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150話 また、友達になっていた

【エリー視点】


 黒い羽根が屋敷の全てを破壊していく。

 バーハルヴァントとの戦いによって半壊状態になっていたファイファール家の屋敷が完全に崩壊していく。


 フィフィーから生えた翼から黒い羽根が大量に飛び散り、周囲一帯を覆い尽くしてしまう。羽根が屋敷の壁や崩れた瓦礫に触れると、その部分が黒い波動を放ちながら消滅してしまう。


「のわあああああぁぁぁぁぁっ……!?」


 勿論そんな場所にいて、僕達だって無事で済む筈がない。

 僕は全力でこの場を離脱しようとした。


 そう、僕は(・・)だ。

 僕とニコラウス兄様を除いた全員は現在絶賛気絶中だ。


 僕は急いで走ってシータ、ディーズ、ナディアさん、ヴェールさんの皆を回収し、右手にディーズ、両脇にナディアさんとヴェールさん、口にシータを抱え、フィフィーの羽根が降下しきる前にこの屋敷を脱出した。


 しんどいわ。


 そしてファイファール家の屋敷は完全消滅した。

 崩壊するにしても積まれた瓦礫の量があまりに少なく、一目で異常と分かる形でファイファール家の屋敷はこの土地から姿を消した。


 恐らく、屋敷の瓦礫はフィフィーの黒い羽根によってこの世から消滅したのだろう。


「怖ええええぇぇぇぇっ……!」


 間一髪僕達はここから逃れることが出来た。

 右の袖がフィフィーの羽根を掠ったようで、消滅してしまっている。


 やばいわ。

 こんなん喰らったらおしまいだわ。


 シータも服が羽根を掠ってしまったようで、ちょっとあられもない姿となってしまっている。

 ごめん、シータ。

 でも頑張って口に抱えて脱出したのだから、感謝もして欲しい所である。


「…………」


 辺りを見渡す。

 もうニコラウス兄様の姿はどこにもない。

 王都に帰るとか言っていた。もうこの都市を離れるところなのかもしれない。


 上空にはフィフィーが飛んでいる。

 意識は無い様で、白目を剥いており、黒い翼に振り回されるようにふらりふらりと空に浮かんでいる。


 こっちを見ていない。追撃も無い。

 僕達の事なんて眼中にないかのようだった。


「起きろぉっ! シータぁぁぁっ!」

「うぶぶぶぶぶっ……!?」


 回復魔法を仕込んだ手でシータの頬を往復ビンタする。

 変な声を上げながらシータの目がぱちりと覚める。


 根性注入である。


「……う、うーん? ……あぁ……も、もうちょっと優しく起こしてくれても……」

「ごめん、これしか手はなくて」

「……あんまり悪いと思ってないでしょ」

「う、うーん……」


 僕達の騒ぎに気付いたのか、つられるようにしてディーズも目を覚まし始める。

 次はディーズの頬を引っ叩こうとしていた所だから、運の良い奴である。


「って、うわぁっ……!? なんであたしの服こんなにはだけてるのっ……!?」

「あんまり時間ないみたいだから、早急に状況確認したいっ!」

「うっ、うううぅぅぅっ……!」


 服が一部消滅してしまったシータは戸惑いを見せるが、急かすと仕方がなさそうに自分の腕で胸元を隠しながら僕との会話に応じようとしてくれる。


 頬を赤らめ恥ずかしそうにしている。エロい。


「……で? 実際の所どうなの? 本当にフィフィーはあの村のロビンなの?」

「……うん、そうだよ。正真正銘、フィフィーの正体はロビンなの」

「…………」


 僕とディーズでナディアさんとヴェールさんに回復魔法を掛けながら状況確認を始める。

 僕の問いに、シータはあっさりと肯定を返した。


 ナディアさんとヴェールさんはニコラウスに袈裟を斬られ、重体である。

 ……いや、本当なら普通に死んでいる筈の傷なのだが、やはり領域外というの連中はみんなおかしな不死身性を持っている。


 2人は何とか命を保っていて、今僕達が手当てをしている。


「……でも、フィフィーはリックさんと幼馴染だよ? イエロークリストファル領の貧民街で一緒に住んでて、一緒に暮らしてたって言うけど……」

