43.臨時クエスト
「セリスさんにも会ったし、次はシグナさんにも会いたいな……」
私の見立てでは、ルメル、セリスさん、そしてシグナさんは――いわゆる攻略対象者だ。積極的に関わっていけば、きっと何か良いことが起こる。いや、起こらないはずがない。これはそういう世界だ。
スローライフ系のゲームは、ゆったり味わえるところが魅力だけど、シミュレーションゲームは違う。選択肢ひとつで状況が変わり、未来が枝分かれしていく。その不確定さが、たまらなく楽しい。
こうしてウィンドウが存在するだけで、いろんなゲーム要素を体験できるのだから、お得感は満載だ。もしかしたら、この先はRPGやアクション的な要素まで加わるかもしれない。そう考えると、楽しみは尽きない。
なんて、少し先のことまで考えてしまったけれど、今はシグナさんのことだ。
セリスさんは「また来る」と言ってくれた。でも、シグナさんは違う。待っているだけでは、きっと何も起こらない。イベントを発生させるには、こちらから行動する必要がある。
やっぱり、ここは私が動くべきだ。
「よし。シグナさんに会いに、冒険者ギルドへ行こう」
◇
冒険者ギルドに入ると、中は前回同様、人でごった返していた。
「えーっと、シグナさんはいるかな?」
キョロキョロと辺りを見渡し、シグナさんを探す。あの威圧的な様子じゃ、きっと周りには人がいないだろう。だから、きっと見つけやすい。
そう思って、冒険者ギルド内を探すが、それらしい存在感を放つ人は見つけられない。というか、シグナさんが見当たらない。
「んー、もしかしてダンジョンに潜っているのかな?」
シグナさんは冒険者。ダンジョンに潜るのが仕事なのだから、ずっとここにいるわけでもない。ということは、今日はここにはいないということなのだろうか?
それでも、いつか現れるかもしれないと冒険者ギルド内で待つ。どこかにシグナさんの姿はないかなー?
「リオちゃん?」
その時、私を呼ぶ声がして振り向いた。すると、そこには職業体験でお世話になったお姉さんが立っていた。
「あっ、お姉さん! こんにちは!」
「こんにちは。今日はどうしたの? ……もしかして、冒険者登録に来てくれた?」
「あはは……。冒険者登録はまだ許されていないんだよねー。でも、必ず説得するから待ってて」
「それは頼もしいわね。冒険者登録に来てくれる事を祈っているわ」
そう、まだ両親には冒険者登録の許しを得ていない。まだ、十歳になりたてだと早いということだ。やろうと思えば十歳からでも登録が出来るというのに、過保護な両親を持つとこういう時が大変だ。
「それはそうと、シグナさんっていない?」
「あぁ、シグナに会いに来たのね。シグナはしばらくはダンジョンに戻っているわ。ダンジョンに潜ると、数日は帰ってこないから」
「そうなんだ!」
なるほど……。数日はダンジョンに潜る生活をしているのか。そりゃあ、急に来て出会えないはずだ。
「あと、どれくらいで帰ってくる?」
「そうねぇ……二日から五日ってところかしら。まあ、何事もなければ、だけど」
……結構、幅があるな。これはもう、シグナさんに会うためには、しばらく通う覚悟が必要そうだ。
「じゃあ、帰ってきそうな頃に、またここへ来るよ」
「ええ。シグナが戻ったら、リオちゃんが会いたがっていたって伝えておくわ」
「うん、ありがとう」
これで次こそ、ちゃんと会えるだろう。
そう思いながらお姉さんに手を振り、冒険者ギルドを出た――その瞬間だった。
ピロロロロン
『臨時クエスト発生』
「……へっ? 臨時クエスト?」
聞き慣れない通知音に、思わず足が止まる。突然のクエスト発生に、頭が一瞬真っ白になった。
恐る恐るウィンドウを開き、説明欄に目を走らせる。
『王都を一周せよ! クリア報酬:マップ機能追加』
「王都を一周するだけで……マップ機能が追加?」
正直、どうしてこのタイミングで発生したのかは分からない。考えられるのは、さっきのお姉さんとの会話だ。あのやり取りで、何かしらの条件を満たした……のかもしれない。
でも、王都を一周と、さっきの話がどう繋がるのかは謎だ。
「……まあ、いいか」
理由はどうあれ、ウィンドウの機能が増えるのは純粋にありがたい。しかも、条件は王都を一周するだけ。やらない理由がない。
「こういうクエストは、取りこぼさずにクリアしていかないとね」
私はそう呟くと、王都一周を目標に、勢いよく駆け出した。
◇
夕日が街並みを朱色に染める頃、私はほとんど体を引きずるようにして冒険者ギルドへと戻ってきた。
「あと、もう少し……」
正直、王都を一周なんて簡単だと思っていた。地図もないし、ただ外周をぐるっと回るだけ――その認識が、どれだけ甘かったかを、身をもって思い知らされた。
石畳はどこまでも続き、同じような通りが何度も現れる。市場、住宅街、スラム街……王都は想像以上に広く、そして入り組んでいた。
気が付けば、足は重く、喉はからから。途中で何度も立ち止まり、「本当に合ってる?」と自分に問いかけた。人の流れについて行ったら遠回りになり、近道を狙えば行き止まりにぶつかる。
それでも、戻るという選択肢はなかった。ここで諦めたら、きっとこのクエストは消えてしまう。そんな気がして――歯を食いしばって歩き続けた。
そして、ようやく。クエストが発生した、あの場所へと戻ってきた、その瞬間――。
ピロン
『臨時クエスト 王都を一周せよ 達成! ウィンドウにマップ機能が追加されました』
「よ、よっしゃー……」
思わず、その場にへたり込みそうになるのをこらえる。
「臨時クエスト……クリア、した……」
体は限界だったけれど、胸の奥には、確かな達成感がじんわりと広がっていた。
「じゃあ、お楽しみのマップ機能は」
すぐさまウィンドウを開くと、マップの項目が追加されていた。その項目を開くとすぐに地図が表示される。そこには現在地と共に周辺の詳細が記されてあった。
「まぁ、マップ機能ってこういうのだよね。縮小も拡大も自由自在か……。ん? この目のアイコンはなんだろう?」
指で操作していると目のアイコンが出てきた。それをタップすると、違うウィンドウが開き、街並みの光景が映し出された。
「わっ! これ、現在のその場の様子が見れるってこと? うわー、他人のプライバシー侵害し放題じゃん!」
これはとてつもない機能だ。離れた場所の状況を詳細にチェック出来るのだから、便利というか凶悪な機能だ。
「えーっと他には……検索機能? ……あっ、人物名が表示された。とりあえず、ルメルっと……。おっ! ルメルの現在地が表示された!」
なんと! 他人のいる場所まで分かるの!? じゃあ、目当ての人を地図機能で検索して、目のアイコンでこっそりと様子を覗き見るなんて事も?
凶悪……。この機能は凶悪ですよ!
「あっ、そっか! 私がシグナさんの居場所が分かればって思ったから、このクエストが出てきたんだ。なるほど、それだとこのクエストが出てきた理由が分かる」
今になってこのクエストが発生した意味が分かった。欲しいと思った時に欲しいと思った機能が付く。……神様、やるな。
上機嫌になった私はついついいつもの調子で要望メールに嬉しかったことを伝えた。すると、好感度が3、愛情度が2上がった。
……もしかして、神様も攻略対象者?




