69話 姫様、酒場を訪れる
【イリス視点】
とある日の夕暮れ時のことだった。
「今日も皆様、調査お疲れさまでした」
「お疲れー」
「いやー、収穫ほとんどないねー」
私達はアリア様の案内の元で聞き込み調査を毎日続けていた。この都市の内情、実力者、流派による戦い方の違いなどが分かって、王女の視察としては十分な成果が出ているのだけれど、槍の男セレドニに対する情報は全く出てきていない。
まぁ、元々調査というのはとても地味で根気のいる仕事なのだから、この程度の困難で根を上げてなんかいられない。
「今日も皆様お疲れさまでした」
「アリア様こそ、ほぼ毎日付き合って貰い感謝致します。婚約前でお忙しいでしょう?」
「いえ、リック様、私が忙しくなるのはもう少し後の話で……それに父からの命なのですから、休むという訳にもいきません」
アリア様とその従兄弟のディミトリアス様は私達の調査によく協力してくださっている。私が雇った冒険者を2つに分け2手で調査を行っていて、ディミトリアス様にはもう一方のチームを案内して貰っているのだ。
「アリア様に何か謝礼を致したいところなのですが……」
「いえリック様、本当にお気になさらず。私自身もこの調査には興味があるのです……」
「………………」
リックさんが困ったように頭を掻いていると、クラッグが口を挟んだ。
「じゃあ、これから一緒に酒場でも行くか?」
「え?」
「は?」
「うん?」
「はい?」
「仕事終わりといったら酒場だろう?アリア、庶民の酒場に興味はあるか?奢ってやるぞ?」
「………………」
その言葉に皆が唖然とした。
「いや、あの……クラッグ様?貴族の方を大衆向けの酒場に誘うのは如何なものでしょうか…………?どう考えても失礼に当たりそうな気がするのですが…………?」
「おう、女狐は来なくていいぞ?おう、ほら、さっさと帰れ。いつも綺麗な場所に住む苦労の知らねぇお姫様は汚ねぇ酒場なんかに来たくねぇんだろ?」
ムカっ。
「そりゃ、仕方ねぇよなぁ?いつもいつも甘やかされて育ち、綺麗な水と一流の酒ばかりを飲んでる王族様には一般大衆向けのやっすい酒なんか飲めねぇよなぁ?一緒に来れる訳ねぇよなぁ?」
ムカムカっ。
「ま、しゃあねぇしゃあねぇ。俺達は皆で一緒に楽しく飲むから、女狐様はホテルの特別棟で1人ゆっくり高級ワインでも嗜んでいて下さい。なぁ?お姫様」
ムカムカムカっ!
…………ほぅ……いい度胸じゃないですか、クラッグ?よりにもってこの私に高飛車な貴族への嫌味の様な挑発を行うとは……!
数年前ならいざ知らず……!今やこの世界中のありとあらゆる王族の中でも恐らく一番酒場に慣れ、一番安い酒を飲み慣れた、この私にっ!一番あなたと安い酒を飲み交わしたこの私にっ……!そんな挑発を行うとはっ……!
「いいでしょうっ!いいでしょうっ!行きましょうじゃないですかっ!酒場に!私が酒場に行けないとでも思ってるんですか!?とんだ間違いですよっ!」
「あ゛れ゛っ!?」
すっとんきょうな声を出し、クラッグが慌てだした。
「ま、待て待て……お、落ち着け、イリスティナ…………強がったっていい事何もないぞ…………?」
「強がってなんていませんよ?いいじゃないですか、酒場!冷えたビールでくいっと一杯やろうじゃないですか!」
「待て待て待てっ……!前の様な貸し切りの酒場とは違うんだぞ!?品性の無い奴ばっかが集まる魔窟だぞ!?下ネタとか、エロネタとかが蔓延る下賤な場所なんだぞっ!?」
んなもん、あなたのせいでもう慣れとるわっ!
