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72話 第一王子ニコラウス

【イリス視点】


「いやぁ……!このお菓子は美味しいねぇ……!イリス!」

「喜んでいただけたようで何よりです、ニコラウス兄様。ファイファール家の息女のアリア様に教えて頂いたお菓子ですよ?」

「いやぁ……!やっぱ地元の人と交流があると、美味しいものを食べられていいなぁ……!」


 私は第一王子ニコラウス兄様の部屋を訪ね、お菓子のおすそ分けに来た。少し兄様の話を聞きたくて私は兄様の部屋に菓子折りを持ってやって来たのだ。

 兄様は美味しそうにお菓子を頬張りながらうんうんと唸っている。


「……兄様……そんなに一度にお菓子を頬張ってはいけません…………口を膨らましながら食べるのは行儀が悪いですよ…………」

「わー、イリスがお母様たちと同じ事を言っているよぉ……いいじゃないか、ここは僕の部屋で他に誰もいないんだから……」

「………………」


 兄様は少し……悪い意味で子供っぽいところがある。彼はこの国の正当な王位継承者なのだが、兄様にその自覚があるようには思えなかった。


 第一王子であるニコラウス兄様は周りからバカ王子と呼ばれている。

 学生時代の成績は悪く、素行も良くは無く、遊んでばかりの人だった。政治に興味が無いようで、今もなおふらふらと遊んでばかりいて大した仕事をしていない。王である父様がニコラウス兄様を鍛えようと様々な課題を与えているのだが、それを碌にこなした経験がなく、逃げたり父様の前で泣いたりしている。


 こう……正直言い辛いのだが……私の目から見ても兄様はバカ王子であった…………


 その為、今国内は第一王子のニコラウス兄様を支持する勢力と、第六王子のリチャードを支持する家に分かれていた。

 普通に考えたら第一王子のニコラウス兄様が順当に王位を継ぐ筈であるが、父様の意向次第ではその地位も揺らいでしまうのでは?と噂されていたりする。父様が兄様を見放したりしたら、次の王位継承権を持つ者は第六王子のリチャードだ。第二王子のアルフレード兄様が亡くなられたことから、このような状況が生じていた。


 一方第六王子のリチャードは、多少生意気ではあるものの、頭の回転は早く聡明な子である。学校での成績は優秀、強いリーダーシップを持って同学年とその下の学年を率いる立場にあるのだという。

 その為か態度が大きく他者を見下すところがあるけれど、それは貴族全体に言えることなのであまり問題視されていない。


 以上より、第一王子のニコラウス兄様よりも第六王子のリチャードの方がこの国の王として相応しいのではないか、と考える貴族が増えているのであった。


 流石に第一王子を支持する家の方が多い。しかし、第一王子の次に王位継承権を持つ者は次の男子である第六王子のリチャードであるのは事実で、なにか1つ歯車が違えれば、ニコラウス兄様が失墜する可能性はあるのである。


「で?どうなんだい?」

「はい?」

「噂通り、アリアちゃんって子は可愛い子なのかい?」

「………………」


 そんな状況下にいるニコラウス兄様は口元を綻ばせながら、こそこそとするように手に口を添え小声で話した。ニタニタと笑って少しいやらしい顔をしていた。


「……まぁ……可愛らしい方ではありますが…………」

「そうかぁ!リチャードいいなぁ……!アリアちゃんはとっても綺麗で可愛らしい子だって聞くからなぁ……!そんな子を好きに出来るのかぁ……!いいなぁ……!リチャードいいなぁ……!」

「…………ニコラウス兄様……今回の婚約は大きく政治的な資金問題が関わっています。それに、アリア様とニコラウス兄様は年が離れすぎているでしょう?」

「そうなんだけどさぁ……!でもさ、でもさっ……!アリアちゃんが大きくなったら一度でいいから僕と遊んでくれないかなぁ……!ねぇ!イリス!アリアちゃんって顔綺麗だったぁ……………?」

「………………」


 私は政治の話をしたかったのだが、兄様は下世話な話を始めた。頭が痛くなりそうだ。冒険者稼業でセクハラネタに耐性を付けていなかったらひどく狼狽していたところだ。

 兄様と言えど、その発言には流石に引く。


「……兄様、絶対にやめて下さいね…………?弟の奥方に手を出したとなったら、最悪内部分裂が起きますよ…………」

「分かってるさ……分かってるけどさぁ…………ちょっと位だったらいいと思わない…………?」

「…………兄様、今の会話、全て兄様の奥様達にお伝えしてもよろしいですか?」

「やめてっ…………!」


 ニコラウス兄様の方が酷く狼狽する羽目になった。全くこの人は……複数の奥様を持つ癖に女遊びに耽るのだから…………


「僕の妻たちがさ……なんだかずっと素っ気ないんだ……僕への敬意が足りない様な気がするし……でも怖いから注意出来ないし…………なんで妻たちはあんな僕に厳しいのだろう…………」

