55. 掛ける声あれば応える声あり
これまで単話売りしかなかった『プレアリス・オンライン』のコミカライズ版の電子単行本版が昨日から販売開始されているみたいです。
何卒よろしくお願い致します。
https://book.dmm.com/product/6117075/s019asbrw02173/
URLはDMMさんの販売ページになりますが、おそらく他の電子書籍を扱うサイトの多くでも販売されていると思いますので、ご都合の良いところでお求め下さい。
なお、特に連絡など頂いておりませんでしたので、販売されているのを見て私が一番びっくりした模様。わァ…ァ… _(:3」∠)_
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第2階層の南西にある小部屋に到着したスミカは、室内に『安全区域』とエレベーターの出入口を設置。
そしてすぐに『階層転移』で第3階層の階段へとワープ。
こちらでもエレベーターを設置するために、まずは南西側にある適当な小部屋を目指す。
第3階層のメイン魔物であるグーラは、ゾンビやゾンビドッグに較べれば、見た目も悪臭も遥かにマシ。
というわけで――レベルアップ直前で魔力が止まっているのも気持ち悪いので、歌わずに第3階層を探索し、魔物と遭遇してから歌い始めることにする。
こうすれば討伐した魔物から、ちゃんと魔力が得られるからね。
――グーラと遭遇するたびに歌うこと、20戦近く。
それぐらいの戦闘を経て、ようやくスミカのレベルが『6』にアップした。
単身でのダンジョン探索だと、魔物も1体ずつとしか遭遇しない。
当然1体分の魔力――『12』点ずつしか回収できないため、レベルアップ直前まで魔力が貯まっていたわりには、思った以上に時間が掛かってしまった。
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ホウリ・スミカ
吸血姫/19歳/女性
〈投資家〉 - Lv.6 (13239/20776)
[筋力] 8
[強靱] 9
[敏捷] 10
[知恵] 13
[魅力] 15
[幸運] 18
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◆異能
[真祖][吸血]
《迷宮投資家》《投資口座》《損害保険》
《人物投資》《階層投資》《個物投資》
《鑑定》《偽装》
◇スキル
〈聖歌Ⅱ〉
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今回成長した能力値は[魅力]と[幸運]かな。
[幸運]は〈投資家〉の天職を得てからというもの、レベルアップのたびに毎回成長しているような気がする。
運さえ良ければ〈投資家〉は務まるってことなんだろうか。
新たに得た能力は《個物投資》という異能のようだ。
フミやリゼたちは、レベルアップの時に新しいスキルを得たり、あるいは既存のスキルのランクが成長することが多いらしいんだけれど。
なぜかスミカはいつも、レベルアップの度に異能ばかりを得ている気がする。
『異端職』だと成長が異能寄りになるとか、そういうのがあるのかな?
(……『個物』って何だろう?)
異能名を見て、最初にスミカが思ったのはそんなことだった。
初めて目にした単語なので、とりあえずスマホで検索してみたところ、一応スミカが知らなかっただけで普通に辞書にも載っている単語のようだ。
意味は概ね字面の通りで『個人の物体』みたいな感じ。
個人所有物を略して『個物』、みたいな感じなんだろうか?
またそれとは別に哲学的な意味もあるようだけれど。残念ながら哲学には疎いので、そちらは説明文を読んでもいまいち意味が理解できなかった。
ともあれ、これが《人物投資》と《階層投資》に続く3番目の『投資』能力なのは、異能名からして間違いない。
どんな能力か非常に気になるところなので、早速確認してみる。
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《個物投資》/異能
自身が所有する、またはまだ誰にも所有されていない
物体を『投資対象』として登録可能になる。
『迷貨』を投資して対象物の性能を強化すると共に
ランダムな効果から1つ選択して永続付与する。
あなたは当該物体の永続的な所有権を獲得して
望めばいつでも手元に呼び出すことが可能となる。
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今回の投資対象は『物体』らしい。
ただし『個物』という単語が使われているだけあって、他人が所有している物体は投資対象にできないようだ。
内容は、迷宮貨幣を投資して性能を強化して、更にランダムな効果も付与するというもの。
うーん……。たぶん武器や防具を強化するための『投資』なのかな?
性能が上がるって時点で、優秀な異能ではありそうだけれど。
フミの武器を強化できれば、それが一番効果が大きそうに思えるんだけれど。
他人の所有物は対象外のようなので、それは無理なのかな……。
あるいは……フミの武器をスミカに譲渡して貰えば『投資』もできるかな?
