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40. 竜神討伐依頼

すみません! 突然104話目に挿話を挟みました。

ロイとサラのお話です。本編の続きは明日になりそうです。

「確かに。クラーケン討伐完了、だな。はあー。長かったぜ」

 サラ達が「フィッシュベイベー」で荒稼ぎしていた頃、街の規模にしては大きな冒険者ギルドで、ギルドマスターの男は椅子に座ったまま背を伸ばした。

 報奨金を受け取りながら、グランは穏やかに笑った。

「依頼が出されてから1年じゃったか? A級とはいえ、中々クラーケンを倒そうという冒険者は少ないからの」

「ああ。……本当に、長かったぜ。アンタらにしたら、1年なんて瞬き程度だろうが、俺らにとっちゃクラーケンは死活問題だったんだ。遠くまで船は出せねえ。漁師は稼げねえし、家族も飢えちまう。運を信じて船を出した奴もいたが、誰も戻ってこなかったよ。……本当に、ありがとな」

 ガチャン、と、ギルドマスターは金貨の入った袋を置いた。10万ペグ入っている。

「これは?」

「怪しい金じゃねえよ。俺からの謝礼だ。……ダチがよ……やっと浮かばれるぜ」

「そうか。では、ありがたく貰っておこう」

 グランは袋を受け取ると、代わりにドンッ、と、木箱を置いた。

「ちょい! 何じゃこりゃあ!?」

「怪しい金じゃないわい。ワシからの選別じゃ。……クラーケンで家族を失った者や職を失った者に分けてやってくれ」

「だからってこれは……はは。まいったぜ」

 木箱の大きさからして、500万ペグはくだらないだろう。今回の報奨金とクラーケンを売った合計が800万ペグであることを考えると、破格の寄付金だ。

 粗野で有名なギルドマスターは、ぼりぼりと頭を掻くと、ばんっ! と机を叩いて立ち上がり、勢いよく頭を下げた。

「ありがとうございます。大賢者グラン様」

 グランは優しく目を細めた。500万ペグは完全にグランの自腹である。

「グラン様。ついでに頼みがあるんだが……」

 申し訳なさそうに、ギルドマスター顔を上げた。

「何じゃ? うちにお前さんと釣り合う年頃の娘はおらんぞ」

「誰が嫁の心配したよ!? 俺は妻子持ちだよ! ってか、孫おるわ!」

「ほぉっ、ほぉっ。お前さんは、かしこまらずにその話し方がよい」

「あのなあ……。まあ、いいや。頼みって言うのは、ここから歩いて2日ほど先にある『クド』っていう村からの依頼のことだ。……竜神を討伐して欲しい」

「竜神じゃと?」

 ピクリ、と、グランは片眉を上げた。

「この近くの竜神なら知っておる。年老いた水龍じゃろう? たしか、ずいぶん前に死んだと思うたが」

「俺もここのギルマスやって30年だが、水龍が生きてるってのは初めて聞いたよ。なんでも、半年前に突然現れて、村の娘を嫁にとったらしい。その後も、毎月生贄を要求してきて村は困り果てているらしいぜ?」

「ふむ。解せんな。あのジジイが生きていたら、そもそもこの辺りにクラーケンが出ることもなかったじゃろうに。村人の作り話か、別の魔物が住み着いたか、じゃな」

「やっぱ、アンタもそう思うか?」

「ああ。それに……仮に別の魔物がいたとして、半年ということは6人の生贄が必要じゃが、どうしておったんじゃ?」

「俺も訊いたよ。最初の一人は、花嫁。二人目からは不治の病を患った者を差し出して凌いだらしい。今月、六人目を差し出さなきゃいけないが、病の者はもういないらしい。それでギルドに依頼を出したって訳だ」

「怪しいのお」

「怪しいだろう? だが、あの村が困っているのは事実だ。一番の働き手だったケアルって男とは知り合いだったが、そいつもクラーケンに殺されちまったらしくてよ……。その花嫁にされた娘ってのが、ケアルの娘なんだ。親父さんが居なくなって辛いところを魔物の花嫁に、って思うと、やり切れなくてなあ」

「仕方ないのお。若い娘が困っとると聞いたら、ほっとけないわい。ワシにも孫がおるでな」

「受けてくれるのか!?」

「何。クラーケンを倒したついでじゃ。じゃが、悪いが村に行くのは明日でよいか? 仲間が戻るのが明日の朝の予定なんじゃ」

「もちろんだ。アンタのことだ。どうせ、竜神の祠まで転移できるんだろ?」

「まあな。……さて、水龍を語るとは、いったいどんな魔物かのう。……仕置きが必要だな」

 ニヤリ、とグランは笑った。


 翌朝、サラ達と別の宿に泊まったグランは、シグレと合流した。

「怪しいですね」

「じゃろう?」

 グランから「竜神討伐依頼」の話を聞いたシグレの反応は、昨日のグランと同じだった。

「半年も討伐依頼を出さなかったところが妙ですね。脅されていたにしても、結局今回出してきたわけですし。自称『竜神』と何らかの契約を交わしている可能性がありますね。散々恩恵を受けておきながら、都合が悪くなって討伐を依頼した、ということも考えられます」

「まったくじゃ。ということで、早速飛ぶが、よいか?」

「はい」

 グランがシグレの肩に手を置くと、二人は一瞬で『竜神の祠』に転移した。

「……村ではなく、祠に飛んだのですね」

「直接、自称『竜神』とやらに会う方が早かろう」

「……ごもっともです」

 自称『竜神』が高位の魔族だったらどうするつもりだったのだと、シグレは思ったが、幸い魔物は留守のようである。仮に留守でなかったとしても、大賢者には大した問題ではないのだろう。

