47.ブームが来たぁ!?
「たっだいまー!」
「よっ、おかえり」
店から帰ってくると、ちょうどカウンターに立っていたレオン兄さんと鉢合わせた。今日の店番は兄さんだったらしい。
「今日もちゃんと勉強してきたかー?」
「もちろんだよ! 勉強しすぎて、将来は学者になるかもね!」
「リオが学者だなんて、想像できねーな」
いつもの調子で軽口を叩き合い、私はそのまま店の奥へ向かおうとした。けれど――
「あー、ちょっと待て」
「ん? どうしたの?」
「最近よー、えんぴつと消しゴムの売れ行きが、妙にいいんだよな」
「えっ!? そうなの!?」
思わず足を止め、私は兄さんに詰め寄った。今まであの二つは、棚の隅で静かに眠っているだけの商品だった。知名度もなく、使い道も理解されていなかったから、正直ほとんど売れていなかったのだ。
それがここにきて、売れ始めている?
……やっと、気づかれ始めたんだ。
鉛筆で書けることの手軽さ。消しゴムで「失敗をなかったことにできる」便利さ。一度でも体験してしまえば、もう以前の不便な生活には戻れない。
それくらい、この二つは革命的な商品だと、私は本気で思っている。
「ちなみにどんな人に売れているの?」
「ほとんどがお店関係の人だ。どうやら、商業ギルドで使っているのを見て、欲しくなったんだとよ」
よし、よし、よーしっ! 商業ギルドで広めたかいがあった。きっと、職員が商人の前で使ってくれているのだろう。それを見た商人がその利便性に気づいて、商品を買いに来てくれているのかもしれない。
「兄さん! ちゃんと売り出せば、凄い売れ行きになるから、頑張って売って!」
「お、おう……。まぁ、リオのスキルで出したものだからな、それなりに頑張ってみるよ」
「それなりじゃ、ダメ! もっと、情熱を込めて!」
「すげー、熱いな」
熱く語ると、兄さんは苦笑いだ。
ここは、もっと積極的に売り出した方がいい。ここで成功すれば、定期的に売れる商品が出来たってことだから、定期収入が入ってくる。そうなってくると、お店のためになるし、私の貯金も増える。
やはり、ここは私が店頭に並んで、積極的に売り出した方がいいんじゃないだろうか? お試しに一本や一個を買ってくれるよりも、もっと大量に売りつけたい。
「よし! 私も一緒に売る!」
「は? リオが?」
「私がえんぴつと消しゴムの良さを伝えれば、もっと売れるはずだから!」
「本当に出来るのかー?」
「出来るもん!」
兄さんが信じられない顔をするが、私は気合の入った顔をして頷いた。私のトークスキルがあれば、きっと大量に売れるはず。
カウンターの所に椅子を持ってくると、兄さんの隣に並んでお客さんを待った。しばらく兄さんと談笑していると、お店の扉が開く。
「いらっしゃいませー」
「いらっしゃいませ!」
二人で笑顔で挨拶をする。お店に入ってきたお客さんがキョロキョロと店内を見渡した後、真っすぐこちらに向かってきた。
「何かお探しですか?」
「この店に鉛筆と消しゴムっていう物が売っているって聞いたんだが」
早速、お客さんが来た!
「もちろん、ありますよ!」
「ほら、リオ。持ってきたぞ」
「兄さん、ありがとう」
流石兄さん、行動が早い。
「こちらが鉛筆と消しゴムになります」
「おぉ、そうだ。これだ、これだ」
「もしよければ、試し書きしてみますか?」
「お、いいのかい?」
「じゃあ、使い方をレクチャーしますね」
私が鉛筆を持って、使い方を初めから説明した。部位の説明から鉛筆の削り方まで、丁寧に教えてあげた。
その後、紙を一枚取り出し、カウンターの上に広げた。
「まず、こうやって持ちます。力はいりません。軽く、ですね」
そう言って、私は鉛筆の先を紙に当て、さらさらと線を引いてみせる。炭や羽ペンと違い、音もなく、手も汚れない。
「おぉ……滑らかだな」
「はい。文字を書くのも簡単ですし、数字もはっきり残ります。帳簿を書く方には、特におすすめですよ」
商人は興味深そうに身を乗り出した。
「帳簿、か……確かに、羽ペンはインクが滲むことが多くてな」
「ですよね。でも、鉛筆なら滲みません。それに――」
私は、わざと少しだけ線を乱して書いてみせた。
「あっ、失敗した、と思ったら」
今度は消しゴムを手に取る。
「これを、こうです」
こしこしと軽くこすると、さっき書いた線は跡形もなく消えた。
「……やっぱり消えた!?」
商人の目が、一気に輝く。
「間違えても、書き直せます。帳簿でも、契約の下書きでも、計算でも。失敗を恐れなくていいんです」
「それは……かなり、助かるな」
私は、ここぞとばかりに畳みかける。
「しかも、インク代はいりません。補充も不要。削れば、またすぐ使えます。一本で、かなり長く使えますよ」
「……維持費が、ほとんどかからないってことか」
商人は腕を組み、真剣な顔で頷いた。
「正直に言いますね。これ、帳簿仕事をしている人ほど、手放せなくなります」
「……なるほどな」
少しの沈黙のあと、商人は顔を上げた。
「値段は?」
「鉛筆が一本、こちらで。消しゴムは――」
「いや」
商人は私の言葉を遮り、にやりと笑った。
「一本じゃ足りん。帳場用、倉庫用、予備……最低でも十本は欲しいな」
「消しゴムも同じくらい、ですよね?」
「当然だ」
思わず、胸の内でガッツポーズをする。
「ありがとうございます! では、まとめてご用意しますね!」
「いやぁ……これはいい買い物をした。教えてくれて助かったよ、お嬢ちゃん」
そう言って代金を支払う商人の背中を見送りながら、私は確信していた。
来た……! これ、絶対に流行る。
その時、ピロンという通知音と共にウィンドウが開いた。
『実績解除! 商品を商人に売りつける達成! 報酬:500ポイント』
実績解除君、生きてたんか! ポイントが美味しいです! こりゃあ、他の実績も解除したくなるなー!
でも、今は商品を売るのが先決。もっと、売りまくって、鉛筆と消しゴムを生活必需品にしてやるー!




