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67. 王女の帰還、穴を癒す聖女

本日、66と67を投稿しています。ご注意ください!

「ただいまー! ギリギリセーフ!」

「ギリギリアウトじゃあ! 遅いわ! ガキども! 死ね!」

「「「「えええええ!?」」」」

 ハミルトン王国に戻った途端、アルシノエに怒鳴られた。

 実を言うと、もう少し早く戻ってこられたのだが、リタの家でデュオンを待つ間、「テレビがある!」と感動したサラが電源を入れたところ、オーディション番組が生放送されていることに気が付き、夢中になってしまったのだ。

 リタが1回戦、2回戦と勝ち進み、3回戦が始まるというところでデュオンが合流した。思ったより妻の所に長居してしまい、飛んでやってきたのだという。

 残り5分。良かった間に合った、と喜んだのもつかの間、テレビの中に再びリタが登場してラズヴァンが画面にしがみついた。

 しかし、リタの様子がおかしい。明らかに、震えている。

 4人は顔を見合わせると、サラはデュオン、エリンはラズヴァンの手を取って転移したのだった。


「次はねえからな!」

 怒鳴ると同時に、アルシノエは勢いよく気を失った。慌ててシグレが抱きかかえる。

「わわわ! アルちゃん、水がっ!」

 アルシノエが気を失ったことで、水の壁が一気に崩壊した。「ひえええ」とおどけながら、リーンが直径5メートルほどのドーム状の結界を張って一同を守った。

「あ、ちなみにいまの『ひえええ』は、サラちゃんの真似ね!」

「そんなん、しなくていいから!」

 リーンの話によると、アルシノエは4人の様子を見て、かなり頑張ってくれたそうだ。シグレがせっせと魔石水を調合し、エルフ3人に飲ませ続けたらしい。

 ちなみに、アルからは「口移しでお願いしまぁす」とねだられたが、面倒なので魔石水を魔法で口の中に転移させ、ご不興を買ったそうだ。……どっちも悪い。


「お父様。ご心配をおかけいたしました」

「……全くだ。馬鹿者」

 ゾルターンがエリンを抱きしめている。言葉はそっけないが、その表情は穏やかだった。良かったねぇ、と、うるっと瞳を潤ませるサラの横で、ラズヴァンとデュオンは各々物思いに耽っていた。

「あ、そうそう。サラちゃんもデュオン君も、変な物持って帰ってきてないよね?」

 リーンの問いに、サラとデュオンは一瞬顔を見合わせた後、揃って視線を泳がせた。

「えええ!? 持って帰って来たの!?」

「変な物ではありません」

「私も! 拾ったお金で買ったトマトの種だけだよ? ……あと、ニンジンと、カボチャ」

「農家!? 異界から持って帰ってくる物が、農家の人の選択だよ!?」

「だって! 3袋で1ドルだったの!」

「知らんがな、だよ、サラちゃん! ……まあ、それくらいなら大丈夫かな?」

「やった!」

「やった! じゃないよ!? ほら、穴を塞ぐよ。……なんで皆そんな名残惜しそうな顔なの!? この穴、魔界にも繋がるんだからね? すっごく危ないんだからね?」

「はい、すみません!」

 本当はもう一度あの世界に戻って日本に行きたかったが、同じ世界に繋がるとは限らない。それに、リーンやアルシノエの協力がなければ行き来できないのだ。残念だが、諦めざるを得なかった。


「じゃあ、サラちゃん穴に意識を集中させて」

「はい」

 リーンの指導の下、サラは異界の穴を塞ぐ作業に取り掛かった。リーンには穴を広げることは出来ても、塞ぐことは出来ないらしい。

「穴を広げる時は壊すイメージ、逆に塞ぐ時には修復するイメージなんだよ」

 リーンがサラの肩を支えながら説明している。穴からは絶えず魔物が這い出ようとしてくるため、その度にグランとデュオンが叩いている。モグラ叩きのようだ。

「穴を修復……? あ! 治癒魔法ってこと!?」

「そうそう、よく気が付いたね! 聖女の治癒魔法は特別なんだよ。だって、穴さえ治癒させちゃうんだから」

 そうか、とサラは納得した。

 もしかしたら、とサラは思う。通常の治癒魔法は患者の治癒力を高めるのが基本であり、聖魔法による治療は魔を体内から強制的に排除するのが原理である。聖女の治癒魔法は、通常の治癒魔法と聖魔法を掛け合わせたものではなく、全く原理が異なるのではないだろうか。「魔」さえも治療出来てしまうのではないだろうか。

