202話 赤き魔獣との決戦(2)
「放てぇっ……!」
魔法の弾が入り乱れる。
それぞれの者が得意とする攻撃が前後左右、四方八方から飛んできて、色鮮やかな様相を見せている。
赤い魔獣は実にやり辛そうにしていた。
アルバトロスの盗賊団の団員たちが円形に陣を組んで、魔獣に対してちまちまと攻撃を加えている。
赤い魔獣にとってその攻撃群は大きな脅威ではない。
当たってもちょっとしたダメージを負う程度である。
だが、その攻撃には量がある。
全てをまともに喰らっていては、流石にダメージが積み重なってしまう。
だから全方位から飛んでくる攻撃を、魔獣は防ぎ、躱し、いちいち処理しなくてはならない。
うざったい攻撃。
魔獣にとって、その大量の魔法攻撃はそういったものであった。
ならば、先にうざったい敵を殺してしまえばどうか。
しかし、それは目の前の敵がそうさせてくれない。
ニコラウスが魔獣を喰い止めている。
大剣を振り、巨大な魔獣と正面きって戦っていた。
纏いつくように赤い魔獣と近接戦を繰り広げながら、魔獣に余裕を与えない。
その強靭な爪の攻撃を弾き、牙を掻い潜り、勇猛果敢に剣を振るっていた。
何も知らない者がその戦いを見れば、凶悪な獣と戦う勇者のようにも見えたかもしれない。
魔獣にとってもニコラウスは油断ならない相手だった。
領域外と呼ばれる超強力な実力者の中でも、このニコラウスは頭一つ二つ飛び抜けている存在だった。
今、彼は『叡智の腕輪』という神器を身に着けている。
一般的に知られていない謎の腕輪であるが、赤い魔獣はその効果と脅威をよく理解していた。
油断することは出来ない。
あまり見くびっていては、命を断ち切られるのは自分の方であると獣は直感していた。
「ガァッ……!」
「う、うわぁっ……!?」
一瞬の隙を突き、魔獣が口から血で出来た魔法の弾を放つ。
その狙いはニコラウスではなく、円形の陣を組んでいる団員たちに向けたものだった。
狙われた団員はその攻撃に為すすべなく、魔獣の魔法に呑み込まれ命を散らした。
魔獣は敵を二人殺した。
しかし、たった二人である。
敵の円形の陣に支障はない。
ニコラウスと近接戦闘を行いながらでは、なんとか些細な隙を突いて一度に二人ずつを殺すことで精一杯だった。
ニコラウスとの攻防。
そして、それを援護してくる敵の遠距離攻撃。
巨大な魔獣も、徐々に徐々にダメージを重ねていくのだった。
「くっ……」
しかし、アルバトロスの盗賊団にとっても余裕があるわけではなかった。
ニコラウスが歯噛みする。
魔獣が放つ遠距離攻撃によって、少しずつではあるものの仲間の数が減っていっている。
一度に一人か二人。魔獣の攻撃に耐え切れず死んでいく。
今、魔獣との戦いが拮抗状態にあるのは団長の近接戦闘と団員たちの遠距離攻撃が上手く機能しているからだ。
これが更に団員たちの数が減ってしまったら、一気に形勢が傾く恐れがある。
円形の陣が機能しないほど仲間が死んでしまったら、魔獣が大きく暴れて一気に全滅、ということにもなりかねない。
この状態が保てる内に魔獣を殺しきらないと、彼らに勝機は無かった。
ニコラウスにも余裕がない。
対等に戦えているように見えるが、かなり無理をしている。
相手は今までに出会ったこともないような強力な化け物。
遠距離攻撃を放つ味方に被害が出ないように、この怪物を抑え込んでいること自体が凄まじいことだった。
この赤い魔獣は叡智の力に対して事前の対策を周到に練っている。
力に対して深い知識があるようで、叡智の力由来の攻撃を軽く捌ける実力を持っていた。
それにより、ニコラウスの多様な攻撃手段が大分通じなくなっていた。
ニコラウスはギリギリの攻防を繰り広げている。
