89話 力の夢
【夢】
夢を見た。
それは私の知らない夢であった。
力の記憶だ。
人がたくさん泣いていたんだ。
突然巻き起こる冗談の様な災害が土地を荒らし、国を滅ぼし、人を苦しめた。
例えば炎の大嵐。決して消えぬ炎が縦横無尽に旅を続け、ただそれだけで国が1つ消滅した。何とか生き残った人たちも、田畑は焼け、山は焼け、獣も焼けていた為、飢えてゆくしかなかった。
炎の大嵐はただ旅をするだけで地獄を生んだ。
例えば突然発生した大重力。魔力によって引き起こされた大きな重力は大きな山々を圧し潰し、その土地を一夜にして平らにしてしまった。それは巨人の仕事だと世には伝わった。
それまで2つの国の境を分けていた山が1晩で無くなり、戦争が起こった。たくさんの人が突然の土地の変化に驚き狼狽え、そして突発的に起こった戦争で死んでいった。
それらは人にはどうしようもないものだった。
弱い人間にはどうすることも出来ない大きなもので、ただ人は巻き込まれて死んでいくしかなかった。抵抗など、何の意味もない事だった。
その力は災害とされ、1人の人間にはどうしようもない悪意を振りまき続けた。
しかし、その力は宿主にも制御が出来ないものだった。
人の手には余る程の力が飛び出し、問答無用に人間を苦しめていく。
力はそれを嘆いた。
消えてしまわねばならない、そう思った。
力は寄せ集めのものだった。
たくさんの力が溶かされ、ごちゃ混ぜにされ、それは神と讃えられた。人は集められ、それらは火の中に落とされていった。
それを見て笑っていた。笑う者達がいた。力はそれを醜悪だと感じていた。
力は焚かれ、器はごちゃ混ぜに溶かされていく。火に恨みがこもっていく。体は焦げ付き、最後の一瞬まで人を呪っていく。人は世界と同義だった。だから世界を恨んだ。
神に火の意思が伝わっていく。
死んでも恨む、それがぼこぼこと泡を立てて、恨みが世界にふわり浮いていく。
力は決して神ではない。人はそれを盲目的に忘れた。
1人の女性が泣きながら子を孕む。体は歪み、痛みを投げつけられながら、一切望まない力に苦しめられた。
人はそれを怖がり殺そうとした。
老人も泣いていた。泣きながら祈っていた。
どうか天罰を、どうか私にはどうしようもない者達に天罰を。
聖職者はただ一生を掛けて人の不幸を祈るしかなかった。
神に祈り続けた。
皆が翻弄されていた。
とてもとても大きなもの、1人の人間にはどうしようもないものに振り回され、苦しめられ、泣くことしか出来なかった。
幸福になりたくても、復讐がしたくても、ちっぽけな存在には何もどうすることも出来ない。例えそれが理不尽だとしても、それらはどうすることも出来ないものだ。
獣はそれを嘆いた。
赤き獣は雄たけびを上げながら、力の終わりを作る為、一歩一歩道を歩んでいく。
全ては主の為。主を置き去りにしながらただ獣は邪魔者をなぎ倒す。
獣を慕う主は獣の真似をし、人々から苦笑された。
獣はそんな主の頭を撫でていた。
殺してあげなければいけない。
そう思った。
優しき獣を殺してあげなければ。
そう思うのだ。
読者置いてきぼりキャンペーン。こういう話って中二っぽいけど……書いてて楽しい……。つまり私も中二であるという事なのだ。
あまりに短過ぎるから次話『90話 お寝ぼけエリー』は明日投稿するのだ。




