79. 凱旋パーティ ーユーティスー
「サラ。本当に『いい女』になっていて、驚いた」
「ふふ。ユーティスも、びっくりするくらい『いい男』になったね!」
シャンデリアに照らされながら、二人はキラキラと輝きながら舞っていた。二人の姿は、お伽噺に出てくる王子とお姫様そのものだった。
「サラ、サフラン大陸攻略、おめでとう。本当にやってのけるとは、恐れ入ったよ」
「ユーティスこそ、色んな国と同盟を結んだって聞いたよ? 本当に、凄いね。おめでとう!」
サラは1年前の夜のことを思い出し、胸の鼓動が早くなっていた。ユーティスはポーカーフェイスだが、いつもより視線に熱が籠っている気がして、サラはますます赤くなった。
ゲームのユーティスは俺様系のドSキャラであり、正直あまり好きではなかったのだが、現実のユーティスは格段に男らしく、逞しく、素敵な殿方に成長している。きっと、サラのもたらした「良い変化」なのだろう。そう思うと、サラは少し嬉しくなった。
「どうした? 何か、おかしいかい?」
「ううん! 帰って来たんだなぁって、しみじみしてた」
「ふっ。やはり、サラの帰る場所は、俺の所で決まりだな!」
ドヤ顔で微笑みを浮かべるユーティスの姿に、サラは罪悪感を覚えた。ずっと、ずっと、サラに真っ直ぐに愛を告げてくれるユーティスに、自分は今から酷いことを言おうとしている。
「……ユーティス……ちゃんと、言わないといけない事があるの」
離れたり、寄り添ったり、サラは優雅に舞いながら、ユーティスに囁いた。ユーティスはほんの一瞬傷付いたような表情を見せ、僅かに目を伏せた。
「……今は、聞きたくない」
絞り出す様な声と共に、サラの腰を抱く腕に力がこもる。
「ユーティス、聞いて? 大事な話なの」
覗き込む様にして目を見つめてくるサラに、ユーティスは首を横に振った。
ユーティスには、サラの言おうとしていることが分かっていた。
サラは、公式に聖女と認められてしまった。責任感が強く優しいサラが、使命を忘れて誰かと付き合うことなど無いだろう。ずっと前から覚悟していたことだ。だからこそ、ずっと焦っていた。1年前のあの日、サラを見送ってしまったことをどれだけ後悔したことか。
(……言わなければならないことがあるのは、俺の方だ。今を逃せば、一生、後悔する)
「サラ。……俺は、18までに結婚しなければならない。これは王位継承権を持つ王子として、決められたことだ」
自然に、サラを抱く腕に力が入る。周りの貴族達に分からぬように、ポーカーフェイスを決めているが、ユーティスの優雅な仮面の下では血を吐く様な想いが込み上げている。
ユーティスはサラを引き寄せ、耳元で囁いた。
「サラ、俺と結婚してくれ」
「!」
それはシンプルで率直なプロポーズだった。
ユーティスの想いが痛いほど伝わってきて、サラは胸と目頭が熱くなった。
「……ごめんなさい。私、魔王を倒すまでは恋愛をしないと決めたの。だから……!」
「言わないでくれ!」
「!?」
足が、止まった。
突然、何かを言って聖女を抱きしめ、ダンスを止めた王子の姿に、ざわざわと会場がざわめき立つ。
このままではまずいと、気が付かないユーティスではないはずだ。
しかし、ユーティスは動こうとしなかった。
胸の中にサラを抱いて、サラの髪に顔を埋めて、ユーティスは想いを伝える。
「頼む。10歳のあの日、市場で君を初めて会った時から、俺は君だけをみてきた。お願いだ。……俺を、切り捨てないでくれ……!」
それは、もはや祈りだった。懇願、といってもよかった。
みっともないことも、女々しいことも、本人が一番良く分かっているだろう。
それでもユーティスは言わずにはいられなかった。
ああ、とサラは呟き、抱きしめ返した。
「ユーティス。私を、好きでいてくれてありがとう」
思わず、感謝の言葉が出てきた。
サラの知る中で、最も努力家で、大事な者のためにプライドを捨てることの出来る気高い少年。
いつもドキドキさせてくれる、誰よりもかっこいい男の子。
サラの胸の奥が、キュン、と痛んだ。
「……でも、でも、私は直ぐには決められない……!」
サラにはまだ、「恋」というものが何なのか分からない。
ユーティスのことは好きだ。
だがそれは、「恋」ではなく「友愛」だ、とサラは信じていた。パルマやロイに抱く想いと大差ないからだ。こんな中途半端な想いで、ユーティスの妻にはなれない。ティアナを不幸にはできない、とサラは唇を噛みしめた。
会場のざわめきが一段と大きくなる。二人の会話は誰にも聞こえてはいないはずだが、明らかに異様な光景に映っているはずだ。
「それでも、構わない」
さすがに限界を感じ、ユーティスはサラを解放した。
再びステップを踏みながら、サラに微笑んでみせた。
「待つよ。ギリギリまで。確かに、魔王が目覚めるのは5年後かもしれない、10年後かもしれない。一生、目覚めないかもしれない。でも、1年後かもしれないし、明日かもしれない。18までに間に合う可能性は充分あるだろう? 俺は、サラをあきらめたくはないんだ」
「それでも私は、ユーティスを選べないかもしれないよ?」
「選ぶかもしれないだろう?」
涙を堪えて酷な事を告げるサラに、ユーティスはニコリ、と笑った。その笑顔に、サラの胸が締め付けられる。
「……ユーティス、私……!」
「さあ、曲が終わった。サラ。俺の本心は伝えた。……また踊れる日を楽しみにしている」
そう告げると、ユーティスはいつも通りの優雅な仕草で一礼し、サラに背を向けた。
追いかけたい衝動をサラは抑え込んだ。ユーティスの肩越しに、ティアナの姿が見えたからだ。
……呆然とユーティスを見つめるティアナの目を、サラは見ることが出来なかった。
メリークリスマス!
いつもご覧くださり、ありがとうございます!
今回は、王子の回でした。王子……!(泣)
次回はもちろん、我らが良心パルマ君です。
パルマ君、フォローを頼む!
「え!? 僕がですか? ……いいですけど、僕だけサラさんとキスしてないんですけど、何か恨みでもあるんですか?」
ないです!全然ないです!そのうち、多分、メイビィ……
「させる気ないでしょ!? ……はあ。それでも引き受けちゃう僕がいます……はぁ」
ということで、パルマ君が頑張ってくれるそうです。では!




