61. 支援と罰
投稿ペースが乱れがちで申し訳ありません。
上手く話を区切れなかった都合で、2話分の量があります。
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村長の家――もとい、コニーの家の隣に早速スミカは《階層投資》を活用して、家屋を設置させて貰うことにした。
充分の広さの空き地なので、3LDKぐらいの普通の一軒家でも、あるいはそれ以上のサイズの家屋でも設置できそうだけれど……。
とはいえ、いきなり大きな家を建てても、部屋を持て余すだけかな。
(一応、泊まる場所として使うことがあるかもしれないから――)
頭の中に『間取り』を正確にイメージしてから、スミカは家屋を設置する。
2階建ての建物だ。間取りとしては『1DK』になるけれど、1階部分が12畳ぐらいあるダイニングキッチンになっているので、コニーが住んでいる家屋よりは確実に一回り大きい。
「さ、流石は投資者様です。一瞬で家屋をお建てになるとは……」
建物を《階層投資》で設置する光景を、スミカのすぐ隣で眺めていたコニーが、驚愕をあらわにした表情でそう言葉を零した。
普通なら家を1軒建てるとなれば、人手も資材も、そして期間もそれなりに必要となるだろうから。彼女が驚くのも無理はない。
「これを建てるだけで、金貨を62枚使っちゃってるけどね」
「金貨を62枚――『62gita』もですか⁉ な、なるほど……。一瞬で建てられるぶん、沢山の金貨が必要になるわけですか」
「コニー、敬語やめてね」
「あっ、ごめんなさい。気をつけます……気をつけるわ」
設置コストが高く付いたのは、色々と別の事情があるからなんだけれど。
まあ……その辺のことは説明すると長くなりそうだし、別にいいかな。
とりあえずコニーと一緒に、設置したばかりの家屋へと入る。
1階には広めのダイニングキッチンがあるわけだけれど。それ以外にも今回は、家屋内にトイレとお風呂を備え付けにしてみた。
つまり、この家には『電気』だけでなく、『上下水道』と『ガス』も整備されている。
トイレで水を流せるのはもちろん、ガス給湯器も設置したのでお風呂で熱い湯を使うことも可能だ。
キッチンでは水やお湯が自由に使えて排水もできる。コンロも使用できるので料理も可能。
また家屋内全体でシーリングライトなどの照明器具が利用できるので、どの部屋でも常に明るさを保つことができる。
――ぶっちゃけ、スミカも普通に暮らせるレベルの家だ。
また今回は、キーナへ娯楽を提供することを前提として、壁にコンセントだけでなく『アンテナ端子』の差込口を用意してみた。
なので、あとは家電量販店でテレビを購入して持ち込めば、普通に地上波放送の視聴ができる筈だ。
一体どこから水やガス、電気が供給されているのか。
流した水が一体どこへ消えるのか。
そして地上波を受信するアンテナがどこにあるのか。
色々と謎の多い家屋になってしまったけれど……この際、深くは考えない。
高い設置コストを支払いさえすれば、インフラ各種が問題なく利用できることは既に確認済みなわけだしね。
ちなみに設置コストは、建物自体はたったの『金貨5枚』しか掛かっていない。
つまり電気とガス、上下水道といったインフラ各種や、テレビのアンテナ端子を利用できるようにするために掛かったコストが、残る『金貨57枚』分だ。
あ、それとガス給湯器の設置コストも、これに含まれてるかな。
【下位吸血鬼の集落】の設置コストが『金貨32枚』だったことを考えると、この家屋だけで実にその倍近いコストが掛かっているわけだけれど。
まあ、電気代やガス代、上下水道代といったランニングコストが掛からないようなら、初期費用の高さは許容できる範囲ではある……のかな?
