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132話 旧友

【エリー視点】


「うわああぁぁぁ……! シータ! ディーズ! い、生きてたんだねぇっ……! ほんとっ……! ほんと良かったあああぁぁっ……!」

「あはは、エリー、お久しぶりっ……!」

「おひさー、エリー……」


 僕は死んでいたと思っていた旧友に熱烈なハグをしていた。


 竜との戦闘地点から少し離れて、僕たちは少し落ち着いた場所に移動していた。今目の前の2人から話を聞きたいからだった。


 『ジャセスの百足』の構成員、シータとディーズ。

 濃い色のフードコートを身に纏い、先程までは仮面で顔も完全に隠していた女性2人である。


 そして僕としてはとても思い出深い人物だ。

 7年前、ロビンの村は『アルバトロスの盗賊団』の襲撃によって滅びてしまった。村は燃やされ、その場には大量の死体が転がっていた。


 しかし、生存者がいたらしい。

 それが目の前のシータとディーズだった。


 7年前の僕の友達だった。


「うおおおぉぉぉっ……! 元気してたっ!? シータ! ディーズ!」

「あはは、ちょっと落ち着いてよ、エリー」

「エリー、テンション高い……」


 テンションも上がるというものだ。


 シータは緑色の短髪をしていて、昔から隠密行動が得意な子だった。かくれんぼが得意で、いつもいつも彼女だけは見つからなかった。

 僕が村で『百足』の構成員に押さえつけられた時も、その様子を影からばっちり覗き見ていたらしい。

 天性のニンジャの子だ。


 ディーズは青髪ロングの前髪ぱっつんの子で、眠そうな声を上げ、口数が少ない子だ。遊びの途中でもいきなり眠りだすような子だった。


 そんな2人と生きてまた再会できた。

 こんなに嬉しい事は無い。


「エリー、エリー、そろそろわたしにも事情を聞かせてよ」

「あ、ごめん、フィフィー。蚊帳の外だったね」


 フィフィーが僕の裾をくいっと引っ張る。

 ちょっと懐かしさを堪能し過ぎた。


「フィフィー、この2人はシータとディーズと言ってね、ロビンの村の話はしたよね? その時の村の生き残りなの」

「あぁ、なるほど。ロビンの村……。だから『百足』なんだね」


 流石はフィフィー。たったこれだけの説明でほぼ全てを理解してくれたらしい。


「初めまして、シータさん、ディーズさん。わたしは冒険者のフィフィーと言います。是非とも宜しくお願いします」

「あ、あはは……。だ、大丈夫、フィフィーの自己紹介は必要ないよ。なんたって世界的に有名なS級魔導士だもん」

「…………」

「流石フィフィー。有名人」


 有名人はこういう所で説明を省けるから便利だ。


「あたしはシータ。よろしくね、フィフィー! ぜひ敬語なしで気軽に接して欲しいな!」

「そう? じゃあ、よろしくね、シータ」


 そう言って2人は握手を交わす。シータは私と同い年だから、フィフィーとも同い年だ。仲良くなれるといいな。


「…………」

「……ディーズ、自己紹介」

「ん? 必要?」

「必要だよ」


 シータと僕でツッコミをする。相変わらずマイペースだ、ディーズ。


「……私、ディーズ。よろしく、フィフィー」

「うん、よろしくね、ディーズ」


 ディーズとフィフィーも握手をする。


「2人ともあまり変わってないね! 安心した!」

「エリーは口調が結構変わったんじゃない? 昔はお嬢様みたいなですます口調だったでしょ? 一人称も『僕』に変わってるし」

「あ、あはは……。そ、そういえばそうだったねー……」


 シータの言葉に少しぎくりとする。

 でも『お嬢様みたい』と言うって事は、僕の正体が第四王女(イリス)だって事は伝わってないっぽい?


