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5:笑う悪役令嬢

笑う悪役令嬢



 王立ボンヌ学院は王都にある。よって、王都に屋敷を構える貴族は家から通うのがしきたりであった。


 これは、寮に全生徒を集めて万が一の災害や火事、あるいは『人為的事故』が起きた時に被害が最低限で済むようにとの措置である。王都住まいの貴族はだいたいが要職に就いている。その子供を預かる以上、用心するのは当然であった。


 アイリーン・シクルシス伯爵令嬢も、その一人である。


「お帰りなさいませ、お嬢様」

「ただいま帰りました」


 使用人の出迎えを受けたアイリーンは、進み出た侍女に教科書と文房具などが入った鞄を預けると、まっすぐ自室に向かった。


「っはー……。今日も顔が引き攣るかと思ったわ」


 アイリーンは着替えもそこそこにソファに座りこむと、こわばった筋肉をほぐすように頬を揉んだ。


「蒸しタオルをご用意しましょうか。お顔をマッサージしましょう」

「お願いね、ケリー」


 侍女のケリーはアイリーンの乳母の娘で、腹心の部下である。こうして素をさらけ出せるのは家族とケリーの前だけだった。


 学院用の地味なドレスから、薄桃色の部屋着に着替える。華美ではないが地味でもなく、レースがたっぷりとついたドレスには、襟元に光沢のある赤いリボンがついていた。アイリーンの黒髪がいっそう引き立つ赤は、彼女が愛する男の瞳と同じ色だ。


「本日の殿下はいかがでしたわ」

「あいかわらず、おかしかったわ」


 頭も言動も。蒸しタオルで皮膚を温め、ケリーの指先がアイリーンの顔をマッサージする。身も蓋もない返事をしたアイリーンは、思い出したのか肩を揺らした。


「殿下なんかよりレナリアさんよ。あの子、もうすっかり殿下の世話係ね。余計なことを言わせないように割り込んで、言ったら言ったでフォローして。一生懸命で可愛いわ」


 笑わないように堪えるのが大変。ケリーの前で気が抜けたのか、笑いながら話すアイリーンに、ケリーも目を細める。自慢のお嬢様が自分には心を許しているのがたまらなく嬉しかった。


 アイリーン・シクルシス伯爵令嬢は笑わない。セイリオスが失踪してから彼女が人前で笑うことはなくなった。それがアイリーンの共通認識だ。


 より正確には笑えないのではなく、笑わないのだ。


 つまりは演技である。アイリーンはセイリオスを忘れていないし、エリックとの婚約に納得もしていない。恋人を突如失い心を壊したという、エリックの罪悪感を抉るための演技だ。


「調べによればスティビー子爵令嬢は女官志望だそうですわ。すでに殿下の口利きで内定が決まっているとか」


 レナリアがエリックの浮気相手に選ばれた時からシクルシス家の者たちが彼女の身辺調査を行っている。最終学年になれば就職活動が活発化するので調査するのは簡単だった。シクルシス家に目を付けられたらレナリアの女官内定は蹴られただろうが、エリックの推薦ともなれば別だ。


「そう。それでわたくしを王妃にしようと頑張っているのね」

「アイリーン様を、王妃に?」


 ピク、とケリーの手が止まった。冷めた蒸しタオルを外し、アイリーンの顔に化粧水をつける。


「殿下にまったく期待していないのよ、あの子。だからこそ、わたくしに宮廷の腐敗を正してもらいたいのだわ」

「……アイリーン様への評価は正しいですし、スティビー子爵令嬢の人柄を認めますが、あの殿下の妃になれとはずいぶん身勝手ですわ」


 ケリーの大切なお嬢様を、人身御供よろしくエリックに捧げられて腐敗の蔓延る魔窟に埋めるのを許すわけにはいかない。ケリーはレナリアに腹を立てた。


「地方貴族はそれだけ危機感が強いのでしょう。殿下の浮気相手なんて、レナリアさんだって本当は嫌だったはずだわ。でも、あの子は瞬時に計算した。敵を作らず、殿下を改心させ、なんとかわたくしと結婚させることで良識派が政治の実権を握るようにしたいのだわ」


