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190話 アルフレードVSニコラウス

 アルフレードとニコラウスが大剣を振るう。

 一撃一撃に尋常じゃない程の力が込められており、二人の剣が風を裂き、炎を吹き飛ばしていく。


 血を分けた兄弟が本気で相手の命を消し去ろうと、全力の攻撃を繰り出していた。


 二人の武器はどちらも大剣だ。

 アルフレードの大剣には鍔と鍔に近い剣身の部分に厳かな装飾が施されている。


 一方、ニコラウスの大剣は無骨と言って良かった。飾り気は全くなく、長い長い年月を感じさせる小さな傷と汚れが無数に剣身に刻まれている。


 そしてその剣には今、赤い血がびっちょりとこびりついている。

 アルフレードの血ではない。ここに来るまでに切り刻んできたたくさんの被害者の返り血であった。


「はははっ! 楽しいな、アルよっ!」

「すぐに笑っていられなくしてやるっ!」


 二人はその大剣をまるで細剣を扱うように軽々しく振るう。

 その剣の大きさに似合わぬスピードで戦いが繰り広げられる。大剣の持つ驚異的な威力の攻撃が、軽い武器の様に千も万も凄まじい速度で打ち合わされる。


 一撃必殺にも似た斬撃が二人の間に無数に飛び交っていた。


「やっ……!」


 アルフレードが仕掛ける。

 神器の能力を解放させた。


 彼の神器の能力は、不可視で防御不能の刃を発生させることだ。

 剣を振る軌道上に不可視の刃を発生させ、実体の剣が敵に防がれても、その軌道上に出現する刃が敵を切り刻むというものだった。


 アルフレードが剣を振るう。

 ニコラウスがそれを自分の剣で防ぐ。


 必殺の形が出来上がっていた。


「おっと、危ない危ない……」

「ちっ」


 しかし、その不可視の刃をニコラウスが躱す。

 実体の剣を防御しつつ、自分の体を大きく仰け反らせ、軌道上に出現する不可視の刃をしっかりと回避していた。


 アルフレードは舌打ちをする。

 しかし、落胆は少なかった。


 アルフレードはこの神器の能力を一般には公開していない。

 能力を使用する時もギンとして活動している時だけにしており、危機的な状況に追い詰められたとき以外使わないようにしていた。


 しかし、全く使用していないわけじゃない。

 自分の神器の能力が敵に知られている可能性は十分にあり、だから彼は冷静を保てていた。


 ニコラウスはアルフレードの必殺技を回避したが、身を大きく仰け反らせたことによって体勢が崩れている。

 そこにアルフレードが追い打ちをかける。


「ふふふ、容赦がない」

「だぁっ!」

「ではこういうのはどうだ?」


 アルフレードの追撃を大きく飛び退いて躱したニコラウスは、手から鞭のようにしなる黒い刃を出現させた。

 鞭のような三本の刃がアルフレードに襲い掛かる。


「なんだ?」


 見たことのない攻撃に眉を顰めるも、アルフレードは冷静にその攻撃を防ぎきる。

 多方向から襲い掛かってくる鞭の刃を全て吹き飛ばした。


「……あ?」


 しかし、すぐに違和感に気付く。

 自分の中の魔力の流れがぐちゃぐちゃにされる感覚があった。足に力が入らなくなり、鼻から自然と血が垂れだす。


 なんだろう? 毒?

