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第十八話 レベル上げしませんか

なんとか間に合いました。

 残り時間は5時間を切った。

 貴楽はリッチロードとの対決を最後の戦闘に決める。1度は勝った相手であり、特殊能力やスキル、攻撃パターンは把握していた。レベルと特殊能力が当時に比べて足りていない分、それを早急に補う必要があるだろう。幸いにしてリッチロードは玉座から動かないらしい。ならばぎりぎりまでレベルアップをするべきだろうと判断した。


「レッドドラゴン」

『なんじゃ?』

「どこかにレベル上げに適した敵はいないか? アンデット系ならなお良いんだが」

『すぐにリッチロードのところへ向かうのではないのか?』


 すぐに戦いに向かうのかと思っていたレッドドラゴン。少し肩透かしを食らった気分であった。


「リッチロードとの勝負を冒険の最終戦に決めたんだ。だから準備はしっかりしておきたい」

『ほう。儂とは戦わんか。残念じゃの』

「悪いね。それでどこかあるかい?」

『ふむ。では東の門を開けてやろう。グールやデュラハンが徘徊しておるはずじゃ』

「助かる。じゃあ、早速向かうわ。またな」

『土産話でも待っておるよ』


 言われた通りに東の門を潜り先へ進む貴楽。扉を抜けてすぐに地下へ降りる階段となっており、通路は2人が並べば窮屈なほど狭かった。


「グールはレベルドレインが怖いけど、“耐性:攻撃スキル”があるから対策としてはばっちりのはず。麻痺とか状態異常も怖くはない。うん、稼げる、かな」


 グール(食屍鬼)は通常攻撃にバッドステータスの麻痺を与える効果があり、レベルドレインという攻撃スキルも持っている。普通に考えるならば、1人で戦うには危険過ぎる相手であった。だが動きが遅くて防御が弱い。アンデットなのでHPとSPは多いが遠距離攻撃もしてこない。火、聖属性という弱点もあり遠距離攻撃があるならば比較的安全に狩れる相手でもある。単独で登場することは少なく、複数体で現れることが多い。


「デュラハンは部位が多いのが厄介だけど、魔法を沢山使って熟練度上げになると思おう」


 デュラハン(首なし騎士)は首なし馬、馬引きの戦車、騎士の3つの部位が存在している。3体のユニットでありながら、1つのモンスターという扱いなのだ。巨大モンスターなどに多いのだが、デュラハンは人間大サイズのモンスターとしては最大数の部位を持っている。3つの部位が別々に攻撃してくるので圧倒的な攻撃力を誇るが、その分範囲攻撃にそれだけ弱くなるという欠点もあった。


 ゲーム内の知識で判断するなら、グールは相性がいい。“聖付与”で弱点属性による攻撃を加えれば倍の速度で倒せるし、厄介な攻撃も耐性や無効化で滅多に受けるものでもない。デュラハンは聖属性で弱点を突くことはできるが、部位が多いためダメージレースで劣る可能性があった。もっとも、貴楽は回復ができるのに対してデュラハンはできないのでいつかは倒せるのであるが、グールと比べて時間はかかってしまう。


「よし。タイマーとマーカーをセットして、っと。いざっ」


 貴楽は階段を降りて地下フロアに降り立つ。降りてみれば周囲に灯りがなく暗闇に覆われていた。貴楽は種族:魔王に付随する〈暗視〉を使用して暗闇での視力を得る。制限時間はないが、色彩が白黒になってしまうため、探索には不向きなのであまり使用したくない能力であった。視界が開けると小部屋の中のようだった。部屋の安全を確認した後、扉を開いて進む。通路は直線に伸びている。


 地下に降り立って10歩もしない内にグールの小集団を発見する。敵の数は3体。体色が変化し周囲の色に同化しているようだが、暗視によるモノクロ映像ではまるで気にならない。

 奇襲を仕掛けて1撃当てるか、或いは魔法を唱えて準備をするか。貴楽が選んだのは後者であった。


「マジック〈聖付与〉」


 暗闇の中で光を放つ拳。ひどく目立つそれは、誘蛾灯のようにグール達を引き寄せる。


「〈聖光〉があれば先制できるのになぁ。早く中級にあげたいな!」


 “聖魔法:初級”には遠距離攻撃魔法は用意されていない。遠距離攻撃ができるのは中級からなのだ。貴楽にとって、今は特殊能力のレベル上げも兼ねているので、どんどん魔法を使っていく考えであった。


 グール3体と接敵し、先攻は貴楽が取っていた。聖なる光によって輝く手甲で走り込みからの掌底を腹に決め1体を突き飛ばす。レベルアップにより成長したSTRでグールの体は吹き飛ばされる。人間大の重量しか持たないグールでは、勢いをつけた貴楽の突き飛ばしには耐えられなかったのだ。貴楽が体勢を立て直す内に残り2体の攻撃が来た。


「よいしょっ!」


 グールの攻撃はレベルドレイン(かみつき)麻痺攻撃(ひっかき)。どちらも接触が必要な攻撃であり、貴楽は魔王の外套の〈自動防御〉でレベルドレインを防御させる。そして残った攻撃に対しては、腕を掴み体勢を落としてから腰を跳ね上げる一本背負いを決めた。途中で腕を離し、出来る限り遠くへ投げ飛ばす。


「これで1対1だな」


 他のグールが接敵するまで時間を作ることに成功した貴楽。防御を〈自動防御〉に任せ、一方的なラッシュを決めていき、あっけなく1体目のグールを撃破する。これならと次は2体同時に相手にし、レベルドレインのみ注意を払いながら体重の乗った打撃を与えていく。貴楽も無傷とはいかず鋭い痛みが全身を傷つけるが、麻痺は全て無効化しているため安全に残り2体を倒すことができた。自動回復があるため放置しておけば傷も癒えるが、〈聖治癒〉を使用してさっさと治してしまう。