「あれは嘘」

「嘘……?」


 シータは言う。


「フィフィーは百足に記憶の改ざんを受けているの。今フィフィーが覚えている10歳より前の思い出は全部真っ赤な嘘」

「……リックは本当は私たちと同じ村の出身。フィフィーの記憶の改ざんに合わせて口裏を合わせているだけ」

「……うそ」


 思わず頭を抱えてしまう。

 根底にあった情報がばらばらと崩れ落ちてしまうようだった。


 ……そう言えば、フィフィーとリックさんの身の上話を聞いていた時、少し妙な会話があった。

 ギルヴィアの宿場町での会話だ。


『わたしは親に捨てられて……あれ? リックはどうだっけ?』

『ボクの親は死んだんだよ』

『そっか、そうだったねぇ』


 あの時は特に何も感じなかったけれど、あれはフィフィーの記憶が曖昧になっていたのではないか?

 親の顔を覚えていないとかなら分かるけど、幼馴染の親の生死すらよく把握していないなんてこと、本当にあるか?


 そこは2人にとっての原点。大事な情報の筈だった。


 ……フィフィーの記憶は弄られている。

 そしてそれをリックさんがフォローしていた。


「リックさんの百足での本当の任務はロビンをフィフィーとして生かすこと。ロビンは当時から年の割に強くて、表の世界に出たら否応なく目立ってしまうのは分かっていた。そのフォローがリックさんの役目なの」

「……当時、リックはもう既に百足のメンバーとして働いていた。だから、エリーが遊びに来ていた時、リックはあの村にいなかった」

「そう……なのか……」


 くらくらする。

 何もかもが嘘で塗り固められているような感覚を覚える。


 一体何を信じたらいいのか、よく分からなくなる。


「そ、そうか……! 僕はロビンを男の子だと思ってた! そういう格好をしていたから! そしてそれを誰からも訂正されなかった!」

「……あー」

「百足の人達がロビンの性別を偽らせていたんだ! いずれロビンが外に出る事になってしまった時、敵の脅威の目を誤魔化す為に!」


 もし万が一、敵があの村を探し当て、ロビンの正体を探り当ててしまった時、百足はロビンの格好を普通の女の子の姿に戻して外に放つ。

 そうすれば村の中での男性姿のロビンと、外に出された女性姿のフィフィーの繋がりは薄くなる。


 それに、ロビンと言う名前は男性名としても女性名としても一般的に使われている。

 予め仕込まれていた策略なのだ。


「あーっと……」

「え、えっと……」


 そしてそれはどうやら上手くいっていた様だ。

 ニコラウス兄様はどうやらロビンとフィフィーの事を今の今まで把握出来ていなかったようだった。


 性別の変更は有用だった。


 何もかもが陰謀めいていたのだっ!


「……何かすごく納得しているところ、ごめん、エリー」

「ん?」

「ロビンが男装してたのは、あれただの本人の趣味……」

「趣味っ!?」


 はぁっ……!?

 色々考えていた所に、雑な理由が出てきたっ……!?


「いやさ……当時ロビンはね、男らしくなりたいっ! ってめっちゃ言っててね……」

「女の子扱いすると、ロビン怒る……」

「あの頃は親分って呼んでたねぇ」

「エリーがロビンを男だって信じ切ってるの、皆で苦笑いしながら見てた……」

「ちょっと待って!?」


 なにそれっ!?

 ロビンとフィフィーが繋がらない一番の理由の所が凄くあほらしいんだけど……!?


 そう言えば確かにロビンは度々、『男らしく強くなって、冒険者になりたいっ!』って言ってた。

『男らしく』って言うのは、自分が女の子であることの裏返しの言葉だったのか……!


 分かるか! そんなのっ……!


「……でも村の大人の偉い人達は、さっきエリーが言った様な事を考えていたみたいだよ?」

「ロビンが勝手に男の子の格好し始めて……この嘘がいつかなんかの役に立つかもしれないし、どうせだったらこのままでいさせとこ、って大人たち言ってた……」

「くそっ……!」


 まんまとその嘘に嵌まりましたー!

