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94話 ドキッ! 夜の襲撃突撃事件! 夜這いじゃないよ!

【エリー視点】


「……という訳で! これからクラッグの尋問を行いますっ!」

「わー!」

「わーっ!」

「ちょっと待って? 何、この状況?」


 時刻は深夜、真っ暗なクラッグの部屋にろうそくの明かり1つ小さく灯し、僕とフィフィーとコンの3人は全身をロープで縛られ椅子に括り付けられているクラッグの前に立っていた。

 ……いや、縛ったのは僕達なんだけど。


「おい、ちょっとは説明しろよ、この状況。何? なんで俺深夜に叩き起こされて縛られて尋問されようとしているの?」


 クラッグが眉を顰めながら僕たちに説明を求める。

 僕は今、クラッグの身辺調査を行っている。クラッグが発した『俺達はどうしようもない世界に漂う放浪者だからな』という言葉が過去ロビンが言った台詞とそっくりであった。


 だからクラッグとロビンが同一人物なのではないか、という疑いを持ち、彼の部屋を捜索したら、クラッグの持ち物の中から1冊の小説が出てきて、その本の中に『私達はどうしようもない世界に漂う放浪者だからだ』という文章があり、僕は訳が分からなくなった。


 クラッグがこの本に影響を受けてその台詞を言ったのだとしたら、クラッグはロビンと何の関係もないことになる。そして、この本とロビンに関係性が出て来るという事である。

 もうよく訳が分からなくなってきていたので、僕達は本人に詰め寄ることにした。


 ちなみに僕達は深夜、クラッグが寝静まった頃に強襲を掛けた。僕達が部屋に入った途端、クラッグは目を覚まし迎撃態勢に入ったが、「……なんだ、エリーか」と一言呟いてまた寝に入った。

 僕達は無防備なクラッグの捕縛に成功したという事である。


「クラッグ! 君にはスパイ……のような者のようなものみたいな感じのものの疑惑が掛けられています!」

「めっちゃ曖昧だな」

「パートナーを拷問するのは僕も心苦しいけど、口を開かないのなら……僕はこれを使わざるを得ない!」

「分かったから、そのくすぐり用の孫の手置け」


 孫の手を持ちながらじりじり詰め寄ると、クラッグはわずかに身を引いた。


「……この前さ、『俺達はどうしようもない世界に漂う放浪者だからな』って言ってたじゃん? ……それってさ、どういう意味?」

「ん?」


 クラッグが小首を捻る。


「あー、そう言えばそんな事言ったか? どういう意味ってのは……何でそんなこと聞く?」

「いや、ごめん……その言葉の意味自体を聞きたいわけじゃなくて……その言葉をどこで知ったの?」

「……どこで知ったか、か? 言葉をどこで知ったかか?」


 尋問は始まるが、ふわふわとした質疑がやり取りされる。クラッグにはこちらの質問の意図が見えていないようで、口をへの字に曲げ考えている。


「んー……あ、あれか。小説の話か。……そんな事を聞くってことは、エリーもあの小説読んだのか?」

「あ、うん、まぁ」


 少しだけ話が嚙み合う。しかし、その言葉が出て来るという事はやはりクラッグは小説無しではあの言葉を知らなかったのだろうか?


「確かにこの都市の流行りの小説にその言葉が載ってたよ。その台詞が印象に残ってその言葉を口にしたかもしれねえが……だが、なんでそんな事をこんな時間に聞くんだよ」

「う……」


 クラッグのじとっとした目が僕を見る。確かにこんな何でもない質問をするために人一人を椅子に縛り付けるのはおかしいだろう。


「……クラッグってさ、お兄さんいる?」

「は? 兄がいるかって事か? いねえけど……ますます何を聞きたいのか分からねえぞ? エリー?」

「うーん……?」


 ロビンは過去に自分には兄がいると言っていた。でもクラッグは兄はいないと言っている。違うのだろうか? クラッグはロビンではないのだろうか?