 フィフィーがフォローの話題転換をしてくれる。


「え、えぇっと……あと自己紹介が必要なのは……あ、そこで気絶してるのがわたしのパートナーのリック……って、あー、リックの紹介は必要ないっけ?」

「うん、リックさんはあたし達の上司みたいなものだからさ」


 シータは苦笑いをしながら答える。

 リックさんは正式な『百足』の一員だ。彼女たちに説明は必要ないだろう。


「わらわの自己紹介は必要かの?」

「メルセデスはいいよ」

「残念じゃのう」


 くすくすと笑いながら一緒にいるメルセデスはそう言う。


「目覚めて良かったよ、メルセデス。いや、メリューって呼んだ方がいいかな?」

「そこまでバレてるとはのぅ。わらわ達が残した暗号も解いたらしいのぅ?」

「うん……」

「それは良かった」


 メルセデスはつい昨日魔力欠乏症の昏倒状態から目が覚めたらしい。それですぐに戦場に出なければいけないのだから、大変だ。


「『百足』から一通りの説明は聞いておる。今は『百足』に味方して動いておる」

「昨日の今日で『百足』に味方することに決めたの? 大丈夫? なんか脅されてない?」

「わはは、まぁ、ちょっと色々あっての」


 そう言ってメルセデスは穏やかにほほ笑んだ。そこに苦しそうな表情はなく、どうやら無理矢理従わされてる訳ではないようだ。

 しかし、色々って何だろう……?