 レナリアはそんなだいそれたことを考えているわけではないのだが、エリックとアイリーンの婚約はそういう意味合いを孕んでいる。そうでなければ大富豪とはいえ高々伯爵令嬢が、王太子と婚約できるはずがないのだ。エリックの恋心は、王家にとって渡りに船だったに違いない。


「……スティビー子爵令嬢をこちらに取り込みますか」


 まだ学生の身でそこまで計算して実行できるのなら取り込む価値はある。アホの子に徹して自分を犠牲にできる度胸もある。アイリーンの味方になってくれれば心強いだろう。


 しかしアイリーンは首を振った。


「無理ね。あの子、演技はできても腹芸はできそうにないもの。殿下と親しくしておきながらわたくしに付いても絶対にボロが出るわ。それに……」


 エリックにしがみつき、ぶりっこをしながら嫌味を修正しているレナリアを思い出した。恋愛感情はなさそうだったが、それだけに懸命で、滑稽だった。つい笑い出しそうになってしまい、アイリーンは毎回大変である。


「アイリーン様?」

「それに、レナリアさんは、殿下の母親代わりの姉、そのものだわ。殿下を見捨てることはできないでしょう」


 お似合いだと言ったのは本心だ。エリックにはレナリアのような、図太くてめげない、なにより絶対にエリックを見捨てない女性のほうがいい。たとえ王家の金庫がからっぽでも、王太子の身分に釣られる女性はいくらでもいる。エリックの、楽なほうに流される性格を強引に修正してくれるレナリアは、彼にとって得難い存在だ。


「母親代わりの姉って、スティビー子爵令嬢ってば子守りじゃないですか」

「あら」


 的確すぎるたとえにケリーが笑い出した。そう言われるとそうだ。未婚の令嬢に失礼である。アイリーンもくすくすと笑った。


 自分の家とはいえ誰が聞き耳を立てているのかわからないのは不便なものだ。アイリーンはセイリオスが失踪し、エリックと婚約を結ばされたせいで笑わなくなった。苦労して築き上げた事実をこんなことで破綻させるわけにはいかない。忍び笑いに肩を震わせるアイリーンの背中をケリーが慌てて擦った。


 ケリーの耳が、部屋に近づいてくる足音を聞きつけた。この三年でずいぶんケリーは耳が良くなっている。瞬時に表情を取り繕った。


「スティビー子爵令嬢などお気に病む必要はありませんわ。せいぜい愛人にでもするしかないでしょう」


 やや大きめの小声でアイリーンに注意を促す。慣れたものでアイリーンはすっと表情を消した。


 ノックの音がして、ケリーがドアを開けた。


「はい」

「失礼いたします。お嬢様、アルカイド様がお帰りになられるそうです」


 アイリーンが振り返った。先程までの明るさを感じさせない、見事なまでの無表情である。


「お兄様が? もうお着きになったの?」

「今しがた先触れがありまして、一時間ほどで到着するそうです」


 アイリーンの兄、アルカイド・シクルシスは伯爵家の嫡男として領地で暮らしている。社交シーズンには王都で過ごすが、あまりこちらには帰ってこなかった。


 セイリオスが政務官になったのと違い、アルカイドが領地経営をしているのは、シクルシス家の事業が多岐にわたるからである。また、今のうちから次期当主として経営に携わっていたほうが領民も安心していられるだろうという意図もある。アイリーンの父は名君として豪腕を発揮しているが、その息子がどうなのかまではわからない。いざ継いだ時の混乱をできるだけ避けるために、若いうちから領民に慣れさせておこうというわけだ。


