!」

 ユエンとルーカスのことを思い出し、カイトは踵を返した。そのカイトをリーンは止めた。

「待って! そっちは僕がどうにかするから、君は早く魔王の所に向かってね。それが君の役目でしょ!」

「……はい!」

 短く返事をして頭を下げた後、カイトは魔王の結界に向けて走り出した。ここから魔王の城へは直接転移することはできない。カイトは逸る気持ちを抑えつつ、一息で魔王の結界まで走ると、その中に飛び込んだ。


「ソフィア! 何処だ!?」

 王城の裏庭を駆け抜けながら、カイトは焦っていた。

 勇者の力を戻して、魔王の結界内に入れば、ソフィアの気配を探し出せると思っていた。

 だが、ソフィアの気配が見付からない。

 何処か特別な場所に監禁されているのかもしれない、とカイトは思った。

(なら、知ってそうな奴に聞くだけだ!)

 魔王の城を目前にして、カイトは行き先を変えた。勇者の役目は魔王を倒すことだと理解しているが、カイトにとっての最優先事項はソフィアだ。そこだけは、譲れない。


 過去に出会った、とある魔物の姿を思い浮かべ、転移する。


 転移した先は、西の塔だった。


 そこには、柔らかそうなベッドで丸くなる一匹の兎がいた。兎はカイトの気配に気づくと、飛び跳ねて距離をとった。

「お前……勇者!?」

「キト! ソフィアは何処!? 知っているなら、教えてほしい!」

「うわああああ! 寄るな、人間! 人間なんて滅んでしまえ!」

 キトは赤い目を潤ませながら、手あたり次第、近くの物をカイトに向かって投げた。カイトはそれらを軽く躱しながら、キトから一定の距離を保って膝を突いた。キトに目線を合わせるためだ。

「落ち着いて、キト! 何があったの? 僕は人間で勇者だけど、ソフィアの大切なキトを攻撃したりしない。だから、教えて? ソフィアは何処? 何処にも気配がないんだ。監禁されているの? それとも、気配を消す魔法を使っているの?」

「ソフィア様は……」

 カイトが襲ってこないことに幾分安心したのか、キトは物を投げるのを止めて、じっとカイトの顔を見つめた。ピンッと立っていた耳が突然、へにゃっ、と垂れ下がった。宝石のように輝く大きな赤い瞳から、ボロボロと涙がこぼれ、可愛い顔をクシャクシャにさせながら、兎の魔物はわんわんと泣き始めた。魔族は涙を流すことは出来ないが、力の弱い魔物は人と同じように涙を流すことができる。キトも子供の様に顔を上げて、両手でお腹の毛を引っ張りながら「うわーん」と声を上げて泣いている。


「ソフィア様はっ、人間にっ、殺されたぁああああ!」

「…………え…………?」


 ずんっ、と何か重たい物にのしかかられた様な感覚がカイトを襲った。キトの言葉を理解するまでに時間がかかる。何を言っているのだろう、と思った。

「ソフィアが、殺された…………?」

 そんな馬鹿な、と目の前が真っ暗になる。カイトはペタンと、尻餅を突いた。


 キトは泣きながら、カイトにこの2日間に起こった事を説明した。


 ソフィアがいつものようにトスカに会いに行ったこと。

 そのソフィアが夜になっても戻ってこなかったこと。

 人間の住むポルカの街で事件が起こり、トスカとその家族が惨殺されたこと。

 ソフィアがトスカの孫達と共に盗賊に古代龍の結界の外に連れ去られてしまい、ガイアード達が助けに行けなかったこと。


 そして、今朝。冷たくなって戻って来たこと。


「…………う、嘘だ」

「嘘じゃない! ソフィア様、怪我だらけで、冷たくて……何度お呼びしても、起きてくれなくて。ううう。ソフィア様が何をした!? 人間なんて、大嫌いだああああ!」

 キトは、レオナルド達がソフィア暗殺に関わっていることを知らない。単純に、人間達がソフィアに酷いことをして殺したと思っている。そして、キトが知らない事がもう一つあった。