 そしてクラッグが僕の事をますます訝しい者を見る目で見てくる。


「クラッグさん。その台詞と同じような言葉を過去に聞いたことはありますか? 小説を読む前からその言葉を知っていたりしますか? もし知っていたとしたら、それは誰から聞きましたか?」


 フィフィーが質問を引き継いでくれる。


「いや……聞いてねえとは思うぞ? ……別に不自然な言葉ではないから過去一度も絶対に聞いたことがない、とは言えねえけどな?」

「まぁ……それは確かに」


 フィフィーは苦笑する。記憶を漁って100%正確な事を言え、なんてことは出来ないから当然ではある。


「……さっきから一体何が聞きてえんだよ。はっきりしろ、はっきり。こんな深夜に叩き起こされたこっちの身にもなれ」


 容疑者が縛られたまま何か言っていた。しかし、確かにこのままでは埒が明かない。話がふわふわしたまま時間だけが過ぎる。ここは多少強引にでも本筋を聞いてみるべきだろう。


「……この前君が言った台詞、僕は過去に別の人から聞いたことがあるんだ。分かった、本題に入るよ、クラッグ。君はロビンという人の名前を知っているかい……?」


 少し戸惑ったが、僕は直接的にクラッグにものを聞いた。

 すると、どうしてだろう、クラッグが眉に皺を寄せ、困ったように不思議そうな顔をした。


「そりゃ、エリー……名前を知っているか知らないかと聞かれたら……勿論知っていると言うしかないんだが……」

「えっ……!? 知ってるのっ!?」


 驚く。つい大声を出してしまう。

 この流れだったらクラッグはロビンの事を知らないと言うのだと思っていた。台詞を知っていたのは小説を読んだ為であって、クラッグはロビンではなく、ロビンとも面識が無いものとばかり……。


 僕はクラッグの肩を大きく揺する。


「知ってる!? クラッグ、ロビンの事を知ってるの!? ちょっと! それなんで早く言わないのさっ! 教えて! クラッグ、ロビンの事教えてっ!」

「だー! 違う違う! 誤解だ、エリー! 落ち着け、落ち着けこのバカ!」


 肩を強く揺するとクラッグの首がぐわんぐわん揺れる。とても苦しそうにしながら、クラッグは声を絞り出していた。


「前に、エリー! お前が! 俺に相談をしたんじゃねえか! 俺にロビンの村の話をしたんじゃねえかっ! だから知ってるか知らないかと聞かれたら、知っていると言うのが正しい回答で……!」

「…………」


 クラッグの肩を揺するのを止める。

 ……確かにクラッグにはイリスとしての事情を隠しつつ、エリーとしてロビンの村の話をして、情報提供を呼び掛けたことがある。ダメ元で何か知ってること無いかなー、と思い相談してみたことがあったのだ。