「ふん!挑発しておいて、今更及び腰にならないで下さい!行きましょう!酒場!王女のいい呑みっぷりとやらを見せてあげますよっ!」
「えぇ…………」
慌てるクラッグに私はふふんと鼻を鳴らし、思いっきりドヤっと顔を作った。クラッグの隣にいる僕もふふんと自慢げな顔をクラッグに向け、リックさんとアリア様は目を丸くし唖然としており、事情を知っているフィフィーはあちゃー……という顔をして、手で顔を抑えていた。
「アリア様はどうなさいますか?」
「ぴゃっ!ぴゃいっ……!?わ、私ですかっ……!?…………イ、イリスティナ様が行くのであれば喜んでお供させて頂きますっ…………!緊張しますけど……!とても緊張しますけどっ…………!」
そうか、しまった。私が行くとなれば貴族のアリア様は酒場行きを断れない。ちょっと悪いことしちゃったかな?でも、これもいい社会勉強でしょう。
「大丈夫、私がエスコートしてあげますよ?」
「いやいや、お姫様には酒場でエスコートなんか出来ねえだろ…………」
出来るんだよ。
「おいおい……!流石に不味いぞ、クラッグ!最悪、貴族を酒場に案内するのは100歩譲って、ものすごく妥協して、ギリギリのギリいいとして…………この国のお姫様は流石に不味いぞっ!?」
「だ……だがリック……今更引いちまったら俺のプライドが…………」
「どうでもいいだろ!?君の安いプライドなんてっ……!」
「ひでぇっ!?」
いやはや、なんだろう、この胸の中に突き抜ける爽快感は。皆、私が酒場に行くことに驚き慄いておるわ。わははははっ!爽快である!爽快である!戸惑うクラッグを見るのは爽快である!
社会勉強の為の冒険者生活がこんなにも気持ちのいい経験に変化するとはっ……!姫を舐めんなよっ!
「さぁっ!そうと決まれば早速酒場に行きましょうっ!皆さん!仕事終わりの枝豆とビールが待ってますよ!」
「おっしゃー!待ってましたぁっ!」
「イリス……エリー……君は……全く…………」
呆れるフィフィーと戸惑う皆を尻目に、私と僕は意気揚々と先頭を歩きだすのでした。
ふふふ……爽快っ…………!
* * * * *
ごくっ……ごくっ…………ごくっ…………!
「ぷはぁっ…………!」
「ぷはぁっ…………!」
私と僕は並々注がれたビールをぐいと呷り、コップの中身を飲み干した。喉にしゅわしゅわっとした心地のいい刺激が通り抜けていく。
「す……凄い飲みっぷりですね……イリスティナ様…………」
「そんなこと無いですよ、アリア様」
「………………」
「………………」
同じテーブルに着いているほとんどの人が唖然としている。
ここは酒場であり、今の時間は店の中がとても盛え、怒号と喧騒が飛び交い入り乱れる。酒を零しながらかっ込み、乱暴に肉に食らいつく男たちで溢れている。男が女をナンパしていたり、女が男を逆ナンしていたりする。配膳をする店員にセクハラをする男性がいて、店員は「いやん」と言いながらその人をバシンと叩き、その人は壁まで吹き飛ばされていた。うん、流石英雄都市。店員さんまで良く鍛えられている。
「あわわわわ…………」
生まれてこの方経験したことのないだろうこの環境にアリア様はきょろきょろしながらおろおろしていた。
私とアリア様はドレス姿ではない。流石にそれではここに来られなかったので、適当な服屋で落ち着いた服装を購入し、私達は普段の髪型と服装を変えている。
アリア様は薄い水色がうっすらと着色された白いワンピースを着ており、髪型はツインテールにしている。コルセットを付けたドレスよりかはずっと一般的な服装になったけど、それでもこの喧しい酒場ではまだまだ上品過ぎた。
アリア様はまだ13歳だ。この国でお酒を飲めるようになるのは15歳から。アリア様はまだジュースを飲んで頂いている。
「ど……どうでしょうか……私……変じゃないでしょうか…………浮いていないでしょうか…………」
「………………」
「………………」
「な……何か言って下さいっ…………!」