(うわ、テレビ高っ……)
なお、試しに《階層投資》でテレビを設置することを頭の中で意識してみると、設置には少なくとも『金貨30枚』以上のコストが掛かることが判った。
金貨1枚で大体30万円相当の価値があるわけだから、現代通貨に換算すると、テレビひとつで約900万円ということになる。
どう考えても、普通に家電量販店で買い求めるほうがマシだ。
ソファとかテーブルぐらいなら、安価で設置できるんだけれどね……。
たぶん電気製品系の設置には、高額のコストが掛かってしまうのかな。
まあ、現代技術の結晶みたいなものなんだから、これは仕方ないのかも。
「随分と清潔で明るい家ね……。私が居ると、汚しちゃいそうで怖いわ」
「そう? じゃあ綺麗になろっか」
「……え?」
「とりあえず、お湯を張るのをセットしてくるから、ちょっと待っててね」
そう告げてスミカは、コニーから離れて脱衣所のほうへ。
お風呂場に入り、洗浄の必要がない清潔な浴槽に栓をして、お湯を溜め始める。
このまま10分も待てば、ちょうど良い量のお湯が貯まるだろう。
「お待たせー。ちょっと10分ぐらい、話をしよっか」
「あ……は、はい。何を話しましょうか?」
「コニー、敬語」
「ご、ごめんなさい」
流石にそろそろ慣れてくれないかな、とも思う。
まあ、すぐに敬語に戻っちゃうコニーも、それはそれで可愛らしいんだけれど。
ダイニングキッチンにテーブルを設置し、椅子も2脚設置。
このぐらいなら設置コストは合計で金貨1枚も掛からない。
そして再び、魔法の鞄から急須とマグカップを取り出し、今回は紅茶ではなく、緑茶を2人ぶん淹れてみた。
「どうぞ。さっきと違うお茶だから、口に合うかは判らないけれど」
「あ、ありがとう」
淹れたての熱いお茶を、コニーがふーふーと冷ましながら口にする。
彼女の幼い容姿と相俟って、その仕草がなんとも可愛らしくて。
見ているだけで、スミカは自然と顔が綻んでしまう。
「……少し苦めだけれど、美味しいわね。これはなんというお茶なの?」
「静岡の本山茶だね。気に入ったなら今度、茶葉を買ってくるよ」
「そうね、負担じゃないようなら是非」
「うん」
本山茶はわりと、ちゃんと判るレベルの苦味もある緑茶だから、好みに合うかどうかはあまり自信がなかったんだけれど。
どうやらコニーは、お世辞ではなく本当に気に入ってくれたみたいで。しっかり味わうように、何度も緑茶を少量ずつ啜っていた。
コニーはまるで西洋のビスクドールのような容姿をしているけれど。味の好みは案外日本人に近かったりするのかな?
「コニー、今のうちに村長のあなたに訊いておきたいんだけれど。なにか現状で、困っていることや私の手助けを必要とすることなどはある?」
「いいえ。投資者様は我々のために家屋を造り、畑や牧場を整備し、井戸や家畜も用意してくださるなど、充分な支援をして下さっています」
「そう? 本当に、私に手伝えることは何も無い?」
「それは……」
スミカが問いかけた言葉に、コニーが僅かに口ごもる。
これは――何かしらの、多少の問題はあるってことかな。
おそらく、喫緊の問題では無いんだろうけれど。対処法に悩んでいる、それなり程度の課題は抱えていそうだ。
「聞かせて?」
「い、いえ。ですが」
「コニー。実は私は同性愛者でね、可愛らしい女の子が堪らなく好きな性分なの。特にいま私の目の前に居る、コニーみたいな女の子とかがね」
「えっ……?」
スミカの言葉を受けて、コニーはしばらく目を丸くして驚いたあと。
たっぷり10秒ぐらい経ってから――判りやすく顔を赤らめてみせた。
コニーの表情の中に、嫌悪感のようなものが全く含まれていないのを確認して、スミカは内心でほっと安堵する。
流石に、同性愛自体に生理的嫌悪を覚える相手は、口説きようがないからね。
むしろ反応を見る限り、彼女には脈がありそうでとても嬉しい。
「好きな相手は無条件に応援したくなるから。もし何かコニーのために、手伝えることが私にあるなら、正直に教えて欲しいな」
「投資者様……」
コニーの瞳を、ただじっと見つ続けていると。
たっぷり1分ほど逡巡したあと、観念したようにコニーは話し始めてくれた。
「実は……食料をどうしようか、少し悩んでおります」
「食料? 吸血鬼の食料ってことは、やっぱり『血液』?」
「そうですね、それが最上にして理想ではあります。ただし吸血鬼は同族から、つまり吸血鬼から血を吸っても糧にはできません。なので村民同士で血を吸い合う、みたいなことはできないのです」
「なるほど。吸血するなら、別の種族の相手が必要となるわけだね」
