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迷貨のご利用は計画的に! ~幼女投資家の現代ダンジョン収益記~  作者: 旅籠文楽


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50. 地上への帰還とちょっとしたトラブル

 


     [5]



 それから1時間半ほど探索を継続し、宝箱を追加で10個ほど確保した後、スミカたちはそろそろ地上へ戻ることにした。

 別にもっと長時間滞在しても、構わなくはあるんだけれど……もともと公園での撮影のついでに潜っただけだしね。

 アンデッドばかりのダンジョンに長居するのも、あまり気分が良いものじゃないし。こういうのは適当なところで切り上げるぐらいでちょうど良いかなって。


 結局、第3階層に設置した『安全区域』やトイレは、全て撤去した。

 一時的に免税ポイントが3倍になる関係で、おそらく明日以降には、それ目的の掃討者がそこそこの人数やって来る筈。

 その人達に見つかって変に騒ぎになるかもしれないよりは、今日の内にキッチリ撤去しておいたほうが良いと判断した。


 こう言ってはなんだけれど――自宅から最も近い錦糸公園ダンジョンには、今後も目立たず、不人気な場所のままで居て欲しいところがある。

 第3階層までに棲息するアンデッドなら、スミカでも讃美歌を歌えば倒すことができるからだ。

 つまり、ここは戦闘能力に乏しい〈投資家〉のスミカでも、単身(ソロ)で潜れる貴重なダンジョン。

 色々と『投資』で出来る悪さ(・・)を試す場所として、都合が良いのだ。


 というわけで、立つ鳥跡を濁さずと言わんばかりに、全てを無かったことに。

 その過程で判ったんだけれど――安全区域やトイレを設置する時に費やした金貨や銀貨は、撤去すると全額が《投資口座》に返金された。


 どうやら【特殊区画】やその区画内に設置したものに関しては、ロスなく即座に撤去が可能らしい。

 なので次回からは、お試しで色々建ててみるのも良さそうだ。

 気に入らなければ撤去すれば、費やした迷宮貨幣はすぐに戻ってくるからね。


 ――ちなみに地上まで徒歩で戻る間はずっと、スミカが歌い続けた。

 歌ってさえいれば、魔物が近寄ってこないことは既に判っている。

 内容は讃美歌だったり歌謡曲だったりと様々で、気分的にはひとりカラオケをやっているようなものだ。


 いや……カラオケというより、どっちかというとお風呂で歌っている感じかな?

 ダンジョン内は音がよく響くから、歌うのはそれなりに楽しい行為ではある。


 連続で10曲ぐらい歌っている内に『石碑の間』へと到着。

 そのまま地上へ出ると、空にはすっかり夜の(とばり)が下りていた。


 帰路の途中で魔物と一切遭遇しなかったので、これでもかなり早いペースで地上まで戻ってきたほうだとは思う。

 ……まあ、代わりに喉はちょっと疲れたけどね。

 今日一日だけでもかなりの曲数を歌ったので、普段歌唱の練習を全くしていないスミカにとっては、地味に負担が大きかったのだ。


 で、あとは窓口代わりの自衛隊の天幕で、ダンジョン退場の手続きを済ませて。

 問題なく家に帰れると思っていたんだけれど――。


「………………」


 トラブルは予想もしていないタイミングでやってくる。

 スミカたち3人が提示したステータスカード。その裏面をチェックした自衛官の女性が、記されている情報を見つめながら――なぜか固まってしまったのだ。


「……あの?」

「あっ、し、失礼しました。すみません、少々お待ち頂けますか?」


 自衛官の女性はそう告げると、同じ天幕の中にいる別の男性を連れてきた。

 それは180cmぐらいはありそうな、かなり背の高い男性で。

 スミカには――既に面識がある相手だった。


「確か、二等陸尉? の斎藤さんでしたか」

「合っております。そちらは確か祝部(ほうり)さんでしたね。数時間前に《鑑定》の件ではお世話になりました」


 そう告げながら、斎藤がスミカたちに対して軽く頭を下げる。

 今日、錦糸公園ダンジョンに入場した際に、石碑の件を報告した自衛官だ。


「それで鈴木、どうした?」

「すみません二尉、この討伐記録なのですが……」


 自衛官の女性が、スミカたちのステータスカードの裏面を斎藤に見せる。

 すると斎藤の顔に、僅かに驚きの色が浮かんだ。

 ……何か変なことがあっただろうかと、訝しく思う。


「失礼、祝部さんたちにひとつお訊ねしたいのですが」

「なんでしょう?」

「ステータスカードに記録されている本日の魔物の討伐数が、第1階層と第2階層でそれぞれ300体以上、第3階層で400体以上となっていますが、この記録は正しいものでしょうか?」