次の瞬間に、彼が獣の攻撃によって殺されてしまっても何らおかしくはなかった。
「…………」
「…………」
お互いがお互い、焦りを感じている。
両者ともが決め手に欠ける中、我慢比べが続いていた。
そんな中、戦いの流れを変えたのは一人の団員だった。
「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!」
「同志……!?」
突如、雄叫びを上げながら魔獣に向かって突進をしていく。
一人の団員の無謀な特攻に、皆がぎょっとした。
その団員が自分の叡智の能力を発動させ、変身をする。
彼の能力は『超巨大化』。
彼の体がぐんぐんと大きくなり、やがては赤い獣よりもずっと巨大になる。
今、この場で一番存在感を放つ者は彼となった。
しかし、この能力は最強ではない。
巨大化によって質量が増えた分、動きが鈍重になるのだ。
赤い魔獣は体が大きくとも動きが素早く、小回りが利いていて、力強い。だからこそこの場でアルバトロスの盗賊団の全員を一度に相手取れている。
しかし、この超巨大化の能力はそうではない。
動きは遅く、大味になる。
大きな身体に手も足も出ない力の弱い者を相手取った時には最強となれるが、自分では敵わないような格上の敵を相手にした時、その大きな体は都合の良い的となってしまう。
だから、この赤い魔獣に通じるような能力ではなかった。
しかし、そんなことは変身をした本人がよく分かっている。
それでも構わず、巨人となった団員は赤い魔獣に殴り掛かった。
「オオオオオオオォォォォォッ……!」
「…………」
雄叫びを上げながら、決死の覚悟で赤い魔獣に攻撃を仕掛ける。
当然ながら、それは通用しなかった。
つまらなそうに赤い獣が鋭い爪を振るい、斬撃を飛ばす。
巨人の拳がぱっかりと割れる。
斬撃はそのままの勢いで飛び、腕を裂き、肩を斬り落とし、やがて巨人の首を切り飛ばした。
巨人の首と胴体が分断される。
たった一撃で、赤い魔獣が自分よりもずっと大きな巨人に致命傷を与えた。
「……?」
だが、そこで魔獣は違和感を覚える。
この結末は巨人も予想したこと。
領域外の持つ強靭な生命力を活かして、巨人は首から下だけで動き、赤い魔獣にしがみ付いた。
倒れ込むように突進をし、腕と全身を使って魔獣に纏わりつく。
「後は……よろしく、お願いします……」
首から上だけの巨人がぽつりぽつりとそう呟く。
巨人は始めから自分の命を使って魔獣の動きを止めようとしていた。
「…………」
魔獣が心底鬱陶しそうな顔をする。
何の工夫もない組み付きとはいえ、この巨人の体は自分よりも大きい。
どうしても動きは鈍る。
魔獣は自分の赤い体を変形させていくつかの刃を作り、自分にしがみ付く巨人を細切れにした。
体を小さくバラバラにされ、もうしがみ付くどころではなくなっていく。
巨人の肉片は地に落ち、本当に絶命した。
巨人をバラバラにするまで、たったの三秒。
しかし、この三秒が重要だった。
「よくやった、同志よ」
ニコラウスが呟く。
そして三秒の時間を十分に使って、大規模魔法を発動させた。
「半結界・増幅反射青透壁」
「……ッ!?」
赤い魔獣を囲うように青色で半透明の壁が作り出される。
それは結界だった。立方体の形をした壁が出現し、魔獣を逃がさないよう閉じ込める。
反射的に、魔獣は爪によって結界の壁を攻撃する。
しかし、結界は頑丈だった。多少の傷は付くけれど壊れはしない。
この結界を壊すためには魔獣も強力な攻撃を用意するしかなかった。
「放てーッ!」
しかし、そんな余裕はない。
敵は魔法を放ち、魔獣に攻撃を仕掛けていく。
それは今までと同じ攻撃だった。
