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36話 追い込み

「負けた……」

「バルドス司教様が負けた…………」


 大神殿の地下室はざわついていた。兵士たちが怯えた顔でその状況を見回している。

 白いドレスを纏った冒険者が、彼らの指導者のバルドス司教を打ち倒し、横たわった体を見下している。


 地下の牢獄には凄惨な光景が広がっている。たった4人の冒険者によって何十人という兵士の死体が転がっている。銀髪の女冒険者は不殺魔法をかけて攻撃を行っていたが、他の3人の冒険者は容赦なく敵を切り捨てており、床の石畳には血が広がっている。


 たった4人のA級並みの冒険者によって、敵の兵士たちは壊滅状態だった。


「こんなの……こんなの嘘だ…………」

「あり得ない…………」


 兵士たちは恐怖で震えていた。

 彼らはいつも優位な立場で商売を行っていた。奴隷を捕まえて売買するという事業を行い続けていると自分が偉くなったような気になってしまう。悲惨な人間ばかりを見て、その人たちを下に見て、いつの間にか人を馬鹿にするのが当たり前になってしまっている。

 本当は何も凄い事なんてしていないのに。


 それが、今や自分たちが追い詰められている状況だ。自分たちのリーダーも破れ、グループも壊滅状態だ。次、そこに横たわるのは自分なのかもしれない。

 死の影が自分の傍に這い寄っていることを彼らはようやく自覚した。

 汗が噴き出て全身を濡らす。


「さぁ……次は、どいつアル……?」


 冒険者の1人が軽い挑発を行った。

 それはその人にとっては何でもない挑発でただの挨拶のようなものだったが、地下の兵士たちはその一言に怯え、恐怖した。


「うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ…………!」

「助けてくれええええぇぇぇぇぇぇっ…………!」

「嫌だああぁぁっ……!死にたくないいぃぃぃっ…………!」


 そして一目散に走って逃げて行った。

 この牢獄から出ようとして、狭い扉に人が殺到する。我先に我先にと逃げようとして、扉の付近は大混乱になった。


「…………あれ?」

「……勝手に混乱状態になったどすよ…………?」


 これに唖然としたのは冒険者達だ。軽い挨拶の一言で相手のグループが崩壊した。呆気ない終わり方だった。


 とりあえず、扉の付近でごまごまと停滞している連中を追って叩く。流石に扉から出られず背を見せている哀れな子羊を斬り殺すのは忍びないらしく、敵の兵士を剣の腹で叩いて気絶させていた。


