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迷貨のご利用は計画的に! ~幼女投資家の現代ダンジョン収益記~  作者: 旅籠文楽


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08. 初めてのピティ狩り

 


     *



 ダンジョンでは特定の階段を区切りに、棲息する魔物の種類がガラッと変化することが、今までの各国の調査から既に判明している。

 掃討者ギルドでは、この区分を『階層』と呼称している。

 例えば今スミカたちが侵入した、白鬚東アパートダンジョンに入ってすぐの位置にある、ピティだけが棲息している区画なら『第1階層』と呼ぶわけだ。


「わ、ホントに明かりはいらないんですね……」


 いつ魔物と遭遇してもおかしくない領域に踏み込んだあと、驚きの表情を浮かべながらフミがそう言葉を零した。

 ダンジョンの天井や床がぼんやりと淡い光を放っているため、照明器具がなくても、何の不自由もなく周囲を確認できる。

 一応、懐中電灯は持ってきているんだけれど。これなら別にいらなかったなと、スミカは内心で思った。


「採取オーブを一通り回収する感じのルートでいい?」

「あ、はい。地図を確認されるなら、私が周囲の警戒をしておきますが」

「それは大丈夫。地図はもう頭の中に入れてあるから」


 これでも有名私立大に現役合格できる程度には、頭に自信があるほうだ。

 特に図形記憶に関しては子供の頃から得意としている。流石に瞬間記憶能力を有する人ほどじゃないけれど、簡単な地図の記憶ぐらいなら造作もない。


「助かります。私はどうも地図が苦手で……」

「そういう人も結構多いし、しょうがないと思うよ」


 結構前に『女性は地図が読めない』みたいな言説が流行ったことがあったなと、ふとスミカは思い出す。

 あまり興味も無かったので、根拠がある言説なのかどうか調べたりはしなかったけれど。地図が読めない人なんて、別に性別問わず少なくないと思うんだよね。


 それにフミの場合は、地図が読めるかどうかなんてどうでもいいと思う。

 彼女はそれ以外の部分で、とても役に立ってくれるからだ。


「――スミカ姉様。通路を右に折れた先から、人ではない気配がします」

「おお……。そういうの、判るんだ?」

「はい。ダンジョンは静かな場所ですし、魔物も特に自分の気配を抑えようとはしていないみたいなので、わりと察知しやすいです」


 確かにダンジョンの中で響くのは、自分たちが奏でる足音ぐらいのもの。

 静謐な空間なので、他の音を聞き取りやすいというのは理解できる話だけれど。


 ……正直を言って、スミカには全然判らなかった。

 一応、楽器やってたこともあるし、耳にはそこそこ自信あったんだけどなあ。


「ちなみに数は判る?」

「3体です」

「いきなり最大数かあ……」


 こちらが2人パーティなので、その1.5倍に相当する、最大3体までの魔物と同時に遭遇する可能性がある。

 そのことは、もちろん承知していたつもりだけれど。できれば1~2体の魔物を相手にまず1戦して、練習を積んでおきたかったのも事実だ。


「壁際に追い込まれないことと、回避した時にぶつからないように注意しようね」

「了解です」


 そのことだけ合意を得てから通路を進み、右への曲がり角から顔だけを出して、こっそり先を覗き込んでみると。

 果たして、そこにはフミが言った通り、3体のピティ達が居た。


 何も言わずにフミと視線を重ね、頷き合う。

 それから2人同時に曲がり角の向こう側へと、身を乗り出した。


「来なさい!」


 スミカが声を張り上げると、無警戒に歩き回ったり飛び跳ねたりしていた3体のピティ達が、一斉にこちらへと駆け寄ってくる。

 見た目は可愛らしいウサギなのに、ピティの体躯は大型犬並みに大きい。それが3体も同時に駆け寄ってくるのだから、威圧感はなかなかのもの。

 ただ足は遅いようなので、心構えをする時間は充分にあった。


 予想外だったのは、3体全部がスミカに向かって飛びかかってきたこと。

 やっぱり身長が178cmのスミカと、140cmより少し低めに見えるフミが並んでいれば、ピティの目には前者のほうが目立って見えるんだろうか。


 まあ、沢山の魔物が一度に来ても、やることは変わらない。

 十分に引き付けて、ピティ達が跳躍したのを目視してから、すぐに左にステップを踏んで回避する。


「――ギピェ!」


 お腹からビターン! と、思い切り地面に叩きつけられた3体のピティが、悲鳴混じりの声を上げる。

 ……あれは痛そうだなあと、思わず目を覆いたくなるけれど。とはいえ、こちらを攻撃してきて勝手に自傷しただけなので、特に同情する気持ちは湧かない。


 とりあえず、安全のために一旦5mほど距離を取る。

 体勢を立て直したピティのうち2体が、再びスミカに向けて飛びかかってきたので、これもステップで回避。

 残る1体は、狙いをスミカからフミに変えたようだ。


「グピェッ……」


 攻撃を3度回避すると、ちょっと汚い断末魔を上げながらピティの身体が光の粒子へと変わり、周囲に霧散して溶け消えた。

 この光の粒子が講義で聞いた『魔力』なんだろう。体がほんの少し温かくなったように思えたのが、魔力が蓄積した感覚なのかな。


 少しだけ遅れて、フミに狙いを変えていたもう1匹のピティも倒れる。