「はい。血を吸う対象は魔物でも大丈夫ですので、例えば人型や獣型の魔物がこのダンジョンに棲息しているなら、その相手から糧を得るのですが……。
集落ができたばかりでまだ充分な調査ができておりませんので、もし投資者様がご存知でしたらお教え頂きたいのですが。ここの近隣階層に棲息する魔物は、一体何なのでしょうか?」
「下は判らないけれど、上の階層に棲息しているのはアンデッドの『グーラ』っていう魔物だね」
「グーラ……死人系の魔物ですね。この階層が『墓場』を模したフィールドなので予想はしていましたが、やはりアンデッドですか……。
吸血鬼が糧にできるのは新鮮な血液だけなので、実はアンデッドの魔物はあまり好ましくないのです。血を吸えば我らの健康が害されてしまいます」
つまりアンデッドは、彼らの食料にはできないわけだ。
うーん。このダンジョンに彼らの集落を作ったのは、失敗だったかなあ……。
「とはいえ、あくまで新鮮な血液は我々にとっての『理想の食料』というだけで。普通の食料を摂取するだけでも、我々は問題なく生活はできます」
「あ、そうなの?」
「はい」
それなら畑や農場があるんだから、なんとかなりそうなんだけれどな。
――と、そう考えたスミカの思考を読むように、コニーが続けた。
「投資者様が整備くださいました現在の農地は、充分に開墾された良い場所です。また我々は月明かりだけで問題なく成長する、作物の種を何種類か所持しておりますので、常に『夜』であるこの階層での農業にも問題はありません。
しかし――これから播種を行うわけですから、作物を収穫できるのは、どんなに早くとも1ヶ月以上は後になってしまいます」
「ああ、なるほど……。差し当たって、すぐに食料として利用できるものが無いから困っているわけだ?」
「はい。仰る通りです」
コニーの家を訪ねるまでの道程で、スミカは村内に牧場があり、それなりの数の鶏と牛が飼われている光景を確認している。
なので農場での収穫が先だとしても、牛乳や鶏卵ぐらいなら採れるだろう。
でも、逆に言えば――すぐに得られる食料が、その2つしか無いわけだ。
牛乳と鶏卵だけでは、全部で50人も居る村民の食料には到底足りない。
幸いというべきか、集落内の土地は『草原』になっているので、飼料を用意しなくとも牛や鶏が飢えることはないだろうけれど。
まさか村民に草を食ませるわけにもいかず、コニーは悩んでいるわけだ。
「やはり家畜を屠殺するしかないのかな、と考えておりますが」
牛や鶏を食肉にすれば、当座の食料は確保できる。
コニーの口ぶりから察するに、何割かの家畜を屠殺すれば、作物が育つまでの期間をしのぐことは充分に可能なんだろう。
とはいえ、家畜は絞めてしまえばそれまで。
牛にしても鶏にしても、長く育てればそれだけ集落に恵みを与えてくれる家畜なわけだから、コニーが屠殺をもったいなく思い、躊躇うのは当然だと言えた。
「そういうことなら、暫くの間は私が食料を支援するよ」
「非常に助かりますが……よろしいのですか?」
「うん。でも、ある程度の見返りは求めても良い?」
スミカがそう告げると、コニーは迷うことなく、即座に頷いてみせた。
「それは当然です。どのような形で報いればよろしいでしょうか?」
「この集落に住んでいる人達のレベルって、どれぐらい?」
「大体『20』前後ですね」
「おおー、強い」
想像していたよりも村民のレベルがずっと高いことに、スミカは驚かされる。
レベル『6』のスミカよりも、遥かに格上じゃないか。
「それなら、レベル『3』のグーラは討伐できる?」
「もちろん余裕です。我々は全員が攻撃系の魔術を使えますので、接近も許さずに討伐できるかと」
「じゃあ、ちょっとお願いしたいことがあるんだけれど……」
スミカはまず、自身の『投資』能力を行使して、第3階層に配置されている宝箱の数を通常よりも大幅に増やしていることを説明する。
そして、もしこの集落に住む『下位吸血鬼』の住人の中に手が空いている人が居るようなら、第3階層を探索して宝箱の中身を回収して欲しいことを伝えた。
「その程度のことでしたら造作もありません。おそらく投資者様がお望みだと知れば、住人全員が探索に志願するものと思われます」
「ううん、手が空いてる人だけで大丈夫。食料の対価としてはそれで充分だし」
50人分の食料となれば、用意にそれなりの金額が必要になる。
まして1ヶ月以上ぶん支援するとなれば、間違いなく結構な負担だ。払えない額ではないけれど、流石に無償提供では辛い。
とはいえ、彼らが宝箱から金貨1枚を回収してきてくれるだけでも、30万円相当の価値があることを思えば。