「子供は……? お腹の子供はどうなったの?」

「子供!?」

 思いもよらないカイトの言葉に、キトは愕然として泣き止んだ。キトはソフィアが妊娠していたことも知らなかった。ソフィアが巧妙に姿を消す魔法を胎児にかけていたためだ。

 ふと、キトはソフィアとの会話を思い出した。

 ソフィアは赤ん坊の抱っこの練習にキトを練習台にしていたのだ。


「キトって……ちょうどいい大きさよね。赤ちゃんみたい!」

「ええええ!?」

「キトちゃん。ママでしゅよー」

「ひゃは! くすぐったいですぅ」

「ふふ! キト、可愛い。私もキトみたいな可愛い赤ちゃんが欲しいわ。キト。もし、私に赤ちゃんが生まれたら、お兄ちゃんになってね?」

「もちろんですよぅ!」

「キト、大好き!」


 幸せそうに、微笑むソフィア。ただの冗談だと思っていたのに。


「うううううううわああああん! 勇者っ、ゆうしゃあああ!」

「キト!」


 思わず胸に飛び込んできた兎を、カイトは抱きしめた。

(暖かい……!)

 ソフィアにいつも抱っこされていた小さな兎。

 それはカイトにとっても我が子のように思えた。

「うわあああああああ! ソフィアあああ!」

「うえええええええん! ソフィアさまあ!」

 二人はお互いを抱きしめ合った。

 勇者だとか、魔物だとか、そんな立場の問題などは関係なかった。

 ただ、愛する人を失った悲しみを共有する仲間として、二人は声を上げて泣いた。


 カイトはいつも何も知らない。

 自分にとって、命よりも大事な人の最期さえ気付かなかった。

 自分の未熟さと愚かさが嫌になる。

 少しはマシな人間になれたと思っていた矢先にこれだ。


 これから何を思って生きればいいのだろう。

 勇者とは何だ。

 どうしてソフィアの家族と戦わないといけないんだ。

 もう、どうでもいいじゃないか。


(……死のう。ソフィアと子供のところに行こう。死後の世界が何処にあるかなんて知らないけど、きっと、走れば追い付ける。三人で、堂々と一緒に暮らそう……!)


 自暴自棄になったカイトが死を決意したその時。


「あの時みたいに……」


 ぽつり、とキトが呟いた。

 現実逃避を始めていたカイトは、急に現実に引き戻されてビクッと肩を震わせた。


「あの時?」

「勇者と初めて会った日。ガイアード様にソフィア様は刺されて、一度死んでしまって、でも、聖女の祈りで生き返って……」

「……あ……」

 ガンッ、と頭を殴られた気がした。

 冷え切った身体に、急に血液が巡り始めた。カイトの心臓がバクバクと音を立てている。


 あの時とは状況が異なる。

 あの時は、ダンジョンという特殊な環境の中だった。ソフィアの魂がダンジョン内に留まっていたことに加え、ヒューの身体と繋がりがあったから成せた奇跡であった。


 今回はどうだろうか。

 ソフィアは、何処で死んだ?

 いや、場所が何処であろうと、魔王の身体の一部を宿したソフィアが簡単に死ぬだろうか。

 ……このことに、ガイアードが気付いていないということが、あるだろうか。


 考えれば考えるほど、胸が熱を帯びてくる。


「キト! ソフィアの身体は、今どこにある!?」

「え!? えと、ガイアード様が水晶に閉じ込めて、魔王城に持って行ったよ」


(……やはり……!)


 バッ、とカイトは立ち上がった。

 その顔に、もう悲哀の色はない。


 カイトはキトを両手で抱きあげて、ベッドの上に置いた。

 目を丸くするキトの頭を優しく撫でて、力強い眼差しで微笑んだ。


「キト。ここで待っていて。僕が、全てを取り戻す……!!」


 そして、カイトは魔王城へ向かった。

 新たな決意を胸に、水晶を守るガイアードの元へと。


ブックマーク、評価、感想、いつもありがとうございます!


今回は、カイトとキトの話でした。

ソフィアの復活という奇跡を願う兎と勇者とパパ。

奇跡が起きるといいねえ~。

……ポルカの街が消えたってことは、良いオークも死んだのでしょうか。ガーン。


さて、今週はバレンタインですね。

日頃お世話になっている方々に感謝を伝えるチャンスです(笑)。

お返しがめんどくさいだろうな、とか思ったら負けです!(笑)

本命でも義理でも友チョコでもなく、感謝を伝えるチョコって何チョコって言うんでしょう?

礼チョコ? ありがとうチョコ? これからもよろしくチョコ?

まあいいや。買いに行ってきまーす。


(追記)ローファンタジーで、「教会の狩人」という連載を始めました。

10話くらいの短い話になる予定です。こちらもよろしくお願いします!

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