05. 仮免許試験
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「なかなか面白い内容でしたね」
2時間目の講義が終わると、冷泉がそう話しかけてきた。
休み時間のあとには仮免許の筆記試験があるわけだけれど。どうやら彼女は講義中にしっかりノートを取っていたわりに、それを試験前に読み返したりするつもりはないらしい。
しっかり講義内容を聞き、そして書くという動作も経たことで、記憶として定着できた自信があるんだろう。
「そうだね。掃討者についてはテレビとか雑誌で見てなんとなく把握してるつもりになってたけれど。……今更ながら、何も知らなかったんだなあって思うよ」
「私も同じ気持ちです。これから実際に掃討者になるわけですから、色々なことをちゃんと学んで覚えないといけませんね」
「とりあえずは受かっても、まだ『仮免許』だけどね」
「あはっ、そうですね」
仮免許の段階では、まだ掃討者を名乗るにはちょっと早い気がする。
ピティ狩りで稼げる時給500円ぽっちじゃ、生活もままならないしね。
「まずはレベルを『1』に上げることが目標ですね。本免許の取得を目指すのはそれからです」
本免許を取得するには、前提としてレベルが『1』になり、祝福のレベルアップを経験している必要がある。
なので冷泉の言うよう、まずは仮免許でも入れるダンジョンでピティを狩って魔力を貯め、レベルを上げることが肝要だ。
ちなみに本免許の取得には『75分の講義を10単位』受講した上で、筆記試験にパスする必要がある。
仮免許なら『50分の講義を2単位』の受講だけで済むから、結構な差だ。
近所に住むスミカはともかく、片道1時間半掛かる冷泉にとっては講義を受けに来るだけでも大変だろう。
「本免許の時はネットカフェに泊まって、纏めて受講しようと思ってます」
「えっ」
そのことについてスミカが訊ねると、冷泉はあっさりそんな風に答えてみせた。
確かに宿泊を前提とするなら、週末の土日で10単位分を纏めて受講し、そのまま試験に臨むこともできなくはないだろうけれど……。
とはいえ、中学生の女子が。それも中学生になったばかりの12歳の女子が単身でネットカフェに泊まるというのは、あまりにも危なっかしい。
「うーん……。じゃあ良かったら、本免許を受講する時には私の自宅に泊まる? 掃除が充分じゃないから埃っぽいかもしれないけれど、無料で泊まってくれて構わないし。祖母や祖父の自転車を貸せるから、このギルドまで簡単に来られるよ」
「えっ。す、凄く有難いですけれど、いいんですか?」
「どうせ部屋も余ってるからね」
手を出してはいけない年齢の子は、あまり家に泊めたくはないんだけれど……。
ちゃんとしたホテルならともかく、ネットカフェに女の子が泊まろうというのは看過できない。
この辺りは都会なぶん風俗店なんかも結構多いからだ。特に錦糸町駅の近くまで行けば、犇めくぐらい沢山のお店がある。
そんな土地なので、安全な個室もないネットカフェに女の子を泊めるのは不安が大きい。それなら自宅の部屋を提供するほうがずっとマシだ。
ちなみにスミカは同性愛者であると同時に、『小さくて可愛い女の子が好き』という、ちょっと大きな声では言いづらい嗜好を持っていたりする。
これは他ならぬスミカ自身が小さい頃から――それこそ小学生ぐらいの頃から、年齢の割に身長が高く、女の子らしい可愛さと無縁に育ったからだ。
その反動なのか、かつての自分とは違って小さくて可愛らしい女の子を見ると、憧れと共に性的対象としての好意も抱くようになっていて。
もちろん、今スミカの目の前に居る冷泉もまた、例外ではなかった。
(……まあ、私がしっかり自制すれば済む問題だしね……)
内心で自分自身にそう言い聞かせる。
19歳のスミカが12歳の冷泉に手を出すというのは、同性であっても犯罪に他ならない。きっと都の条例などにも余裕で引っかかるだろう。
なので欲望を抑え込むことは徹底しなければならない。理性と保身、二重の鎖で抑え込めば、なんとか自制することぐらいできる……筈……たぶん……。
「あー。そろそろ試験を始めるので、席に着いてくれ」
スミカがそんなことを考えていると。1時間目の講義ぶりにギルド職員の中島が講義室へ入ってきて、受験者全員に向けてそう促した。
冷泉に「続きはまた後でね」と告げて離れ、リュックサックから筆記用具を取り出して試験の準備をする。
中島が各受験者の机に、試験の用紙を配っていく。
解答用紙はマークシートのようだ。記入欄が多く用意されているので、設問数も同じだけあると見て良いだろう。
