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89. 走れ!

「プラチナゴーレム!」

 戦場にパルマの声が響く。


 魔王軍を穿つように突き抜けた連合軍精鋭部隊は、王城を囲む城壁の前で苦戦を強いられていた。

 この城壁を抜ければ、旧アルバトロス王国の王都シーガルの新市街地に出る。更にその内側に水路と城壁で囲まれた旧市街地があり、その中央よりやや北側に魔王の住む城が存在する。この城塞都市は、街自体はそれ程広くはなく、全体で南北に1キロメートル程しかないが、全ての壁に魔術が組み込まれており、魔法や物理攻撃がほとんど効かない。難攻不落、と言われた名城なのである。17年前のスタンピードの際も、建物自体はほとんど壊れていない。ただ、そこに住まうものが人から魔に代わっただけだ。


 サラ達が居るのは、南側、正門方面になる。北側から入る方が城には近いが、旧アルバトロス兵の話によると、北側の門は狭く、新旧の市街地を通して、王城までは高い壁で挟まれた一本道になっており、侵入者は弓矢や魔法の格好の的になるらしい。危険が多すぎた。


「やはり、壁は壊れませんね。壁に組み込まれた術式を解読して、術を解ければいいんでしょうけど、時間がありません。門から強行突破するしかなさそうです」


 苦い顔をしながら、パルマがサラの近くに舞い降りた。サラは短期間にあまりの多くの死に直面して、軽い過呼吸をおこしている。アマネがケンタウロスに一緒に乗って、支えている。16歳の少女には可哀そうだが、ここは乗り越えてもらうしかない。サラもそれは分かっており、風魔法を駆使して自力で酸素の量を調節して過呼吸に対処している。苦しそうではあるが、目は見開いたまま、強い光は失っていない。


「中からジークかリーンに門を開けてもらえんかのう?」

「そうしてもらいたいところですが、この門はまだ父上の結界の外になります。自力でこじ開けましょう。ただ、新市街地と旧市街地の境にある門は父上の結界内で、かつ魔王の結界の外になります。二つの結界内に居た魔物達は、おっさん二人が排除しているはずなので、そこはスムーズに通れるはずです。というか、安全地帯です。一旦、休憩もできますから、そこまでは無理をしましょう。サラさん、行きますよ?」

 そんな、とアマネが声を上げたが、サラは首を縦に振った。


 城壁の上には低位の魔族達が待ち構えており、矢継ぎ早に攻撃を仕掛けてくる。こちらも魔術師達が応戦しているが、時間をかければかけるほど、サラ達は孤立していく。一刻も早く門を開けて内部に侵入しなければ、完全に勝機を失ってしまうだろう。これ以上、足を止めることは出来ないのだ。


「門を突破します! 大魔術師リーンの結界まであと約100メートルです! 僕が先陣を切りますから、皆さん、門が開いたら死ぬ気で走ってください!」


 パルマが吼えた。


「プラチナゴーレム!」


 パルマの呼び声に応え、更に2体のゴーレムが出現した。合計5体。今生のレダスが出せる最大数だ。


「行けええええ!」


 パルマの号令でゴーレム達が一気に門へと走った。パルマのゴーレムは、土魔法と聖魔法で出来た特別仕様だ。門を護る魔物や低位の魔族達が次々になぎ倒されていく。


「凄い……!」


 誰ともなく、味方から感嘆の声が漏れる。

 が、その声が悲鳴に代わった。城壁の上から、数体の魔物が降って来たからだ。

「サイクロプス!」

 アマネが声を上げた。サイクロプスは一つ目の巨人であり、S級に分類される。プラチナゴーレムよりもやや小さいが、4メートルはあるだろう。人肉を主食とする、凶悪な魔物だ。それが、8体。

「くっ!」

 パルマが歯を食いしばった。5体まではプラチナゴーレムで押さえられるが、残り3体。

 その内1体は既に連合軍の騎士や獣人達をむさぼり始めている。

 そればかりではなく、絶えず四方八方から攻撃が絶えないのだ。味方を覆う様に結界を張るエルフや魔術師達にも焦りが見えてきた。


「やむを得ん!」

 グランが前に出た。魔王の周りには、SS以上の高位魔族が控えている。出来る限りグランは力を温存しておくべきであったが、出し惜しみしている場合ではない。

「大炎舞!」

 グランが火炎系大魔法を放った。舐める様な動きで、炎がゴーレムごとサイクロプス達を飲み込んで行く。魔王軍の魔術師が水系の魔法で応戦するが、グランの炎は確実に一つ目の巨人を焼いていく。

