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第五話 俺がアホでした

 スキルは特殊能力に依存する。そしてスキルには使用に際してSP(スタミナポイント)またはMP(マジックポイント)を使用し、それぞれ持続時間が設定されている、スキルは使用することで特殊能力を成長させることができる。効果はそれぞれのスキルで多彩な効果を生み出す。スキル使用のルールはこれだけだ。実際にしようするといくつもスキルを組み合わせて使用することになり、

 貴楽が持っている特殊能力でスキルが付随しているものは“聖魔法:初級”、“闇魔法:初級”、“専用装備:魔王の外套”の3つになる。“専用装備:魔王の外套”だけは正確には『装備品が持っている特殊能力に付随するスキル』なので違うのだが、スキルを確認する今では含めていても問題はないと貴楽は判断した。


「魔法が2属性になったのはいいけど、どっちも初級なんだよな。これも1から育て直しなのかよ」


 貴楽は面倒くせぇとぼやいたが、その裏でレベル上げのような作業を楽しむプレイヤーでもあった。早速覚えた“闇魔法:初級”から魔法をチョイスして唱える。


「マジック。〈闇の礫〉!」


 拳銃を握るように右手を作り、人差し指を伸ばす。すると指先に黒い塊が生み出され、数センチ球体まで大きくなった。この時点でMPは減少し、魔法は成功と判定される。その後、狙いを付けてから引き金を絞るように人差し指を曲げると、勢い良く球体は飛び出し石室の壁にぶつかってはじけ飛んだ。壁には同じ大きさの鉄球を投げつけたような凹みが出来ており、人の頭部にでも当たれば致命傷は免れないだろうダメージを想像させる。


「あー……、うん。誤射は気をつけないとやばいなこれ。そうだよな、攻撃魔法だもんな」


 殆どの攻撃魔法とは、対象を殺すための魔法である。攻撃魔法の目的とは『対象が死ぬダメージを、適量の魔力で効率よく生み出すこと』であり、徹底してロジカルである。魔法は1つ発動させる毎に硬直時間があるため、オーバーキルでは無駄な硬直時間を得ることになり、余計なMP消費と相まって魔法使いとしての未熟を証明することになっていた。


「一罰百戒とか、脅しとか効果範囲を考えるとオーバーキルが全部未熟の証明とは言い切れない、と思うけど一般論としては無駄だよな」


 主効果のことを考えている時に副次効果を考えた意見を出しても論点のすり替えにしかならないし、と貴楽は小さくつぶやいた。


「次は、マジック。〈聖付与〉」


 魔法を唱えるとショートソードが淡い光に包まれた。同時に武器にゲージと残り時間が表示され、徐々に減少していく。

 貴楽はショートソードを振り、ゲージの減少速度が変わらないことを確かめると、おもむろに壁に斬りつけた。当然斬れるわけはないのだが、ゲージを見ると一気に減少している。


「属性の付与と、武器耐久の身代わり。ゲームと効果は変わらないな。連続掛けはどうかな? マジック〈聖付与〉……無理か」


 効果の効いている魔法に新たに重ねがけを行おうとしたが、無理だった。発動しなかったわけではない。MPも消費され発動はしたのだが、効果時間がそのままだったため、意味が無いと判断した。


「後は試せそうなのは、1つしか無いな。マジック〈闇の鎖鎌〉」


 魔法を唱えると、黒い光で出来た鎖付き鎌が握られた。刃の部分の殺傷力は錆びたショートソードより遥かに高く、石壁を苦もなく斬りつけることに成功した。そして分銅突きの鎖は投げれば一直線に伸び、手元の動きか或いは意識するだけでその挙動を少しだけ変化させることができた。


「扱いきれれば便利そうだけど、消費激しいなぁ」


 武器として手に持っているだけでどんどんMPを消費し、斬りつけた時や鎖を動かした時にも更にMPを消費している。いくらMPが多い貴楽でも、現時点のMPで使用するのははばかられる消費量だった。


