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106話 リック

【エリー視点】


「『ジャセスの百足』はその拠点を広く多数置いて活動をしている」


 リックさんが言う。


「その表向きの顔は『クロスクロス』という情報屋だね。尤も、情報屋『クロスクロス』も表向きは賭博場『マリスベル』という形で運営され、隠れ蓑に隠れているけど」

「…………」

「このギルヴィアの宿場町も『ジャセスの百足』の活動拠点の1つだよ。ほとんどの人は知らないけど、この町の管理職レベルの重要な人物は情報屋『クロスクロス』の関係者であり、更にその中でも極一部の者が『ジャセスの百足』の存在を知っている。ボクとフィフィーの故郷のイエロークリストファル領も同じような事情を抱えた都市だった」


 リックさんは一方的に喋る。

 ここは外の光が入らない薄暗い密室だった。行燈の灯が仄暗く部屋を照らし、冷たさがこの密室を埋め尽くしている。


 僕とフィフィーは縄で縛られ椅子に括り付けられていた。

 フィフィーとリックさんと一緒に酒を呑んでいた……と思ったら、このように束縛されている状況に至っている。そういえば僕もフィフィーも妙な酔い方をしていた。酒に薬でも仕込まれていた?


 リックさんの話を聞きながら、僕の心臓はバクンバクンと強く振動していた。まだ痺れの抜けきらない頭で、彼の話を少し呆然としながらただ聞いていた。


 リックさんは自分の事を『ジャセスの百足』の一員だと言ったのだ。


「資料室でこの宿場町の歴史を調べている時、フィフィーの言った『交通の利便が良いこの土地で、この村が300年の間ひっそりと暮らしていたのはおかしい』って言ったのは結構核心を突いていたんだ。何故ならその村は『ジャセスの百足』の拠点だったから。多地域にアクセスの良い場所を陣取って、情報を仕入れながら影に隠れて活動したかったんだよ」


 リックさんは苦笑しながら話す。

 そうだ……。確かフィフィーがそう疑問を呈した時、リックさんはフィフィーの言葉を即座に否定していた。

 やんわりと隠し事をしていた……?


「リック……」

「…………」

「リックっ…………!」


 唇の震えが声になったかのように、フィフィーが口を開く。


「リックうううぅッ……! これはっ! これは一体っ、どういうことだよおおぉっ…………!」

「…………」


 苛烈な叫びはこの部屋全体を震わした。

 怒りをふんだんに込めた激烈な叫び。弱い人間だったらそれだけで意識を刈り取られてしまいそうな激しい怒りが床や天井をびりびりと震わせる。山一つまるまる包み込んでしまいそうな程の叫びをフィフィーは発していた。


 しかし、それを正面から受けてもリックさんの表情は崩れない。それどころか、ただの情報屋である筈のディーラーのお姉さんですら、この激烈な叫びに対し動揺する気配がなかった。


「お前っ! お前ぇっ……! ずっとわたしを騙していたのっ……!? ずっと! ずっと一緒にいたのにっ……!」

「…………」

「いつからっ……!? いつからだぁっ!? いつからわたしを裏切っていたっ……!?」


 フィフィーがこれだけの叫び声を上げても、外から人が来る気配が全くない。魔術的な防音、衝撃耐性みたいな処置がこの部屋に行われているのだろうか。

 そうでなければフィフィーの叫び声は旅館全体……いや、この町全体を飛び越えて山全体に響き渡っている事だろう。


 リックさんが口を開く。


「……ボクが『百足』に所属したのは、冒険者になる前からだ」

「…………ッ!」

「11歳でA-級の強さに至れたのは、『百足』としての訓練を受けていたからだ」


 リックさんが冒険者になる前からと言うと、少なくとも7年以上前から彼は『百足』の一員だったという事になる。フィフィーと一緒に貧困街で住んでいた時から、リックさんは『百足』の一員だったことになる。