 勿論、その時は何も情報は得られなかったのだが。

 クラッグは僕に肩を揺さぶられ、ぐわんぐわん目を回していた。


「……じゃあ、なんだい? 僕が前にロビンの話を相談したから、『ロビンの名前知っているか』という問いに『知っている』と答えただけかい?」

「あぁ、そうだ」

「紛らわしいっ……!」

「俺は正確に答えただけだよっ! おめーの質問の仕方が悪いんだよ! ……ちょ?! 待て! また肩を揺らすなっ! 目が回るっ……!」


 バカ、アホ、と罵り合いながら僕はクラッグの肩を揺らす。クラッグはロープで縛られている為、何の抵抗も出来ずがくんがくんと頭を揺らす。

 暫く揺らすとクラッグはがくりと項垂れた。


「あー……」


 クラッグは気持ち悪そうに口から力の無いため息を漏らしていた。


「まぁ……お前たちが何を言いたくて、何を聞きたいのかは分かった。つまり、あれだ。その台詞の出元とそのロビンって奴の関係を追いたいんだろ?」

「うん」

「じゃあ調べるべきはその小説の出版元だな。作者の身元が分かれば何か分かるかもしれねえな?」


 クラッグは縛られたまま今後の方針を打ち出していく。


「……クラッグさんがこの話で何も嘘をついていない、という保証はないんだけどね?」

「そりゃ、まぁ、フィフィー……嘘をついてないなんて証明出来ねえのは確かだが……」


 クラッグは苦笑している。


「それについては信じて貰うしかねえんだが……。いや、でも、信じてくれっていうのは言えば言う程疑わしくなるから……こういう時なんて言えばいいんだろうな?」


 困るのは分かる。嘘を言ったか言わないか、なんてのはどこまで言っても水掛け論だ。クラッグは嘘を言っているかもしれない、ということを頭の片隅に入れて話を進める他ないだろう。


「……っていうか、この調査ってお前たちの独断? 依頼主の調査内容を無視してこの調査を続行なんて出来ねえぞ?」

「あ、大丈夫。イリスには許可貰ってるから」

「え? なんで? なんであいつ許可出してんの?」


 クラッグはコンと同じような事を言っていたが、これが(イリス)の最重要依頼であることには変わりない。依頼主兼調査人ってこういうところで横着できるからめっちゃいいなー。

 クラッグはきょとんとしている。


「で、でも、槍の男セレドニは『アルバトロスの盗賊団』に所属していて、『叡智』って力と関係ありそうで、件のロビンも『叡智』に関係してるかもってエリーの証言だから、元々の調査と凄く遠い関係性じゃないと思うよ?」

「フォローありがと、フィフィー」


 礼を言うとフィフィーが苦笑いをした。友情に感謝。


「……じゃあ、明日以降の調査はその小説……『(かす)かな水の知恵』だったか? その作者の調査ってことになんのか? 小説の印刷をしているところに聞き込みにでも行くか?」

「それが丁度いいかな」


 少しだけ明日の打ち合わせをする。


「……しかし、クラッグはずれかー」

「おい、てめぇ、エリー、なんだその大きなため息」

「だってさー」


 今まで全く出てこなかったロビンへの大きな手掛かりだと思ったのだけれど……どうやらクラッグ自身ははずれのようであった。少し期待してたんだけどなー。


「この期待感どうすんだよー。がっかりだよー」

「そんな事言われてもな」

「本当は何か情報掴んでる闇の秘密結社の一員だったりしない? クラッグ?」

「アホ言え」

「あーあー、がっかりー」

「お前もう帰れ」


 分かりましたー、帰りますぅー。


「じゃあ、今日はこれで解散ってことで。深夜につき合わせて悪かったね、フィフィー、コン」

「いいっていいって」

「深夜の任務はニンジャの本懐でござる」


 コンにも依頼代を支払わなければならないな。仕事の分はきっちり、イリスからという事で報酬を出しておかなきゃ。


「じゃ、お疲れー」

「お疲れ様ー」

「おい! ちょっと待て! このロープ解いてから出てけ! おい! 俺を放置しようとするんじゃねえ!」

「あははは!」


 椅子をがたがた揺らし慌てるクラッグを見て、少し笑う。クラッグをからかうのは楽しい。クラッグに近寄りゆっくりロープを解く。むむむ……少しきつく結び過ぎたか。


「……ていうか、クラッグならロープに縛られたくらいならすぐに脱出できるでしょ?」

「まぁな。お前らに付き合ってやったんだよ」

「ははは」


 初めから領域外のクラッグを本気で拘束できるなんて思っていない。

 なんとも茶番な尋問会であった。


ほとんど喋ってませんがコンもいます! いるったらいるんですっ! 別に「あ、真面目な話で進めるとコンが喋る余地全然ないなー。作者のキャラクター操作能力低いなー」とかそういう訳じゃないんですっ!


次話は3日後 7/25 19時に投稿予定です。

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