「では晩餐はご一緒ですわね。お嬢様、お仕度しましょう」

「ええ」


 メイドが急ぎ足で下がっていった。嫡男の帰還ともなればきちんと支度して迎えなければならない。部屋の掃除などは毎日しているが、不足があってはならなかった。


「お兄様、なにかあったのかしら」

「卒業間近にもかかわらず浮気ですからね。アルカイド様もエリック様のなさりように堪忍袋の緒が切れたのではありませんか」


 普通なら何日に帰ると前もって知らせておくものだ。いくら実家とはいえ色々と用意というものがある。無作法だと母からお叱りがあるだろう。


「お母様のお小言を聞きながらの食事になるのかしら。お兄様も思い立ってすぐに行動するのは止めていただきたいわ」


 つい愚痴を零せば、ケリーが苦笑した。


 晩餐はアイリーンが危惧した通り母のお小言からはじまった。長男の帰宅は嬉しいが無作法はいけないといちいち細かく言い募る。口調は渋いが表情はまんざらでもなさそうなのが逆に微笑ましく、アルカイドはにこにこしながら聞いていた。


 その後はサロンで家族団欒となった。給仕のため、ケリーだけは残っている。


 ただ、この場にいるべき人物が一人足りなかった。


「父上、メグレスはあちらですか?」

「うむ。カノプスの奴が可愛がるせいか、我が家より居心地がいいらしい」


 カノプスとは父の親友のドゥーシャス公爵のことだ。


「アルカイドが帰ってきていると知れば、どうして教えてくれなかったのと怒るでしょうね」

「困った奴だ。ドゥーシャス公爵も、あまり甘やかさないでほしいものです」

「セイリオスがおらんからな。寂しいのだろう」


 弟のメグレスもまた生まれた時からドゥーシャス公爵家と付き合いがあり、旧知の仲だ。養子縁組の話が出ているためかしょっちゅうドゥーシャス家に遊びに行っている。


 一人息子がいなくなり、一気に老け込んで落ち込んでいる親友を見るに忍びず、父も養子の話を断り切れなかった。


 ため息まじりに言った父がアイリーンに顔を向ける。


「アイリーン、殿下とはどうだ」

「あいかわらずですわ。最近は多少歩み寄ろうというのが見えますが、高圧的で威圧してばかり。そうそう、彼ら、セイリオス様の捜索をしているようなんですの」

「今さら?」


 嫌悪を滲ませた嘲笑でアルカイドが吐き捨てた。


 アルカイドは伯爵家嫡男として、また親友として、セイリオスと切磋琢磨する仲だった。セイリオス失踪の混乱時にはアルカイドも胸が潰れそうな思いで必死に捜索したものだ。雨の中、泥まみれになりながら這いずるように手がかりを求めたあの日々を、アルカイドは生涯忘れることはできないだろう。血を吐く思いで無事を祈っていた。親友が忽然と消えた恐怖は言葉にできないほどだった。


 アルカイドたちが捜索していた時にアイリーンを慰めもせず、それこそ厄介者が消えたとばかりに喜々として婚約話を持ちだした男が、なにを今さら。歩み寄りで和解できる期間はとっくに過ぎている。


「ええ、今さらですわね。今回の浮気相手に諭されたそうですわ。ご両親のような冷え切った結婚生活はお嫌なのでしょう」

「ああ。あれは腰抜けのくせに諦めが悪い。思い通りにいかないと反抗して誰かに責任を擦り付けるところは父親そっくりだ」


 王太子殿下を「あれ」呼ばわりだ。アルカイドはエリックを軽蔑している。


「不敬だぞ」


 たしなめる父も顔は笑っていた。たしなめはしても、エリックを庇うことはない。父も同じ気持ちだからだ。


 エリックと婚約させるつもりはないと何度も断っていたのに王命を持ち出され、シクルシス伯爵がアイリーンを説得したと嘘の噂を流されたのだ。これ以上王家への不信感を増やすわけにはいかない王妃に先を越されてしまった。王妃はシクルシス伯爵家を取り込んで、アイリーンを囲うことで良識派トップであるドゥーシャス公爵家を味方につけようと画策したのだ。王妃は王妃で地盤固めに必死だった。


 だいたいエリックのやり方が気に食わないのだ。シクルシス伯爵は父親として、アイリーンへの誠意を見せて欲しかった。だがエリックは時間経過による忘却を待つばかりでなんの手も打たなかった。男なら、面会を断られても花を贈るなり手紙を書くなりして愛情表現するべきだろう。