「さっきも言った通り、ボク達の住んでいたイエロークリストファル領は『百足』の拠点の1つだった。ボクはそこで『百足』の一員となった」

「くっ……そ……」

「『百足』としてのボクの仕事は諜報だ。冒険者として広い地域で活動し、そこで様々な情報を仕入れていく。情報を『百足』に渡し、『叡智』に関わる情報はそこで処理され、それ以外の情報は『クロスクロス』での商売道具になる」


 リックさんは喋り続ける。

 フィフィーの体は怒りなのか屈辱なのか小刻みに震えている。目には少し涙が溜まっているようだった。


「冒険者として国を飛び回ることは不思議な事ではなく、聞き込み調査を行う事も全く不自然ではなかった。S級ともなれば貴族との関りも増えていく。その中で、何も知らないフィフィーの存在はボクの隠れ蓑ともなった」

「……ッ!」

「でも誤解を恐れずはっきり言う。ボクはフィフィーに害を為す行動は一切していないし、君を貶める悪意は全く持ってない。裏切っている、という思いは一切ない」

「なにをっ……! ぬけぬけとっ……!」


 リックさんの鋭い視線にフィフィーは怒りを持って応えた。フィフィーは歯を食い縛り、ただ怒りに耐えている。


「ただ……調査の為にと踏み込んだ場所で大きなハプニングに出会ったことは多々あって……そこに巻き込んだことは……正直ごめんと思ってる」

「おぉいっ……!?」


 何故か少し空気が和らぐ。


「ボク達がこの年でS級に至っちゃったのも……『叡智』の力絡みのハプニングに結構巻き込まれちゃったからだからなぁ……。いや、ほんと、すまない……」

「どおりでわたし達の周りでなんか大きな事件が多いなぁ……って思ったよ! おいっ!」


 ここに来て、それまでのリックさんの鋭い視線が鳴りを潜め、フィフィーから目を逸らし申し訳なさそうに頬をぽりぽりと掻いていた。フィフィーが突っ込む。


 確かに『叡智』の力は形を変えて、様々な災害として現れると言われている。フィフィーは知らぬ間に『叡智』の事件に巻き込まれていて、それをなんとか乗り越えていったから英雄的な多大な功績を残していけたのだろう。


 なんというか……大変だ……。


 リックさんがバツの悪そうにこほんと1つ咳をする。ちょっとこの部屋の空気がどこか緩んでいて、ディーラーのお姉さんがくすくすと笑っていた。


「あ、あー……どこまで話したかな。……このギルヴィスの宿場町は『百足』の拠点の1つなんだが……実のところ、ナディアとメリューの暗号文は『百足』としても把握していた」

「……!」

「ごくごく稀にナディアとメリューの暗号文を解析し、このギルヴィスの宿場町を訪れて調査を行う者がいる。しかしこちらとしても暗号文の存在は分かっているから、この町の活動の拠点としての役割は放棄して、暗号文を解読してきた者を炙り出す『蜘蛛の巣』としての役割を担っている」