「サラちゃん。穴に治癒魔法をかけるイメージで。小さな穴だから、それほど負担にはならないはずだよ」

「うん。やってみる」

 2、3回深呼吸をして呼吸を整え、サラは目を閉じた。魔力の流れを辿りながら、穴の位置に意識を収集させる。

(穴は、世界の傷なのかもしれない。可哀そうに。治してあげるね)

 ふわっと、サラの身体から光が溢れ出した。

 本来、人の張った結界の中では使える魔術は制限されるものだが、リーンの場合は使える魔術、使えない魔術をリーンの意思で選択することができた。リーンだけの、特別仕様である。

(痛かったね? もう大丈夫よ)

 リーンの結界の中が、サラの光で満たされた。

「ほら、塞がった……」

 サラが呟くと、一同が息を飲んだのが分かった。


 何もなかったかのように、穴は綺麗に消滅した。


「お疲れ様、サラちゃん! 上出来だよ」

 リーンはポンポンとサラの頭を撫でた。

「えへへ」

 サラは素直に照れた。

「さあ、皆。地上に帰ろう!」

 リーンの明るい声が暗い水底を照らした。

 きっとこれから、この湖は本来の美しさを取り戻していくだろう。

 聖女の治癒魔法を受け、瘴気を生み出す穴が塞がったのだから。


 地上へ戻る際、サラはちょっとだけ時間をもらい、ルカに想いを込めて穴のあった場所に金の魔石を置いた。きっと、伝わったはずだ。


 こうして、エリンとラズヴァンは無事に帰還した。

 作戦成功、である。

 騎士達の歓声に包まれながら、明日改めて礼を言いたい、とゾルターンはサラ達に別れを告げ、城に帰っていった。


 サラ達は宿屋へ、アルシノエとリーンはゾルターンの計らいで王城に泊まることになった。


 その夜、アルシノエの寝室をデュオンが訪ねた。今日の礼を言うためだ。

「……愛しい人と別れるのは、哀しいことね」

 遅れたことを叱られるかと覚悟していたが、存外、アルシノエは優しい言葉をかけてきた。

「いえ。妻に会うことが出来て、ふっきれる事が出来ました。それに、別れは、慣れましたから」

 笑みを浮かべて応えるデュオンに、あら、とアルシノエは顔をしかめた。

「別れは慣れるものではないわ。ただ癒し方が上手になっていくだけよ」

 はっ、とデュオンはアルシノエを見つめた。若く見えるが、このエルフは何千年も生きているのだ。自分などより、遥かに別れを経験してきたはずだ。

「私のような若輩者が分かったような口をきいてしまい、申し訳なく存じます」

 デュオンは自分を恥じた。アルシノエは「ふふふ」と笑った。

「ところで、あなたが持って帰って来た物。出してくださる?」

「……」

 デュオンは言葉に詰まった。デュオンが持って帰った物は、身に着けるものでも、小物でもなかった。むしろ、自分の空間魔法があれほど大きなものを収納できると知り、驚いているくらいだ。

「ふふ。大丈夫よ。没収したりしないわ」

 デュオンの不安を感じ取ったのか、アルシノエが優しく微笑んだ。よほど疲れているのだろうか。今のアルシノエは別人のように、たおやかだ。どうみても、淑女にしか見えない。

「……承知いたしました」

 そう言ってデュオンが取り出したのは、カレンの部屋にあったピアノだった。それを見て、アルシノエの耳が嬉しそうにピクピクと動いた。

「私にも弾いて下さる?」

 子供のように、アルシノエの声が弾んでいる。

「……喜んで」

 アルシノエの微笑みに、デュオンも微笑み返した。


 王城に優しいピアノの調べが響いていく。


 ピアノの音色に、狼の遠吠えが重なる。

 ラズヴァンもどこかで、姉を想っているのだろう。


 それぞれの想いを包んで、夜が、ふけていく。


ブックマーク、評価、感想、誤字報告等、ありがとうございます!

やる気がでます!


今日は2話投稿しています。

1話にするにはまとまりが悪かったもので・・・

やっと、エリンとラズヴァンが帰ってきました。

意外と楽しそうでしたね。逆異世界転移。

現代でも「コスプレよ!」の一言で、何でもいけそうな気がします。


さて、次回でハミルトン編が終わりです(?)

私の予告はあまりあてになりませんが、お付き合いいただけると幸いです。


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