「問題は全部で50問。全て3つの選択肢の中から最も適切なものを選んで答えるものだ。配点は全て1問2点。合格には80点以上が必要……と言われると難しそうに思えるかもしれないが。講義を流し聞きしてるだけで問題なく合格できる程度の難易度だから安心してくれていい。運転免許の試験みたいに、変なひっかけ問題とかも無いしな。
ただし『最低限これだけは理解していないと危険過ぎてダンジョンに入らせるわけにはいかない』と、そう判断できる問題が幾つか用意されていて、これが誤答や無回答だと一発で不合格になる。なので記入欄が1コずれるとかのケアレスミスには気をつけたほうがいいぞ。
まあこう言っちゃ何だが、仮に不合格だったとしても、どうせ再受験も無料だ。油断し過ぎるのもよくないが、気楽に受けてくれ」
そう告げてから中島が、講義台の下からデジタルの置時計を取り出す。
最初から『40:00』という数値が点灯しているあたり、この時計は試験時間を計るためのものなんだろう。
「試験時間は40分。早めに終わったら解答用紙を伏せて、部屋を出てくれて構わない。合否の発表は午後4時30分頃、ギルド受付窓口付近にある電光掲示板に、合格者の受験番号を表示する形で通達する。何か質問があれば聞くが――。
特に無いようだな。それでは今から40分だ……試験始め!」
中島の言葉を受けて、全員が一斉に試験問題を開く。
とりあえず最初の方に用意されている設問をざっと眺めてみて――。
(これは……ホントに簡単かも)
と、スミカは内心でそう思った。
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□問01
次のうち仮免許資格でも入場できるダンジョンを選びなさい。
1)東京タワーダンジョン
2)白鬚東アパートダンジョン
3)新宿駅ダンジョン
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回答はもちろん『2』。
掃討者ギルドのすぐ隣にあるダンジョンだし、もし合格できたら早速利用してみようと考えているので、流石に間違えない。
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□問04
国内にダンジョンが存在する位置として、正しいものを選びなさい。
1)ダンジョンは東京都内にだけ存在する
2)ダンジョンは東京都とその隣接県にだけ存在する
3)ダンジョンは日本全国に存在するが、東京都近郊には特に多い
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答えは『3』。日本全国にというか、世界中に存在している。
ダンジョンは人口密度が高い場所ほど多く存在し、またなぜか『名所』として知られる場所にできやすい。なので人口密度が世界屈指であり、名所も多い東京都内や近隣県には非常に数多く存在する。
とはいえ名所自体は全国の様々なところにもあるから、ダンジョンもまたどの県でも存在が確認されている。
地方の田舎にできてしまったダンジョンなどは、魔物の間引きをしてくれる掃討者の確保にかなり苦慮しているらしい。
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□問09
次の画像のうち、仮免許で戦闘する機会のある魔物『ピティ』を選びなさい。
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6問目は3つの魔物のイラストから1つを選ぶ問題。
これは大型で丸々と太った兎の姿をした『1』のイラストが正解。
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□問10
ピティが仕掛けてくる主な攻撃方法をひとつ選びなさい。
1)体重を乗せた高速の突進攻撃
2)高く跳躍して頭上から踏みつける攻撃
3)遠距離から炎を吐き出してくる攻撃
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(……多分これが、間違っちゃいけない問題かな)
すぐにスミカはそのことを察する。
ピティが行うのはもちろん『2』の踏みつけ攻撃。
最弱の魔物だからと侮ってはいけない。10kg近い体重があるピティに頭上から踏みつけられれば、首の骨が折れて死ぬことだって有り得るのだ。
知っていれば簡単に避けられる攻撃だが、そうでなければ危険だと言える。
なのでこれを把握していない人は、ギルド側から『ダンジョンに入れられない』と判断される可能性が高そうに思えた。
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□問11
ピティの討伐方法として正しいものを選びなさい。
1)肘鉄によるカウンターを叩き込む
2)隙をみて顔面に蹴りを入れる