正直浮いていると言えば浮いていた。
そう簡単に彼女の上品さを消し去ることは出来ない様だった。荒くれ者共の中に一輪の花を放り込んでしまっているような感じだった。
「…………似合っていますよ、アリアさん」
「あ、ありがとうございます…………リックさん…………でも質問の返答にはなっていません」
「おぅ……バレたぁ…………」
リックさんは誤魔化しきれていなかった。
でも一番浮いているのは包帯姿のクラッグだった。
一方、私は簡素なシャツと長ズボンを着て、その上に腰ほどまでの長さの濃い色をした上着を羽織っている。銀色の長い髪を後ろで縛りポニーテールにしていた。たまにはこういう髪型も悪くはない。
「イリスさん、その髪型も似合っていますね」
「そうですか?ありがとうございます、フィフィーさん」
ここは普通の酒場なので『様』は付けない。2人きりの時は例えイリスの姿であっても、フィフィーとはため口で喋るようになったのだが。
「ほら!クラッグさん!クラッグさん!女性が服装を変えた時、男性は女性を褒めるものだよっ!さっきのリックみたいにさっ!さっ!イリスさんに何か感想を言ってあげるべきだよっ!」
「げっ……!?俺に振るのかっ…………!?」
フィフィーに促されてクラッグは身をたじろがせた。フィフィーがにやにやしながら私の事を見てくる。
フィフィーめっ!クラッグをからかっているだけじゃなくて、私のこともからかっているなっ!学園生かっ!?学園生のノリかっ!?
「や、やだよっ!女狐なんかを褒めるのなんて、御免だねっ!」
「おやおやぁっ……?褒めたくない、ってことは褒める言葉は思いついたのかなぁっ……?イリスさんのラフな服装、良いと思ったのかなぁっ……?ポニーテール、似合ってると思ったのかなぁっ……?」
「えぇいっ!うるせぇ!うるせぇ!フィフィー!お前は酔っぱらったおっさんかっ……!」
そう言いながらもクラッグがなんだか慌てだし、そっぽ向いた。あ、あれ……?何その反応……?もっと、けっ、女狐が何を着ても狐には変わらねえな、コーン、みたいな反応を予想したんだけど…………?
「おやおやぁっ……?否定しないのかなぁっ…………!?クラッグさぁん……?それはもう、イリスさんの事を褒めているのと同義だねぇっ…………!?」
「だーっ!このじゃじゃ馬娘がっ!リック!何とかしろっ!お前が保護者だろうがっ!」
「ボ……ボクに責任を押し付けないで欲しいなっ…………!」
「ちょっ!?わたし、別にリックに保護されてなんかないんだけどっ!自立してんだけどっ!?保護者じゃないし!わたし保護されてないしっ!」
がやがやと騒がしくなる。
「別に!?イリスティナなんかを見ても何も思ってなんかねーしっ!?何か思ったとしてもそれは呆れだしっ!?けっ、女狐が何を着ても狐には変わらねえしな、コーン!」
「あなたは分かり易いですねっ……!」
クラッグはコップの中のビールを一気に呷り、そして呟いた。
「それに……俺はもっと胸がでかい方が好みだなぁ…………」
「あっ!?いっいい、言いましたねっ!?いい、言ってはいけない事を言いましたねっ!?いいでしょう!それを言ったら戦争ですよっ!?戦争ですよっ!?」
「そそそ、そうだぞっ!クラッグッ!?じょ、じょじょ、女性に対して言っていい事といけないことがあるんだぞっ!?お前は今、女性全員を敵に回したぞっ…………!」
「うおっ……!?エリーまで乗ってくんなっ…………!?」
そりゃ!体格の事で私に文句を付けるという事は、僕も敵に回すということだっ!
「とと、というよりっ!私のサイズは平均よりも少し大きめなんですよっ!?それで文句とかっ!クラッグは現実が見えていないんじゃないんですかっ!?」
「そーだ!そーだ!」
「イリスさん!イリスさん!貴女のような方がそんな発言いけませんっ!ご自重なさってくださいっ!」
止めないでっ!リックさん!これは女のプライドをかけた戦いなんだっ!
