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63話 地下に潜む者達

【エリー視点】


「じょ……情報屋…………?」


 王都の地下で運営されているカジノの一室で、僕は表の顔と裏の顔を持つ組織と対面していた。クラッグとリックさんに連れられて訪れた先は、文字通り地下組織の根城であった。

 調度品の1つ1つに高価な家具が使用されている。このカジノの羽振りがいい事は明らかであったのだが…………どうやら資金元はカジノの運営だけではないようだ。


「カジノは隠れ蓑って…………?」

「言葉通りだな、エリー。こいつらの本業は情報屋だ」

「カジノでも十分稼げているのですけれどね」


 情報屋と言ったら読んで字の如く、情報を売り買いしている組織である。あまり表立って活動している組織を見たことのない、物珍しい商売であった。


「そのトランプは情報の取引に使われるんだ」


 クラッグは先程僕にトランプのカードを渡してくれている。そのカードの裏側は何の変哲もない普通の柄が描かれているのだが、表面には普通書かれているべき数字が書かれておらず、代わりにびっしりと文字が書き込まれている。

 少し動揺する僕にクラッグがその簡単な説明をしてくれた。


 ここはカジノに紛れながら情報のやり取りをする場所である。

 クラッグとリックさんが今日ここに来たのは情報の受け取りと金の支払いをするためであった。

 『情報』はトランプのカードに記載されており、ギャンブルの中に紛れさせながらそのトランプカードを顧客に提出する。ゲームの最中にクラッグ達が急に真剣な顔つきになってカードを食い入るように見ていたのはその情報のカードが渡されたためであったらしい。


 そして、それを読んだ客は掛け金のチップをゲーム中に支払う。ただ単純に情報料分のお金をベットし、ゲームを降りればいいだけである。

 先程の違和感を覚えたやり取りは情報とお金の受け渡しであったのだ。


「なるほど、凄いですね」


 そんな仕組みが王都の地下に出来上がっていたとは………勉強になるなぁ…………


「はっは、非合法の情報を扱ったりもするのでこういった小技が必要になってくるんですな」

「非合法なんですかっ……!?」


 えっ……!?いいのっ…………!?これっ……!?


「そりゃ、エリー。貴族にとって不利な情報なんて、知った時点で大犯罪だ。でもそういった情報を恐れちゃ情報屋なんてやっていけねえ」

「非合法な手段で得た情報もあるだろうしね」

「……というよりも、得た情報を自分たちで有効活用する場合もありますよ?強請(ゆす)りを掛けたり、そういったところはマフィアみたいなものですなぁ」


 はっはっはと笑うオーナー。


「えぇ…………」


 僕は頭を抱える。

 …………あれ?僕、これを知っていいのかな……?一応、姫の立場も背負っているんだけど…………?いいのかな……?この国の姫が王都での非合法地下組織の存在を知って…………?


「情報屋ってのは冒険者、傭兵稼業、他さまざまな仕事に必要不可欠だ。上の立場に行けば行く程情報は貴重なものになっていく。エリーもここを活用していくことになるだろうから、今日連れて来たって訳だ」

「……でもクラッグ、僕たちまだD級じゃないか…………?」

「ま……俺はあれだ。例外だ」


 下級で情報屋を利用する機会はほとんどないらしい。下級で必要な情報なんて冒険者ギルドで全て公開されている。


「そんな訳でオーナー。取り敢えずエリーには法の範囲内だけで扱える情報だけを回してやってくれ。こいつの実力は最早A級。この情報屋が必要になってくる時もあるだろう」

「かしこまりました。クラッグ様」


 クラッグが僕を紹介し、情報屋と顔繋ぎをしてくれる。

 …………どっちかというと、王女としてこの情報屋を利用したいなぁ……色々な情報仕入れてくれるんだよね…………?