「……あっ」

「そう。今の君たちの状況がそれだ」


 僕たちはナディア様達の残した情報を頼りにこの町を訪れた。しかしそれは『百足』の方に筒抜けだったのだ。

 当たり前だ。だってすぐ傍に『百足』の一員が息を潜めてずっと傍に存在していたのだから。


「普段ならその調査に来た人間の身元を確認し、マークして見逃すだけで、『百足』として直接接触することはないのだけれど……今回はこういう処置を取らせて貰った」


 こういう処置、とは僕たちを縛り付けて『百足』としての身を明かす、という事だろう。


「それは……ここに来たのがリックさんのパートナーのフィフィーだから?」

「それもあるけど……一番の理由は君だよ、エリー君」


 心臓がどくんと跳ねる。


「いや、イリスティナ王女殿下」

「…………」


 リックさんは僕の方を見てはっきりとそう言った。ごくりと息を呑む。


 バレている。僕の正体がバレている。リックさんは先程も僕に対して「イリスティナ様」と呼びかけた。

 誤魔化しに意味は無い? あっちは確信している? けど一応……、


「な、何を言っているんですか? リックさん? 言っている意味が……」

「いや、流石にボクももう気付くよ」


 リックさんが呆れ顔で僕の事を見つめる。


「ぐぬぬ……」

「寧ろ気付くのが遅過ぎたって反省しているくらい」

「ぐぬぬぬぬ……」


 くっ……、一体何処で……どうしてバレたのか……。


「まぁ、エリーの正体がバレたことは特になんも不思議じゃないんだけど」

「フィフィーまで……」

「もうちょっと隠し方工夫出来なかったのかな?」

「敵にまで……」


 なんで僕、謎の組織からダメ出しされてんの?


「……ちょっと気が緩み過ぎですよ、リックさん」


 ディーラーのお姉さんが呆れ顔でそう言う。今度はリックさんがダメ出しされていた。


「すみません、つい。顔馴染みが多いもんで……」

「緩んだ雰囲気のまま『あの方』に場を引き継ぐわけにはいきませんよ」

「……そうですね。反省します」


 ……ん? あの方?


「……イリスティナ様、お伺いします。王族が冒険者に扮して、我々『百足』を追う理由を」

「…………」

「我らを滅ぼそうとしているのですか。それとも『叡智』の力を略奪しようとしているのですか」


 リックさんは剣を抜け、僕の頬に当てる。血は出ていない。実際には頬に刃は当たっていない。

 輝かしいまでの青色の刀身が僕の顔を照らしている。


「正直に話して貰いましょうか、王女様」

「…………」

「王族が冒険者に扮して、我々『百足』を追う、その真の意図を」

「……僕が『叡智』を追う理由はリックさんにも話した通りだけど?」


 僕は『叡智』を追うきっかけとなったロビンの村での話をクラッグ、フィフィー、リックさんに話している。勿論クラッグとリックさんにはイリスとしての事情は抜いて、エリーとしての事情しか話していないが。

 補足する必要はあるのかもしれないが、イリスとエリーが同一人物だとバレてしまっているのなら、大まかな事情は把握してくれているだろう。


「納得できません」


 しかし、リックさんから返ってきた返答は拒絶だった。


「王族の誰かに命じられているのではないですか? 『叡智』を宿した子や『百足』を探し、殺せと」

「誤解です」

「どこの世界に友達を追う為に冒険者になる王族がいるのです」


 ここにいるんですよ。


「そうだ……。ロビン……。『百足』だというのなら、貴方達、ロビンの行方を知りませんか? 彼は生きているのですか? 何か知っていることはありますか?」

「質問しているのはボクです」


 答えは返って来なかった。確かに僕は『ジャセスの百足』との接触を願った。ロビンの行方を知っている可能性が一番高かったのが『百足』という名の謎の組織だったからだ。

 しかしこの状態では『百足』から情報を引き出せない。優位に立てていない。それどころか命すら危ういかもしれない。


「君からの質問は一切受け付けない。ただ、君がボクの質問を淡々と答えるだけだ」


 昔、ロビンの村の村長から聞いたような言葉を投げつけられる。


「さぁ、答えるんだイリスティナ様。貴女の真意を。これまでの付き合いだ。正直に真実を話すのなら、命は助かる様ボクから組織に進言することだって出来る」

「あれ……?」


 その時になってようやく僕はとある事に気が付いた。

 この部屋をきょろきょろと見渡す。リックさんが少し剣を引き、僕の頬に当たらない様にしてくれる。目を凝らし、薄暗い部屋をじっと見回しても、ここにいるべき人がいない。


「……クラッグは?」

「…………」

「なんでクラッグはここにいないんですか?」


 僕とフィフィーは今、『百足』に捕まっている。ならば、リックさんは同じようにクラッグも捕らえようとしていなければおかしい。

 リックさんは困ったように口をへの字に曲げる。質問は一切受け付けないと言われたが、それでも僕は質問しない訳にはいかなかった。


「まさか……クラッグを殺して……?」

「…………」

「い、いや……そんな筈は……あり得ない」


 あり得ない。クラッグがそう簡単に殺される訳が無い。リックさんよりもクラッグの方が強い筈である。だから大丈夫な筈……。

 でも……でも、薬を盛られた後だったら? 油断しているところで心臓を一突きされたら?