 そんな時、部屋の外から大きな声が聞こえてくる。


「秘密兵器の準備は終わったかっ!?」

「なんとか秘密兵器の準備終わりましたっ!これであの4人を殲滅できますっ!」

「早く古代の魔導ゴーレムを起動させろっ……!目に物を見せてやれっ……!」


 部屋の外から聞こえてくる不穏な声に、エリーたちは顔を見合わせる。


「……秘密兵器?」

「魔導ゴーレムって言ってたぞ…………?」


 エリーたちは頷き合った。

 部屋の掃除を一旦終え、部屋の外に出る。敵の兵士を排除しながら慎重に来た道を戻っていった。

 急いで駆け抜けるような真似はせず慎重に進む。曲がり角がある度に、壁に身を寄せ少しだけ顔を出し、曲がり角の先を確認する。そうやって慎重にゆっくりと進んでいった。


 秘密兵器と言われる魔導ゴーレム。その正体ははっきりしない。こちらの姿を確認される前に先に魔導ゴーレムの姿を捉えて状況の確認がしたかった。

 4人のA級で魔導ゴーレムとやらに勝てる保証はないのだ。不意を打つか、逃げて隠れるか、その方針だけでも決めたくて魔導ゴーレムの姿を確認したかった。


「うわあああああああああぁぁぁぁぁぁっ…………!?」


 そんな時、この地下のどこかから大きな悲鳴が聞こえてきた。

 エリーたちの体は思わずびくんと跳ねてしまった。


「………………」

「………………」


 4人は嫌な顔を浮かべつつ、お互いの顔を見合わせた。

 何とも嫌な予感がするものだが、進まないという選択肢はない。4人は先程よりも慎重に、ゆっくりと歩を進める。悲鳴のした方向へと近づいていく。

 何かの激しい戦闘音が聞こえてくる。その方向へと嫌々ながら4人は足を進めていく。


「この扉の先のはず…………」


 エリーはほんの少しだけ扉を開け、その部屋の中の様子を覗く。

 そしてそこにはよく見知った顔があった。


「……あれ?クラッグ?ボーボスさん?」


 同じ冒険者仲間のクラッグとボーボスだ。その姿を認め、4人は曲がり角から姿を現した。


「クラッグ!」

「……ん?おう、エリーにサシスム。無事だったか?」

「纏めて呼ぶなアル」

「ご苦労じゃった、4人共。その様子を見ると、首尾は良いようじゃのう?」


 エリーたちはその部屋を見渡した。

 クラッグやボーボス、他にも同じ依頼をこなす冒険者が大勢いる。そして、その床には希少な金属オリハルコンで出来た何かの残骸が転がっている。


「…………この金属は……?」

「んあぁ?……いや、よく分からんけど、敵は『魔導ゴーレム』とかなんとか言ってたな。そのなれの果てだ」

「邪魔じゃから全部ぶった斬ってやったわい」

「え゛…………?」


 よく見ると、そのオリハルコンで出来た残骸には足や手のようなものが付いている。床に散乱しているこの超希少で超強硬なオリハルコンは先程までは魔導ゴーレムだったのだろうか。

 エリーたち4人は冷や汗をかいた。


「あー……これ、オリハルコンだよね?滅茶苦茶硬かったんじゃないの…………?」

「まぁ、多少は厄介じゃったのぅ。でも、全部ぶった斬ってやったわい」

「あー……敵さん、これ秘密兵器とか言ってたよ…………?」

「そうなのか?ま、確かに多少は厄介だったな」

「はは…………」


 4人は苦笑いをするしかなかった。

 他の冒険者たちに話を聞いてみると、その魔導ゴーレムは1体1体がA級並みの実力を持っていたらしい。それが20体近く現れたのだが、ボーボスとクラッグが次から次へと斬り伏せていったというようだ。

 この部屋には大量の魔導ゴーレムの残骸が転がっており、何人もの敵の兵士が縄で縛られ捕縛されていた。


 エリーたちの知らないところでバルドスたちの秘密兵器は打ち倒されていた。

 4人はやっぱり苦笑するしかなかったのだった。



「そうだ、クラッグ、ボーボスさん。奥の部屋に牢獄があるよ。やっぱ人身売買だった」

「想定外の事態は起きなかったんだぜだぜぇ。ほぼ打ち合わせ通りの展開になって、しっかりと制圧してきたんだぜだぜぇ」

「そうか、ご苦労じゃった。こちらも計画通りの事が進んだのう。入り口から順に制圧は進んどる」


 冒険者たちの作戦としては、エリーをイリスティナに変装させ、フィフィーが開発した追跡発信魔法によってエリーの動きを探っていく。恐らく『敵』はイリスティナを罠に嵌めようとしてくるから、エリーを餌に釣りをする。


 その釣りは見事にうまく嵌まり、冒険者たちは大神殿の隠し扉を容易に発見し、地下の闇へとなだれ込んでいった。


 ただ冒険者の誤算としては、エリーをイリスティナに変装させることには何の意味も無かったという事なのだが…………


「順調って感じですか?」

「あぁ。彼らも協力してくれておるしの」

「……彼ら?」


 エリーが首を傾げたところで、ボーボスの背後から声がした。


「エリー!」

「……え!?ヴィオっ!?」


 現れたのは神殿騎士のヴィオだった。彼女は冒険者と神殿騎士の合同練習の際、エリーと模擬戦をした女性騎士であり、深夜に謎の集団から『夜空に煌めく星々』で洗脳されかけた人である。


「話は聞いたよ?大丈夫だったかい?囮役……って!血が出てるじゃないかっ……!」

「いや、血ぐらいは別にいいんだけど……それよりもヴィオっ!体は大丈夫なのっ!?まだ全快じゃないんでしょっ!?」


 ヴィオは神器級の洗脳魔法を喰らって、体の中の魔力の流れが滅茶苦茶になっていた。まだまだ全快するには時間が足りない筈だ。


「ははは!まだ上手く体が動かないから事務仕事ばっかりやってたんだけどさ!でも、自分の職場でこんなどす黒い闇が発見されちゃ黙っていられないね!怒りで元気いっぱいになっちまったよ!」

