60.売り込み
「お姉さん、こんにちは!」
「あら、リオちゃんじゃない。こんにちは。今日はどうしたの? シグナに会いに来た?」
冒険者ギルドのカウンターへ駆け寄ると、いつもの受付のお姉さんが、慣れた様子でにこやかに応じてくれた。
「ううん、今日はお姉さんに用事があって来たの」
「私に? もしかして、冒険者の相談?」
「今回はそれじゃないんだよね。これを見て!」
私は胸の前で一枚の紙を差し出す。お姉さんは受け取ると、指で押さえながら内容に目を通した。
「ええと……グランデ商店の新商品の案内?」
「そう! お湯を注ぐだけで食べられる、即席スープを作ったの」
「へえ……お湯を入れるだけで?」
お姉さんの視線が、自然とチラシに引き寄せられる。
「乾燥させた野菜とお肉を使ってるから、軽くてかさばらないの。持ち運びしやすいし、長く保存もできるよ」
「なるほど。保存がきくのは助かるわね」
「でしょ? しかも、お湯を入れるだけで、ちゃんと味のついた具だくさんのスープになるの。腹持ちもいいんだよ」
私が身振りを交えて説明すると、お姉さんの目がきらりと輝いた。
「それは……かなり便利ね。好きな時に、必要な分だけ使えるってこと?」
「うん。瓶に詰めてあるから、好きな分量を選んで食べれるよ」
「確かに、冒険者は荷物を減らしたいものね。でも……どうして冒険者ギルドなの? 商業ギルドに話を持っていく方が早そうだけど」
もっともな疑問に、私はうなずいてから答える。
「この商品、冒険者向けに作ったんだよ。ダンジョンに潜ったり、何日も町を離れたりするでしょ?」
「ええ、その通りね」
「そういう時って、火を起こすのも大変だし、食材も傷みやすいよね。でも、これならお湯さえあればすぐ食べられる。体も温まるし、疲れた時にもいいんだ」
お姉さんは、冒険者たちの顔を思い浮かべるように頷く。
「確かに……長期探索や遠征にはぴったりね。食事を簡単に済ませられるのは、大きな利点だわ」
「でしょ? だから、まずは冒険者さんたちに知ってもらいたくて」
「うん、納得したわ。これは、冒険者に需要がありそう」
そう言って、チラシを見つめるお姉さんの表情は、すっかり前向きになっていた。
「それで、このチラシをボードに貼り付けたいんだけど……いいかな?」
「もちろん、いいわよ。それ用のボードがあるし、そこに貼り付けておけばいいわ」
「本当!? ありがとう!」
「色んな人が見てくれるといいわね」
「うん! 早速、貼ってくるね!」
お姉さんのエールを受けて、私はボードに向かった。そのボードにはお店の広告が貼られていて、とても賑やかだった。
その空いているところにチラシを貼り付ける。これで、後は冒険者が見てくれれば、商品が売れる!
「あとはお客さんがくるのを待つだけだ!」
◇
「まだかなー、まだかなー」
「そんなにすぐに来るわけないだろう。大人しく、自分の部屋に戻ったらどうだ?」
「いいや、絶対に来る! 最初はちゃんと売り込みしたいから、私がいなきゃダメ!」
「やる気があるなー」
お店のカウンターで兄さんと並んでお客さんを待つ。兄さんはいつものお客に対応して、私はインスタントスープのお客さんを対応することになっている。
そのままワクワクと待っていると、またお客さんが入ってきた。それは、えんぴつと消しゴムを求めにやってきた商人じゃない。冒険者風のいで立ちの人たちだった。
これは期待が出来る! ワクワクしながら待っていると、冒険者風の人たちは一通り店を見回った後、カウンターに近づいてきた。
「少し、話をしてもいいか?」
「もちろんです!」
「冒険者ギルドに貼ってあったチラシを見てきたんだが……。インスタントスープが売っているって」
来た! チラシを見てきてくれた人たちだ!
「もちろん、ありますよ。こちらがインスタントスープになります!」
私はカウンターの横に置いてあった瓶を目の前に出す。
「へー、これがお湯だけ入れると、具だくさんのスープになるのか」
「沢山入っているな。おっ、ちゃんと肉も入っているじゃないか」
「でも、本当に乾燥しているな。美味しいのか?」
その人たちは興味津々に瓶の中身を見た。見た目は干からびていて、とても美味しそうに見えない。やっぱり、ここは買ってもらうために試食をしてもらうのがいいだろう。
「お兄さんたち、良かったら試食してみますか?」
「えっ、いいのか?」
「もちろんです! 今、用意しますね」
私はカウンターを離れて、台所に行く。そこにはすでに用意していたお湯入りのヤカンがあり、それと一緒にマグカップを持ってお店に戻った。
「お待たせしました。では、今から実演しますね」
私はテーブルの上にマグカップを置き、その中へインスタントスープの具を入れる。乾燥した野菜や肉の欠片が、軽い音を立てて落ちた。
そこへ、用意していたお湯をゆっくりと注ぎ入れる。途端に、湯気とともにスープの香りが立ち上った。
「おぉ……これは」
「中々、いい匂いだな」
「見ろよ、具材が元に戻っていくぞ」
冒険者たちが身を乗り出し、マグカップの中を覗き込む。乾燥していた具材が水分を吸い込み、少しずつ膨らんでいく様子は、見ていて分かりやすい変化だった。
そして、お湯を注いでから数分――。
「はい。出来ましたよ。どうぞ、食べてみてください」
十分に戻ったところで、マグカップを冒険者たちに手渡す。中身を確認してから、彼らは慎重にスープを口へ運んだ。
「……んっ! 味、うまいな!」
「野菜もちゃんと歯ごたえがあるぞ」
「肉も入ってるし、思ったより食べ応えがあるな。乾燥したものが、こんなふうになるのか……」
次々と感想が飛び交い、冒険者たちは上機嫌でスープを飲み干していく。その様子を見て、私は内心でほっと胸を撫で下ろした。感触は、かなり良さそうだ。
「乾燥させているので、かさばりませんし、腐る心配もありません。お湯さえ用意できれば、すぐにスープが飲めます」
「確かに便利だな。瓶に入ってるから、量も自由に調整できる」
「包丁も鍋もいらないってのがいい」
「準備も片付けも楽だし、ダンジョン向きだな。こりゃあ、いいもんだ」
冒険者たちの言葉に、確かな手応えを感じた。
「じゃあ、これを二瓶くれ」
「ありがとうございます!」
早速売れた、しかも二瓶! 私は精算を済ませると、瓶を冒険者に手渡した。
「もし、使っていて良かったら、周りの人たちにも勧めてくださいね」
「あぁ、そうするよ」
最後に宣伝も忘れずにしておくと、冒険者たちは上機嫌にお店を後にした。
インスタントスープ、良い感じで売れそうだ。
「へぇ、売れたじゃん。良かったな、リオ」
「うん! これから、もっと売り込むよ! えんぴつと消しゴムも一緒にね」
「全く、なんでもかんでもって……。欲張りだなぁ」
傍にいた兄さんはそんな私を見て苦笑いをした。




