53. 誰も来なくなったダンジョンで
『S』のキーが割れて執筆に不都合が出たため、昨日はお休みを頂きました。
FPSなどで酷使しているキーではありますが、まさか割れるとは……。
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「免税ポイントの3倍付与は、昨日までで終了しておりますが……」
「あ、はい。承知してます」
前回、錦糸公園ダンジョンに潜った3日後。
再び同地を訪れたスミカが、ダンジョンに入る手続きを行うと。ダンジョン前の天幕で対応してくれた自衛官の男性から、とても驚かれた。
免税ポイントが通常量に戻った以上、不人気ダンジョンのここには誰も来ないと思っていたんだろうね。
気持ちはよく判るし、普通ならその判断も間違いじゃなかったと思う。
もっとも、スミカの場合は、利用者が殆ど居なくなる今日からが、むしろ本番なぐらいなんだけれど。
「――ああ、あなたが祝部さんですか」
入場手続きのためにステータスカードを提示すると、カードに記載された名前を見て、自衛官の男性がそう言葉を零した。
「そうですが、なにか……?」
「祝部さんは利用者が少ないこのダンジョンの魔物を大量に間引いて下さる稀有な方なので、なるべく便宜を図るようにと隊長から連絡を受けております。もし我々に何か手伝えることがありましたら、いつでも申し出て下さい」
そう告げて、自衛官の男性が微笑む。
どうやら3日前に魔物を大量に討伐したことが、このダンジョンに滞在する自衛隊の人たちに周知されているらしい。
……多分、あの時に話した二等陸尉の人が手を回したのかな。
「それなら、ちょっとお訊ねしたいんですが。今日はこのダンジョンに、私以外に掃討者の人って来ていますか?」
「本日は朝からここにおりますが、まだ誰もいらっしゃっていませんね」
「なるほど……ありがとうございます。それなら今日は自衛目的の配信は行わず、気軽に探索しようと思います」
そう告げて自衛官の男性と別れ、ダンジョンの中へと進む。
――他に誰も来ていないなら、中で何をやっても誰かに見られることはない。
スミカにとって非常に都合の良い状況だと言えた。
『石碑の間』に設置されている自販機で、ペットボトル入りのスポーツドリンクと緑茶を1本ずつを購入。
もちろん購入とは言っても、いつも通り料金は無料だ。
購入後は即座に魔法の鞄へ収納する。鞄に入れておけば時間経過の影響を受けないので、ドリンクをいつでも冷たいまま取り出せるからね。
(……そういえば、どのぐらい魔物は減ったんだろう?)
少し気になったので、石碑の間の中央にある『石碑』を《鑑定》してみる。
+----+
□錦糸公園ダンジョン
階層数 :全32階層
安全階層:4、8、12、16、20、24、28
【魔物許容限界】
第1階層:18%
第2階層:22%
第3階層:19%
第5階層:100%
第6階層:100%
第7階層:100%
・
・
・
+----+
第1から第3階層までの魔物は、概ね許容限界の『20%』程度にまでその数が減らされているようだ。
おそらく3倍の免税ポイント付与が行われた3日間に、かなりの数の掃討者がこのダンジョンへやって来て、精力的に討伐を行ったんだろう。
やっぱり昨日と一昨日はここに来なくて正解だったな、とスミカは思う。
一方で石碑の情報からは、第5階層以降に全く手が付けられていないことも読み取れる。
第4階層に魔物が侵入できない『安全階層』が挟まれているため、第5階層以降の魔物はどれだけ数が増殖しても、第4階層を超えて溢れ出てくることはない。
免税ポイントが3倍になる対象も、第1から第3階層だけに限定されていたから、より深い階層への探索には誰も興味を持たなかったんだろう。
(それなら、本格的に悪さをするのは、第5階層以降が良いのかな……?)
