52.あと、もう少し
あの後、私は心のウィンドウを開き、困っている人がいないか手あたり次第に確認してみた。すると、悩みを抱えているクラスメイトが何人も見つかる。
試しに、そのうちの一人に対して、先ほどと同じように手助けをしてみた。
結果は、予想通りだった。
再び、クエストが発生。その内容をクリアすると、パラメーターがはっきりと上昇し、ポイントも加算された。
……美味しい! いや、これはもう、美味しすぎる!
誰かの悩みを解決するだけで、これだけの報酬が得られるなんて。この手のクエストは、とてつもなく効率の良いイベントだ。
普通に行動するよりも、パラメーターの伸びは段違い。それに加えて、ポイントまで手に入るのだから話にならない。
つまり……。これは、ガチャ以外にも安定してポイントを稼げる手段が確立した、ということだ。
ポイントはいくらあっても困らない。今のうちに稼げるだけ稼いでおけば、その分だけ選択肢も広がる。
集めたポイントを元手に商売を広げれば、一攫千金だって夢じゃない。流れは、もう完全にこちらに来ている。
……これ、勝ち確じゃない?
胸の奥で高揚が膨らみ、思わず笑みがこぼれた。
「なんか、今日のリオはずっと笑っているね」
「えっ。顔に出てた?」
「うん。ずっと、何かを考えて嬉しそうだったよ」
隣に座るルメルに指摘されてしまった。まぁ、それだけこのクエストが嬉しいって言うことなんだけどね。
「それに、今日のリオは誰かのために動いていることが多いよね。いつもはちょっかいかけるだけなのに」
「そ、そんな……私はちょっかいかけるだけの子供じゃないよ」
誰だ、そんな迷惑な子は!? わ、私か?
「相手のために動けるのって、カッコいいね」
「そ、そう?」
「うん。今日のリオはなんか良い感じ」
ルメルはそう言って、満面の笑みを浮かべてくれた。むむむっ、やっぱり可愛い。それだけで、有頂天になってしまいそうだ。
「じゃあ、昼食も食べたし、帰ろうか」
机の上を片づけると、私たちは一緒になって学校を出た。話しながら校門に向かっていると、門のところに見慣れた姿を見つけた。
「あっ、セリスさんだ!」
今日もセリスさんが迎えに来てくれた。私は嬉しくて駆け寄ると、セリスさんがこちらに気づいてくれる。
「やぁ、リオ。学校は終わったか?」
「うん、終わったよ。セリスさんは見回りに出てたの?」
「そうだ。近くに寄ったから、リオの顔を見に来た」
わざわざ仕事中なのに寄ってきてくれるなんて、これはやっぱり好感度と愛情度が高いせいじゃないのかな?
「あっ、リオ。私は先に帰るね」
「ルメルも一緒に帰る?」
「ううん、お邪魔になりそうだから止めておくね。じゃあ、また!」
ルメルは遠慮して先に帰っていってしまった。
「むぅ。今日も逃げられてしまったか……。もう少し、親しみのある笑顔をした方がいいか?」
「そんなことないよ。ちょっと、ルメルが気をまわしてくれただけだよ」
「そうか。出来れば、子供たちからは好かれていたい存在でありたいものだ」
一部の子には人気だけど、やはり大半は騎士だということで遠慮をしてしまう。それだけ、騎士が高貴な職業だと思われているからだろう。
「今日もリオに付き添ってもいいか?」
「もちろんだよ! 一緒に帰ってくれて嬉しい!」
「そう言ってくれると、救われる。では、行こうか」
セリスさんが先導すると、その後を私がついていく。こうして、セリスさんが仕事の合間に会いに来てくれるのが嬉しい。
「今度また、セリスさんが働いている姿を見に行こうかな」
「それは歓迎するぞ! いつ、いつにする!?」
「すぐには決めきれないよー」
そう言うとセリスさんがかなり食いついてきた。きっと、私が騎士の仕事に興味を持ってくれそうな場面だから、こういう機会を待っていたらしい。
それにしても、セリスさんとの距離が大分近くなったように思える。前よりは親し気になったし、距離が近いように思う。
どれ……セリスさんの好感度と愛情度は? 好感度は71だ、これはもう親友という立ち位置になったといってもいいぐらいだろう。
愛情度は……18か。いつの間にそんなに上がったんだろう。でも、確か……もう一つ上がれば恋愛イベントが起こるんじゃないだろうか?
ふっふっふっ。だったら、愛情度を上げるしかないだろう。私は歩きながら、ちらりとセリスさんの横顔を盗み見た。
背筋は伸びていて、歩幅は私に合わせて少しだけ小さい。周囲を自然に警戒しつつ、それでも柔らかい雰囲気を崩さない。やっぱり、騎士って感じだ。
「……ねえ、セリスさん」
「どうした、リオ?」
少しだけ、勇気を出す。今なら、言ってもいい気がした。
「今日も迎えに来てくれてありがとう。仕事中なのに、私の顔を見に来てくれるの、すごく嬉しいんだ」
「それは……その……」
セリスさんは一瞬、視線を泳がせてから、咳払いを一つした。
「何かあったら大変だからな。護衛も兼ねているし、当然のことだ」
「ううん。違うよ」
私は首を横に振り、はっきりと言う。
「当然なんかじゃない。ちゃんと、優しいからだよ」
「……優しい、か」
小さく呟くその声は、少しだけ照れくさそうだった。
「それにね」
「それに?」
「セリスさんって、すごくかっこいい」
言った瞬間、セリスさんが目を見開いて驚いた。でも、止まらない。
「強いし、頼れるし、でも子供にもちゃんと目線を合わせてくれる。私は、そういうところが好き」
私の手は、無意識のうちにセリスさんの手をぎゅっと握っていた。
「……っ!」
セリスさんの体が、びくっと跳ねる。驚いたようにこちらを見下ろして、その耳がみるみる赤くなっていく。
「そ、そういうのは面と向かっていうものじゃないぞ」
「あ……ご、ごめん。嫌だった?」
慌てて手を離そうとすると――
「い、いや!」
今度は、セリスさんの方が慌てて声を上げた。
「嫌ではない。まったく、そんなことはない……!」
そう言ってから、少し間を置いて、声を落とす。
「……むしろ、その……嬉しい」
視線は前を向いたままなのに、握られた手だけは、離そうとしない。むしろ、ほんの少し力がこもった気がした。
「えへへ。よかった」
「こ、子供は……そういうことを、気軽に言うものじゃない」
そう言いながらも、口元はわずかに緩んでいる。普段の凛々しい騎士の顔とは違う、少しだけ弱い表情。
いいね、その表情。可愛い!
「でも、本当のことだよ?」
「……困るな」
そう言いつつ、セリスさんは私の手をそっと包み直した。
「そんなふうに言われると、守らねばならない理由が増えてしまう」
「じゃあ、もっと増やしてもいい?」
「……ほどほどにしてくれ」
苦笑しながらも、嬉しさを隠しきれない様子だ。これは、上がったか? そう思った時、通知音が鳴り響いた。
『セリス・アルディア 好感度2アップ、愛情度1アップ』
よっしゃ、来た! ということは!?
ピロロロロンッ!
いつもとは違う通知音が鳴り響き、ウィンドウが強制的に開いた。
『セリス・アルディア 愛情度ランクアップのイベント開始』
セリスさんとの恋愛イベントがキターッ!




