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元社畜はウィンドウで楽しい転生ライフを満喫中! ~ゲームのシステムを再現した万能スキルで、異世界生活を楽々攻略します~  作者: 鳥助


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60/66

60.売り込み

「お姉さん、こんにちは!」

「あら、リオちゃんじゃない。こんにちは。今日はどうしたの? シグナに会いに来た?」


 冒険者ギルドのカウンターへ駆け寄ると、いつもの受付のお姉さんが、慣れた様子でにこやかに応じてくれた。


「ううん、今日はお姉さんに用事があって来たの」

「私に? もしかして、冒険者の相談?」

「今回はそれじゃないんだよね。これを見て!」


 私は胸の前で一枚の紙を差し出す。お姉さんは受け取ると、指で押さえながら内容に目を通した。


「ええと……グランデ商店の新商品の案内?」

「そう! お湯を注ぐだけで食べられる、即席スープを作ったの」

「へえ……お湯を入れるだけで?」


 お姉さんの視線が、自然とチラシに引き寄せられる。


「乾燥させた野菜とお肉を使ってるから、軽くてかさばらないの。持ち運びしやすいし、長く保存もできるよ」

「なるほど。保存がきくのは助かるわね」

「でしょ? しかも、お湯を入れるだけで、ちゃんと味のついた具だくさんのスープになるの。腹持ちもいいんだよ」


 私が身振りを交えて説明すると、お姉さんの目がきらりと輝いた。


「それは……かなり便利ね。好きな時に、必要な分だけ使えるってこと?」

「うん。瓶に詰めてあるから、好きな分量を選んで食べれるよ」

「確かに、冒険者は荷物を減らしたいものね。でも……どうして冒険者ギルドなの? 商業ギルドに話を持っていく方が早そうだけど」


 もっともな疑問に、私はうなずいてから答える。


「この商品、冒険者向けに作ったんだよ。ダンジョンに潜ったり、何日も町を離れたりするでしょ?」

「ええ、その通りね」

「そういう時って、火を起こすのも大変だし、食材も傷みやすいよね。でも、これならお湯さえあればすぐ食べられる。体も温まるし、疲れた時にもいいんだ」


 お姉さんは、冒険者たちの顔を思い浮かべるように頷く。


「確かに……長期探索や遠征にはぴったりね。食事を簡単に済ませられるのは、大きな利点だわ」

「でしょ? だから、まずは冒険者さんたちに知ってもらいたくて」

「うん、納得したわ。これは、冒険者に需要がありそう」


 そう言って、チラシを見つめるお姉さんの表情は、すっかり前向きになっていた。


「それで、このチラシをボードに貼り付けたいんだけど……いいかな?」

「もちろん、いいわよ。それ用のボードがあるし、そこに貼り付けておけばいいわ」

「本当!? ありがとう!」

「色んな人が見てくれるといいわね」

「うん! 早速、貼ってくるね!」


 お姉さんのエールを受けて、私はボードに向かった。そのボードにはお店の広告が貼られていて、とても賑やかだった。


 その空いているところにチラシを貼り付ける。これで、後は冒険者が見てくれれば、商品が売れる!


「あとはお客さんがくるのを待つだけだ!」


 ◇


「まだかなー、まだかなー」

「そんなにすぐに来るわけないだろう。大人しく、自分の部屋に戻ったらどうだ?」

「いいや、絶対に来る! 最初はちゃんと売り込みしたいから、私がいなきゃダメ!」

「やる気があるなー」


 お店のカウンターで兄さんと並んでお客さんを待つ。兄さんはいつものお客に対応して、私はインスタントスープのお客さんを対応することになっている。


 そのままワクワクと待っていると、またお客さんが入ってきた。それは、えんぴつと消しゴムを求めにやってきた商人じゃない。冒険者風のいで立ちの人たちだった。


 これは期待が出来る! ワクワクしながら待っていると、冒険者風の人たちは一通り店を見回った後、カウンターに近づいてきた。


「少し、話をしてもいいか?」

「もちろんです!」

「冒険者ギルドに貼ってあったチラシを見てきたんだが……。インスタントスープが売っているって」


 来た! チラシを見てきてくれた人たちだ!


「もちろん、ありますよ。こちらがインスタントスープになります!」


 私はカウンターの横に置いてあった瓶を目の前に出す。


「へー、これがお湯だけ入れると、具だくさんのスープになるのか」

「沢山入っているな。おっ、ちゃんと肉も入っているじゃないか」

「でも、本当に乾燥しているな。美味しいのか?」


 その人たちは興味津々に瓶の中身を見た。見た目は干からびていて、とても美味しそうに見えない。やっぱり、ここは買ってもらうために試食をしてもらうのがいいだろう。


「お兄さんたち、良かったら試食してみますか?」

「えっ、いいのか?」

「もちろんです! 今、用意しますね」


 私はカウンターを離れて、台所に行く。そこにはすでに用意していたお湯入りのヤカンがあり、それと一緒にマグカップを持ってお店に戻った。


「お待たせしました。では、今から実演しますね」


 私はテーブルの上にマグカップを置き、その中へインスタントスープの具を入れる。乾燥した野菜や肉の欠片が、軽い音を立てて落ちた。


 そこへ、用意していたお湯をゆっくりと注ぎ入れる。途端に、湯気とともにスープの香りが立ち上った。


「おぉ……これは」

「中々、いい匂いだな」

「見ろよ、具材が元に戻っていくぞ」


 冒険者たちが身を乗り出し、マグカップの中を覗き込む。乾燥していた具材が水分を吸い込み、少しずつ膨らんでいく様子は、見ていて分かりやすい変化だった。


 そして、お湯を注いでから数分――。


「はい。出来ましたよ。どうぞ、食べてみてください」


 十分に戻ったところで、マグカップを冒険者たちに手渡す。中身を確認してから、彼らは慎重にスープを口へ運んだ。


「……んっ! 味、うまいな!」

「野菜もちゃんと歯ごたえがあるぞ」

「肉も入ってるし、思ったより食べ応えがあるな。乾燥したものが、こんなふうになるのか……」


 次々と感想が飛び交い、冒険者たちは上機嫌でスープを飲み干していく。その様子を見て、私は内心でほっと胸を撫で下ろした。感触は、かなり良さそうだ。


「乾燥させているので、かさばりませんし、腐る心配もありません。お湯さえ用意できれば、すぐにスープが飲めます」

「確かに便利だな。瓶に入ってるから、量も自由に調整できる」

「包丁も鍋もいらないってのがいい」

「準備も片付けも楽だし、ダンジョン向きだな。こりゃあ、いいもんだ」


 冒険者たちの言葉に、確かな手応えを感じた。


「じゃあ、これを二瓶くれ」

「ありがとうございます!」


 早速売れた、しかも二瓶! 私は精算を済ませると、瓶を冒険者に手渡した。


「もし、使っていて良かったら、周りの人たちにも勧めてくださいね」

「あぁ、そうするよ」


 最後に宣伝も忘れずにしておくと、冒険者たちは上機嫌にお店を後にした。


 インスタントスープ、良い感じで売れそうだ。


「へぇ、売れたじゃん。良かったな、リオ」

「うん! これから、もっと売り込むよ! えんぴつと消しゴムも一緒にね」

「全く、なんでもかんでもって……。欲張りだなぁ」


 傍にいた兄さんはそんな私を見て苦笑いをした。

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