 祠の周囲には水龍のものと思われる魔力と、初めて感じる得体の知れない魔力が混在していた。

「……この魔力は?」

「ふむ。セイレーンのものに似ているが、別のものも混ざっておるのお」

 グランが祠のある洞窟から顔を出したその時だった。

 崖の上に巨大な雷が落ちた。

「っく!」

 シグレはとっさに体を魔力で覆い、片膝をついた。それでも凄まじい衝撃と雷鳴がシグレに襲い掛かった。落雷は1度ではなかった。何十発という雷が空襲のように地上を襲っていた。

 シグレは片眼を細めてグランを見ると、大賢者は涼しい顔で周囲に結界を張り、頭上の様子を伺っていた。

「グラン殿」

「シグレ。ちと、遅かったようじゃ」

「!?」

 グランの言葉を瞬時に理解し、シグレは一足でグランの横に並んだ。グランは結界を維持したままシグレに触れると、頭上へと転移した。


 そして二人は、朝日に照らされる大量の死体と、その中に佇む美しい青年の姿を目にすることとなる。



 時は少し遡る。

 真夜中にデュオンの元を訪れた者がいた。

 ウラである。

 ウラは下半身を鳥に変え、洞窟まで飛んできたのだ。

「竜神様! 大変でございます!」

 ウラは息を切らしていた。美しい顔が、恐怖に引きつっているように見えた。

「どうした。母上。ルーラなら無事だ。遠視で見ていたが、旅の子供達と楽しくやっているようだ」

「遠視が使えるのですか……?」

「? 見えるだけだ。音声までは聞き取れん。それがどうした?」

「いえ」

 ウラは慌てて首を横に振った。ウラは両手が根元近くから無いため、長袖を胸の前で結んでいる。首の動きに合わせ、結び目が上下に動いた。

「竜神様。大変なのです。ルーラにも関係していることです」

「何だと?」

「村の者達が、竜神様の討伐依頼を出したようなのです」

「はは!」

 ウラの言葉に、デュオンは楽しそうに笑った。

「今更だな。我が邪魔になったか」

「笑い事ではありません! ルーラの護衛に一緒に村を出た者がおりましたでしょう? その者は、クラーケンを倒した冒険者に竜神様の討伐を依頼したのです!」

「……ほう?」

 デュオンの表情が変わった。それを確認し、ウラは話を続ける。美しく、甘い声で。高く、低く、緩急をつけながら歌う様に。

「クラーケンを生け捕りにしたくらいですもの。おそらく、Sランク以上の冒険者ですわ。いくら竜神様がお強くても、あまりにも危険です。……それに……」

 ウラは何かを言いかけ、突然口をつぐんだ。デュオンから目を逸らす。

「どうした」

「いえ……」

「ルーラのことだな? 構わん。言うがよい」

「実は……村の者達が話をしているところを聞いてしまったのです。回復魔法が使えるルーラが居ては、竜神様を倒すのは難しいかもしれない。ルーラも、ウラも魔物だ。先に殺してしまおう、と……」

「何だと!?」

「私はそれを聞いて恐ろしくなって、この姿でここまで飛んできたのです! 竜神様。お逃げ下さいませ。私とルーラなら、海に逃げればなんとかなります。ですから……お早く!」

「……許せん」

「竜神様?」

「我が施しを受け、恩を仇で返すだけでなく、我が花嫁とその母まで手にかけようとは! 許さぬ。……母上。そなたと、ルーラは我が護ろう。しばし待つがよい」

「竜神様!?」

 驚きに目を見開くウラの前で、デュオンは消えた。村へ行ったのだろう。


 無人となった洞窟で、ウラは一人静かに微笑んだ。


 夜明け前のクドの村に、男の歌声が響き渡る。

 闇に紛れ地を這う様に、あるいは夜風に乗って黒い霧の様に。

 その歌声を耳にした者は皆、寝床から立ち上がり、導かれるように歩き始めた。老人も、若者も、よちよち歩きの子供まで一列になって歩いていく。

 セイレーンの歌声を持つ、バンパイアの元へ。


 朝日が昇り始めたころ、村人達は祠のある崖の上に辿り着いた。皆裸足で、足の裏から血を流しているが、うっとりと歌に傾けたまま、誰も気にする様子はない。その歌が、ピタリ、と止んだ。


 朝日が村人達を照らし始め、ようやく村人達は自分達の現状を知る。

 自分達は大きな過ちをおかしたのだと、気付けた者がどれ程いただろうか。


 逆光に浮かび上がる竜神の影がおもむろに右手を上げた。


 そうして、その場にいた全員が、弁明することも、悲鳴を上げることも許されぬまま、死んだのだった。


 遠くの空で美しく微笑む、セイレーン(ウラ)に見守られながら。


ブックマーク、評価、感想、誤字報告等、ありがとうございます!


グランお爺ちゃんはお金持ちです。

ギルドから出されるSランク冒険者の年収が300万ペグくらいと思ってください。

長年SSランクをやっていただけあって、老後の資金は潤沢です。


そんなことよりも、デュオン様……コーディネル? タオ? ええい。ややこしい。

デュオン様とルーラはどうなってしまうのでしょうか。

もちろん、結末は決めてはいるのですが、ちょっと揺らいでます。


今後ともよろしくお願いいたします!

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