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27話 吸血鬼の提案

【クラッグ視点】


「うぅ~~~口の中がさいあくじゃ~~~~…………」

「あー……その……なんか、ごめんな?」


 夜の暗い路地裏、酒場で声を掛けてきた紫髪のメルセデスが実は娼婦ではなく吸血鬼であった……というのはつい数秒前に分かったことなのだが、その吸血鬼の恐ろしさを体感する前に、彼女は俺から牙を離した。


 ……どうも俺の血は不味くて飲めなかったらしい。……これじゃあ、食生活偏って血液ドロドロみてーじゃねーか、俺。


「あ~~~……どうするアル?戦うアルか?」

「え……?この状況でか?」


 目の前の敵は、持っていた水筒で口をガラガラとゆすいでいるんだけど…………


「わらわはごめん被るぞ?こんなだらけきった状況で人を襲うなど、風情がないにも程がある」

「いや……化け物に決定権って……あんのか?この状況だぜだぜぇ?」

「なんだか情けない状況下であるが……聞きたいことは山ほどあるどすぞ?」


 何とも締まらないが、そうだ、この目の前の吸血鬼は諸悪の根源の可能性もある。『神様の悪戯』も『天罰』の脅しも、こいつは何か知っている可能性が高い。


「ふむ……対話か……丁度いい。力づくで事を成すつもりじゃったが、どれ、話を聞いてやろう。わらわもお主たちに要望がある。ほら、そこらへんに腰かけい。じっくりと話し合おうかの?」

「………………」

「………………」


 何言っちゃってんの?この吸血鬼?なんで勝手に話を進めようとしているのか?

 いや……でも……こいつはもしかしたらA級冒険者4人を同時に仕留めた敵なのかもしれない。下手に戦闘に持ち込まない方がいいのか……?

 同じことを考えていたのか、皆ピリピリと警戒しながら、しかし誰1人握った武器を振りかざそうとはしなかった。


「ふぅむ…………やはりと言えばやはりだが……警戒されておるのぅ。どれ、話をしたくさせてみるか」


 傍にあったタルに腰かけながら、メルセデスは人差し指をぴんと立て、言った。


「わらわの要望はお主たちの依頼人との面会じゃ」

「…………」

「…………」


 俺たちはお互いの顔を見合ってから、当然言うべきことを言った。


「無理に決まっているアル。依頼人の正体すら教えられないアルよ」

「しかし、わらわがもう既にお主たちの依頼人の正体を知っているとなれば、お主たちはわらわを無視できまい。お主たちの依頼人は……イリスティナ王女殿下じゃな」

「………………」

「…………違う。かまかけのつもりなら、当てが外れたな」


 とりあえず否定してみる。


「わははははっ!とぼけるか!良い良いっ!だが、お主たちはもうわらわを無視できなくなった。依頼人の正体を言い当てられ、後には引けなくなっている。

 告白しよう。お主たちの仲間であるA級冒険者を4人同時に倒したのは紛れもなくわらわであるし、宣言しよう、今お主たちに勝てなかったとしても確実に逃げ切って見せる。そうなれば、影から王女殿下の命を狙い続けよう。もし、今ここで対話を拒否するのであればな。」

「………………」

「………………」

「ほれ、どこでもいいからとにかく座れ。対話をしようじゃないか」


 …………こいつは依頼人の正体について確信を持っている。実際に正解だし、当てずっぽうでもなさそうだ。

 俺たちは暗い路地にひっそりと佇まうタルや木箱に腰かけた。


「……まずはこっちの質問から答えて貰うんだぜだぜ。追い詰められているのは、お前の方だぜだぜ。俺たちの方だって、逃げようと思ったら1人は確実に逃げさせてもらう。そしたら明日からあんたは冒険者全てを敵に回すことになるんだぜだぜ」

「良い良い。どんな質問でも来るがよい」


 スムは脅しをかけたが、メルセデスは余裕をもって返答をした。


「……1つ、4月16日に2人の冒険者が襲われ意識不明となったが、これはお前の仕業か?」

「うむ、然り。お前たちが神殿都市で調査を始めた日じゃな」

「……1つ、4月19日に4人の冒険者がまた被害にあったが、これもお前の仕業か?」

「うむ、然り」

「1つ、4月19日の早朝、神からの天啓というのが発見されたが、これもお前の仕業か?」

「否。わらわは一切関与せず」


 ……うん?否定?