「…………そう言えばリックさんとクラッグは賭博仲間って言ってたけど……この情報屋で知り合ったの?」

「えぇっと…………あぁ……そうだね。ここを利用していたらクラッグと会ってね…………って、エリー君にその説明したっけ?」

「え…………?」


 そうだ。しまった。リックさんがクラッグと賭博仲間だって言ってたのはレッドドラゴン討伐祭のパーティーの後だ。つまりその時、僕はイリスだった。


「えぇと…………イリス様と……フィフィーに聞いて?」

「あぁ、そうか」


 フィフィーだったら僕の事情も知っている。口裏合わせてくれるだろう。


「フィフィーもここのこと知ってるんだよね?」

「勿論そうだけど、ここを利用するのは主にボクの仕事かな。もうボクここの顔馴染みだしね」

「へぇー……」


 S級というのは闇稼業とも繋がりを持たなければいけないのか……大変だな…………


「……というより、オーナー。VIPルームに通してくれんならトランプでの情報のやり取り必要ねぇじゃねぇか。ここで話せば良かっただろ?」

「はっは、申し訳ありません、クラッグ様。相談したい事柄が出来てしまったので…………」

「…………相談?」


 クラッグの眉がピクリと動く。


「以前よりリック様から依頼されている『メルセデス様の身元の隠蔽』の件ですが……王都よりも別の場所の方に移動させた方がいいと思いまして…………その了承を頂きたかったのですが…………」

「あぁ、その件か」

「了解しました、オーナー。移動先は教えて下さいね?」

「勿論でございます、リック様」

「ちょっと待って?」


 皆はさらっと会話していくが、聞き逃せない言葉があった。


「えっ……?『メルセデス様の身元の隠蔽』って……あれ…………?どういう事なの…………?」

「……ほら、エリー君。眠っているメルセデスはどこで保護し、どこに隠そうかって話はしたでしょ?」

「うん」


 そう。神殿都市での調査が終わって、残った問題点の1つに眠るメルセデスの保護の場所、という問題があった。

 『アルバトロスの盗賊団』の目から逃れられる場所に隠しながら、目を覚まさない彼女を常に世話の出来る人がいなければいけない。


 私は王家に保護して貰おうと提案した。しかしリックさんはそれを否定し、自分が信頼している地下組織に隠して貰うという提案をした。

 王家は良くも悪くも隠れ潜むことに対するプロフェッショナルではない。闇の目から隠れる為には闇に身を潜めるべきだ。その考えの方が賛成多数であって、リックさんの案が採用された。


「その地下組織って……ここだったの…………?」

「そういうこと」


 人の隠蔽の依頼も受けるとは……ここはやはりただの情報屋ではないらしい。


「ご安心下さい、エリー様。リック様の信頼を欠く様な行動は一切できません。全力でメルセデス様の身柄を隠蔽させていただきます」

「…………ディーラーのお姉さん……」


 先程ポーカーのディーラーをやっていたお姉さんが僕の不安そうな顔を見たのか、そう説明をしてくれた。

 この組織の事は全然よく知らないけれど、リックさんの事は信頼している。


「…………ここの組織、本当に信頼できるんだよね?リックさん?」

「もちろん。僕の名に誓って」


 リックさんは自信を持って語っていた。


「…………メルセデスの事を宜しくお願いします。オーナーさん、ディーラーさん」

「ご安心下さい、エリー様」


 そう言って、2人共笑っていた。




* * * * *


 そして英雄都市へと向かう準備が整った。

 クラッグ達が買った情報は英雄都市で行う調査の為のものらしい。


 王女である私としては弟の婚約パーティーに出席する為。だが、冒険者である僕としては『叡智』の手掛かりを探す為。

 私はお守りとして持ち歩いている緑色の宝石をカバンに入れ、城を出発した。

 新たな活動が幕を開けようとしていた。


「それでは、英雄都市へ向けて出発します……!」


 英雄都市での戦いが始まろうとしていた。


ご覧頂きありがとうございました…………って、今更だけど毎回毎回言わなくてもいいような気がしていた…………(汗)


次話『64話 全くもって少しも本質と関係ないトラブル』は3日後 4/11 19時に投稿予定です。

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