「…………そう言えば、ヴィオは神殿側なのに冒険者たちに味方してたの?」


 エリーがヴィオやボーボスの後ろにいる人たちを覗き込むと、そこには冒険者の仲間だけではなく、神殿騎士の人たちも多数いた。


「いやいや!ほんとこれ!誤解して貰っちゃ困るんだけどさ!私たちはこんな地下の存在、全く、これっぽっちも知らなかったんだよっ!いや、信用ならないのは分かるけどさ!水神様に誓ってこんなやばい事には関わっていないよ!私は!……いや、多分神殿のほとんどの人はっ…………!」


 ヴィオは慌てて大きく腕を振る。一言でも多くの言葉を紡ごうとしているのか、早口で弁解していた。後ろの騎士たちもその言葉に同意するかのように何度も頷いていた。


「勿論最初、神殿騎士の皆は我らの妨害をしていたのじゃが、隠し扉とそこから延びる地下への階段を発見すると調査の協力に応じてくれたのう。あの慌てようは演技の様には見えなかったから、本当にこの地下とは無関係の人間が多いのだと思うのじゃが…………」

「あ、そう言えばバルドスの奴も『この事業は我が一族とそれにくっついてきている者達』だけでやっているって言ってたアルな」


 全ての言葉を鵜吞みにするわけにはいかないが、暫定的に神殿騎士の皆を仲間と見做して行動していた。


「さて、敵の制圧は周りの者達に任せて、わしらは奥の方へと行こうか。エリー、奥に牢獄があるんじゃったな」

「あ、はい。案内します」


 そうして一行は奥へ奥へと進んでいった。最早敵と言える存在はなく、この神殿の闇が全て明らかにされようとしていた。


「ねぇ、エリー、エリー…………」

「なに?ヴィオ?」


 先頭を歩くエリーにヴィオは話し掛けた。顔を近づけ、少し小声で喋っていた。


「あんたの相棒、やばいね。S級のボーボスと同じぐらい活躍してたよ?D級だよね?あんたの相棒…………」

「あー…………」


 クラッグが魔導ゴーレムを次から次へと斬っていったという話は聞いている。D級冒険者がS級と同じような活躍が出来るなんて普通あり得ない話だった。


「あんたの相棒、何者なの……?」

「……はは、僕にも分からないよ」

「へー……そいつはやばい」


 エリーからすると、この神殿都市の闇よりも自分の相棒の方がよっぽど謎に包まれていた。


 とことこと、この地下の奥深くへと進んでいく。目的地は牢獄で、捕まっている人たちの救出だ。


「……あ、クラッグ」

「なんだ?」


 エリーはクラッグの方に振り向いて質問した。


「リックさんやフィフィーの方はどうなってるの?」

「あぁ。順調だぞ?別れる前までしか状況分からないけどな」

「…………」

「あいつらの仕事が終わったらこの地下の悪巧みは全て終わりだな」


 クラッグはそう言ってにやりと笑った。


* * * * *


「くっ……くそっ…………!お前たち……お前たちは何なんだよ…………っ!?」


 地下の一室、バルドスの息子エルドスは部屋の隅に追い詰められ、ぎりぎりと歯ぎしりをしていた。

 ここは地下の事業の中心、人身売買のあらゆる情報を管理し経営をしていく、言わば闇の事業の管理室だった。


「もうお前たちは終わりだ。大人しく全てを差し出せ」


 エルドスという男に剣を突きつける冒険者がいた。S級冒険者リックだ。彼は殺気を放ちながらこの男を脅していく。彼の背後には同じくS級のフィフィーもいる。

 エルドスでは万が一にも勝ち目はなかった。


 リックの剣がエルドスの頬を優しく撫でて、そこから一筋の血が垂れる。

 それだけでエルドスは全身が真っ青になり、糸が切れたかのようにへたり込んでしまった。ずるずると壁に寄りかかりながら身を沈ませていく。


 闇の核心に刃が差し込まれようとしていた。

 もう終わりは近かった。


(ちょっと宣伝)

youtubeとニコニコ動画に『【ファイアーエムブレムヒーローズ】☆2だけでの最終マップ攻略作戦 』という動画を上げました。ゲームの字幕実況です。もし宜しかったらご覧ください。

youtube → https://youtu.be/sXlrnaRdA4s

ニコニコ動画 → http://www.nicovideo.jp/watch/sm30661643


…………これ作ってて執筆遅れた……


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