盗賊団の団員たちが円形に陣を組んで、四方八方から魔獣に攻撃を仕掛けていく。先程までと全く同じ行動を団員たちは取る。
ただ、違ったのは結界の存在だった。
魔獣を囲う結界の外から放たれた魔法は、結界の壁に阻まれることなくすんなりと中へと入っていく。
これは一方通行の結界だった。
中から出ることは許さない。しかし、外から入ることは可能である。
そういった種類の特殊な結界だった。
そして、もう一つの効果がある。
それは外から入ってきた魔法の効果を増幅させ、五倍にまで高めるという強力なものだった。
団員の放った魔法の弾が結界の壁を越える瞬間、その弾が五個まで増幅される。
大勢いる団員たちの大量の魔法がそれぞれ五倍にまで数を増やし、赤い魔獣に襲い掛かる。
流石の魔獣もギョッとした。
「撃てーッ! 撃て撃て撃て撃ちまくれーッ!」
「ガッ、ガアアアアァァァァッ……!?」
今までの五倍の物量が魔獣を傷付けていく。
しかも、この結界は反射の性質を持っていた。
魔法の弾が内側の壁にぶつかると、その魔法は反射されて結界内を飛び回る。
魔獣から外れた魔法の弾は結界の壁を反射して、また魔獣へと襲い掛かる。
前後左右、四方八方、魔獣を襲う猛攻は今までの五倍以上となっていた。
「ガアアアアァァァァッ……!」
魔獣は唸る。
防御に専念するしかなかった。
自分の赤い血で壁を作り、大量の魔法を何とか防いでいく。
魔獣は自分を囲うこの結界を破壊しなければいけない。しかし、そのためには強力な攻撃を発動させる準備が必要だった。
当然、今そんな余裕は無い。
魔獣の赤い体が徐々に削られていく。
攻撃によって体を纏う血が破壊され、獣の体が徐々に小さくなっていく。
「フォトンレーザー」
「……ッ!」
ニコラウスが強力な魔法を放つ。
光魔法の一種であり、一直線に伸びる光線による攻撃だった。
魔法自体の大きさはそれほどでもない。
しかし、絶対的な速さと圧倒的な威力がその魔法には込められていた。
ニコラウスが魔法を放った次の瞬間に、それは魔獣へと着弾する。
結界の壁を越え、五つに増幅された光線が魔獣を穿つ。
獣の体に五つの穴が空いた。
それは小さな穴だった。光線の大きさは小さかったため、獣の体を盛大に削り取ったわけではない。
しかし確かに光線魔法は魔獣の体を貫通した。
体の側面から体の反対側へ、五つの確かな傷跡を残した。
「おおおおおぉぉぉぉっ……!」
「流石は団長っ!」
場は沸き立つ。
それはアルバトロスの盗賊団がこの赤い魔獣に付けた大きな戦果だった。
この程度で目の前の魔獣が死ぬとは思っていない。
計り知れないほどの力を持つ化け物に致命的なダメージを与えたとは思えない。
しかし、その体を貫通するほどの傷は普通の獣だったら致命傷だった。
自分たちはこの超常的な怪物に、大きな傷を与えることが出来たのだ。
自分たちはこの魔獣と渡り合えている。
それが団員たちの戦意を昂揚させた。
「…………」
ニコラウスはすぐに次の攻撃の準備を始める。
団員たちも隙を作らず、ただひたすらに攻撃を続けていく。
流れは完全にアルバトロスの盗賊団へと向いていた。
「…………」
だが、それがいけなかった。
それが赤い魔獣に一つの決断をさせてしまった。
獣の眼が鋭くなる。
「ん……?」
赤い魔獣の体に変化があった。
団員たちが怪訝そうな声を上げる。
魔獣の体がぶくぶくと膨らんでいった。
まるで内側の肉がせり上がるかのように、体が大きくなっていく。その変化は急速で、一瞬の内に魔獣の大きさが元の体の四倍か五倍にまで膨らんでいく。
もう獣の形すら保持していない。
丸く、ぶくぶくと大きくなった血の肉が突然出来上がった。
「なん……」
なんだろう?
