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第三話 生き延びたいんです

 人は白骨を見ると忌避感を抱く。当然だ。なぜなら白骨は見えないのが常識であるから。

 見えないは見たくないになり、それは人間として当然の欲求。更に笑うように乱杭歯をカタカタと鳴らす白骨は人の忌避感を煽り、生理的嫌悪感を発露させた。しかして、その白骨が脅威となり得る存在であったなら、それは敵だ。敵から視線を逸らすなぞ、どうぞ殺してくださいと言っているようなものである。


「う、うわわわ。来るな! こっち来るな!」


 見えているだけの視界にはスケルトンしか映らず、貴楽はパニックを起こしながら後ずさりし、自らが入っていた棺桶に足を取られ転ぶ。

 硬質の床を軽石のような音が連続して迫る。走るスケルトン。並の人間よりも遥かに速い。肉も水分も無いということは軽いということ。筋力の代わりに何かで動いているのだろうが、関節の自由度も人間より遥かにある。一歩が大きく爪先が石床を掴み速力に変えている。ショートソードを振り上げてから斬りつけるというモーションをゲーム内ではとっていたが、今は盾を構えショートソードを突き入れようと腰だめにして突進している。


「死ぬ! 死んでしまう! く、来るなぁ!」


 貴楽は尻もちをついたまま体を捻りギリギリのタイミングでスケルトンの突進を回避する。派手な音と共に、棺桶が破壊された。思わず破壊された木片を手に取り立ち上がる。ここまでマントが絡まなかったのは幸運であった。手には杖代わりにすらならない、槍にもならない、精々が短杖。だがナイフよりは長いといった程度の先が尖った木片。


「ハァッ、ハァッ、ハァッ!」


 殆ど動いていないのに息が上がる。心臓がドクドクと鼓動を加速させている。スケルトンは突っ込んだ際に砕けた棺桶が関節部に挟まったのか、立ち上がろうともがいている。


「ふう……よし!」


 スケルトンが立ち上がってくる前に息を吐き、貴楽は気持ちを落ち着けることに成功する。視界がクリアになり、石室が視野に戻る。スケルトンしか見えていなかった視界では相手が大きく怖く見えてしまっていた。出口の扉までは10mほど。咄嗟の判断。逃げるべきか、戦うべきか。


「……カタカタカタ」


 スケルトンが一旦関節を外し、バラバラになる。その直後に人型に再生され、しかも貴楽と相対する形で立っていた。

 貴楽は逃げる、という判断を選択肢から消す。突進時の速度から考えて、逃げきれるとは思えないためだ。


「やるしかないのかよぉ~!」


 情けない声をあげつつ、棺桶の木片を手にスケルトンと対峙する。

 貴楽は思う。息は吐いた。パニックは起さまった。相手は一体。しかもスケルトン。VeSt内ならばぶっちぎりの雑魚だったはず。だが行動が速度が破壊規模がゲームとはまるで違う。別物だと思った方がいいのは確実。ショートソードで斬られれば致命傷だ。なぜなら斬られれば痛みや衝撃で動けなくなってしまう。そこへ追撃がくれば更に痛みと衝撃で動けなくなり、更に追撃といったような詰みコンボの完成となる。戦うならノーダメージの状態を維持しつつ、攻撃を当てていくしか無い。


「来るか!」


 スケルトンはカタカタと歯を鳴らしながらショートソードを振りかぶる。距離は殆ど離れていない。振り下ろされる前に貴楽は前へ出た。攻撃が来る前に出始めを潰す。理屈ではわかるが怖い。武器を振り上げた相手に突っ込むなんて。ゲーム内では溜め攻撃には有効な方法だった。今の戦闘をゲームの戦闘と置き換える。恐怖を塗りつぶすために行う現実逃避。

 避けれる範囲が狭まる分、この後の行動は決まっていた。もう相手に攻撃をさせないことである。


「うりゃっ!」


 バランスは崩れている。スケルトンの体格は成人男性のものとほぼ変わらない。人間の骨という前提ならば3kg程度だろう。そしてショートソードの重さは1kgもある。いくら筋力と同じ程度の出力があろうとも重さは変えられない。振り上げた時点で重心がふらつくのは避けられないのである。その状態へ60kgはある貴楽の体当たりである。それも重心を下にし、肩から押し上げるようなタックルである。スケルトンは少し浮き上がり、少し吹き飛ばされながら仰向けに転ぶ。


「もう逃さねえ!」


 貴楽は倒れたスケルトンのショートソードを持つ右腕の肘に棺桶の木片を突き立てて接合を破壊する。棺桶に突進をしていた時の様子を見るに、間に挟まっている間は行動を阻害出来ると踏んだのだ。

 アドレナリン全開でハイになっている貴楽はスケルトンの両足を掴み思い切り持ち上げる。意外なほど重く感じたが、振り回せないほどではなかった。骨系のモンスターに切断や刺突のような攻撃は効果が薄い。当たる部分が少なく、重要部位というのが解り難いからだ。スケルトンには衝撃。それはゲーム知識であったが、恐らくは今の状況でも有効であると判断し持ち上げたスケルトンの体を思い切り床に、壁に叩きつけていく。今や貴楽の武器はこの石室全体であり、またスケルトンの体そのものであった。


「わけわからん時に襲いかかってきやがって!」


 スケルトンの背が石床にぶつけられ骨にヒビが入る。

 貴楽はストレスが溜まっていた。


「ゲームなのか現実なのかはっきりしろよ!」


 バットスイングをするように壁にぶつけられたスケルトンの頭が砕ける。

 ゲームと現実がごちゃまぜになったような世界に怒りを覚えていた。


「なんで俺がこんな目に遭わなきゃならねぇんだよ!!」


 とどめとばかりにジャイアントスイングの要領でグルグルと回し、階段上になっている部分へ投げ捨てた。角の部分にあたった腰骨が完全に粉砕されいた。

 ピクピクと小さな痙攣を起こしていたスケルトンだが、やがて完全に動きを止めた。初期に切断された右手もその力を失ったのか、ポロポロと溢れてショートソードがカランと転がる。


「ぜえ、はぁ、……か、勝った、のか?」


 待つこと数秒。スケルトンが動かなくなったことを確認した貴楽は――勢い任せではあったが――自身が戦いから生還したという実感を徐々に味わっていった。

 

「うおお! よっしゃぁっ! とりあえず生き延びたぞっ!」


 思わず雄叫びをあげてガッツポーズを取った貴楽。敵がまだいたのならば即座に補足されて奇襲まで仕掛けられそうなほどに隙だらけ。それでも生き延びた喜びを表さずにはいられなかった。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

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