3)攻撃の回避に専念する
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同じくこちらも間違えてはいけなさそうな、ピティの対処法問題。
肘打ちや蹴りは、体を鍛えていない女性でも威力を出しやすい攻撃だと、以前にテレビか何かで見たことがある……けれど。答えは『3』の回避に専念だ。
ピティは高く跳躍できるわりに受け身が取れないので、攻撃を避けさえしていれば勝手に着地時のダメージで自傷していく。
こちらから攻撃しなくても倒せる魔物だからこそ、まだ武器を持たない掃討者の討伐対象として適切なわけだ。
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□問16
討伐した魔物はゴムボールのような物体を残すことがある。
この情報として正しいものを選びなさい。
1)中には魔石が入っている
2)中には食品が入っている
3)中には魔力が入っており、開封するとその場に霧散する
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ダンジョン内で討伐した魔物は、たまにアイテムを残すことがある。
そして、このアイテムが肉や野菜のような『日持ちに限りがある生鮮品』の場合には、なぜかゴムボール状の膜に包まれた状態で産出する。
なのでこの問題の答えは『2』だ。
このボールは質感こそゴムボールによく似ているのに、針を刺しても絶対に割れないし、萎んだりもしない。
そもそも、ゴムのような弾力があるわりに針が刺さらない。それどころか地面に叩きつけても、包丁やアイスピックを刺そうとしても、チェーンソーを押し当てても、割れるどころか表面に傷ひとつ付かないらしい。
じゃあどうすれば中身を取り出せるのかというと。魔力を持つ人がボールに触れながら『開け』と念じれば、1点ぶんの魔力と引き換えに、簡単に膜を消滅させることができるんだとか。
ゴムボールっぽい膜に包まれた状態だと、中身は一切劣化しない。
少なくとも5年経つ程度だと中身の肉や野菜は全く腐らず、採れたて同然の新鮮な味わいまで保つそうだ。
なのでゴムボールに入った生鮮品は、それなりの価格でギルドに買い取って貰うことができる。
たぶん政府や自治体が非常用備蓄食料として集めているんだと思う。
最弱の魔物であるピティも、ゴムボールに入った2kgぐらいの肉を落とすらしくて。これの買取価格が大体600円ぐらい。
100g当たり30円と考えると、かなり足元を見られた額にも思えるけれど。ピティの肉は固く筋張っていてあまり美味しくないそうなので、買い取りをしてくれるだけ有難いのかもしれない。
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□問19
ダンジョン内では台座に乗った大きな水晶玉が見つかることがある。
この水晶玉について正しいものを選びなさい。
1)近くにいると怪我の治りが早くなる
2)この水晶玉の近くには魔物が出現しない
3)中からアイテムを取り出せる
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答えは『3』。この水晶玉は一見するとガラスで出来ているように見えるのに、なぜか玉の内部に手を差し込むことができるらしい。
そして中からアイテムを取り出し、自分の物にすることができる。
手に入るものは植物であったり、鉱石であったり、小瓶に入った液体であったりするそうだ。
どんなアイテムが出ても、基本的にはギルドで買い取って貰えるので、掃討者にとっては貴重な追加収入になる。
水晶玉の中からアイテムを取り出せるのは1日に1度だけ。
ただし〈採取士〉の天職などで、採取に関連するスキルや異能を得ている掃討者だけは例外で、1日に水晶玉を複数回利用できる。
ギルドではこの水晶玉を『採取オーブ』と呼称しているらしい。
採取オーブがダンジョンのどこに配置されるかは、階層ごとに10箇所ぐらいの候補地の中からランダムに決定され、毎日変化する。
なので採取オーブを発見した場所を地図にメモることは無意味ではないが、その候補地に再び配置されるかどうかは運次第だ。
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□問22
ダンジョン内では宝箱が見つかることがある。
宝箱を見つけたいときの行動として正しいものを選びなさい。
1)行き止まりになっている場所を中心に探す
2)大部屋になっている場所を中心に探す
3)上りと下りの階段から離れた場所を探す
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(……ん?)