「……は?」


 斎藤の言葉に、思わずスミカも驚かされた。

 つまりステータスカードには、スミカたちが本日だけで合計1000体を超える魔物を討伐したと、そう記録されているわけだ。


 スミカたちがダンジョンに潜っていたのは、正味3時間あるかどうかといったところ。そんな短時間で討伐した数にしては、明らかに異常だ。

 なるほど、自衛官の女性や斎藤が怪訝(けげん)に思うのも当然だろう。


「……今日だけでかなりの数の魔物を討伐した自負はありますが。流石にそれほど沢山のアンデッドを倒したとは、私たちも思っていませんでした」

「では、この記録は……?」

「おそらく、私たちがアンデッドを浄化して回った方法が、私たち自身も予想外なぐらい、広範囲に効果が及んでいたのだと思われます」


 ――その方法とは、言うまでもなく『歌』だ。

 予想以上に魔物の討伐数を稼いでいるのは、ほぼ間違いなく歌の効果が、スミカたちも思っていなかったほど広範囲に及んでいたからだろう。


 石造りのダンジョンの中だと、静謐なこともあって声がよく響くからね。

 それこそ〈狩人〉のミサキが探知可能な範囲の外にいるような魔物さえ、スミカの歌によって倒してしまっていたわけだ。


(歌っている間は、魔物が近寄ってこないなと思っていたけれど……)


 思い返してみれば、なんということはない。

 あれはスミカたちが察知できるところまで近寄ってくる前に、アンデッドたちを全て歌で倒してしまっていただけなんだろう。


「そのアンデッドの浄化方法、どうか教えて頂くわけには?」

「誰にでもできることではないので、お話ししても無駄だと思います。それに食い扶持のタネをわざわざ明かすほど、私も物好きではありません」


 方法を教えるよう求めてきた斎藤に、スミカはピシャリとそう告げる。

 ――実際、嘘は言ってない。

 魔物に効果があったのはスミカの歌だけで、リゼが同じように讃美歌を歌っても、残念ながら魔物には何の効果もなかったからね。

 歌いさえすれば誰でも効果が発生する、というものではないのだ。


 また、歌で対処したこと自体についても、自衛隊に明かす義理はない。

 何かこちらに、メリットでも提示してくれるなら話は別だけれど。


「そうですか……。残念ですが、致し方ありませんね」


 食い下がるかと思ったが――意外にも、斎藤はあっさり引き下がった。

 引き際が判っている男性は、スミカとしても嫌いではない。


「方法は明かせませんが……。ここは自宅から近いので、ちょくちょく利用させて頂こうとは思っています」

「それは有難い……! 魔物が増え過ぎてしまわないよう、ぜひ今後とも間引きにご協力を頂けますと助かります」


 自衛隊に特別な配慮をする理由はないけれど、だからといって敵対する理由はもっとない。

 良好な関係が築けるなら、それに越したことはないだろう。


 魔物の討伐数はしっかり認めて貰うことができ、3倍ということもあって、スミカとリゼとミサキの3人それぞれに『11062』の免税ポイントが付与された。

 これは、およそ『110万円』相当の税金に充当できるポイント量だ。

 自宅の維持が間違いなく大幅に楽になるので、とても嬉しい。


 手続きを終えた後は、車に乗って移動。

 途中でスーパーに寄って夕飯の材料を購入し、そのまま帰宅した。



     *



「ハーイ! おかえりなさーい!」

「お、パティじゃん。珍しい」


 自宅に帰ると、リビングにチカだけでなく、パティの姿もあった。

 両手をこちらに挙げてきたパティに、スミカはすぐにハイタッチで応える。


 今月末までは家賃を支払済なので、パティとミサキの2人はまだ葛飾区に借りているマンションで生活しており、スミカの自宅へ生活拠点を移していない。

 ……まあ、ミサキはなんだかんだ数日おきぐらいで、こっちに来ているけれど。

 一方でパティは殆ど来ないので、彼女がここに居るのはちょっと驚きだ。


「あれ? パティ、前に会った時よりも結構痩せてない?」

「オー! 流石はスミカですネ! 判ってくれると思ってマシタ!」


 パティは高身長で胸も大きいから、あまり目立っていなかったけれど。

 それでも以前は健康的な体型で、幾分かふくよかだったように思う。


 それが――今や大きな胸はそのままに、お腹がかなり引っ込んでいる。

 もし、この短期間にダイエットで痩身(そうしん)したのなら、かなり無茶なペースでやったんじゃないだろうかと少し不安になるが。


「これねー、多分スミカのお陰なんデスヨ!」

「……へっ? 私の?」

「そうデース‼」


 パティが告げた意外な言葉に、驚きのあまりスミカは目が点になる。

 まさか痩身の原因として、名指しされるとは思ってもいなかった。


「……まあ、判る。夜のスミカは激しいからな」

「あー、そうっすね。大体いつも、疲労困憊で意識が落ちるっす」

「激しく求められるのは嬉しくもあるが、あれでは痩せもするだろう」

「セックスダイエットって、実在するんすねえ」

「………………」


 リゼとミサキが、得心したように2人でうんうんと頷き合う。

 一方でチカはただ、顔を真っ赤に染めながら俯いていた。


 いや――まあ、エッチの際にちょっとやり過ぎなのは、この際認めるけれど。

 だけど、それは間違いなく、パティの痩身の原因ではない。

 なぜならスミカは――まだパティに対してだけは、一度も手を出したことが無いからだ。


 いや、もちろん手を出したいとはずっと思ってるんだけどさ。

 流石に生活拠点が違うと、そういう機会もあまり無くてね……。





 

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