「…………1つ、4月21日に神殿騎士の女性が謎の集団に襲われたが、これはお前の仕業か?」

「否。今知ったばかりじゃ」

「………………」


 俺たちは顔を見合わせ、考える。

 どういうことだ?1部を肯定して、1部を否定している?もちろん、嘘をついている可能性は大いにあるが、これは一体…………?


「1つ、この都市の伝説にある『神様の悪戯』はお前の仕業なのか?」

「否。伝説に寄せて、人から魔力や生気、記憶を頂いたりはしているが、わらわは『神様の悪戯』そのものじゃない」

「……1つ、お前は単独犯か?それとも何かしらのグループに所属している?」

「単独じゃ」

「……1つ、この都市の外れに出た『オブスマン』とお前には関係性がある?」

「む……?この都市に『オブスマン』が出たのか…………!?」

「……ん?」


 今まで明確に返答を返していたメルセデスが初めて答えに詰まった。そして、驚きと共に目を見開いている。そうだ、元々は『オブスマン』の調査が俺達の任務なのだ。


「おい……どうしたアルか…………?」

「…………その『オブスマン』が出たという話、本当か?」

「……そうどす」

「…………この『吸血』の能力、記憶の全てを奪えるわけではないのが難点じゃな……よりにもよってこんな大事な情報を抜き取れぬとは…………

 …………詳しく聞きかせて欲しい」

「………………」


 それまで質問の主導を取っていたスムは少し考え、そして答えた。


「無理だぜだぜ。まずはこっちの質問に答えな」

「……ではその質問に答える代わりに、わらわの今の質問に答えて貰おう」

「………………」


 俺たちは顔を見合わせ、頷き合う。


「了解アル。交渉成立アル」

「分かった。ではまずわらわから…………

 先程の質問、答えは是である。わらわとオブスマンには関係がある。しかし、それは敵としてじゃ。わらわはオブスマンに追われとる。よって、わらわはオブスマンと関係があるが、その都市の外れに出たというオブスマンを使役している訳でも、招いた訳でもない。以上じゃ」

「………………」

「………………」


 謎は深まったが、確かに質問には答えている。そして、俺たちの調査依頼の鍵はこいつが握っていることが明らかになった。

 …………というか、オブスマンに追われている……?


「分かった。じゃあ俺たちの番だぜだぜ。まずはオブスマンが出たという報告があったことから…………」


 そして神殿騎士がオブスマンを討伐したこと、王女からオブスマンの調査の依頼があったこと、そして調査の途中で『神様の悪戯』に辿り着いたこと。そういった事情を話した。


「ふむ……なるほど、なるほど。ようやく合点がいったのじゃ。つまりお主たちはオブスマンの事をよく知らないけれど、近隣にオブスマンが出たから調査を行っている。始めからわらわの存在に当たりを付け、オブスマンを通してわらわを追っている訳ではないと」

「あぁ、そうだ」

「なるほど……なるほど…………」


 そう言って、メルセデスは何度も何度も自問するかのように頷いた。そして会話を止めじっと沈黙すること数十秒…………彼女は紫色の髪を揺らしながら顔を上げ、何かを決意したかのようにまた語りだした。


「1つ、提案がある……」

「…………提案?」

「そうじゃ」


 夜の空気がぴんと張り詰めた。


「お主たち冒険者を雇いたい」

「…………は?」

「わらわは依頼主として、お主たち冒険者に正式に依頼を申し込みたい」

「……なんだって?」


 正式な依頼?俺たちを雇う?…………この化け物が、か……?


「依頼内容はわらわの護衛。『オブスマン』及び『アルバトロスの盗賊団』からわらわの身を守る事じゃ。プロであるならば、頼む……」

「……冗談アル?」

「まことじゃ」


 彼女の目は紛う事なき真剣な色をしており、俺たちを射抜く様な強い光を宿していた。


「まことじゃ。頼む…………」


 思わぬ提案に俺たちは呆気にとられ、思わず息を呑んだ。

 紫髪の化け物が、俺たちにすり寄ってくるのを感じていた。


てきとーな脇役だし、語尾付けてちょっと変にしてもいいだろ……って思ってたらこいつら少しシリアスなシーンに入り込んできやがったっ!?見通し甘すぎんだろっ!?

でも小説において、語尾って便利……癖になりそう…………

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