「俺、巨乳派だからな!」
「心より死ねばいいと思いますよっ!?」
「最低だっ!最低だよ、この男!」
その時、アリア様はぽつりと呟いた。
「クラッグさんとイリスさんは仲がよろしいんですね!」
「「「良くないっ!」」」
私とクラッグと僕は声を大にして叫んだ。
そんな時の事だった。冒険者だろうか?ガラの悪い大きな男が4人ほど、ニヤニヤと笑いながらこちらに近づいて来た。
「おぅおぅおぅ、こんなところに別嬪さんが揃ってるじゃねーか?」
「要らねえってんなら、俺たちが貰ってやるぜぇ?」
「へっへっへ……なに、悪いようにはしねえよ…………?」
「ん?」
「なんだ?お前ら?」
この感じ……タチの悪いナンパだ。こちらを馬鹿にしたようにへらへらと笑いながら話し掛けてくる。冒険者の中には本当にどうしようもない程素行の悪い人たちがいる。元より荒くれ者の集まりなのだ。これは多少無理矢理にでも宿屋に引き摺り込もうとしてくるタイプの男共だな。
私は今気が立っているというのに、こんなタイミングで来ないで欲しい。
「なぁ、お嬢さんたち、そんな男放っておいて俺たちと遊ばねえ?」
「楽しい思い出残してやるからさぁ……?」
「へっへっへ……ベットの上でさ……楽しい思い出をさ…………」
「………………」
「………………」
見たところ、ランクは全員Dってとこだろうか。その程度でS級2人と領域外がいるこのテーブルに突っかかって来るとは、何たる道化。皆呆れてものが言えない。見逃してあげるから、さっさとどっかに行って欲しい。私はクラッグと戦争をしなければいけないのだ。
「あわ……あわわわわわ…………」
しかし動揺し、気が動転している人が1人だけいた。この状況……というよりも酒場の雰囲気自体に慣れていない人だ。
アリア様は冷や汗を垂らしながらあわあわと怯えていた。
「おっ!かわいいー、この子!怯えちゃって、まぁ!大丈夫、お兄さんが優しくしてあげるぜぇ?」
「ギャハハハハッ!おめぇ!その子に手を出したら流石にロリコンだぜぇっ!?」
「いいじゃねえか、このさ、こんな汚ねぇ酒場に綺麗なワンピース着てきちゃうような純朴な子がさ?色々教えてあげたくなっちまうじゃねえか?」
荒くれ者がアリア様の肩に手を置いた。アリア様がひっ、と短く悲鳴を上げる。アリア様は武芸の家の子として育ってきたためか、C級かB級並みの実力がある。目の前の男達なんか軽くあしらえるだろうけど、緊張が彼女の体を強張らせていた。
「ま、待つんだ、君達。それ以上は流石に不味い。今日はもう家に帰りなさい」
「あぁっ!?なんだぁっ!?やんのか!?このクソ野郎っ!」
「優男がっ!しゃしゃり出てくんじゃねーよっ!」
「引っ込んで、ママの元にでも帰ってろっ!」
「…………ボクは君たちの為を思って忠告しているんだけどさ……」
迫力の伴わない脅しを前に、止めに入ったリックさんが困ったように頭を抱えた。殴り飛ばしてもいいけど、こんな格下も格下の道化に実力行使なんて、それもこちらとしても大人げない。それがアリア様以外の私達の共通認識だったように思える。
どうしたらいいものか、と考えていたら判断が少し遅れてしまった。
「へへっ!俺はこっちの姉ちゃんが好みだなっ!」
私の肩に男の手が回った。流石にめっちゃムカッと来た。
「お、お前たち!その人はヤバい!流石にその人に触るのは不味いっ!一族郎党皆殺しになるぞっ!?」
「うるせぇ!訳分かんねえことぬかしてんじゃねえぞっ!」
イライラする。せっかくこっちが寛大な心で下手に出てやっているっていうのに…………なんなんだ、こいつらは。私は今、それどころじゃない……それどころじゃないのだ。私はあのアホウをぎゃふんと言わせなければいけないのだっ……!