 いや、それでもクラッグが死ぬなんて想像できないけど……でも、あり得ない話じゃない。


 いや、でも……でも……。


「……エリー君、落ち着いて」

「……え?」


 気が付けば僕の体は震えていた。見かねたかのようにリックさんに声を掛けられる。


「別にクラッグをどうこうした訳じゃないから。……そもそも、ボクにクラッグをどうこう出来る実力なんかないから」

「……そ、そうですか?」

「うん、だから安心して。ちょっと落ち着いて」

「は、はい……」


 どうやら傍目から見て僕はやや動揺していたようだ。少し恥ずかしい……。

 落ち着きを取り戻す為、大きな深呼吸を1つした。


「……でも、ではなんでクラッグはここにいないんですか?」

「それは……」

「…………」


 言い辛そうにリックさんは僕から目を背ける。何を悩んでいるのか、顎に手を当てゆっくりと考えながら言葉を組み立てるように、リックさんの口は開いた。


「クラッグは……捕らえる必要が無かった」

「え?」

「彼を捕えても新たな情報は手に入りそうになかったし、こちらの事情を説明する必要もなかった……。捕縛する必要はなく……寧ろ今回の捕縛の件に邪魔にならない様、説得した部分もある……」

「……?」


 そして、リックさんは言った。


「彼は……ボクが『ジャセスの百足』である事を元から知っている……」

「…………」

「…………」

「……は?」


 部屋の中に奇妙な静寂が訪れる。

 ……は? どういうこと? リックさんが『ジャセスの百足』であることをクラッグは知っている?

 ……え? いや、でも……クラッグは『百足』の事なんて知らないって言っていて……。


 は? はぁ? はあぁぁ……?


「……はあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」


 やっと出てきた声は叫びに似た間延びした声だった。


「は、はあああぁぁぁぁっ!? リ、リックさん……!? ど、どど、どういう事!? どういう事ですかっ……!? クラッグは……『ジャセスの百足』を知っていたぁっ!?」

「ははは……」

「ク、クラッグが騙していたっ……!? 僕の事をっ!? い、いつからっ!? 一体いつから……!?」


 僕はエリーとしてのロビンの村の事情をクラッグに話している。で、確かに奴はその件に関して「知らねえなぁ」と言っていた! 『百足』について何か知っている事はない? と聞いても「わりぃが知らねえなぁ」って言ってたのにっ……!


「あ、あいつが冒険者になる前の……1年半前、くらいかなぁ? その辺りで説明した、よ?」

「はあああああああぁぁぁぁぁぁぁっ……!?」


 僕と会うより前じゃんっ!?

 あいつ……あいつぅっ……!? 僕をずっと騙していたのかぁっ……!?


「エリー、エリー、落ち着いて。クラッグさんに隠し事があるのは別になんも不思議じゃないよ。わたし、この件に関してはなんも驚いてない」

「あの野郎おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ……!?」


 怒り心頭であるっ!


「あいつも『百足』なんですかっ!? リックさん!?」

「し、質問は受け付けないんだけど……」

「あぁっ!?」

「……分かったから、話すから。とりあえず落ち着いて聞いてくれ」

「リック情けない」

「……もうやだ、この捕虜たち」


 リックさんが肩を落としながら説明を始める。


「クラッグは『百足』ではないよ。協力者、と言った表現が正確かな」

「……違う?」

「うん、クラッグとは賭博仲間ってイリスティナ様には言ったと思うけど、それはつまりクラッグも賭博場『マリスベル』の裏の情報屋『クロスクロス』を利用する客だったんだ。クラッグの実力に気が付いた『百足』は彼を組織にスカウトしようとするけど、多忙を理由に拒否された」

