57.とうとう、冒険者登録
ようやく――本当にようやく、両親を説得することができた。これで、念願だった冒険者を体験できる!
胸の奥が高鳴るのを感じながら、私はマップ機能を開き、シグナさんの居場所を確認した。表示された反応は、冒険者ギルド。今日はギルドにいてくれているみたいだ。
私が「両親を説得する」と約束していたから、きっと結果が気になっていたのだろう。本来ならダンジョンへ向かっていてもおかしくない時間なのに、あえて待っていてくれたのが分かる。
「……待たせちゃったよね」
そう思うと、じっとしていられなくなった。だったら、両親の気が変わってしまう前に、一気に冒険者登録まで済ませてしまおう。
私は朝の澄んだ空気の中、家を飛び出した。足取りは自然と軽く、向かう先はただ一つ――冒険者ギルドだ。
◇
「シグナさん!」
いつもの席に腰掛けているシグナさんを見つけ、私は思わず声を弾ませた。俯いていた顔は、その声に気づいて顔を上げる。
「リオか。朝から元気だな」
「そういうシグナさんこそ。もしかして……朝早くから待っていてくれたの?」
「ま、まぁ……な。リオが説得してくるって言ってたから」
少し視線を逸らしながらの返事。本当に、約束を守って待っていてくれたらしい。
そのことが嬉しくて、胸の奥がじんわりと温かくなり、私は思わず笑ってしまった。
「それで、どうだった?」
今度は、心配を隠しきれない声音で尋ねてくる。結果が気になって仕方がない様子だ。だから私は、ぱっと手を上げてピースサインを作った。
「両親、説得できたよ」
「……本当か?」
「うん! ようやく、両親が折れてくれたんだ」
「……そうか。良かった」
一瞬だけ目を見開いてから、ふっと表情が緩む。その様子が、心から安堵しているのが分かって、期待してくれていたんだと思うと、また嬉しくなった。
「これで、これから一緒にダンジョンに行けるね」
「……あぁ」
「そこで色々話したり、冒険者のことも教えてくれるんでしょ?」
「無理をしない範囲で、な」
Aランク冒険者から直々に教わる機会なんて、そうそうあるものじゃない。それだけでも、胸が高鳴る。
「今から、どんな冒険が出来るのか……すっごく楽しみ!」
「ダンジョンはな。期待くらいなら、簡単に超えてくる場所だ」
「えっ、そうなの? どんなことが待ってるんだろう」
前世で読んだラノベや漫画みたいな冒険なのか。それとも、想像もつかない現実の冒険なのか。
考えれば考えるほど、胸の奥のワクワクは膨らんでいった。
「じゃあ、冒険者登録に行こう」
「うん!」
シグナさんが立ち上がると、カウンターに向かって歩いていく。私はその後についていった。
カウンターの前に立つと、そこには以前お世話になったお姉さんが座っていた。
「シグナとリオちゃんじゃない。二人してどうしたの?」
「実は両親を説得出来て、冒険者登録出来るようになったの!」
「えっ、本当!?」
不思議そうにしていたお姉さんだったが、私の話を聞いて驚いて立ち上がった。
「じゃあ、将来は冒険者で決定ってこと?」
「いや、それはまだ分からないよ。とりあえず、やってみたいからやってみるの」
「そ、そっかー……。そうよね、すぐには決められないわよね。だったら、これから冒険者の良いところを感じてもらうしかないわね。シグナ、頼んだわよ」
「……何故、私なの?」
「だって、リオちゃんのお世話をしてくれるんでしょ? だったら、あなたがちゃんと冒険者のことを教えて、冒険者沼に引きずり込むのよ!」
お姉さんが力説してシグナさんにお願いをする。シグナさんは戸惑ったような顔をして黙っていた。
「ちょっと、どうして反応が薄いのよ!」
「……無理はさせたくない。ただの可能性の一つとして、経験させればと思ったから」
「もう、シグナは消極的ね! 折角、将来の冒険者をこの手で逃すことになるのよ。そこはしっかりと繋ぎとめるって言ってもらわないと!」
お姉さんの圧が強すぎて、押され負けしそうだ。それでも、シグナさんはあくまで可能性の一つとして、道を指し示すだけに留まった。
「その話はいいから、登録をして」
「あぁ、ごめんなさいね。つい、力が入っちゃって」
シグナさんにやんわりと話を切られると、受付のお姉さんは咳払いをして表情を改めた。
「それじゃあ、改めて。こちらが冒険者登録用紙よ。必要事項を記入してちょうだい」
差し出されたのは、一枚のしっかりした紙。名前や年齢、得意分野、簡単な自己申告欄などが並んでいる。私は机に向かい、教えられた通りに項目を埋めていった。
書き終えた用紙を返すと、お姉さんは内容を一通り確認し、満足そうに頷いた。
「はい、問題なし。それじゃあ次は、冒険者制度についての説明ね」
そう前置きしてから、彼女は丁寧に話し始めた。
「冒険者にはランク制度があって、下から順にF、E、D、C、B、A、そして最上位のSランクまで分かれているわ。最初は全員、Fランクからのスタートよ」
なるほど。いきなり上から始められるわけじゃないんだ。
「ランクを上げるためには功績を積む必要があるの。功績っていうのは、ギルドや街、国にどれだけ貢献したか、っていう評価ね」
お姉さんは指で項目をなぞりながら説明を続ける。
「例えば、依頼を達成すること。魔物を討伐したり、素材を採取したり、護衛や調査を行ったり……内容は様々よ。依頼の難易度や危険度に応じて、得られる功績も変わるの」
ただ数をこなせばいい、というわけじゃなさそうだ。
「一定量の功績が貯まると、ランクが上がっていく仕組みよ。でも、ランクを上げるために無理な依頼を受ける必要はないわ。自分のランクと実力に合った仕事を選ぶのが、長く続けるコツよ」
そう言って、お姉さんはにこりと微笑んだ。思っていた以上に、ちゃんとした制度だ。ただ強ければいい世界じゃない。それが、冒険者という仕事なんだ。
「分かりました。ありがとうございます」
「じゃあ、これが冒険者証よ。依頼を受ける時や達成した時に出してね。これからの身分証になるから、なくさないように」
「おぉ、これが!」
そう言って、手渡された冒険者証。そこには自分の名前とランクが書かれていた。これを受け取ると、冒険者になった気分になる。
「じゃあ、他の詳しいことはシグナに聞いてね。きっと、リオちゃんの力になってくれるはずよ」
「分かりました! シグナさん、これからよろしくお願いします!」
シグナさんを見上げると、頭に手を置かれて撫でられた。
「……任せて。これから、よろしく」
そう言った、シグナさんの表情は驚くほど穏やかだった。いつもは強面で威圧が凄いけど、こんな表情も出来るんだ。ちょっとだけ、胸がキュッとなった。
その時――
ピロロンッ!
通知音が鳴り響き、ウィンドウが開いた。
『シグナ・ヴォルグの愛情度ランクアップのイベントクリア』
これで、シグナさんとの恋愛イベントはクリアした。ということは、これをきっかけにシグナさんの気になる人になれたってこと?
関係が一歩進んで、これからどんなことが起こるのか楽しみだ。