宝箱についても講義中に軽く教わったけれど……。確か中島は『ダンジョン内で人通りが少ない場所、特に袋小路によく配置される』と話していたように思う。
ダンジョン内で人通りが最も多いのは、上り階段と下り階段を繋ぐ最短経路。
なので宝箱を積極的に探したい時は、そういう場所を外れて探すのが良い筈だ。
手堅いのは『1』だけど、多分これって『3』も正解だと思う。
別に正解の選択肢が1つだけ、とは試験前にも言われていないからね。明らかに不正解の『2』さえ選ばなければ良いってことなんだろう。
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□問23
『仮免許』の掃討者がダンジョン内で宝箱を発見した場合に、
掃討者の行動として正しいものを選びなさい。
1)現時点では宝箱に危険はないので開けてよい
2)〈盗賊〉や〈斥候〉の天職でないなら開けないほうがよい
3)死の危険があるので絶対に開けてはいけない
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答えは『1』。仮免許で入れるエリアだけに限れば、宝箱には鍵も罠もないので普通に開けても大丈夫らしい。
ただし仮免許で入れないダンジョンでは、宝箱に鍵が掛かっていることが多く、また危険な罠が仕掛けられていることもある。
この場合は〈盗賊〉や〈斥候〉などの天職で覚えられるスキルがあれば、解錠や罠の解除が行えるそうだ。
貴重なアイテムは魔物が落とすこともあるけれど、宝箱の中から発見する機会のほうがずっと多い。
なので、ダンジョンの深い階層まで潜る場合には、パーティの仲間に〈盗賊〉や〈斥候〉を1人は連れて行くことが多いそうだ。
宝箱の中身を上手く回収できるかどうかで、収入が数倍違ってくることも珍しくない、と講師の中島が語っていた。
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□問28
ダンジョンに単身で潜る場合の魔物との戦闘について
正しいものを選びなさい。
1)一度に戦うことになる魔物は原則として1体のみ
2)同時に2体までの魔物と戦う可能性がある
3)3体以上の魔物と戦うことも有り得る
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ダンジョンはとても不思議な場所で、こちらが何人でパーティを組んでいるかに応じて遭遇する魔物の数が変化する。
講義で中島から教わった内容によると、一度に遭遇する魔物の最大数は『掃討者の人数×1.5体』まで。
つまりこちらが4人でパーティを組んでいたら、その1.5倍で『6体』までの魔物と同時に遭遇することがある。
端数は切り捨てになるそうなので、単身でダンジョンに潜る場合には遭遇する魔物もまた単身になる。
というわけで、答えは『1』。
一応、この『魔物1.5倍の法則』は絶対ではなく、例外もあるらしいけれど。不思議なことに殆どのケースでは、この法則に準拠する遭遇数になるそうだ。
このため1対1で魔物を倒せる自信があるなら、パーティを組まずに単身で活動するほうが、かえって安全ということも有り得る。
またパーティを組む場合でも、端数が切り捨てになる都合上、なるべく奇数人数で集まるほうが好ましい。
もちろん魔物が何体出ても勝てる自信があるなら、あえて偶数人数でパーティを組み、より多くの魔物を相手にするやり方もあるんだろうけどね。
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□問30
ダンジョン内で討伐した魔物からは『魔力』を得ることができる。
4人でパーティを組み、遭遇した6体の魔物を討伐した場合、
獲得できる魔力について正しいものを選べ。
1)4人それぞれが魔物6体分の魔力を得る
2)等分割されて、1人あたり魔物1.5体分の魔力を得る
3)前衛を担当した掃討者だけが魔力を得る
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答えは『1』。これは2単位目の講義で清水から教わった内容だ。
RPGの『経験値』と違って人数割りれないというのは、わりと大きいことなんじゃないかと思う。
もし魔力を効率的に稼ぎたいなら、パーティを組むほうが絶対有利なわけだね。
とはいえ先の設問でも出た通り、ダンジョン内では『掃討者の人数×1.5体』までの魔物と遭遇する可能性があるから。パーティの人数が多ければ多いほど、数の面で不利な戦闘を強いられる場合がある。
なので、あまり効率を突き詰めすぎるのも、それはそれでリスクが高い。
ちなみに魔力は倒した魔物がいた位置から結構広い範囲に拡散するため、弓などの遠距離武器で討伐しても、問題なく吸収することができる。
なので『3』は誤答選択肢だね。
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□問36
ダンジョン内でのネット事情について正しいものを選びなさい。
1)ほぼ全てのダンジョンでネット回線は繋がる
2)利用者が少ないダンジョンでは繋がらない
3)ほぼ全てのダンジョンでネット回線は繋がらない