「魔王の外套も試しておきたいけど、アクティブ能力の方は戦闘中じゃないと意味ないしな。チェックはここまでにしてもう一度、試してみよう」


 そう言って立ち上がり、ログアウトした時と同じように声を上げた。


「システム! ログイン!」


 言葉が石室に響くと、貴楽は目の前が明るくなり意識が吸い込まれていくような気分を味わう。

 ログインに成功したのだ。



   †   †



 目を開けると、木でできた机と椅子、それとベッドがある小部屋に居た。

 そこは貴楽にとって見慣れた光景。自身のVeSt内拠点(ホームポイント)である。

 VeStの仕様としてどこでもログアウトはできた。その代わりログイン後は必ず拠点に戻されてしまう。拠点の中は安全な場所であり、PK(プレイヤーキル)等の犯罪も行えない。


「ログイン成功ってことは、やっぱさっきの場所は現実、なのか? いやでも魔法とか使えたしな」


 貴楽がうーん、と唸りをあげていると、ボイスチャットの招待音が鳴り響く。

 フレンドチャットから緊急音による呼び出しがかかっていた。


「緊急呼び出し!? 一体何事だよ」


 慌てて接続すると、プライベートチャンネルに視界が切り替わった。


「おい、緊急呼び出しとか一体何が――」

「サンラットのアニキー! 無事ニャ!?」

「ああ! 無事だったのですね。神に感謝しなければ」


 挨拶もそこそこに要件を聞こうとしたサンラットに、2人の女性が詰め寄った。

 1人は語尾に「ニャ」をつける猫耳の獣人少女。デニムのホットパンツから虎縞の尻尾が生えた活動的な浅黒い肌の少女。

 もう1人は透き通るような白い肌に美しい黒髪を持ち、シスター服の上からでも分かるはちきれんばかりに暴力的な胸を、その前で手を組んで神に感謝の祈りを捧げている妙齢の女性。


「お、落ち着けよ!? オットーもホルスも。な? な? 近い近い!」


 詰め寄った2人に慌てて距離を取ろうとする貴楽。普段のゲームだとハラスメント対策に一定以上の距離には近づけないようになっている筈なのだが、今はそれが働いているようには思えない。右腕を獣人のオットーに、左腕をシスターのホルスにがっちりとホールドされ動くこともままならなかった。


「なにが落ち着けニャ! 魔王取ったからってログアウトするとか、何考えてるニャ!」

「そうですよ! 今の状況がおかしいとは思わなかったのですか!?」


 どうやら2人が怒っているのは、自分のことを心配してくれたからだと貴楽は理解した。


「い、いやその寝落ちから復帰してすぐ異変には気づいたんだけど、GMコールしてからログアウトのことを思いついて、そしたらすぐに試してさっさとここから逃げておかないとーって思ってさ」

「GMコールしたならせめて返信が来るまで待っていてください!」

「第一GMコールする前にお知らせメールの確認とかすることあるニャ! サンラットのアニキはどっか抜けてるんだニャ!」

「返す言葉もございません……」


 怒る2人の指摘を受けて、その通りだと反省しきりの貴楽であった。そのうなだれた様子を見て大丈夫と判断したのか、2人はサンラットの腕から体を離した。


「メール確認してまずは現状を把握するといいニャ」

「そうですね。話し合いはそれから、ということにしましょう」

「分かったよ。システム! メール」


 メニューウィンドウが開き、そこから更に細かいウィンドウが開かれていく。2つのウィンドウを新たに開き、その中で運営からのお知らせ、を選択する。その中で最新のお知らせメールに『必読! ※絶対ログアウトしないでください』のタイトルがあった。


「……アホだ俺」

「ごめんニャ。ちょっとフォローできないニャ」

「ま、まあとりあえず確認してください。かなり大事になってしまっているので」

「わかった。それと心配かけてごめんな。後、ありがとう」


 貴楽の言葉に2人は声を揃えて「どういたしまして(ニャ)」と返していた。

 貴楽は一旦息を吐き、メールを開く。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

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