59.商品開発
「作る商品は……どんな形が一番いいかな?」
乾燥させた野菜や肉を、どうすれば手軽に食べてもらえるか。私は利用する側の立場を思い浮かべながら、頭の中で条件を一つずつ整理していく。
「まず前提として、乾燥した食材を食べるには水が必要になる」
戻し水がなければ、どれほど栄養価が高くても意味がない。ならば最初から、水を使うことを前提にした商品設計にすればいい。
「だったら……汁物にして売り出すのが、一番合理的じゃないかな?」
思い浮かんだのは、前世でよく見かけたインスタント味噌汁。お湯を注ぐだけで完成する手軽さ。調理の手間がなく、それでいて満足感も高い。
「乾燥野菜と乾燥肉をまとめて入れて、味付けまで済ませておけば……」
火を使えない場所でも、時間がない時でも、すぐに一食になる。冒険者や長旅をする人たちにとって、これほど便利なものはないはずだ。
「うん。この方向なら、使う人の負担も少ないし、価値も伝わりやすい」
小さく頷きながら、私は商品としての形を頭の中で固めていく。
「じゃあ、次は味付けだね。野菜と肉は乾燥できるとして……」
出来れば保存がきいて、扱いやすいものがいい。塩、砂糖、香辛料――候補はいくつも浮かぶ。
「……あっ!」
そこで、ふと思い出した。
「粉末の調味料があるんだった!」
そうだ。ポイント交換で粉末調味料を手に入れれば、味付けの問題は一気に解決する。私はすぐにウィンドウを開き、ポイント交換の欄に視線を走らせた。
「えーっと……粉末調味料は……」
そして、見つける。
「あっ、コンソメがあるじゃん! これなら、問題なし!」
乾燥野菜と乾燥肉にコンソメを加えれば、それだけで完成した汁物になる。味のバランスも安定していて、失敗しにくい。
「うんうん……これらをブレンドして、瓶に詰めて売り出せば……」
想像しただけで、売り場の光景が浮かぶ。
「これは売れる!」
イメージが固まった。これで、後は試作品を作るだけだ。
「よし! まずは材料となる、野菜と肉を買ってこないと!」
銀行のカードを手に持って、勢いよく部屋を飛び出していった。
◇
「買い物完了っと!」
銀行でお金を下ろしたあと、市場へ向かい、材料になる野菜と燻製肉を一通り買い揃えてきた。あと、瓶も。籠の中はずっしりと重く、これから始まる作業量を物語っている。
「あとは、これを一口大に切り分けて、乾燥させるだけだね」
そう呟きながら台所へ向かい、まな板と包丁を用意する。さあ、切り始めよう――そう思ったところで、背後から声がした。
「あら? ずいぶん買い込んだわね。野菜に、燻製肉まで……どうしたの?」
振り返ると、母さんが覗き込むように立っていた。
「これから、商品を作るんだ」
「また何か始めたの?」
半分呆れたように、半分心配そうに続ける。
「えんぴつと消しゴムが軌道に乗ったんだから、そっちに集中すればいいんじゃない?」
「もちろん、それも続けるよ」
私は包丁を握りながら答える。
「でも、新しい商品にも手を付ける。商売人として、売れるものは多いほうがいいでしょ」
「……何が商売人よ。まだ子どもなんだから」
そう言いながらも、母さんの声には本気で止める気配はなかった。
「いいけど、無茶だけはしないでちょうだいね」
「はーい」
一応の釘を刺して満足したのか、母さんは自分の持ち場へと戻っていく。
……さて。
「これで邪魔も入らないし、作業開始だね」
私は改めて包丁を構え、山のような材料に向き直った。
まずは野菜からだ。かごの中身を確認し、作業台の上に並べていく。根菜、葉物、豆類。色とりどりだが、量はどれも容赦がない。
「……うん、思ったより多いね」
独り言を漏らしつつ、包丁を入れる。ざく、ざく、と規則正しい音が台所に響いた。
汁物にする前提だから、大きさは一口大。戻したときに火が通りやすく、食べやすいサイズを意識して切り分けていく。厚すぎれば戻りに時間がかかるし、薄すぎれば乾燥中に崩れてしまう。
「このくらい……かな」
切った野菜は種類ごとに分け、籠や皿に並べていく。気づけば、作業台の半分以上が刻まれた野菜で埋まっていた。
次は燻製肉だ。包丁を入れた瞬間、独特の香ばしい匂いがふわりと広がる。乾燥させても風味を残したいから、こちらも大きさは均一に。
「脂身は……少し落としたほうがいいかな」
保存性を考え、余分な脂を削ぎ落としながら、肉も一口大に切っていく。野菜よりも力が要る分、手にじんわりと疲労が溜まってくる。
それでも、手は止めない。切っては並べ、切っては並べる。単調な作業が続くうちに、時間の感覚が薄れていった。
「……よし」
最後の一切れを置いたところで、ようやく包丁を置く。視線を上げると、台所のあちこちに並べられた大量の食材が目に入った。
「これは……なかなかの量だね」
一瞬だけ肩を回し、軽く息を吐く。
「でも、ここまで来たらあとは乾燥させるだけ」
そう自分に言い聞かせ、次の工程へ向けて準備を始めた。
「初めての魔法か……。上手く発動出来るかな?」
ドキドキしながら、切ったものに向けて手をかざす。意識を集中させると、魔法の発動を意識した。すると、自分の体から力が溢れているような感覚になる。
「あっ、いけるかも」
きっと、これが魔力なんだと思う。その魔力を集めて、魔法に変換する。
「乾燥魔法、いっけぇ!」
魔力を解き放ち、乾燥魔法を発動させた。すると、見えない風のようなものが吹き付ける。その風は切った野菜と燻製肉を一瞬にして包み込んでしまった。その瞬間、材料がどんどん乾燥していった。
「あっ、凄い! ちゃんと魔法が効いている!」
みずみずしかった野菜が縮んで乾燥し、燻製肉も水分が抜けてカラカラになっていく。そして、材料は一瞬にして乾燥された材料に変わった。
「やった! 魔法の成功だ! ……おっとっと」
喜んで手を上げると、ふらりと眩暈がした。
「もしかして、魔力を使ったからかな? なんか、体から力が抜けているような気がする」
まぁ、魔力は低いし、そんなには使えないということなのだろう。でも、今回分の乾燥は終わったから十分の成果だ。
「さて、乾燥は出来ているかな?」
乾燥させた野菜と燻製肉を手で触って確認する。どれも、水分が抜けて良い感じに乾燥している。
「いいねぇ。じゃあ、これが本当にお湯を入れたら食べれるか検証しないと」
器に乾燥した野菜と燻製肉、一さじのコンソメを入れる。今度はかまどでお湯を沸かして、器に入れた。温かいお湯が注ぎ込まれると、コンソメが溶けだし、野菜と燻製肉が水分を吸収する。
待つこと数分、良い感じに材料が水分を吸収したみたいだ。
「どれどれ、味見をしてみよう」
スプーンを手に取り、スープをかき混ぜる。良い感じにコンソメが溶けだしているし、野菜も燻製肉も元通りになっている。
スプーンですくい、一口食べてみる。すると、野菜のシャキッとした食感と燻製肉の塩気を感じ、コンソメの風味が口にいっぱいに広がる。
「うん、美味しい! これなら売れる!」
想像以上にちゃんと出来たスープになった。これなら、きっとお客さんも喜んでくれるに違いない。
商品は出来た! 後は売るだけだ!