「クラッグが多忙って……嘘じゃん」

「まぁ、理由は何でもいいんだけどね。で、無理にクラッグに言う事を聞かせようとするにはリスクが高過ぎて……最悪こちらの組織の戦力が大きく失われる可能性もあった。取り敢えずは協力関係、ってことで『百足』の仕事を手伝って貰う時もあり、『クロスクロス』としてクラッグに情報を渡したりする時もあり……って感じかな」


 秘密結社『ジャセスの百足』のアルバイト、それがクラッグだった。


「という訳でクラッグは正式な組織の一員じゃない。だから『百足』の組織についてある程度は説明してあるけど、彼は『百足』の内部の情報を全て理解している訳じゃない。かなり大部分は秘匿にして、彼には伝えて無いよ」

「でも、でも……あいつ、『百足』に対しても何も知らないって……」

「それは嘘だね」

「あの野郎おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ……!?」


 あの野郎っ……! ぶっ飛ばしてやるっ!


「ま、まぁ……イリスティナ様、落ち着いて。クラッグには口止め料を払っているから、ボク達からの情報は口に出来なかったんだよ。だから聞かれても答えられない事には仕方がない一面が……」


 リックさんはそこまで言って、突然口を止めた。

 どうしたのだろう? と思っていると、リックさんはこの部屋にある唯一のドアの方に視線を向ける。今の今まで僕の対応に困って苦笑していた顔は引き締まり、体を強張らせていた。


 ディーラーのお姉さんもそれまで穏やかに椅子に座っていたのに、急に立ち上がり、緊張した面持ちでドアの方を凝視していた。


 なんだろう……、これは……。

 リックさん達の様子の意味が分からない訳じゃない。ドアの向こうから強烈なプレッシャーを感じる。自然と額から汗が流れる。


 何かが近づいている。

 つめたく冷え込んでいたこの部屋の空気が、その何かのプレッシャーによって沸騰するかのように熱く、重苦しくなる。隣にいたフィフィーもごくりと息を呑み込む。


 扉がゆっくりと音を立てずに開いた。


「リック様、シルト様、そしてお客様方……」


 現れたのは僕達が泊っている旅館の女将だった。品の良い着物を上手に着こなし、貴族のように丁寧な所作でリックさん達に頭を下げる。この人の言った『シルト』というのはディーラーのお姉さんの名前だろう。


 ……この人ではない。このプレッシャーを放っているのはこの女将さんではないだろう。奥にもう1人いる。

 女将さんが口を開く。


「団長様がお見えになりました」


 手短にそうとだけ伝え、女将さんは奥へと引っ込んでいく。

 そして、入れ替わるように1人の大男がこの部屋に入ってきた。


 機敏な動きでリックさんとディーラーのお姉さん、シルトさんが片膝を床に付け、(こうべ)を垂れる。心まで完全に平伏していた。


 入ってきた男性は身長が2mを越える大男だった。がたいが良く、筋骨隆々。そして手足が常人よりもとても長かった。顔に皺が刻まれた50代程の初老の男で、三白眼の険しい目つきをしていた。


 びりびりとしたプレッシャーを直接肌で感じる。……この人だ。この男性がこの異常なまでのプレッシャーを放っている。まるでプレッシャーだけでこの部屋全体が震えるかのようだった。


 『領域外』。その単語が頭に浮かぶ。

 見ただけで人の域を越えた実力の持ち主なのだと理解する。否応なく理解させられる。

 男は口を開いた。


「お初にお目に掛かる。若きS級フィフィーと……王の娘イリスティナよ……」


 低く、重みのある声だった。


「我は『ジャセスの百足』、団長、ローエンブランドンという」


 以後、宜しく頼む、とその男は続けた。


 『百足』との夜はまだ終わらない。


クラッグ「暇だしもういっちょ温泉入って来るかなー」


次話『107話 ローエンブランドン』は4日後 9/1 19時に投稿予定です。

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