「ぐはははは!」

 グランのテンションが上がっている。この爺さん、意外と熱しやすいのだ。

「グランさん! ああもう! もう少し魔力節約してください! 弓隊! 燃えているサイクロプスを討て!」

 パルマの号令で一斉にサイクロプスに矢が放たれた。


「では、アレは私が」

 既に騎士団を襲っているサイクロプスに向かって、シグレが走った。グランの炎では周りの騎士まで焼けてしまうので、直接叩くしかない。

 シグレはリュークに特注で作ってもらった黒い忍び装束に身を包み、軽やかに飛び上がった。サイクロプスがシグレに気付き顔を上げた。

「おい! 単独で()れる魔物じゃねえぞ!」

 シグレの行動に気付いたダイが声を荒げた。シグレが強いのは知っている。だが、相手はS級だ。しかも、一人一人がSランク並みの実力を持つ魔法騎士団の精鋭達の攻撃が通用していない。シグレ一人加勢したところでどうにかなる相手ではない。

「試したいことがあるのです。ちょうどいい」

 シグレは薄く笑った。

 普通の攻撃では歯が立たないことは分かっている。ならば、普通ではない攻撃をするだけだ。サイクロプスに向かって、シグレは日本刀を大きく振りかざした。

 サイクロプスがニヤリと笑い、近くの騎士から腕ごと奪った剣をシグレに投げつけた。

「シグレ!」

 ダイが叫ぶ。

 剣がシグレにぶつかる瞬間、

寒月(かんげつ)

 と、シグレが短く呟いた。

「な!?」

 思わずダイは目を疑った。

 シグレを貫くはずの剣は、突然標的を失いそのまま弧を描くように地面に落ちた。そして、その剣が落ちるよりも早く、サイクロプスの頭が砂漠に落下した。正確には、シグレの剣で胴体を消されたサイクロプスの身体が落ちたのだ。まるで、ダルマ落としの様に。

「上手くいきました」

 シグレは涼しい顔で、冷たく冴えてみえる月の様に黒い闇を纏う愛刀を鞘に納めた。

 戦場の真っただ中だというのに、周囲が一瞬、しーん、と静まり返った。


 『寒月』は、剣の周りに転移魔法を発動させ切った対象を消す。触れた対象を消す、妹シズの特殊魔法『消失』からヒントを得たシグレのオリジナル技だ。

 欠点として、発動までに僅かだが時間がかかる。

 そのため、シグレは敢えて飛び上がってサイクロプスの注意を反らし、空中で技を発動させたまま転移して、刀を振ったのだ。


「すげえな、お前!」

 ダイがシグレが騎乗していたケンタウロスを牽いて駆け寄った。

「他のサイクロプスも死んだようです。我々も急ぎましょう」

「ああ!」

 シグレの言う通り、グランの魔法と弓兵の攻撃により、全てのサイクロプスは倒され、既にプラチナゴーレム達が門に突進していた。パルマは聖女を護りながら、ゴーレムと魔術師達に指示を出すのに手を取られている。サイクロプス騒ぎで、少し距離が離れてしまった獣人や騎士団、冒険者達まで指揮するのは困難だろう。俺の出番だな、と、ダイは思い切り息を吸い込んだ。

「おい! お前ら! 弱気になってる場合じゃねえぞ! あの門を抜けて突っ走れば、大魔術師の結界に入れる! そこまで踏ん張れ! 俺が先陣を切る! 黙って俺についてこいや!」

 ビリビリと鼓膜が破れそうな大音量でダイが激を飛ばした。ただの大声ではない。仲間の士気を高める『鼓舞(こぶ)の魔法』をダイは意識せずに使えるのだ。ダイは女にはモテないが、「でかい、強い、かっちょええ」。しかも今日は隣に「でかい、強い、格好いい」も並んでいる。目に見えて、味方の目に力が蘇った。


 ちょうどその時、門が開いた。


「行くぜ! 野郎ども!」


「「「おおー!」」」


 ダイの掛け声と共に、連合軍が駆けて行く。自力で走れるものは自力で。走れない者は、走れる者が背負って。そこに、獣人も、人間も、騎士も、冒険者も関係なかった。


 走れ。走れ。魔王の城は、すぐそこだ。


ブックマーク、評価、感想等、ありがとうございます!

同居している妹がインフルにかかって、戦々恐々としております!


さて、皆頑張っております。

今更ながら、シグレ兄様にちゃんと戦わせたことなかったな、と反省中です。

転移魔法の得意な『鬼』一族らしい技を使ってもらいました。


「でかい、強い、カッコいい」が沢山出てきて、私は嬉しゅうございます(笑)

シグレ兄様は、女性も惚れる格好いい。

ダイは、漢が憧れるかっちょいい。

巨人族のゼダは、少年達が憧れる、巨大ロボット的なカッコいい、でしょうか。

もちろん、ゼダは女性にも激モテですけどね!


さて、次話はひょっとしたらあの人達を呼べるかも……!? と、思ってます。

ではでは!

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