「なぁ?姉ちゃん?俺達と一緒にいい事しねぇ?」
「それとも……連れを痛い目に合わせたくなければ……って言えば、素直に付いてきてくれるのか?ギャハハハ!」
「ガハハハハハッ!」
プッツンした。
「うるっさいなぁ…………」
「ん?」
「うるっさいんですよっ……!この阿呆共っ…………!」
「…………へ?」
「え?」
大声を出し男共を黙らせる。それどころか、喧騒にまみれた酒場全体にその声は轟き、酒場全体をしんと静まり返らせてしまった。注目が集まる。
自分の中で殺気を練り上げ、それを声と共に放出した。
「調子に乗ってんじゃねえぞっ!?さっさと帰らねえとぶっ殺すぞっ!おめえらっ!」
「ひいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」
冒険者生活で鍛え上げた殺気はナンパ男共には過ぎたものだった。殺気は人を砕き得る。私に直接触れていた男は泡を吐きながら気絶し、他の男共は足をがくがく震わしながら掠れるような悲鳴を上げた。
A級まで鍛え上げた力は殺気さえも力強くしており、とてもじゃないがD級程度の男達には耐え切れないものになっていた。しつこい奴は目と殺気で殺せ。前にクラッグに教えて貰ったナンパ撃退法だった。
「す……すみませんでしたあああああぁぁぁぁぁぁっ…………!?」
ナンパ男たちは一目散に酒場から出ていった。
ふん、勝った。一昨日来やがれってもんだ。
酒場中の注目が集まっていた。酒場に溢れた騒音以上の声を発し、強い殺気はナンパ男共だけでなく、この酒場全体をしんと静まり返していた。
パチパチと、拍手が漏れ始める。拍手は拍手を呼び、大きな拍手となって私を包み込んだ。ナンパを撃退して感嘆の意を受けてしまった。あ、おひねりは止めて下さい。おひねりを投げないで下さい。流石に受け取れません。
「すみません、アリアさん。恐い目に合わせてしまいましたね」
「………………」
私達はどうってことないけど、一番怯えていたのはナンパなんかに慣れていないアリア様には可哀想なことをした。多少下世話な奴はいるかもしれないと思っていたけど、こうも直接的に絡まれるとは思っていなかった。
恐い思いをさせてしまっただろうか?
「…………お姉様」
「……へ?」
うん?
「……かっこ良かったですっ!イリスお姉様っ!凄い迫力でしたねっ!私、驚嘆いたしましたっ!」
「あ、ちょっと待って?」
予想外の反応が来る。
「守って頂きありがとうございました!イリスお姉様!今度、私の事を鍛えてくれませんかっ?」
「あー……あー……機会があれば、ですね?」
「はいっ!是非よろしくお願いしますっ!」
変に懐かれてしまった。アリア様からきらきらした尊敬の眼差しを向けられる。ま……眩しい……その純粋な瞳が眩しい…………
私の姿の時は冒険者の荒々しい様子は出さないようにしていたのだが……不味ったかなぁ…………
……そうだ、クラッグに話題を振ってこの微妙な空気を脱しよう。
「そ、そうですっ……その前に……クラッグさん、決着がまだでしたよねっ……!さぁっ!決着を付けましょうか!」
「あー…………いや、今日はお前の勝ちでいいよ……もぅ…………」
「へ?」
「おぅ……流石にさっきのは驚かされた……一杯奢るよ…………」
「あれ?」
クラッグはあっさりと降伏した。手をひらひらと振りながらビールをちょびちょびと飲み始める。周囲からおひねりが私の足元に飛んで来る。
「なーんで王女様がナンパの撃退なんか出来るんだ…………?」
「………………」
クラッグは本当に不思議そうに小首を傾げながら呟いていた。
アリア様の懐きとクラッグへの勝利を荒々しい酒場の中で不意に手に入れた。
酒場の夜は完全勝利?の元、更けていくのだった。
ぶっ殺してやる系お姫様
次話『70話 野蛮なあなたの実の姉』は3日後 4/29 23時に投稿予定です。
投稿予定の時間がちょっとずれます!