「ちょっとちょっと、エリー。『百足』はあたし達の所属組織なんだからさ、お手柔らかに頼むよ?」

「ご、ごめんごめん、シータ。『百足』って僕の中ではまだ微妙に怪しげな組織だからさ」

「まぁ、気持ちは分かるけどねぇ」


 僕とシータでくすくすと笑う。


「……にしても『百足』が来るのが早かったね? コンとアリア様はそんなに早くギルヴィアの宿場町に辿り着いて救援を呼べたの?」

「いや、『百足』は元々この都市の周辺に兵力を集めていたの。だから早い段階でコンさんとアリアさんも保護出来たみたいだよ」

「そっか。良かった……」


 ほっとする。コンとアリア様は無事なようだ。


「……でも、なんで『百足』はこの都市に兵力を集めてたの? 何か情報でもあったの?」

「いや……、噂によると団長の勘だって……」

「勘、やべぇ……」


 絶対ローエンブランドンさんとは敵対しないようにしよ。


 そんな中で、メルセデスが戦闘音のする方向に顔を向け、少し寂しそうな、悲しそうな顔をした。


「……この都市はわらわにとっても思い出深い。あの悪夢の再来の様な出来事があれば、尚更。この騒動、なんとしても収束させたい」

「…………」

「……うん、そうだね。そうしよう」


 メルセデスはこの都市でメリューと名乗り、ここに住んでいた。

 7年前の竜の襲撃事件はメリューを標的にしたものであるらしく、この竜の集団に人一倍思う所があるのだろう。


 彼女の目は静かに燃えていた。


「……でも、ごめん。本題に入る前に1つだけ、最後に1つだけ聞いていいかな?」

「なに? エリー?」


 これ以上思い出話を長引かせてはいけないと思うが、それは僕にとってどうしても聞いておきたいことだった。


「7年前の、ロビンたちの村での生き残りって、2人だけ……?」

「…………」


 そう聞くと、シータとディーズの体が少し強張るのが見て取れた。2人は直接自分の村が壊されたのだ。今でも思う所があるのだろう。


「……あたしとディーズと、あとエフトと……」

「エフト……」


 エフト。シータやディーズと同じように、僕の昔の友達だった少年だ。


「それと……?」

「あと……、ごめん。これ以上は禁則事項。口外は許されてないや……」

「そっか……」


 そう言ってシータは口を噤んだ。

 禁則事項の生存者……。つまりはロビン関係の事だろう。


 ロビンは村でも特別な存在だったらしい。『叡智の王』とか、何とか言われているのを聞いたことがある。

 生きているか死んでいるかすらシータたちは言えないらしい。いや、前に団長のローエンブランドンさんと話している時は生きているらしい口ぶりをしていたけど。


 もしかしたらロビンだけでなく、他にも何人か生存を話せない人物がいるかもしれない。

 でも……、


「……少ないね」

「……うん、とても少なかった……」


 そう言って、僕たちは少し顔を俯かせた。

 あの村には数十人の人がいた。


 それがたった数人。生存者は数人だ。


「…………」


 フィフィーが心配そうな目をこちらに向けているのが分かる。

 ……気持ちを切り替えていかないといけない。


「……ごめん、話の腰を折って。これからの話をしよう」

「うん……、そうだね」


 気を引き締める。大事なのは今だ。ここで気を緩めていては更に縁のある人が死んでしまうかもしれないのだ。


「まずわらわじゃな。わらわの役割は戦闘不能の者を安全地帯まで運び、その後竜との戦闘を支援する役目じゃ。今回は……そこのリックかのぅ?」

「うん、リックはもう気絶してるから、どうか後ろに下がらせて欲しいな」


 リックさんはもう十分に頑張った。頑張り過ぎた感じもある。今日は撤退だ。

 ちょっと信じられないけど、彼は腹に穴が空いたままなのだ。


「……本当はわらわも7年前と今回の事件の黒幕をボコボコにしてやりたい所じゃけれどな、わらわはまだ本調子とは程遠い。サポートに徹しさせて貰うのじゃ」

「うん、それが良いよ」


 メルセデスに無理はして欲しくなかった。


「で、あたしとディーズは敵の本拠地の偵察。敵の配置、今の敵の拠点の状況などを調査して報告するのが仕事だよ」

「なるほど、シータかくれんぼ得意だったもんね。今は諜報活動がメインの仕事なの?」

「まーね」


 シータが指でブイサインを作る。恐らくそれが天職だろう。

 ……ところでさっきからディーズがほとんど喋っていないのだけれど……あ、半分寝てる。


「じゃあ僕は2人のサポートだね。さっきまでファイファール家の屋敷の中にいたから、少しは案内できると思う」

「ありがとう、エリー。内情を知っている人がいると大助かりだよ。それにあたし達どっちもA級だから、S級がいるとありがたい」


 僕の仕事は先程までの体験を踏まえ、彼女たちの偵察をサポートすることだ。実体験を持って屋敷内の案内が出来るのだから、これは偵察としてかなりのアドバンテージとなるだろう。


 それに僕自身もある程度なら隠密魔法を使うことが出来る。隠密行動は冒険者のたしなみだ、って森の中や洞窟の中を音を立てず行動する訓練をクラッグに仕込まれたものだ。


「ちょ、ちょっと! エリーはここで下がりなって……!」

「フィフィー」


 しかし、そこで僕に制止を掛けたのはフィフィーだった。

 ……何が言いたいのかは大体分かる。つまり、この国の王女という立場の者が敵の本拠地にまた乗り込んではいけない、という事だろう。


「フィフィー、そういう段階はもうとっくに越えているから」

「エリー……」


 でも、もうお人形の様なお姫様1人が残っていたところでどうしようもない。この国の王様は捕らえられ、この国はもう既に負けているのだ。


 それよりも今は戦える人手の方がよっぽど貴重だ。なんたって僕はもう既にこの国を代表出来るほどの戦力、S級の冒険者だ。この大国にだって数えるほどしかいない戦力だ。

 ここで逃げてはS級の責任が果たせない。


「今あり得る逆転の可能性は、『百足』の組織が敵の本拠地を破り、国王を奪還する事。それに全力を費やさないといけない」

「エリー……」

「それに、今回の行動はあくまで偵察だよね? 危険度はあまり高くない筈。そうだよね、シータ」

「え? あ、うん。生きて帰れなかったら偵察大失格だからね。危険が無いというより、危険なところまでは踏み込まないのがとっても大事だよ」


 シータとディーズは僕が王女だという事を知らないみたいで、どうしてフィフィーが渋っているのか少し疑問に感じ、小さく首をひねっていた。


 そこまでの説得を聞いて、フィフィーはう゛ーと小さく唸り、そして言った。


「わ、分かったよ! じゃあわたしも精一杯サポートするから! 絶対危険な真似は避けてよね、エリー」

「了解、フィフィー」

「え……?」


 何とかフィフィーの同意を得られた、と思ったらどういう訳か、今度は隣にいたシータが驚いたような顔をしてフィフィーの事を見た。

 ……どうしたのだろう?


「え……? フィ、フィフィーも偵察に来るつもりなの……?」

「……? うん、もちろんそのつもりだけど、ダメなの……? シータ?」

「フィ、フィフィーは戻った方がいいんじゃないのかなぁ……?」


 ……?

 何故かシータはフィフィーの同行を拒否しようとしていた。


「どうして? わたしも力になれると思うけど……?」

「シータ……、フィフィーはこの国最高峰のS級冒険者だよ? 魔術に優れていて、かなり精度の高い隠密魔法も使えるから、絶対戦力になるよ?」

「あ、いや……、エリー、そうなんだけど……。あまり人数増やしていくと偵察の意味が無いからさ……」


 シータはどもりながら渋い顔して答える。

 確かに人数が増えると偵察に不利なのは道理だ。でも、それ以上にフィフィーを仲間に加えることの方が大きなメリットになると思うんだけど……?