 でも先程の黒い鞭は全て防ぎ切った。自分の体に一つも傷は付いてなく、毒が入り込む余地が無い。


 アルフレードが困惑する。


「まぁ、いい……」


 考えるより前に行動をする。

 ニコラウスは大きく飛び退いたことによって、まだ体が空中にあった。その着地に合わせて、アルフレードが中距離用の電撃魔法を放つ。


 基本に忠実な、避け難い攻撃を仕掛けた。


「え!?」


 しかし、ニコラウスの姿が消えた。

 着地する寸前、電撃の魔法がぶつかる一瞬前に彼の姿がその場から忽然と消えた。


 電撃の魔法が何もない空を滑る。


「……っ!?」

「驚いたかっ!?」


 すぐにアルフレードはニコラウスの姿を見つける。

 なんと、そこは彼の背後だった。


 自分のすぐ後ろに立つニコラウスの姿に、アルフレードは動揺を隠せなかった。


 瞬間移動。

 彼はすぐに理解する。


 ニコラウスは瞬間移動を使って、いとも易々自分の背後に回り込んでいた。


 ニコラウスが剣を振るう。

 アルフレードが歯を食い縛りながら、無理矢理体を捻ってその剣を回避しようとする。


 しかし躱しきれない。

 ニコラウスの剣がアルフレードの背中を傷付け、少なくない量の血が飛び散る。


「くそっ……!」


 カウンターとしてアルフレードが強引に攻撃に転じる。

 防御ではなく攻撃を仕掛けた方が最善だと考えた。


 神器の能力を発動させながらアルフレードが剣を振るう。

 ニコラウスがそれを防ぐ。

 しかし、不可視の刃が彼に襲い掛かる。


「なに?」


 しかし、またアルフレードは驚かされることとなる。

 剣の軌道上にはニコラウスの首があった。不可視の刃は彼の首を断ち切るはずだった。


 しかし、ニコラウスの首にはいつの間にか黒い鱗が纏っていた。

 その黒い鱗がアルフレードの神器の攻撃を防ぎきる。


 結局無傷。

 ニコラウスは難なく敵のカウンターを防ぎ切った。


 自分の攻撃を防ぎきる程の防御力を持った黒い鱗。

 黒竜の鱗。

 アルフレードは直感した。


「残念」

「……っ!」


 ニコラウスは空いた手で爆発魔法を放つ。

 崩れ切った態勢のアルフレードにその攻撃を防ぐ術はなく、直撃を受けて彼の体は吹き飛ばされた。


「ぐぇっ!」


 轟音と共に宙を舞い、石造りの地面に叩きつけられてごろごろと転がる。


「くそっ……」

「ふはははは! まだ死んで無いとは流石だな、アルよ! 我との戦いがこれほど長くもったのはお前が初めてだ!」

「…………」


 ニコラウスは胸を張って大仰に笑う。

 アルフレードはムッとした顔をしながら頭を上げた。すぐに起き上がり、服についた埃を払う。

 彼の体はあちこち火傷を負ってしまっていた。


「……兄様はびっくり人間博覧会かよ」

「そんなこと言われたのも初めてだ」


 ニコラウスから妙な術が次々出てくることに、アルフレードは理不尽を感じた。

 多分もう兄様は人間とは言い難い別のものになっている。そんな風に思った。


「さて、どうする、アル? 流石のお前でも我との間には埋め難い差があるようだが?」

「…………」

「……ん?」


 ニコラウスの眉がぴくりと動く。

 煽る様に弟を挑発するも、そのアルフレードの様子がおかしいことに彼は気が付く。


 アルフレードは体を力ませていた。

 息を止め、身を強張らせ、何かをしている。力を溜めているのでもない、何かの術の準備をしているのでもない。


 何をしているのか?

 ニコラウスが疑問を覚えていると、すぐに答えが出た。


 アルフレードが血を吐いた。

 大量の血が口から噴き出ていく。


「……!」

「…………」


 ニコラウスが驚く。

 その血の吐き方は、堪え切れず血を吐き出すような普通の吐血とは異なっていた。

 アルフレードが自らの意思で、体内の血液をコントロールし、苦しそうな様子も無く血を体外に吐き出したのだ。


「アル、お前『汚染』の力を操作して、血と共に吐き出したのか?」

「『汚染』? あぁ、この毒みたいなやつのことか」


 先程のニコラウスが使った黒い鞭の刃には『汚染』の力が込められていた。

 その刃の攻撃を防ぐだけで、武器を介して体内の魔力の流れをぐちゃぐちゃに乱されるというものだった。


 アルフレードはその『汚染』の力を外に押し出すため、血を吐いたのだった。


「……そんなやり方でこの力を克服する奴初めて見たぞ?」

「そう? 知らんけど」


 『汚染』の力は他者が外から被害者の魔力の流れをコントロールしてやらないと解毒できないと、ニコラウスは今までそう思っていたのだが、アルフレードは一人で『汚染』の力を克服した。