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答えは『1』。
ダンジョンには必ず、地上から入ってすぐの場所に『石碑の間』という部屋があり、そこには名前の通り『石碑』が1つ設置されているんだけれど。
この石碑のそばに通信環境を整えると、なぜかそのダンジョン全体で通信が可能になることが、かなり前から判明している。
なぜそうなるのか――理由のほうは、全然判っていないらしいけれどね。
というわけで、日本国内に確認されているほぼ全てのダンジョンでは、石碑の近くに携帯キャリア各社のアンテナが設置されている。
そのお陰でダンジョン内部では普通に電話ができ、ネットも利用できる。メールやLINEのやり取りが普通にできるので、なかなか便利らしい。
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□問38
特に未成年者や女性が掃討者として活動する場合には
ダンジョン内から『ネット配信』を行うことが推奨されている。
その理由として最も正しいものを選びなさい。
1)追加の収入を得るため
2)他の掃討者からの自衛のため
3)魔物の情報を共有するため
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国内にあるダンジョンの内部は『法外区域』として国から制定されている。
これは『日本国の領土ではあるが国法や条例が適用されない区域』を意味しており、つまりダンジョンの中では法に反した行動をしても逮捕されないし、罪を裁かれることもない。
魔物が多数棲息するダンジョンの中は危険すぎるから、犯罪行為があっても警察が中に立ち入って捜査することなんて不可能だし。それに殆どの掃討者が何らかの武器を携行しているから、仮に傷害や殺人の事件があっても、凶器を特定することさえ難しい。
そういった事情から、国としては仕方なくダンジョン内を『法外区域』と定めているんだろう。
仮免許でも入場可能な場所だけに限れば、利用者が多いので警察やギルド職員が巡回して治安を良好に保っているらしいけれど。
一般的には、ダンジョン内は入り組んでいるせいで目線が通らない場所が多く、また利用者の数も少ない。
そんな場所なので、掃討者の敵は必ずしも魔物だけとは限らず、同じ掃討者から攻撃されるリスクも充分に有り得るそうだ。
なのでダンジョンに潜る際には魔物に備えるだけでなく、掃討者に対する自衛もある程度必要になってくる。
一番手軽な方法は、パーティを組むことだ。4~6人の集団で行動していれば、それだけで他者から襲撃される可能性は大幅に減るだろう。
けれどパーティの人数が増えればそれだけ、ダンジョン内で一度に遭遇する魔物の数が増えてしまうデメリットがある。単身や少人数でダンジョンに潜りたい場合には、別の手段で対策を講じなければならない。
そうした事情から、政府とギルドが掃討者に強く推奨しているのが『ダンジョン探索中の配信』を行うこと。
先の設問にもあった通り、ダンジョンの中でも普通にインターネットは利用できるから。全周撮影ドローンを浮かべて、掃討者の周囲360度全てを常に撮影して生配信しておけば、これに映らず襲撃することはとても難しい。
ダンジョン内での犯罪は、罪としては裁かれないけれど。もし現行犯の様子が配信されれば、加害者は社会的に裁かれることになるわけだ。
というわけで、答えは『2』。
もちろん『1』と『3』も配信の目的として別に間違いじゃないだろうけれど。
最も正しいものを選べと言われれば、やっぱり『2』になるのかな。
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□問40
『肌の色が変わるのは困る』と考えている人が
祝福のレベルアップを経験して天職カードを選び取る際に
注意すべき事項として最も正しいものを選びなさい。
1)『赤色』以外のカードを選択すれば大丈夫
2)『白色』か『青色』のカードを選択すれば大丈夫
3)どんなカードでも危険があるので、カードに触れてはいけない
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答えは『2』。
白色なら『基本職』、青色なら『特化職』の天職カードなので、希少性が低いこの2種類のカードのどちらか選び取れば、肌の色が変わる危険性はない。
もし肌だけでなく『髪の色も変わったら困る』と思う場合は、選べるのは白色の天職カードだけになる。
ちなみに瞳の色は、どの色の天職カードを選んでも変化する可能性がある。
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□問41
祝福のレベルアップを経験した際に選び取った天職カードは
以降も掃討者として活動する上で、何かと役立つものになる。
その内容として最も正しいものを選びなさい。
1)あなたの『ステータス』がカードに表示される
2)『ダンジョンの地図』がカードに表示される
3)『魔物の討伐記録』がカードに表示される
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ん……。これは『1』と『3』はどっちも正解かな。