週に1度、数人が探索に出るだけでも、対価としては充分過ぎるぐらいだ。
「承知しました。では手が空いている者にのみ、担当させることに致します」
「うん、お願いね。あと――話の腰を折りそうだから、ここまで突っ込まなかったけれど。敬語はやめてね?」
「はっ……! も、申し訳ありません。じゃなくて――ごめんなさい。どうしてもまだ慣れなくて……」
「私が脅迫まがいな真似をして無理にタメ語をお願いしたのが悪かったかな……。ゴメンねコニー。本当に辛かったり難しいなら、やめちゃっていいよ?」
「い、いえ! 投資者様は悪くありません! 私がいけないんです!」
ぶんぶんと頭を激しく左右に振って、否定してみせるコニー。
それからコニーは何かを決意したように、ゆっくりと頷いてみせた。
「投資者様。今後もし私が敬語を使ったときは、どうぞ遠慮なく折檻を」
「折檻⁉」
「はい。覚えが悪い者には相応の罰があって当然。拳で殴るのでも、あるいは鞭で打つのでも……ああ、首を締めて理解らせるのも良いかと」
「やるわけないでしょう⁉」
殆ど悲鳴にも似た言葉で、スミカは強く拒絶する。
そりゃ、チカみたいに『痛いことをされると喜ぶ』ような性癖の持ち主になら、プレイの一環として手のひらで叩いたり、抓ったりぐらいはするけれど。
そういう範囲を超えて――女の子に暴力を振るうというのは。スミカにとっては耐え難いレベルで、おぞましい行為でしかない。
「コニー、そういうことは二度と言わないで。さっきも言ったけれど、私はコニーみたいな可愛い女の子が大好きなんだから。好きな相手に傷ついて欲しくないし、まして自分の手で傷つけるなんて……考えるだけでも不快」
「最初に自分自身を簡単に傷つけた人が、それを言うんですか?」
「うっ」
一言で反論を封殺されて、スミカは言葉を失う。
あ、はい。それを言われると、ぐうの音も出ないです……。
「……悪かったわ。確かに、暴力を振るうよう要求するのはちょっと違うのかもしれないわね。でも、投資者様は不出来な私に対して、もっと厳しい態度を取っても良いと思うわよ?」
「そう? だったら――もしコニーがこれから敬語を使った時は、その度に罰って建前で、唇でも奪わせて貰おうかな?」
「へっ……? く、唇?」
「うん。どう?」
「と、投資者様がそれで良いのでしたら、私は全然構いませんけれど……」
やや小声ぎみになりながらも、すぐに承諾してくれるコニー。
恥ずかしそうに顔を赤らめつつ、頷く彼女が堪らなく可愛かった。
「コニー、敬語」
「……あっ。こ、これは、違うんです。違うんです。え、えっと、その」
「違わなーい♥」
キスしやすいように、コニーの体を優しく抱き寄せると。
何度も「違うんです」と繰り返していた彼女の言葉が、その瞬間に途切れた。
「目を閉じて」
「は、はい……」
促される言葉のままに、ぎゅっと強く目をつぶるコニー。
この手の行為に慣れていない様子が、ありありと伝わってくる彼女の唇に。スミカは自身の唇を、ゆっくりと重ねた。
「んっ……」
僅かに身動ぎしつつも、抵抗せず受け入れてくれるコニー。
そんな彼女の唇へ、スミカは侵略を始める。
「――⁉ んうぅっ⁉」
唇をこじ開けて、舌先をコニーの口腔内へねじ込むと。
完全に想定外だったみたいで、彼女はとても驚いた表情で目を見開いた。
交錯した視線を捕まえたまま離さずに。
一方でスミカの舌は、少し乱暴にコニーの舌と絡ませていく。
ごく近い距離で見つめ合いながらも、同時に口腔内を淫らに蹂躙していく。
その刺激に耐えられないのか、何度も彼女の唇の隙間から熱い息が溢れた。
離れることを許さないまま、たっぷり3分間ほどコニーの口腔を犯し続けて。
ようやく舌と唇が離れた頃には――コニーの瞳はとろんと蕩けきっていた。
「罰の感想をどうぞ?」
「………………こ、これは罰ではなく、ご褒美の間違いだと思います」
膝に力が入らなくなったのか、かくんとその場に崩折れるコニー。
そんな彼女を追い詰めるように、スミカは身を屈ませて顔を近づける。
「ふふ。いま『ご褒美の間違いだと思います』って言ったよね?」
「……あっ。こ、これはですね」
「コニー」
顎をくいっと持ち上げながら、愛おしい名前を呼ぶ。
涙目になっている彼女の瞳の奥に、期待に揺れる心が見えた気がしたから。
スミカはそれに応えるように――先程よりも更に乱暴に、もう一度唇を奪った。
それからもスミカは、幾度となくコニーの唇を奪った。
浴槽にお湯が溜まった後には、一緒にお風呂に入りながらも、何度も何度も。
そのせいで、コニーはお風呂場の中で、完全にのぼせてしまった。
……流石にちょっと反省してます。うん。