投資すると『永続的な所有権を獲得』してしまうらしいけれど、少なくとも説明文に『他人に貸すことができくなる』とは書いていないようだ。
(……ま、その辺の検証は後で、ゆっくりとね)
興味はあるけれど、魔物が棲息するダンジョンの中で確かめることでもない。
とりあえず錦糸公園ダンジョンで遭遇する魔物には、現在のところ『歌』だけで問題なく対処できているから、武具の強化も必要ないしね。
真面目に検証したり考察したりするのは、自宅に帰った後だ。
とりあえず南西側にある小部屋に到着したので、『安全区域』を設置し、エレベーターも設置しておく。
もちろんこの階層でも『安全区域』の中に入れるのは身内だけに制限した。
「……試しに一度、自分でも乗ってみるべきだよね」
そう考えたスミカは、まずエレベーターの料金設定を『無料』から『銀貨1枚』に修正。
これは実際に、お金を支払うところも体験してみたいと思ったからだ。
それから、エレベーターのパネルにある『↑』のボタンを押すと、ボタンが点灯した。
現時点だとまだ『↓』のボタンを押しても、ボタンは点灯せず何の反応もない。
今スミカが居る第3階層よりも下の階層には、まだエレベーターの出入口を設置していないから、これは当然だろうね。
10秒ほど待っていると、チーン! という小気味の良い音と共に、エレベーターのドアが開いた。
内部のカゴはちょうど4畳半ぐらいの広さかな。天井にシーリングライトのようなものが付いていて、カゴ全体が充分に明るい空間になっている。
中に入ってドアの右側を見ると、『1』『2』『3』『開』『閉』と書かれたボタンを備えた、現代の一般的なエレベーターとほぼ同じパネルがあった。
試しに第1階層まで移動してみようと思い、『1』のボタンを押してみると。
パネルの上部に『料金:銀貨1枚』と表示されると同時に、パネルの下部側にもシャコッと、硬貨の投入口らしきものが出現した。
どう考えても、ここに料金分の銀貨を入れろってことだろう。
銀貨を1枚投入すると、シャコッと投入口がすぐに閉じられる。
そしてパネルの上部に『ドアを閉じてください』と表示された。
「おお……」
指示された通りに『閉』のボタンを押すと。
グオオォン……という鈍い駆動音と共に、多少の重力の変化が感じられた。
エレベーターが動き始めたことが、体感として理解できる。
パネル上部の表示が『B3F』という文字列に切り替わり、それが『B2F』になり、程なく目的階層の『B1F』へと変化する。
再び、チーン! という小気味の良い音が鳴ったあと、自然とドアが開いた。
外に出てみると――うん、普通にダンジョンの小部屋だった。
そういえば、第1階層でも第2階層でも第3階層でも、大体小部屋の広さは同じぐらいだし、エレベーターの配置位置も同じような感じにしているから。
ぱっと見ただけだと、自分がどの階層に居るのか全く見分けが付かない……。
試しに視界に『階層地図』を表示させてみて、ようやく自分が居るのが第1階層であることを確認できた。
どうやらエレベーターは、ちゃんと正常に稼働しているようだ。
(小部屋の中に、現在の階層が判る看板ぐらいはあったほうが良いかな)
スミカがそんなことを考えると。
なぜかすぐに――銀貨1枚から10枚程度を消費すれば、すぐにでも看板を設置できることが、頭の中で理解できた。
どうやらトイレやエレベーターを設置した時と同じように、『安全区域』内には迷宮貨幣を消費するだけで、大抵のものが設置可能らしい。
というわけで《投資口座》から銀貨3枚を支払って、小部屋の壁に看板を設置。
エレベーターのカゴから出て、すぐに目に入る位置に設置したので、これでどこの階層に移動したのか、利用者にも判りやすくなっただろう。
(やっぱりこういう知見は、一度体験してみないと得られないものだね)
実際にエレベーターに乗らなければ、現在階層を示す看板があったほうが良い、なんてことには絶対気づかなかっただろう。
本番である日本銀行ダンジョンへ設置する前に、多少なりとも知見が得られたのは良いことだ。
うーん……。何か看板以外にも、エレベーターの近くにあったほうが良いものはあるだろうか?
(自販機ぐらいはあっても良いかな?)とスミカが考えると、銀貨10枚程度で設置できることが頭の中に理解できた。
設置コストは大して問題じゃないけれど……。同時に、自動販売機の商品補充をスミカ自身がやらなければならないこともまた、頭の中に理解できてしまう。
流石に、わざわざここに来て飲料を補充するのは面倒なので、却下かな……。
(ねえ、階層の地図とかって設置できたりする?)
まるでダンジョンに訊ねるかのように、心の中にそう言葉を浮かべると。
スミカの問いかけに対して、一瞬の間を置いてから――。
〔はい、投資者様。銀貨1枚、または銀貨20枚で可能です〕
――そんな回答が、スミカの脳内に聞こえてきたのだった。
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〔投資者、あなたは幸福ですか?〕