 セイリオスと決闘もできないくせに自分と幸せな結婚をしろとは片腹痛い。


「捜索といっても手がかりなどなにもないだろう。三年も前だぞ? とっくに私とカノプスで見つけておるわ」


 あの時は、文字通り草の根わけでも捜索したのだ。周辺の聞き取り調査も行い、手がかりというべきものは出尽くされている。今では覚えている者のほうが少ないだろう。


「……それが、側近の方々はなにか確信があるようですの」


 アイリーンの声には深い恨みが滲んでいた。


「本当か、アイリーン」

「はい。ですがさすがは殿下の側近というべきかしら。意図的に避けている場所がありますわ」


 それがむしろ疑惑を増幅させる。父と兄が目線を交わし、母が身を乗り出した。


「……そこは?」

「王宮の北側。『導く星森』周辺ですわ」

「導く星森は、王宮を囲む堀に繋がる川があります。堀は城内に続き、王家の者しか知らぬ秘密の脱出路があるとか。……父上」

「……そこを意図的に避けているということは、セイリオス失踪の現場が導く星森ということか? そしてその後はセイリオスを……」


 堀は防衛の役割で作られているので深く、王宮を一周して暗渠あんきょに続いている。暗渠には下水道が流れ込み、王都を抜けてまた川に戻るようになっていた。

 投げ込まれた『物』は誰の目に留まることなく王都を出て、誰に知られることもなく消え去っただろう。


「もし私が考えた通りなら、誰か人を使って処理したのでしょう。側近のジュリアス・ザントの父親は宰相だ。息子の犯罪を隠蔽しなければ、たちまち今の地位が危うくなる。あの男ならためらわずにやるでしょう」


 セイリオスが城を出たことは職員と衛兵の証言と出退勤記録がある。だが、馬車が王宮正門を出たところを見た者はおらず、いつまで経ってもセイリオスが来ないことを不審に思った御者が公爵家に注進したことで事態が発覚したのだ。


 母がため息を吐いた。


「主のために真相を明らかにすることもできず、怖いところから逃げるように近づかないなんて。そんな臆病で怯懦きょうだな者がこの国を担おうだなんて……。将来さきが思いやられます」


 母の言葉は全員の心を代弁していた。

 しばらく誰も何も言わなかった。


「ところでお兄様、今日の急なご帰還はなにかありましたの?」


 空気を入れ替えるようにアイリーンが話題を変えた。アルカイドはほっと肩の力を抜き、笑みを浮かべる。


「ああ。アイリーンがもうすぐ卒業だろう? 我が家で記念パーティをするのはどうかなと思ってな」

「卒業パーティは王家主催で催されますが?」

「ふん。だが、我が家でも開催すると言ったらどうなる?」


 キラッと両親の目が光った。


「生徒はともかく保護者は迷うだろうな。シクルシス家、ひいてはドゥーシャス公爵家につくか。それとも王家に従うか」

「国の実権を握っているのは宰相。けれど、貴族でもないザント家に、誇り高い貴族がいつまでも膝を屈するのか……。これは見ものですわねえ」


 貴族ではないザント家が宰相になれたのにはからくりがある。ザント宰相はこの国の貴族ではなく、他国の貴族なのだ。しかも三男であった。

 他国の貴族として社交界に出入りし、見事にこの国で根を下ろしたザントは王に謁見し、政治論を述べた。その時の彼の弁舌は実に爽やかで、集められた貴族の称賛を浴びたという。


 優秀だったザントは優秀ゆえに兄に疎まれ、立身出世を夢見てこの国にやってきた。そして前国王に認められ、まずは侍従の地位を手に入れるとたちまち頭角を現した。しかし他国出身者が上に立つことを貴族に睨まれ、さらに前国王は崩御してしまう。それが野心に火をつけたのか、彼は若き新国王に取り入って宰相にまで上り詰めたのだ。


