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第十四話 狩りにいきましょう 前編

少し短いですが前後編になります。ご了承ください。

 戦いとは、互いに相手の個性を意識した上で行う殺し合いのことを言う。一方的に相手を知り、自分を知られないで行う殺害のことを人は狩りと呼ぶ。

 貴楽達が行おうとしているのはまさしく狩りであった。

 大蛇をおびき寄せ、罠を仕掛け、逃さず、被害を受けず、一方的に殺傷する。

 そのための作戦なのだとゴブリンシャーマンは理解した。


「太陽、真上ニ来タ。主、来ルゾ」

「わかった。全員を所定の位置につけてくれ。俺はこのままここにいる」

「ワカッタ」


 ゴブリンシャーマンはゴブリン語で命令を出しながら貴楽の側を去った。

 貴楽が立っているのは、焼かれた元の巣の中央である。窪地になっており、周囲には木々もない。動きやすく視界も開けていた。

 でかい蛇、と聞いて貴楽は生物の本能的な恐怖を感じていたが、レッドドラゴンを思い出せばどんな蛇だろうと怖くはない。


「準備の時間だってかかってんだ。無駄にはできない」


 およそ3時間。それが準備にかかった時間であった。これまでに消費した1時間も合わせれば後6時間。ここで何も得られなければかなりのロスになる。

 貴楽は息を吐き心を落ち着かせる。

 やがて泉の水面が揺れ動き、圧迫感が広がっていく。波紋を1つ立て、白い大蛇が頭をもたげた。


 貴楽は唾を飲み込む。想像以上に巨大であった。顎を外れんばかりに開いた時、自分が縦に喰われる姿が容易に思い浮かぶ。

 泉の主はすぐにこちらを認識すると、その身を蛇独特の地を這う動きで静かに近寄ってきた。

 元巣の中まで入ってきた主は、貴楽の前でとぐろを巻き、感情の無い瞳で貴楽を睥睨する。


「一応聞くけど、会話とかはできるか?」

「……」

「無理か……。マジック〈聖付与〉」


 爬虫類の瞳からは感情が読み取れない。言葉も通じているのかどうかわからない貴楽は意思の疎通を諦めた。|調教〈テイム〉系の特殊能力などがあれば話も変わってくるのだろうが、無い物ねだりである。

 少し残念に思いながら貴楽が付与魔法を唱えた。それを戦闘開始の合図として、泉の主が巨体を滑らせ襲いかかる。


「でかいのに速い!?」


 全長が20mを越え、胴回りも3m以上はあるだろう。輪切りにした直径で目算1m近くあるのだから。そんな怪物とも呼べる大蛇が信じられないほどのスピードで貴楽に迫った。

 貴楽は焦る。動きの予兆を感じ取れないのだ。人型のモンスターや対人戦では、双方に呼吸や間合いがあり、効率的な攻撃を行うために力を溜め、或いは脱力させる動きがある。そこから動きを予知して反射よりも速く動くことができる。だが、大蛇は蛇特有の瞬発力によるノーモーションで貴楽に襲いかかっただけ。貴楽が会話を試みるその直前の睥睨していた段階で、既に攻撃の準備は終わっていたのだ。感覚の違い。大蛇にとっては戦いではなく単なる狩りであるがゆえ。


「ッ!」


 大蛇の牙が貴楽を襲う。左右前後に上、どこに回避行動を行おうと大蛇の追尾は免れない。貴楽の体を一飲みにできるその口を大きく開き、貴楽に噛み付いた。魔王の外套による〈自動防御〉もあり、体を一飲みにされることはなんとか回避した貴楽だが、その左腕に穴が空く。そしてそこから大量の毒が体内へと侵入してくる。“無効:全状態異常”が次から次へと侵入してくる毒を無効化していくのだけが貴楽にとって現状の救いであった。体内に持続し継続してダメージを与えてくる通常の毒の他、動きを阻害してくる麻痺毒に意識を曖昧にさせる朦朧効果まで付随している。


「ぐあっ!!」


 噛み付いたまま一気に頭を持ち上げる大蛇。体を一気に10m近く持ち上げられ、視界が揺らぐ。そして空中で一度放り出された。

「これ、は……!」


 空中に放り投げられれば、通常の生物は回避行動が取ることができない。ましてや蛇の毒で動きが鈍くなっていれば尚の事である。そのためこれは大蛇にとっては必殺の一撃だ。獲物を仕留める時は全力というのは基本であるが、様子見も弱らせるように引きずり回すこともしなかったのはこれまで必要としなかった強者の傲慢である。


 空中に貴楽を放り上げた後、再び食いつくために身を縮まらせ力を溜めた大蛇。今日の獲物は少ないが、いつもの獲物よりもでかくてすばしっこい。奇妙な皮膚で一飲みにすることはできなかったが、毒が回ったまま空中に放り投げることはできた。後はいつも通り丸呑みで終わりである。泉の主にとってみればただの食事であった。口を大きく開き、一気に空中の獲物へ襲いかかる。


「い、“移動:浮遊”ON!」


 空中で大蛇と交差するような機動で貴楽は動いた。歩くように斜め下へ。狙いを定めて突進した大蛇はその勢いのせいで十分な方向転換を行うことができない。一歩分の距離など、ごく僅かな修正で良いのだから本来ならば、攻撃は届いたはずである。だが攻撃が届くのであれば、貴楽の〈自動防御〉もまた発動する。質量の違い、踏ん張りの利かない空中で自動防御が発動しても、吹き飛ばされるのは貴楽であった。そこまでは貴楽の計算通り。これにより僅かに距離と時間を稼ぐことに成功した。


「ゴブリン!」

「任サレタ! マジック〈地縛陣〉!」


 隠れ待機していたゴブリンシャーマンによる魔法。それは相手の動きを阻害し移動速度を低下させる魔法である。その魔法では大蛇を倒すことはできない。だが動きを鈍らせればできることがある。


「入ッタ!」


 魔法が効いたことを確認したゴブリンシャーマンは続けざまに他のゴブリンに対して合図を送る。

 事前に決めた作戦が動き出す。大蛇が狩るのか、大蛇を狩るのか。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

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