 アルフレードが袖で血の付いた口を拭う。

 その目に宿る戦意は全く衰えていなかった。


「だが何度も何度もその方法をやったら出血多量だぞ?」

「試してみろよ」

「はっ!」


 ニコラウスが『汚染』の黒い刃を再び出現させ、それと同時にアルフレードが前に出る。

 防御をしても深刻なダメージを受けてしまう汚染の刃が彼に襲い掛かる。


「むっ!」


 しかし、アルフレードは防御をしなかった。

 防御もしないし、掠らせもしない。


 アルフレードはただ単純に、汚染の刃を全て躱しきっていた。

 分かり易い解決策ではあるが、簡単なことではない。汚染の刃の動きはとても早く、鞭のようにしなり複雑な動きをしている。


 しかしそれでも、彼は黒い刃の動きを完全に見切っていた。


「届いたぞ!」

「……っ!」


 刃を回避しながらアルフレードは高速で動き、敵との距離を詰める。

 もう鞭のような武器が活きるような距離間じゃなくなる。アルフレードは勢いそのままに剣を縦に振り下ろす。


「ふん」


 しかし、ニコラウスは冷静に対処をする。

 瞬間移動を使い、アルフレードの側面に移動する。剣を振り切ったアルフレードに一撃を加えようとした。


「見えてるぞ!」

「なにっ」


 だが、驚かされたのはニコラウスの方だった。

 アルフレードは一瞬も彼の姿を見失っていなかった。剣の勢いを殺さないまま、その軌道を強引に変え、縦振りから横薙ぎへ移行しつつ、ニコラウスに攻撃を加えた。


 アルフレードは自分の周囲に感知魔法を張っていた。

 その感知魔法でニコラウスの瞬間移動先を把握しつつ、人間の限界を優に超えた反射神経を用い、無理矢理瞬間移動の術を打ち破っていた。


 アルフレードの一撃を何とか防御するものの、ニコラウスの体はくの字に折れ曲がった。


 このチャンスを逃さない。

 アルフレードが追撃を加える。


「ふん」


 そこでニコラウスの取った行動は『黒竜化』。

 超硬度の黒竜の鱗を腕に纏わせ、アルフレードの一撃を防ごうとした。


「舐めるなあああああああぁぁぁぁぁっ……!」

「なっ……!?」


 しかし、アルフレードはそれを裂いた。

 全身に力を込めた渾身の一撃。何の小細工もない全力の上段斬りをぶちかます。


 広い世界の中でも最硬と言われる黒竜の鱗。

 人の力では絶対に打ち破れないとされている最強の守り。


 そんな防御を、アルフレードは小細工の無い全身全霊の一撃によって打ち破った。


 アルフレードの一撃は人知を超えた怪物である黒竜の鱗を砕き、肉を裂き、骨を断ち、ニコラウスの前腕を両断した。


「くっ……!」


 ニコラウスが顔を歪めながら後ろに下がる。

 彼の次の行動は『再生』。今斬られた腕を高速で再生させようとする。


「遅いっ!」

「……!」


 だが、アルフレードはその隙すら許さない。

 再生する腕より速く剣を振る。再生しようとしていた腕の断面ごとニコラウスの上腕を斬り飛ばした。


 『再生』の能力すら無効化していく。


「終わりだ」


 極めて無駄なく、最速で、アルフレードはとどめを刺しにかかる。

 一切の遊び無く、アルフレードはニコラウスの袈裟を斬った。


「…………」

「…………」


 ニコラウスの体が大きく傷付く。

 体が大きく抉れ、大量の血が噴き出す。常人ならば確実に致命傷。絶対に即死してしまうような傷が刻まれる。


 人の域を超えた領域外でも深い傷だ。

 死なないまでも、次の行動は確実に鈍る。


 アルフレードは油断なく追撃し、ニコラウスの首を刈り取ろうとした。


「ん……?」


 そこで、異常に気付く。

 ニコラウスの傷の奥から光が漏れ始めた。


 袈裟の傷から血と共に眩いばかりの光が溢れ出てくる。心なしか、ニコラウスの体も膨らんできているように感じた。


「なっ……!?」

「…………」


 アルフレードはぎょっとする。

 しかし、気付いた時にはもう彼を止められなくなっていた。


 ――ニコラウスは『自爆』をした。


 彼の体が爆発し、肉体が四散する。

 轟音を響かせながらアルフレードの体を巻き込み、華やかな大きな爆炎がその場に立ち昇ったのだった。


『爆発四散』って単語を使おうと思ったけど、これがニンジャ用語だって気付いて何とか思いとどまれた。

ヒヤリ! ハット!


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