表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/22

第十三話 連続クエストみたいです

 草木を掻き分け森の奥へ進む。

 獣道にもなっていないような道無き道であるが、幸いレベルアップにより上昇した基礎ステータスのおかげで苦にはならない。だが貴楽は隠密系の特殊能力を持っていないため、ゴブリン達に見張りなどがいれば見つけるのは容易いだろう。

 1対1の勝負ならばまず負けることはない。1対5になってもそれは変わらないと貴楽は考えた。既に基礎ステータスの時点で貴楽とゴブリンの戦力に差が開き過ぎており、ゴブリンが1体ずつ攻撃をしても自動回復の回復量を越えられない値になっている。これを超える数値をゴブリンが出そうとすれば、20体は同時にかかってくる必要があった。そんなにゴブリンがわらわらといても、貴楽に飛びかかれるのは精々が数体まで。安全圏だと思っていた矢先、貴楽はとある可能性に思い当たった。


「あ、弓矢なら20本同時に射ることはできるな。魔法ならもっとか。いかん。慢心してんな」


 一旦足を止め、慎重さを取り戻す。時間が限られているとはいえ、焦って死んでは身も蓋もない。

 気を引き締めて前に進むことしばらく。前方の木々の隙間から水の流れる音が聞こえてきた。レッドドラゴンが言っていた泉は近い。周囲の気配を感知すれば、小動物や虫達の気配を感じる。森の規模に対して反応は少ない。敵対意識は持っていないようだが、こちらを警戒しているらしい。このような状況では初級の気配察知ではあまり役に立たない。奇襲警戒に使える程度であった。


「そういや水も飲んでなかったっけ。飯も食ってないし……でも喉が乾くことも腹が減る感じもないな。どうなってんだこれ?」


 貴楽は腹の辺りをさすってみるが、内蔵系はきちんと入っているようであった。心臓の鼓動も感じ取れる。

 食欲はあるのだが、とても薄い。種族:魔王の特性か何かなのかと予想を立てて心のメモに記載しておく。

 そうこうしている内に木々を抜け、泉に辿り着いた。


「なんていうか、神秘的だな」


 小川から流れ込む水流が水面を揺らし陽光を反射する。鬱蒼とした木々も泉の上には無く、これまでより明るさを感じさせた。

 周囲を見回してみれば木々が広範囲にわたって倒れている箇所があった。焦げ付いた跡がある倒木からは既に新しい芽が咲き始めている。


「レッドドラゴンがふっ飛ばしたのはあの辺りかね」


 貴楽が何気なく近づくと木の上から聞き取りにくい声がした。気配察知には反応が無い。距離が離れている。


「ソコデ止マレ! ナンノヨウダ!」


 仰ぎ見れば直線距離で20mほど。見上げる位置にゴブリン達が弓を構えている。1人だけ杖を持ちローブを来たゴブリンが中心におり、理解できる言葉で話しかけてきたのだった。油断せずに貴楽は問に答える。


「竜の宝玉を取り戻しにきた! お前たちゴブリンが盗んだと聞いたぞ!」

「ドラゴンノ報復ハスデニ受ケタ。モウ宝玉ハナイ!」

「どこへやった? 泉に落ちたと聞いている。嘘は分かるぞ!」

「宝玉喰ワレタ」

「喰われた!?」

「ドラゴンノ報復、巣ヲ壊シタ。宝玉、泉ニ落チタ」

「なら泉の底にあるってのか?」

「水ノ中、泉ノヌシノ領地。ゴブリン、手ダセナイ……」


 ゴブリンの声に悔しさが滲む。手に入れた宝を手放してしまったことへの後悔であった。


「参ったな。潜るにもどれだけ深いかわからんし」

「オマエ、ゴブリン滅シニ来タンジャナイノカ?」

「さっきも言ったけど宝玉が目当てだよ」

「ナラ教エル」


 ローブを着たゴブリンが仲間のゴブリンに合図を送ると全員が構えていた弓を下げた。

 そしてローブを取るとその顔に刻まれた文様。肌の色も眼の色も他のゴブリンと同じだが、その目は明らかに理性を感じさせた。攻撃魔法を操るモンスター、ゴブリンシャーマンである。体に刻まれた文様で扱える属性が決まるが、どうやらこのゴブリンシャーマンは土属性の魔法を操れるようだった。

