42.楽しい帰り道(2)
なんだか、コマンドが多い気がするけれど……。とにかく、イベントが発生した!
赤いバーが灯り、イベントバトルが始まったことを告げていた。
「先ほどのトートバッグに関連してだが……大切な物は譲るべきか、守るべきか。その話題でいいか?」
「うん。私は守るべき派ね」
即答すると、セリスさんは静かに頷いた。
「では私は、譲るべきだと主張しよう」
そう言ってから、セリスさんは私をまっすぐ見た。
選択するのは……『正論をぶつける』だ!
「まずさ、大切な物って、簡単に譲っちゃいけないと思うんだよね」
「ほう。理由は?」
「時間とか努力とか、気持ちが全部詰まってるから。それを守るのは、悪いことじゃないでしょ?」
セリスさんは腕を組み、静かに頷いた。
「確かに。努力の結晶を尊重するのは、筋が通っている」
赤いバーが、ほんの少し減った。セリスさんは、少し考えるように視線を落としてから、落ち着いた声で言った。
「だがな。大切な物を独りで抱え込むことが、必ずしも良いとは限らない」
「どういうこと?」
「人に譲ることで、想いが広がることもある。分け合うことで、価値が増す場合もあるのだ」
なるほど、いかにも騎士らしい反論だ。私は少しだけ考える素振りを見せてから、首を横に振った。
「うん。でもそれって、譲る側が納得してる時の話だよね」
「……」
「無理に譲らせたら、想いは広がらない。むしろ、傷が残るだけ」
短く、でもはっきりと言い切る。
「納得してない譲渡は、分け合うじゃなくて、押し付けだよ」
セリスさんは、一瞬言葉を失ったように口を閉じた。
「……確かに、その通りだな」
赤いバーが、もう一段階、はっきりと減った。よし、良い調子だ。
じゃあ、次のコマンドは……『話をずらす』だ!
私はふっと表情を緩め、まるで思い付いた雑談みたいに切り出した。
「そういえばさ」
「……なんだ?」
「騎士って、大切な剣を人に貸したりするの?」
あまりにも唐突な問いに、セリスさんは一瞬だけ瞬きをした。
「剣、か……」
「うん。騎士にとって、一番大切な物でしょ?」
セリスさんは少し考え込み、慎重に言葉を選ぶ。
「基本的には……貸さないな」
「へえ。どうして?」
「剣は命を預ける相棒だ。扱いを誤れば、持ち主だけでなく周囲も危険に晒す」
「つまり?」
私は一歩踏み込む。
「大切だから、簡単には譲らないってことだよね」
「……そうなるな」
セリスさんは、そこでようやく気付いたように目を細めた。
「待て。それを、この話に繋げたな?」
「うん」
私は素直に頷いた。
「大切な物を守るって、独占したいからじゃなくて、責任があるからなんだよ」
「……」
「剣もトートバッグも、形は違っても同じじゃない?」
セリスさんは、しばらく黙り込んだまま、視線を遠くにやった。
「……確かに」
「貸さないのは、ケチだからじゃないでしょ?」
「そうだな。守るべき理由がある」
セリスさんは苦笑し、軽く息を吐いた。
「一本取られたな」
その言葉と同時に、赤いバーが目に急激に減少し――消失した。まさかのクリティカルヒット!?
『バトル完全勝利!』
パパパパーン! と、聞いたことがあるやたら勇ましい勝利のファンファーレが鳴り響いた。
セリスさんの背後には、花が舞い、キラキラ輝いた光が飛び、クラッカーまで鳴るお祝いムード全開の演出が出現していた。
「守るという行為が、独り占めとは限らない……か」
するとセリスさんは、私を見て静かに頷く。
「話をずらしたつもりで、核心を突いてきたな」
「えへへ」
「……討論終了だ」
彼は穏やかに微笑む。
「私の負けだ。守るという行為が、想いを閉じるものではないと理解した」
そう言って、私の頭に手を置く。
「よく考えている。立派だ、リオ。その考えは騎士に通じるものがある。流石、私が見込んだだけのことはあるな」
――ピロン。
『セリス・アルディア 好感度3アップ、愛情度2アップ』
『セリス・アルディアと討論、成功! ボーナスにポイント500』
よっしゃぁぁぁっ!! キタキタキターっ! 好感度に愛情度にポイント500!
やっぱり、このイベント美味しすぎる!
「どうした? 随分と嬉しそうだが……」
「スキルで良いことがあったの! セリスさんのお陰だよ!」
本当にセリスさん、様様! すると、セリスさんはそう言ってから、少しだけ視線を柔らかくした。
「なら……会いに来た甲斐があった」
「え?」
「君の役に立てたのなら、それだけで嬉しい」
さらっと言われたその一言に、私は思わず足を止めた。役に立てたなら嬉しいって、どんな騎士ムーブ!?
「騎士というのはな、誰かの役に立てたと分かる瞬間が一番報われる」
「……」
その言い方が、誇らしげでも押し付けがましくもなくて、ただ静かだったのがずるい。なんだか、セリスさんがかっこよく見えて仕方がないんだが!
「君が自分の考えを言葉に出来たのなら、それは立派なことだ。それを手伝えたなら、私は満足だよ」
……大人だ。圧倒的大人。私は内心で、尊敬メーターがぐいぐい上昇していくのを感じた。
なにこの人。私が教えたとか導いたとか言わないの……? ただ、役に立てて嬉しいって。
人格が強っ! そんな所を見せられたら、好感度も愛情度も上がってしまうやろー!
「もう、セリスさん!」
「な、なんだ?」
「かっこよすぎ、大好き!」
「なっ!?」
感情が高ぶって、鎧の上からセリスさんに抱きつく。こんなん、誰だって惚れてしまうわ!
その時、また通知音が鳴った。
『セリス・アルディア 愛情度3アップ』
ファッ!? 抱きつくだけで、めちゃくちゃ上がったんだが!? セリスさん、ちょろすぎ!?




