61.冒険者の準備
「シグナさん、こんにちは!」
「……あぁ」
冒険者ギルドに足を踏み入れると、いつもの席でシグナさんが待っていた。相変わらず威圧感はすごいけれど、もうすっかり慣れてしまったので、今では特に気にならない。
今日は、シグナさんと一緒に冒険者に必要な装備を見繕いに行く日だ。彼女に見立ててもらえるこの日を、ずっと楽しみにしていた。
「じゃあ、行こう」
「うん!」
シグナさんが立ち上がると、私はすぐにその隣へ並び、一緒に歩き出す。周囲からの視線がちらちらと向けられているのは分かるけれど、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
だって、冒険者としての一歩を踏み出す日なんだから。
冒険者ギルドを出ると、シグナさんは迷いなく目的地へ向かって歩き始めた。けれど、その背中を見てすぐに気づく。
……歩幅が、違いすぎる。
私は小走りにならないと追いつけず、一緒に歩くのもなかなか大変だ。どうしてこんなにも身長が違うんだー!
「……あっ、すまない。早かったか?」
しばらくして、シグナさんがようやく気づき、立ち止まってくれた。
「ありがとう、シグナさん。身長が違うから、シグナさんが速くって……」
「……気を付ける。少し、歩幅を狭くしよう」
そう言って、意識して歩幅を小さくしてくれる。……が、それでもやっぱり速い。
「シグナさん、まだ速いー」
「……あっ。すまない。気づかなかった」
思わず抗議すると、シグナさんの耳がしょんぼりと垂れた。その様子が、もう可愛い!
心なしか、しっぽまで元気をなくしているように見えて、思わず笑ってしまいそうになる。獣人……いい!
「まだ店には距離がある。もう少し、歩ける?」
「歩くのは平気だよ! でも、このままだとシグナさんが先にいっちゃうし……あっ!」
丁度いい、手段を思いついた!
「シグナさん、手をつなごう?」
「手?」
「それだったら、はぐれないよ。ほら!」
私が手を差し出すと、シグナさんは困惑した表情になった。まるで、私の手を握るのを拒んでいるかのようだ。その様子を見て、少し残念な気持ちになった。
だから、シグナさんの本心を聞いてみよう。
『私と手を繋いだら、手を潰してしまうんじゃないか? そんな、怪我をさせるような事を……』
……おや? どうやら、私が思っていたことを考えているわけじゃないみたい。
『こんな小さな手を握れば、きっと痛い目をさせてしまうかも。でも、小さくて可愛い手を握るなんて、そんな好機を……』
へー、好機だって思ってくれているのか。それはそれで嬉しいけれど、遠慮はして欲しくなかったな。
『怪我はさせたくないけど、手は握ってみたい。だが……』
凄く葛藤しているようだ。シグナさんがそういうつもりなら、私は……。
「はい、シグナさん!」
私からギュッと手を握った。すると、ビクッとシグナさんの体が飛び跳ねた。
「何をっ……」
「こうしていれば、はぐれないでしょ? ……それとも、ダメ?」
上目遣いで首を傾げると、シグナさんが唸った声を上げる。
「……ダメじゃない。だが……私は力が強いから……痛いんじゃないか?」
「大丈夫だよ。今だって、そんなに強く握ってないでしょ?」
「……大丈夫?」
「うん!」
不安そうなシグナさんに向けて、笑顔で答えた。すると、強張っていたシグナさんの表情が少しだけ柔らかくなった。
「……じゃあ、これで」
そう言って、シグナさんは前を向き、私に合わせてゆっくりと歩いてくれた。
ギュッと握るシグナさんの手は大きくて力強い。私の手なんか簡単に握り潰してしまうほどの力がありそうだけど、握る手はどこまでも優しかった。
「シグナさんの手、強そうなのに優しいね」
「……そう? そういうリオの手は小さくて……」
何か言いたそうだったけど、最後まで言葉にしてくれなかった。気になった私は遠慮なく、心のウィンドウを開く。
『こんなに小さくて可愛いだなんて……。守ってやりたい……』
そんな嬉しい言葉が聞こえてきた。そして、いつもの通知音が鳴り響く。
ピロン
『シグナ・ヴォルグ 好感度1アップ、愛情度2アップ』
愛情度の方が高い、だと? なるほど、触れ合うと愛情度が高くなるのか。これはメモを取っておかないとね。
◇
「わぁ! 色々ある!」
店の中に入ると、壁にかけられた武器が所狭しと立てかけられていた。
「この中から、自分にあったものを探そう」
その武器を見て、シグナさんが一つずつ確認していった。
「まず、このショートソードを持って」
「うん!」
すぐにシグナさんが一本のショートソードを手渡してきた。それを受け取ると、思いの外軽くて驚いた。
「どんな感じ?」
「思ったより軽いよ」
「……リオは見た目によらず力が強いな。ちょっと、振ってみて」
「うん」
シグナさんのいう通りに目の前で軽く素振りをする。やっぱり、思ったよりも軽くてとても扱いやすい。やっぱり、日常クエストで地道に鍛えてきたかいがあった。
「……リオは素質がある。その年齢なら、扱い辛いと思った」
「こう見えても、体は鍛えているんだよ」
「そう……。これは期待出来る」
「えへへ、そう? あと、私に扱えそうな武器はある?」
「このメイスはどう?」
次にシグナさんがメイスを渡してきた。とげが沢山ついた武器で、それを受け取るとずっしりと重い。
「振れる?」
「こう?」
言われた通りにメイスを振ってみた。問題なく触れるけれど、ショートソードよりも重くてちょっと扱い辛い。
「……なるほど。ちょっと、このメイスだと扱い辛いみたい」
「あっ、分かるんだ」
「まぁ、ね」
私の動きを見ただけですぐに看破するなんて、流石Aランクの冒険者。
「他にも武器はあるけれど、どうする?」
「うーん。シグナさんが剣を扱っているから、私も剣がいい! お揃いにしたい!」
「お、お揃い……。可愛い」
私の言葉にシグナさんは感激したのか、口元を手で覆った。なんとなく、ここまでのシグナさんを見ていると、可愛いものに目がない感じ? じゃあ、可愛く攻めたら落ちてくれるかな?
「まぁ、簡単に扱えるメイスか、その次に簡単に扱えるショートソードを使ったらいい。武器を変えるのは、その後でもいいと思う」
「ねぇねぇ。私、特別な所から武器を調達出来るんだけど。そこから良い武器を調達したほうがいい?」
「良い武器か……。それでも構わない。でも、成長が著しいとすぐに変えることになる」
「あー、そっか」
すぐ変えることになるんだったら、初めから良い武器を使わない方がいいだろう。経験もないし、ここは初心者らしく、一歩ずつ経験をしていこう。
「じゃあ、ショートソードにする!」
「あぁ。しっかりと教えるから、安心して」
シグナさんに教えてもらうんだ、不安なんてない! すると、シグナさんが良いショートソードを見繕ってくれた。これで、私もダンジョンへいける!