 ゴブリンシャーマンは手招きをして木の近くまで貴楽を呼び寄せる。貴楽も警戒は解かずに近づいた。


「何を教えてくれるんだ?」

「主、最初、小サナ蛇ダッタ。怖クナイ。デモ、宝玉喰ッテデカクナッタ。トテモトテモ大キイ」

「泉の主は大蛇なのか」

「主、ソレデモ最初静カダッタ。デモ泉ノ魚食イ終ワッテも腹減ラシテタ。主、ゴブリンモ喰ッタ」

「なるほどな……」


 最初は小さい蛇だったが、泉に落ちた宝玉を食べたことで大蛇となり、その体を維持するためか大量の食料が必要となっていく。その飢餓感は泉の魚を食い尽くしてもなお足らず、泉の外にでて動物やゴブリンを餌食にするようになってしまった。

 貴楽は納得した。周辺の気配察知に掛かる数が少なかったのである。


「主、モウスグ現レル時間。ゴブリン、マタ喰われる。オマエ、主倒セルカ?」

「わからん。話し合いは無理なのか?」

「主、言葉通ジナイ。止メテ。聞カナカッタ」


 ゴブリンシャーマンの声には無念さがこもっていた。周囲のゴブリンも理解しているのか、落ち込んでいる風に貴楽には見えた。


「そうか……。その泉の主が宝玉を持っているってんなら、倒さなきゃならんだろうな」

「倒シテクレルナラ、ゴブリン、オマエニ忠誠誓ウ。魔王ヨ」


 やはり魔王認識であると貴楽は思う。魔王のネームバリューは今のところ良い方向に働いてくれている。貴楽にとっては宝玉を手に入れるのは必要なことであり、時間が無い今の状況でゴブリン達の力を使えるのはとても助かるだろう。

 またゴブリンにとっても、何匹もの仲間を喰った泉の主を倒せるほど強力な保護者が現れてくれたのであれば、レッドドラゴンに怯える必要もなくなるため渡りに船である。


「ありがたい申し出だけど、倒してからだな。俺だけじゃ無理かもしれない。だから力貸してくれよ。一緒に倒そうぜ」

「ゴブリン、弱イ。喰ワレル。足手マトイ」


 貴楽は共闘を持ちかける。無論安全に泉の主である大蛇を倒すためだが、盾代わりに使おうとは思ってもいない。手が増えればやれることが増えるためである。だがゴブリンは自信をなくしており、仲間の敵討よりも足手まといの可能性を考えていた。貴楽は説得をはじめる。


「そんなことない。さっきここ来る前に戦ったゴブリン2体、すげぇ強かった」

「斥候ノ2匹、ゴブリンデモカナリ強イホウ。証拠、アルカ?」


 先ほど戦った2匹のことを話す。ゴブリンの反応からしてやはり仲間だったらしい。


「あいつらが持ってたナイフと弓矢。これでいいか?」

「確カニ……。魔王。オマエ強イ、ナ」


 アイテムを取り出しゴブリンに向けて掲げた。ゴブリンも貴楽の話を信じることにしたのか、口調が少し穏やかになっている。


「倒しちゃったけど、謝らんからな」

「仕方ナイ。ゴブリンノ役目果タシタダケ。恨ミナイ」


 あのゴブリンの死に様はカッコ良かった、そう貴楽は思っている。殺してしまったのは確かに襲い掛かられたからだけれど、何か尊敬できるものを感じていた。仲間のために命を賭ける、早々できることではない。そしてゴブリンシャーマンもそれを誇りに思っているのか、貴楽を責めるようなことは言わなかった。


「そう言ってもらえるとちょっと救われる。降りてきてくれるか?」

「オウ」


 木々からゴブリン達が降りてくる。貴楽の周りに集まったのは全部で40匹。子供も大人も雄も雌も貴楽には区別がつかないが、レッドドラゴンに巣を焼かれてそれから少しずつ増えていったのだろうと貴楽は予想した。


「これだけ数がいればいけそうだ。あんまり時間もかけられないし、作戦は単純なものだから」

「何ヲスル?」

「単純って言ったろ? 逃がさないようにするだけさ」


 貴楽は悪そうな笑みを浮かべたが、ゴブリンには貴楽の表情の変化の意味が分からなかった。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