 くっそ、皆さん総じて僕を騙していたとは……。


「後は……えぇっと、えっと……ロビンの髪は焦げ茶色だった筈だけど……いや、それは魔力の変質によるものなんだよね?」

「うん、そう聞いてる」


 さっきフィフィーは力の解放と共に髪の色が金髪から焦げ茶色に変化していた。

 フィフィーの魔力が変質して髪の色に影響があったのだ。


「そっか……フィフィーが……」

「……うん」


 項垂れる。

 ここまで来たら、もう信じる他ない。


 7年前のロビンはフィフィーだ。


「僕はまた……ロビンと友達になっていた……」

「うん……」


 僕の言葉にシータとディーズが小さく頷く。

 分かった。よく分かった……。


 ずっと探していた友達は、すぐ傍にいた。


「あ……」


 不意にシータが上空を見上げる。

 僕達もつられて空を見ると、空に浮かぶフィフィーがゆらりゆらりと移動を開始していた。


 ここは都市部の真ん中の領主の屋敷跡だ。

 どの方向に向かっても人の住む街に辿り着いてしまう。


「ァァァァ……ァァァアアアアアッ……!」


 フィフィーが甲高い声を上げ始める。

 およそ人の声には聞こえないような、温かみの失った声だ。喉から音が出ているのかすら疑わしい、高く恐ろしい音だった。


 それはまるで悪魔とか、天使とかの叫び声の様だった。


「アアアアアアァァァァァァァッ……!」

「げっ……!?」

「うそっ!?」


 そしてフィフィーは黒い羽根を撒き散らしてしまう。

 多くの店が立ち並ぶ街の中にその羽根が降り注ぎ、その街の一角を消滅させていく。


 黒い羽根は雨の様に降り注ぎ、力強く立派な建物が跡形もなく削り取られていく。黒い波動を響かせながら、打撃音も爆発音も響かない圧倒的な破壊がその大通りを蹂躙した。


「うぐぐっ……!」

「こ、これはっ……!」


 冷や汗がどばっと流れ出る。


 周囲の空気まで消滅させているのか、風が破壊地点の中心に向かって吹き荒れる。

 普通なら爆発とかの破壊が起こると、その中心部から外に向かって強風が吹くのだが、今はそれとは逆であった。


「ひ、避難は済んでいるんだよねっ……!? 街の人達はあそこには誰もいないんだよねっ……!?」

「う、うう、うんっ……! その筈っ! 百足による避難指示はドラゴンの群れが押し寄せた場所と、この屋敷の周囲から優先的に始めてるから、もうあそこには誰もいない筈っ……! 筈っ……!」

「ぐぅっ……!」


 歯ぎしりをする。

 多分大丈夫。人の被害は出ていない。


 でもフィフィーは暴走状態だ。ここから次、どこに向かうのか分からない。

 この屋敷跡から離れれば離れる程、避難がまだ済んでいない人が多くなっていくのだろう。


「ど、どうしようっ! エリー……!?」

「…………」


 分かる。

 分かっている。


 フィフィーに無辜の民を殺させる訳にはいかない。


「ん……?」


 その時、不意に見つける。

 この敷地の片隅に、フィフィーの杖が落ちていた。彼女はどうやら自分の杖すら落としてしまったようだ。


「…………」


 それを拾い上げ、じっと見る。


「ロビンは、フィフィーだ……」

「うん」

「どっちも僕の大切な友達だ」


 その杖を僕の腰に括り付ける。

 この杖を無事にフィフィーに返す為に。


「どっちも救えるというのなら、是非もない」


 空を見上げる。

 僕の友達が苦しそうな声を上げながら、街を破壊していく。意識を失い、暴走を続けている。


 彼女を救う。

 それが僕の7年間の目標だった。


「止めるよ、僕達で!」

「……うん!」

「おっけー」


 僕とシータとディーズで頷き合う。

 あの時遊んだ村のメンバーで、旧友を救い上げる。


 今日最後の戦いが始まろうとしていた。


本当に2章最後のバトルです!

長いわっ……!(逆ギレ)

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