「ドロップは、金貨か。下手に重い物よりありがたいな」


 貴楽は金貨を回収し更に進む。通路はが終わると広い空間になっていた。貴楽はレッドドラゴンとの遭遇時を思い出し、一旦引き返してから通路にあった扉を開いていくことにする。


「モンスターと鉢合わせ、なんてこともありそうだし魔法はかけておこう。マジック〈聖付与〉」


 気配察知によって中にモンスターがいることは分かる。だが部屋の構造やモンスターが向いてる方向までは分からない。中の気配は1つ。貴楽は勢い良く扉を開いた。


「げっ。デュラハンかっ!」


 デュラハンは3つの部位を持つモンスターだが、モンスターとしては1体扱いである。部位が分かれているとはいえ1体のモンスターなのだから、突き飛ばして分離させることはできない。投げ飛ばすには重量が重すぎる。逃げようにも馬と戦車の機動力では逃げ切れるものでもない。


「なら、こうする! マジック〈闇の鎖鎌〉!」


 鎖鎌の鎖を投げ、戦車部分の車輪部分に誘導し巻きつける。車軸に絡みついた鎖は戦車の挙動を阻害し、鎖が断ち切られるまで移動を困難にした。


「車上からじゃ剣は届かないだろ。今のうちだな!」


 車輪の動かない戦車を引きずる首なし馬に、攻撃を加えていく貴楽。鎧を着た馬体部分を狙うのではなく、徹底しての足狙い。弱点属性で機動力の要である足を狙い続け、戦車が鎖を断ち切る頃には今度は首なし馬が足を折り動けなくなっていた。


「なんとか上手くいったか」


 馬が使い物にならないことを悟ったデュラハンは戦車から降り貴楽と相対する。人間大で最大級の大きさを誇るデュラハンだが、戦車から降りたとしても屈強な騎士であることに変わりはない。左手で自らの首を持ち、右手には常人ならば両手で使うような大剣を片手で保持していた。貴楽の“無効:全状態異常”や“無効:即死”が、〈威圧〉や〈死の気配〉など危険なスキルを次々と無効化していた。


「……ほんと、相性が良くて助かった」


 〈威圧〉等のスキルが効果が無いと判断したデュラハンは大剣を脇に構え横薙ぎの姿勢を取る。貴楽が回避したとしても上方向か後方のみ。だが後方には扉が邪魔をして下がれない。ゆえに避ける方向は限定され、続いての連撃を回避することができない攻撃。防御をしたとしても、貴楽とデュラハンの体格差では弾き飛ばされ貴楽は次の攻撃ができない。どちらにしてもアドバンテージを取れる攻撃方法であった。


「本来はそれを戦車で移動しながらやってくるんだよな。だから待ちに徹するしかない、っと」


 威圧等で相手を動けなくした上で、馬戦車による蹂躙しつつも大剣でなぎ払う。必勝のパターン。だが今は既に前提が崩れている。貴楽は迷わずデュラハンに突進した。


 デュラハンは喋らず、大剣による横薙ぎを行う。気合と共に迫る死の一閃。貴楽はジャンプをし空中に逃れる。そこで“移動:浮遊”を使い、更に一歩前へ踏み込む。横薙ぎにより見えた右半身に向け拳を放つ。ミシリ、という音と共にデュラハンの胴が軋みをあげた。貴楽はデュラハンの懐に飛び込むことに成功する。こうなれば左手で自分の首を保持し、右手に大剣を持つというスタイルが邪魔になってしまう。頑丈さを盾に重量差を活かした蹴りや体当たりで貴楽を弾き飛ばして距離を取るしかないが、それを許す貴楽ではなかった。回避と自動防御を駆使し、デュラハンを完封する。


「多部位相手は詰将棋だな。ホント怖い」


 デュラハンを倒した後のドロップ品は、大剣だった。貴楽は大剣を使わない、使えないので処理に困るが一応持っていくことにする。邪魔になってから捨てればいい、と考えて。


「ふう。さてっと」


 息を吐き、整える。

 貴楽はグールとデュラハンを問題なく倒せる相手であると判断し、セットしたタイマーが鳴るまで狩りを続行した。



   †   †



 結果として、“聖魔法:初級”が“聖魔法:中級”にランクアップし、貴楽自身のレベルも15まで上昇することに成功。デュラハンのドロップアイテムである大剣は場所を取るため、階段下の小部屋に重ねて放置しておくことにした。


「この辺が限界、だな」


 貴楽はタイマー音を確認し、レベル上げを切り上げる。

 以前戦った時はレベルが遥かに高かった。だが、基礎ステータスやHP、MPは以前と遜色が無いレベルまで成長している。デュラハンやグールは貰える経験値が高くレベル上げに最適だったが、それは魔王との相性が良かったからであり、本来はソロで挑むのは危険な相手であった。仲間に話せばまた説教を食らうこと間違いなしである。


「よし、もうひと頑張りだ」


 貴楽はレッドドラゴンの許まで戻り、告げる。


「待たせたな。玉座への道を開けてくれ」

『良かろう。どのような結果になろうとも、風変わりな魔王であるお前のことは忘れないと約束してやろう』

「ははっ。ありがとうさん」


 レッドドラゴンが尾を上げると、その後ろから玉座へと向かう階段が迫り上がる。

 貴楽は息を1つ吐き、その階段を登って行く。

 タイムリミットまで残り90分。ゆるゆると陽が沈み始めていた。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

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