「……まぁ、今回の作戦のリーダーはシータみたいだから、リーダーの言う事には従うけど……、でもわたしは多分かなりの力になれると思うよ?」

「う、うーん……。そうなんだけど……、それは分かるんだけど……」


 腕組みをしてまでシータは何か考え事をしている。一体何がそこまでシータを渋らせているのだろう?


「……シータ」

「ディーズ?」


 ここにきてディーズが口を開いた。さっきからずっと喋ってなくて眠そうにしていたのに。


「フィフィーはS級冒険者。戦力になるのは疑いようもない。説得できる道理も根拠もない」

「ディーズ……」


 ディーズの言葉にシータは少し逡巡する。

 そして、大きくこくりと頷いた。


「……分かったよ。連携訓練を行ってない人と行くのは不安もあるけれど、頼りにしているよ、フィフィー」

「お任せを。期待は裏切らせないよ、シータ」

「……って言っても、僕だって2人と連携訓練なんて積んでないじゃないか」

「ほ、ほら、エリーは昔馴染みだから……」


 僕の言葉にシータは困ったように笑った。

 昔一緒に食糧集めをしたのは過酷な経験だが、あれを連携訓練って言ったら罰が当たるだろう。


「エリー様ーっ……!」

「ん……?」

「あ、ファミリア」


 そこまで話が進んだ所で、大きな声と共にこちらに駆け寄る1人の執事の姿があった。

 (イリス)の執事であるファミリアだ。


「良かった! エリー様、フィフィー様! ご無事でっ……!」

「ファミリアも無事だったんだね」

「私は全く戦闘に巻き込まれませんでしたので……」


 ファミリアは今日ドッペルメイクでエリーに化けて貰って、雇われた冒険者の1人として屋敷の外の警備をしていた。

 今は変身を解き、いつものファミリアの姿に戻っていた。変身を解いた時点でエリーの経験が僕に還元されたから、ファミリアが比較的無事な状況にあったのは分かっていたが、それ以降はよく分かっていなかった。


 そしてごめんね、それ以降はあまり気に留められなかった。こっちはこっちで一杯一杯だったんだ……。

 と、内心で彼に謝った。


「彼女……? えぇっと、彼は……?」

「えぇっと……、紹介するよ、シータ、ディーズ。彼はわた、イリス王女の執事のファミリアだよ。かなりお世話になってる人なの」

「初めまして、私は王女イリスティナ・バウエル・ダム・オーガス様に仕えているブルース家次男ファミリア・ドストマルク・オン・ブルースでございます。どうかお見知りおきを」


 シータはファミリアの性別について戸惑っていたが、彼はれっきとした男性だ。滅茶苦茶女性顔でとても可愛らしい顔をしているが、男性である。


「……あぁ! あの有名なブルース家の! ……本当に女の子みたいな顔をしてますね?」

「ははは、恐縮です……」


 ファミリアが照れ臭そうに頭を掻いた。彼と初めて会った人の通過儀礼である。


「エリー様、これが預かっていた双剣です」

「おぉっ! やっと手元に戻ってきた!」


 僕の愛剣、『双刃の御守り』が戻ってきた。使い慣れた神器無しでここまで頑張ってきたのだから、再会の感動もひとしおだった。

 ファミリアは僕の代わりにエリーを演じていたので、この双剣を持っていたのだ。


「しかし何故、イリスティナ様の執事のファミリア様がエリーやフィフィーを探しに?」

「エリー様とフィフィー様はイリス様の大切なご友人です。何かあられては我が主人が大変悲しみます。2人が屋敷を脱出して遠くに飛んでいくのが見えた為、必死に追わせて頂きました」

「ふぅん……?」


 シータの質問に対し、ファミリアが流暢に取ってつけたようなことを言う。


「あれ? 第四王女のイリスティナ様って今行方不明なんだっけ……? でも捜索対象に上がってなかったような……?」

「おーし! じゃあそろそろ偵察に乗り込もうか! シータ! ディーズ! フィフィー! 張り切っていくよっ!」


 シータが余計な事に考えを巡らせる前に、僕は大声を出して皆に呼びかける。今イリスの行方について考えても全くの無駄である。


「ははは……」


 事情を知っているフィフィーが苦笑いをする。

 さぁ、再び屋敷に突入だ。


シータは55話にちょろっと説明が載ってるけど、ディーズは全く出てないです。名前だけです。前を見直しても描写無いからね!

……いかに適当に書いているか。


あと久しぶり過ぎてファミリアの名前完全に思い出せなかった……。

ごめん、ファミリア……。

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