91. バンパイア騎士団、見参
「結界の中が、こんなに暗いなんて……!」
少し驚いたように、ロイが目を見開いた。
魔王の結界へは、思ったよりもスムーズに侵入することが出来た。もう少し抵抗があるかと思ったが、魔王としても「来るなら来い」という事なのだろう。
「瘴気の濃さが尋常じゃねえな。こりゃ、他の奴らを置いてきて正解だったな」
ダイが顔をしかめている。ダイの言う通り、ここは穢れた魔力で満ち溢れていた。もちろん、これは想定済みで、サラは伝説の装備を、他のメンバーは魔に抵抗のある黒龍の皮製の装備を身に着けていた。サラが溜め込んだジークの脱皮した皮やら爪やらで作った特注品だ。魔王城に突入する可能性のあった精鋭部隊全員が、装備の何処かに黒龍製品を取り入れている。そのおかげでルカ湖に飛び込んだ時ほどの消耗はないのだが、時間をかけない方が賢明である。
「サラ様、前方に中位魔族と魔物の群れが待ち構えています。中位が13体。魔物は……数える方が面倒です」
サラを背に守りながら、シグレが足を止めた。皆も立ち止まる。
魔王軍がゆっくりと動き出した気配が伝わってくる。自由気ままなはずの魔物達が、まるで軍隊のようだ
「ワシの火で一気に焼くか?」
グランが魔法杖を掲げた。
「待って!」
サラが声を上げ、グランを止めた。ここでグランを消耗させる訳にはいかない。それよりも、サラには試したいことがあった。
「あの人達を、呼ぶ!」
「おお……!」
言うや否や、サラは目を閉じ意識を集中し始めた。
ゲーム「聖女の行進」は、マシロが死ぬ7年ほど前に発売され、一部のゲーマー達から絶大な人気を誇った「愛と絶望の乙女系RPG」という良くわからないジャンルのスマホゲームだ。このゲームが女子だけでなく、口コミからじわじわと男性からの支持を得たのは恋愛そっちのけのRPG的な要素でも楽しめたためであろう。
ゲームでは8つのルートの内、魔王と対決するのは3つ。
そして今、サラは、そのどれでもないルートを選び、全く異なるメンバーで魔王城の側まで辿り着いた。
ロイは攻略キャラだが、共に魔王と戦うルートはない。
ダイはゲームの登場人物ではあるが、カイト、もしくはリーンルートで出てくるだけの只のギルドマスターだ。
グランは大賢者として名前しか出てこないし、シグレに至っては名前すら出てこない。
そして、今まさにサラが召喚しようとしている者達は、経験値を上げるために狩って狩って狩りまくった魔物でしかなかったはずだ。
ピリピリと、サラの周りで火花を飛び散らせながらに空間が渦を巻く。その異様な気配を感じ取ったのか、魔王軍が一気に襲い掛かってきた。
「来て! 私の仲間達!!」
魔王軍の放った氷の槍が届く寸前、サラが叫んだ。
同時に、サラの身体から目が眩むほどの光が放たれた。
一瞬の空白。魔力を、ごっそり持っていかれる感覚。
そして。
「バンパイア騎士団、見参!!」
目の前に、総勢43名のバンパイアが出現した。
バンパイア達は瞬時に状況を把握すると、連携のとれた動きで一斉に魔王軍へと襲い掛かった。
「待たせたな!」
金色のターバンを巻いた若い王が満面の笑みでサラに振り返った。
「え、えええええええ!? 王様まで!?」
「認めたくはないが、どうやら余もテイムされておったようだ」
目が飛び出そうなほど驚くサラに、ハハハ、とゾルターンは笑った。
「聖女殿!」
「は、はい!」
「鎧姿も美しいな!」
「ひょえええええ!」
「ここは余が指揮する。任せておけ!」
「え!? あの、ハミルトンは無事なの!?」
43名という事は、サラがテイムした全員である。自国の防御が手薄になったのでは、とサラは心配になった。
「バンパイア騎士はまだ半分以上いる。それに、アルシノエ殿がエルフの魔術師を数人送り込んでくれたのでな。問題ない! ……む! ラズヴァン隊! 遠慮するな! もっと敵をかき乱せ!」
ゾルターンが活き活きと指揮を執っている。
「……おおう……」
自分で呼び出しておいて失礼な話だが、バンパイア達の無双ぶりに思わずサラは絶句した。
魔王の結界内はハミルトンよりも暗い。更に、サラから事前に送られてきた黒龍製の装備により、瘴気の影響がかなり抑えられている。むしろ、魔王の結界には魔物の力を増幅させる力があるため、普段よりも調子が良い。バンパイア達はかなりテンションが上がっていた。
「おい、バンパイアって、S級じゃなかったか? 敵もS級以上だろ? なんであんなに強いんだ?」
ダイが目を白黒させている。
「理性のあるバンパイア騎士は、ただの魔物ではないという事です。ナイトはSSクラスの冒険者並みですよ。特に、夜はね」
「デュオンさん!」
ロイが顔を輝かせた。他のナイトは小隊に分かれ、それぞれ中位魔族と対峙しているが、どうやらデュオンはフリーらしい。
「お久しぶりです。ロイ君、皆さん。ダイさんも」
「お前、ハミルトンのギルマスか!」
「ええ。サラさん、私は皆さんと行きますよ」
「! 頼もしいです! 是非!」
サラも顔を輝かせた。ゲームでは最大でも5人でクリアする魔王戦であるが、これはゲームではない。心強い味方は多い方が良い。
「この人数なら、あの作戦で行けますね、サラ様」
「うん!」
「あの作戦?」
デュオンが首を傾げた。
「話は後で! とりあえず、大聖堂前広場に集合!」
飛び掛かってきたS級魔物をファイアーボールで撃ち落としながら、サラが叫んだ。
「あそこに……セーブポイントがあるはずよ!」
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さて、やっと出てきてくれたバンパイアの皆様。
今回は、ラズヴァンはお風呂中ではなかったようです(笑)
ちょっとだけ、残念です!
次回は、サラ達か、ランちゃんアルちゃんか、カイトの回です。
どこからいこうか、悩み中です。
では!