 3体全てが討伐されたことで、再び周囲に静けさが戻ってきた。


「これ、2人ぐらいまでがちょうど良さそうですね」

「そうだね。3人以上だと、ちょっと手狭に感じるかも」


 このダンジョンの通路の幅は、大体3mぐらい。

 横に並んで立ち、ピティの攻撃を回避するスペースも確保することも考えると、3人以上だとスペースが足りなさそうに思える。


 もちろん一番楽なのは単身(ソロ)だろうけれど。

 手っ取り早く魔力を回収して『祝福のレベルアップ』を経験してしまいたいことも考えると、2人パーティが最も都合が良さそうだ。


「思った以上に楽なので……魔力を『100』貯めるぐらいなら、そんなに苦労はしないかもしれませんね」

「そうだね。今のだけで『3』も稼げたわけだし」

「――あ、お代わりもあります。この先の丁字路の左、たぶん2体です」

「おっ、了解」


 敵より先に存在を知ることができるというのは、本当に有難い。

 魔物から不意を打たれるリスクが減るし、精神的にも余裕ができる。


 続く2体のピティも、回避に専念して危なげなく討伐。

 すると、光の粒子となって消滅した魔物が最後にいた場所に、ピンク色のゴムボールのような物体が2つ残されていた。


「わ、初ドロップアイテムですね」

「そうだね。都合よく2つ落としてくれたみたい」


 討伐した魔物が落とすアイテムは、基本的には現物がそのまま残るんだけれど。例外として肉や野菜のような生鮮品がドロップアイテムの場合には、ゴムボールのような膜に包まれた状態で産出する。

 今回のケースだと、ゴムボールの中に入っているのは『ピティの肉』。

 ゴムボール1個につき、2kgぐらいの肉が入っていると聞いていたけれど。実際に手に持ってみて、確かにそれぐらいの重さだなと思う。


 2個出たので、フミと1個ずつ分けて、お互いのリュックサックに収納する。

 ボールに入っているから、雑に扱っても大丈夫なのは助かるんだけれど。代わりにとても嵩張るので、リュックの中にあまり沢山は入らなさそうだ。

 どうせならジップロックとかに入った状態で出てくれれば、荷物としても嵩張りにくいのになあ――と、内心でそんなことも思った。


「リュックには入っても8個ぐらいかなあ」

「そうですね、私も同じぐらいかも。これって買取価格は幾らでしたっけ?」

「600円だね」

「うーん、絶妙な金額……」


 そう告げて、フミが小さく苦笑してみせる。

 嵩張るとはいえ、600円の価値があるものは無視できない。もし途中でバッグが一杯になったとしても、たぶん捨て置くことはできないだろう。


 残念ながら、それ以降は魔物と遭遇するペースが落ちてしまって、大体10分に1戦ぐらいのペースになる。

 ピティの数は2体か3体のことが多く、1体だけということは少ないようだ。そのお陰で遭遇頻度は落ちても、魔力の蓄積ペース自体はそれほど悪くなかった。


 2時間ほど探索を続けて、とりあえず掃討者ギルドのWebサイトに本日ぶんとして掲載されていた、3箇所全部の採取オーブを回収した。

 その間に倒したピティの数は全部で35体。ドロップしたアイテムはゴムボールに入ったピティの肉が4個、ピティの毛皮が5枚、そして魔石が3個。


 運が良かったのか、討伐数のわりに結構アイテムは拾えたような気がする。

 もちろんこれに加えて採取オーブから回収したアイテムもあるから、収入の総額では、それほど悪い金額にはならないんじゃないだろうか。


「ん……。すみません、ちょっと集中力が切れてきた気がします」


 13戦目を終えたあと、フミが静かにそう告げた。

 無理もない。ギルドで講義を2単位受けて、試験も受けて、そこから更に探索をやっているわけだから、集中力が持たないのも当然だろう。


「じゃあ帰ろう。こういうのは余裕があるうちに切り上げるべきだろうしね」

「そうですね。変に怪我とかしてしまったら、そっちのほうが嫌です」


 というわけで、帰還方針がすぐに決定。

 ちょうど地下2階へ繋がる階段がすぐ近くにあったので、一旦そちらへ移動してから、上り階段があるほうを目指す。


 上り階段と下り階段を繋ぐ最短経路は、本免許まで取得している掃討者の人達がよく通行するので、魔物と遭遇する可能性が低いと講義で教わっている。

 実際にその講義内容を裏付けるように、そこから地上までは1度もピティと遭遇することもなく、無事に戻ることができた。





 

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サキュバス男子は配信視聴者に夢を見せるか? ~現代ダンジョンの女装コスプレ攻略記~

https://book1.adouzi.eu.org/n9768ka/


↑世界観を共有する現代ダンジョンのお話を、本作と同日から投稿しています。

(タイトルがいまいち気に入らないので、近い内に変えるかもしれませんが)


男主人公モノで女装があったりと、本作とは異なる部分も多いのですが、

よろしければ併せてお読み頂けましたら幸いです。

(※BLではありません。敢えて言うならおねショタです)



本作はこれ以降【隔日更新予定】になります。よろしくお願い致します。

(こっちの投稿がお休みの日は、多分あちらを投稿しています)

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