「兄様……取り敢えず夜の街に抜け出しての女遊びをお止めになったらどうですか……?」

「でも…………少しぐらいならいいと思わないかい…………?」


 兄様は肩をすくめながら ずれ落ちそうになる眼鏡を直した。この人は……全く…………一体どうしたらいいのだろう…………


「失礼します、主様、王女様。紅茶のお代わりはいかがですか?」


 その時にニコラウス兄様の執事を担当する男性がドアをノックし、部屋に入ってきた。その手のお盆には紅茶だけでなく、ケーキなどのお菓子も載っていた。


「おぉっ……!ペッレルヴォ……!僕は今ブランデーケーキが食べたい気分だぞっ……!イリスの持ってきたお菓子が甘かったからな…………!」

「はい、持ってきております、主様」

「おぉっ……!流石だ!ペッレルヴォ……!持ってきていなかったら折檻してやろうと思っていたところだ!」

「いや……要望出していない状況で折檻するのは酷いと思いますが…………」


 この人はニコラウス兄様専属の執事で、ペッレルヴォさんという。5年ほど前から王家の執事をやっている人であり、とても優秀な方だ。

 ……というより、よく言ってもいないのにブランデーケーキを持って来れたなぁ…………私が甘いお菓子を持ってきたからニコラウス兄様が辛いケーキを欲しがるという予測が建てられたのだとしたら、やっぱり凄い人だ…………


「ペッレルヴォさん……兄様がまた女癖の悪い発言をし出しまして…………兄様がアリア様に手を出そうとしたら全力で止めて下さいね?」

「いや……その、イリスティナ様……一執事が主様に意見を申すなど、分不相応なことなのですが…………」

「………………」


 確かにそれはそうなのだが…………ファミリアだって私の意見には反対を示さず、私を甘やかす傾向にあるからなぁ…………そのおかげで冒険者が出来ている訳だけど…………


「そうだぞ!イリス!僕は執事なんかに注意されるなんてまっぴらごめんだねっ!」

「…………ならば兄様、アリア様には絶対に手を出さないで下さいね?」

「…………なんだかイリスは僕に厳しくないかなぁ……?もっと僕に寛容になってもいいんだよ…………?」

「………………」


 大きなため息を吐きたくなるのを必死で抑えた。

 …………私はこんなダメ相談を聞きに来たんじゃない。さっさと本題に話を持って行こう。


「そんな事より兄様。隣の都市の領主であるチェベーン家が今回の結婚に対して非難の声明を出したようですが、それについてどうお考えなのですか?」

「へっ……?そうなの……?チェベーンが…………?」

「……へ?」


 兄様は私の言葉を聞いて、ぽかんと口を開けながら驚きを露わにしていた。


「…………知らなかったのですか?」

「う……うん……あれ?ダメだったかい……?どうして僕が知っていると思ったんだい…………?」

「だって、チェベーン家は兄様を強く支援しているでしょう?話は通っているか、あるいは兄様が声明を出すよう示唆したのだと…………」

「いいやぁ?全然?……あ、そう言えばこの前、チェベーンの使者を名乗る人が来たらしいなぁ…………その時タイミング悪く丁度遊んでいたから追い返しちゃったけど…………」

「………………」


 私は唖然とさせられる。


「そんなことよりさ!イリス!今度そのアリアちゃんって子を紹介してよっ!可愛いんだろっ……?」

「そんなこと…………いえ、兄様の頼みでもまだアリア様をご紹介出来ません。弟のリチャードもまだアリア様にお会い出来ていないのですから…………」

「え?そうなの?なんで……?」


 兄様が首を傾げる。……また話が元に戻ってしまった。いや……これ以上兄様から話を聞いても情報が得られるとは思えなくなってきたのだが…………


「近く大きなパーティーが開かれる予定でして、そこでリチャードとアリア様は初顔合わせをするようですよ?今はそのパーティーの準備中ですね。そのパーティーは婚約式の前祝のパーティーでして、前祝のパーティーは数回行われる予定となっております」

「ふーん、そうなんだぁ…………」

「……失礼ですが、兄様、ここに来る前から父様がこの内容を仰っておりましたよ?」

「聞いてなかったなぁ…………」


 この国の未来は一体大丈夫なのだろうか…………

 なんだか少し疲れてしまった。ニコラウス兄様には驚かされてばっかりだ…………


「……最後に1ついいですか?兄様?」

「なんだい?」

「兄様はナディス様と親交があったりしましたか?どこかのパーティーで会ったり、誰かから話を聞いたりしたことはあるでしょうか?」


 隣の都市にいるチェベーン家はファイファール家の長男のナディス様を恨んでいたらしい。怨恨があり、英雄都市と敵対する理由を持つチェベーン家を少し調査しようと考えているのだが、そのチェベーン家が支持しているニコラウス兄様と生前のナディス様の関係を知っておきたい。

 もしチェベーン家に同調して兄様もナディス様を敵対するような節が見えてしまったら、影で兄様の事も調べなければいけない…………


「……ナディスって誰だい?」

「………………」


 ―――と思っていたのだが、兄様は弟の婚約者の兄の名前すら未だに記憶していなかった。もうこの都市に来て幾らか日数が経つというのに…………

 私はがっくりと肩を落とした。


 …………ほんとにこの国の将来は大丈夫なのかなぁ……


次話『73話 思わぬ場所の思わぬ時を経た再会』は3日後 5/7 22時投稿予定です。

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