団員の誰かがそう言おうとして、それを言う間もなく事は起こった。
「爆体」
赤い魔獣だったものがそう小さく呟いた時だった。
血の肉の塊が、一気に爆ぜた。
けたたましい轟音を上げながら、赤い魔獣の体そのものが爆発をする。
青い結界は粉々に砕け散った。魔獣の自爆にも似た攻撃に耐えることは無く、崩壊して結界は崩れた。
爆発は扇状に被害を広げていく。
叡智の力を持った子供達が縛られている儀式場を壊さないように、一方向に破壊の波が拡散していく。
ほぼ半円の形をした広い扇状に、赤い魔獣の爆風と血の破片が飛び散った。
「おっ……」
盗賊団の団員たちがその爆発に呑み込まれる。
何かを言う間なんてなかった。断末魔を上げる暇もなく、一瞬の内に死んでいく。
扇状の爆発範囲に巻き込まれた団員たちは、溶けるかのようにしてその体を焼失していった。
「う、うわああああああぁぁぁぁぁっ……!?」
「な、なんだぁ!?」
ワンテンポ遅れて、生き残った団員たちが悲鳴を上げる。
爆発の衝撃の余波に耐えるため、身を屈めて体を強張らせる。
何が起こったのか理解できないまま、ただじっと余波が過ぎ去るまで耐え忍んでいた。
やがて爆発の余韻は収まり、団員たちが顔を上げる。
そこに信じられない光景があった。
「な……」
「仲間は……どこいった……?」
直接の爆発を受けてしまった半数の団員たち。
その姿が消え去っていた。
魔獣の爆発によって肉体が影も形もないほどに吹き飛ばされていた。
この爆発攻撃は魔獣にとってもリスクの高いものだった。
魔獣が元居た場所には、小さな赤い血の塊が存在している。
それは、魔獣の核であるクラッグがいる部分だった。
先程の爆発は自分の守りの部分を攻撃に使うものだった。血の鎧を自ら爆散させ、自分の持てるリソースを全て攻撃に回す。
そのため今、クラッグの防御力はとても低いものとなっていた。
この状態で総攻撃を喰らったら大きなダメージを受けてしまう。
少なくとも、自分の背中にいるエリーは守り切れない。殺されてしまうこととなるだろう。
もしこの爆発で結界を破壊できなかったら、あるいは敵の半数を殺せていなかったら、手痛いカウンターを喰らう結果となるはずだった。
守りが薄い状態で敵の攻撃を受けることとなる。
エリーの死は避けられないものとなっていただろう。
だが、クラッグは賭けに勝った。
結界を破壊し、団員の半数を殺しきることができた。
敵は味方の半数が一瞬で消えてしまったことに大きな動揺をしている。集団として統一した行動は取れず、すぐに反撃は来ない。
「ぐっ……!」
「だ、団長……! ご無事で!?」
集団を指揮するべきニコラウスは大きなダメージを負っていた。
先程の爆発に巻き込まれ、防御はしたが、体の半分が吹き飛んでしまっていた。
逆に言えば、団員の半数が何の抵抗も出来ずに一瞬で死んでしまった攻撃に、彼は体半分吹き飛んだだけで済むことが出来た。
すぐに体を再生させる。
体の下半分の肉を生やし、なんとか健全な状態に戻ろうとする。
しかし、それは魔獣も同じだった。
爆発によって飛び散った血を引き寄せて、元に戻す。
遠くまで吹き飛んだ血がびちゃびちゃと音を立てながら、自らの核の部分に集まっていく。
血の動きは高速で、先程まで小さかった核の部分がすぐに血の塊で大きくなっていく。
「ま、魔獣が再生しているぞ……!?」
「あの部分が核なのかっ!?」
「う、撃てー! 魔法を放てー!」
再生していく魔獣に対し団員たちが攻撃を放つが、散発的な攻撃では魔獣の再生を喰い止められない。
ニコラウスの全身が再生すると同時に、赤い魔獣も元の姿へと戻っていた。
「…………」
「…………」
お互い睨み合っている。
しかし、仮面の下で歯ぎしりをしているのはニコラウスの方だった。
赤い魔獣は爆発によって魔力を大きく消費した。
体を作る血の総量も少なくなっていて、一回りや二回りほど体が小さくなってしまっている。
しかし、アルバトロスの盗賊団の被害の方が大きかった。
団員の半分が死亡。そうなると、先程までの包囲攻撃が上手く機能しない。
遠距離攻撃の密度が低くなれば、それだけ赤い魔獣が自由に動くことが出来る。
形勢は大きく魔獣の方に傾いた。
「…………」
ニコラウスは悩む。
どうするか。この状況をどうやって乗り切るか。
このままでは敗北は必至。
何か手を講じないと、自分たちは皆殺しにされてしまう。
「…………」
……あの手を使うか?