スミカは頭の中で、そんなことを考える。
『歌』の力で効率良くアンデッドの魔物を倒せるとはいえ、流石にスミカひとりで魔物を充分に間引けるとも思えない。
日が経てばまた今回のように魔物が氾濫寸前まで増えて、それに対処するために免税ポイントの付与量にボーナスが設定され、第1から第3階層に多くの掃討者が立ち入ることになるだろう。
それを思うと、本格的に『投資』の手を入れるのは第5階層以降のほうが好ましいような気がする。
第5階層以降はダンジョンの状態に関係なく、誰も利用しないみたいだからね。
(……まあ、後から撤去することもできるわけだし。とりあえず今は、あまり深く考えなくても良いか)
そう思いながら、スミカは適当な『讃美歌』を歌い始める。
ネット上の動画サイトで検索して、昨日と一昨日のうちに讃美歌のレパートリーを沢山増やしておいたから、何を歌えば良いか悩むこともない。
歌ってさえいれば、第3階層までの魔物はスミカの視界に入る前に殲滅できる。
ゾンビとかは視界に入るだけでも、結構不快だからね。
初めから見ないで済むなら、それに越したことはないのだ。
――視界内に表示した『階層地図』を頼りに、歩くこと5分ほど。
第1階層の南西側、その隅にある小部屋へと到着したスミカは、そこに『安全区域』の設置を行った。
普段殆ど利用されることがない不人気ダンジョンの第1階層、その更に隅っこともなれば、他の掃討者に見つかる可能性はかなり低い筈だ。
『安全区域』には利用制限を設定することが可能なので、スミカに許可されている人のみが中に入れるようにして、リゼたちやフミだけを登録しておいた。
すると『利用を制限されている人には見えないようにする』というオプションが追加されたので、即座にオンにする。
この設定をオンにすると、安全区域全体が利用できない人からは『ダンジョンの壁』で囲まれているように見えるらしい。
つまり入れないだけでなく、中を見ることもできなくなるわけなので、内部に何を設置してもバレる心配をしなくて済むようだ。
というわけで、安全区域の中にまず『エレベーター』を設置。
設置コストは金貨6枚とちょっとお高めだけれど、他の階層にも設置する際は、以降は金貨1枚の設置コストだけで済むようになる。
エレベーターの利用料金は『無料』に設定。
フミやリゼたちだけしか利用できない以上、お金を取る必要はないからね。
+----+
■投資対象 - 階層002
-
錦糸公園ダンジョン・第1階層
【フロア】
種別 :地下通路+小部屋(石造り/照明アリ)
階層サイズ:100%
上り階段 :1ヶ所
下り階段 :1ヶ所
【特殊区画】
安全区域 :1ヶ所(+1)
+エレベーター本体
【ゾンビ】
基本棲息数: 200体
増殖数 : +80体/日
最大数 :8000体
【採取オーブ】
配置数 :3基
再配置間隔:24時間毎
【宝箱】
配置数 :2個(+1)
-
◆投資総額:8 gita
・迷貨配当(8%)
・階層地図
・位置把握(宝箱)
+----+
そこまで済ませた後に、この階層の投資情報を確認してみて。
今更ながらスミカは、まだ『階層転移』が利用できないことに気づく。
そう言えば『階層転移』の機能を利用できるようにするには、合計で金貨10枚分の投資を行わないといけないんだっけ。
というわけで、まずは採取オーブの配置数を1つ増やす。
あと金貨1枚分は何に投資しようかな――と悩んだ結果、この階層が許容できるゾンビの最大数を増やしてみることにした。
許容限界を増やせば、魔物が氾濫するまでの猶予も増えるだろうからね。
投資を行うと、ゾンビの最大数が『8000体』から一気に『12000体』にまで拡張された。
どうやら金貨1枚を投資するだけで、許容限界を50%も増やせるようだ。
一方で1日に増える魔物の個体数自体は変わらないので、魔物が氾濫直前にまで増えるのには、かなりの時間を要するだろう。
なお、金貨1枚分の投資で逆に、許容限界を『8000体』から『4000体』へ減らすことも可能なようだ。
氾濫までの猶予時間が半減するわけなので、やろうと思えば『投資』で自衛隊の人たちをかなり困らせることができる。
……まあ、もちろんやらないけれどね。
錦糸町駅周辺の治安が悪化したら、自分たちだって困るわけだし。
+----+
■投資対象 - 階層002
-
錦糸公園ダンジョン・第1階層
【フロア】
種別 :地下通路+小部屋(石造り/照明アリ)
階層サイズ:100%
上り階段 :1ヶ所
下り階段 :1ヶ所
【特殊区画】
安全区域 :1ヶ所(+1)
+エレベーター本体
【ゾンビ】
基本棲息数: 200体
増殖数 : +80体/日
最大数 :12000体(+4000)
【採取オーブ】
配置数 :4基(+1)
再配置間隔:24時間毎
【宝箱】
配置数 :2個(+1)
-
◆投資総額:10 gita
・迷貨配当(10%)
・階層地図
・階層転移
・位置把握(宝箱・採取オーブ・魔物)
+----+
というわけで、最終的な第1階層への投資結果はこんな感じ。
ちょっと意外だったのは、ゾンビの最大数を拡張したことで、『階層地図』に表示される情報に『魔物の位置』が加わったこと。
多分、魔物関連のどれかに投資すると『位置把握(魔物)』が解禁されるってことなんだろうね。
今みたいにフミが居ない状況下だと、周囲の魔物の存在を全く知ることができないので、これはなかなか有難い能力だ。
魔物の奇襲を完全に防げるだろうし、もちろん魔物を効率よく倒して回る際にも便利に使えそうだよね。
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