 一見すれば粉骨砕身して国に尽くしているザント家が、それでも貴族になれないのは、ザント家とその権力に阿る連中に爵位まで与えてしまっては手が付けられなくなる、と良識派が反対したからだ。たとえ傀儡であろうと王は王なのである。王をコケにしておいて爵位など認められないとドゥーシャス公爵が訴えた。


 だがそれも、エリックとアイリーンが婚約するまでの話だ。


「そろそろ旗幟きしを鮮明にしていただきましょう。王太子があれではどのみちこの国はそう長くありません。終わりは良くないものとなりましょう」


 アルカイドが強い声で言った。

 人の心をないがしろにし、金と権力にものを言わせて踏みつけにしてきたのだ。溜まりに溜まった恨みは報いとなって襲いかかる。悪政を布いた王の最期が良くないのは当然の結果である。


「貴族とはいえ、厳しいですわね」


 ボンヌ学院の生徒は未来を夢見て勉学に励む者がほとんどだ。レナリアもそうである。家族のために働こうと前を向いて頑張っている。


「貴族だからだ。成人した貴族である以上自分のことだけ考えていれば良いということはない」

「……そうですわね。申し訳ありません」


 アイリーンたちは卒業すれば成人とみなされる。否応なく貴族の自覚をさせられるのだ。政略結婚など、その最たるものだろう。


 無知というのは罪なのだ。王が側室を迎え、子ができるたびに、どれほどの血税が絞られるのか、そろそろわからせたほうがいい。もはや国民は王家に子が生まれても喜ばない。王の鬱憤晴らし、側室同士の寵の競い合いによる贅沢合戦、気炎をあげる王妃。からっぽの国庫。法律は厳しくなる一方で、我が子の亡骸を抱いた親が恨みの涙を流している。知らなかったでは済まないところまで、もう来てしまっているのだ。


「心配するな、アイリーン。この日が来ることを予想して、シリウス殿が動いているのだ」

「シリウス様……! そうですわね。お兄様、シリウス様はパーティに来てくださいますの?」


 ぽっと頬を染めたアイリーンは、はにかみながら訊ねた。その様子はどう見ても恋する乙女だ。

 そんな妹に、微笑ましさと幾何かの嫉妬を込めてアルカイドがうなずく。


「もちろんだ。お前をエスコートすると張り切るだろうな」

「まあ……」


 王家主催の卒業パーティにアイリーンが出席すると、エリックや王は思っている。アイリーンはエリックの婚約者だ。晴れの場でアイリーンをエスコートし、学友たちに祝福されると夢見ているだろう。


 その同日同時刻にシクルシス伯爵家が卒業パーティをぶつけてきたとなれば、明確な反抗である。王家の面目は丸つぶれだ。


「ずいぶんドラマチックな演出だな」


 父が声をあげて笑い出した。


「そうですわね。殿下と浮気相手が乗り込んできたらどうしましょう」


 ほほほ、と母も父に唱和する。


「殿下はともかく、浮気相手もですか?」

「レナリアさんは殿下のフォロー役ですから、余計なことをしでかさないよう付いてくるのでは」


 軽蔑を浮かべるアルカイドに、アイリーンがレナリアの説明をした。浮気相手とは名ばかりで母、あるいは姉のように面倒を見ている。エリックを励まし、叱りつけ、時には側近たちに指示まで出しているのだ。おかげで最近のエリックは変わったと生徒たちの間で評判が回復してきている。侮れない少女だ。


「どうせなら殿下を押し付けてしまおうか。そのほうが殿下のためになるぞ」

「お兄様、お止めください。レナリアさんが可哀想ですわ」


 さりげなくエリックをこきおろすアイリーンに、シクルシス伯爵家は笑いに包まれた。




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― 新着の感想 ―
[良い点] すごくすごく面白いです! 顔だけ殿下のダメさと、令嬢ズの有能っぷりにニヤニヤしてしまいます。 レナリアのプロデュース力まじパネェですね。 殿下の尻拭いは大変そうなので、なんとか逃げてほしい…
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