ニコラウスの頭に一つの案が過ぎる。
それは予め用意しておいた策であった。しかし、切り札と呼べるような頼れるものでは決してない。
保険、念のため、一応、何があるか分からないから……。
その程度の代物だった。
それを使ってどうなるのか分からない。取り返しのつかないことになるかもしれない。
それでも現状を打破するため、ニコラウスはその策を使用することを決めた。
――だが、その時だった。
魔獣の様子がなにやらおかしくなった。
「……ッ!?」
魔獣がニコラウスから目を逸らし、どこか明後日の方向に首を向ける。
その顔にははっきりと驚愕の表情が張り付いていた。
目は見開かれ、獣の顔であるというのに動揺が見て取れる。
今、有利なのは明らかに魔獣の方である。
しかしその魔獣は歯ぎしりをして、何かに対して慌てながら危機感を露わにしていた。
「……?」
ニコラウスや盗賊団の団員たちは魔獣の見ている方向に目を向ける。
そこには、ロビンがいた。
「……あ……ぅあ」
ロビンの体は未だに縛られたままで、柱に括り付けられている。
だけど今、彼女は呻き声を漏らした。
これまで気絶していたというのに、声を発し始める。
「ああぁぁぁ……うああぁぁ……アアアアアァァァ!」
項垂れていた頭がびくんと持ち上がる。
その少女の顔は正気のものではなかった。目は白目を剥き、口からは血が垂れている。血管が浮き出て、酷い形相となっている。
意識はない。
しかし、彼女の中の力が勝手に暴れ出そうとしている。
そのような感じだった。
「アアアアアああああァァァぁぁぁァァあああああッ……!」
彼女が雄叫びを上げる。
そして、彼女の体から大きな火柱が上がった。
「……っ!?」
「な、なんだ!?」
その場にいる者は皆、困惑する。
その火柱は天高くどこまでもどこまでも立ち昇っている。
この闇の世界の中で、まるで天を射抜くかのように赤く熱く激しい炎が吹き荒れていた。
「…………」
その炎を見た者は皆、直感する。
あれはマズいものだ。
あれは良くないものだ。
闇を煮詰めたかのような悍ましい何かを感じる。
普通の炎ではない、何か、憎しみそのものが燃え上がっているかのような恐ろしいイメージを植え付けられる。
見ているだけで恐怖が染み込み、全身がガタガタと震えだしていた。
炎はロビンから噴き出しているが、その少女の体を焼いてはいない。
彼女の中の力が火柱となって、噴き出しているかのようだった。
「お、おい、あれ……」
「あ、あれは何だ……?」
火柱の中から一つの影が姿を現す。
それは焦げた人間だった。
燃え尽き、炭化した人間がその火柱の中に発生する。
全身は真っ黒。顔も肌も焼け焦げており、四肢の形が辛うじてその炭の塊を人間だと示している。
手には炭の剣を持っている。
今にもボロボロと崩れちてしまいそうな剣。そして、体。
しかし、尋常でないほどの存在感をはっきりと示していた。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァッ……!」
炭の人間が雄叫びを上げる。
『幽炎』。
クラッグだけが知っていた。
彼だけが知っている『幽炎』という存在が、ロビンの中より姿を現した。
ニコラウスの体の下半分が再生……
ふ、服ごと再生したと思って下さい……(汗)
シリアスシーンで下半身丸出しは良くないと思うの……