獲得した天職カードはそれ以降、カードの表面に所持者の『ステータス』が常に表示され、そして裏面にはダンジョン内で討伐した魔物の『履歴』が記録される、なんとも不思議な物体へと変化する。
しかも、それだけではない。
所持者の手から5分間ほど離れるとカードは勝手に消滅する。
所持者が『消えろ』と念じればカードはいつでも消滅するし、『出ろ』と念じればいつでもカードを手元に出すことができる。
裏面に記されるログは誰でも読めるんだけれど、表面のステータス部分は自分以外には『名前』欄しか読めず、他の欄は全て空白に見える。
――などなど。本当の意味での不思議要素を詰め込んだ、謎物体らしい。
どうしてステータスなどの情報がカードに記されるのか、持ち主の意思で自由に出し入れできるのかなどのの理由は、現代科学をもってしても全く判らないとか。
まあ――そもそもの話をしてしまえば。ダンジョンがある日を境に世界中で発生した理由、ダンジョン内に魔物が生息している理由、ダンジョン内では現代武器が役に立たない理由……などなど、ダンジョンに関しては現時点までに判っていることのほうが稀なぐらいなんだけどね。
ステータスが表示されることから、天職獲得後のカードは『ステータスカード』と呼ばれている。
表面に自動的に持ち主の本名が記載され、その部分は誰からでも読むことができるため、ステータスカードはダンジョンに侵入する際に入口で提示を求められる、本人確認証としても機能する。
念じるだけでいつでも取り出せるから携行を忘れることがないし。名前欄だけなら他人に見せることができ、記載情報を偽ることもできないので、なにかと便利なんだろう。
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□問47
能力値の[幸運]は、その人の運の良さを示す。
この[幸運]が高いほどダンジョン内で得られる恩恵を選べ。
1)宝箱を発見できる確率が高くなる
2)魔物と遭遇しにくくなる
3)討伐した魔物がアイテムを残す確率が高くなる
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ステータスカードの表面に記される所持者の『ステータス』欄には、常に6種類の能力値が表示される。
[筋力][強靭][敏捷][知恵][魅力][幸運]の6つだ。前者3つは総称して『身体能力値』と呼ばれ、後者3つは『精神能力値』と呼ばれている。
一般人の場合、各能力値の平均は『7』ぐらいになるらしい。
つまり『8』以上ある能力値は自身の長所と言えるし、逆に『6』以下の能力値は自身の短所と認めるしかないわけだ。
それぞれの能力値が意味するところは、おおむね字面の通り。
少し判りにくい部分としては、[敏捷]はゲームでいう『素早さ』と『器用さ』を兼任するような能力値らしい。なので、この数値が高いほど素早く動けるだけでなく、手先も器用になる。
ちなみに[魅力]の能力値は『他者と絆を深めるための力』を示すものらしく、外見の良さとはあまり関係がない。どちらかといえばカリスマ性とか、そういう部分を評価する数値なので『精神能力値』の扱いになっているようだ。
――で、少し話が逸れたけれど。
設問で問われている[幸運]の能力値は、字面の通り『運の良さ』を示すもの。
この数値が高いほどダンジョン内で討伐した魔物からアイテムを得られる可能性が上がるのは、掃討者にとって有名な話らしい。なので答えは『3』だね。
これはかなり[幸運]の影響が顕著に出るらしく、それこそ[幸運]が『4』の人と『8』の人とでは、収入に倍近い差が出ることも珍しくないんだとか。
掃討者として生計を立てたいと考えているスミカにとって、重要な能力値になりそうなのは言うまでもない。
ちなみに[幸運]の能力値は、ダンジョンの外では影響力が小さくなる。
一応[幸運]が高い人ほど、宝くじやスクラッチくじなどが多少は当たりやすいらしいけれどね。
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□問50
20歳で『仮免許』資格を得た者がダンジョンで魔物を討伐して
祝福のレベルアップを経験し、3歳若返って17歳相当の肉体になった。
この場合の当事者の飲酒と喫煙、及び選挙権について正しいものを選べ。
1)20歳以上なので飲酒・喫煙共に可能。
2)身体年齢は未成年なので飲酒や喫煙はできない。
精神年齢は18歳以上なので選挙権はある。
3)飲酒・喫煙はできず、選挙権もない。
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最終問題は祝福のレベルアップに伴って生じる『若返り』の問題。
ダンジョンは世界中に存在しているので、そこに棲息する魔物を間引く生業である掃討者の権利は、各国の合意のもと国際的に保証されている。
その名も『掃討者権利章典』。この中で『祝福のレベルアップを経験した掃討者に、年齢が下がったことや容姿が変じたことによる不利益を与えてはならない』という文言が明記されている。
掃討者権利章典の立ち上げは『G7』が中心で行ったので、もちろん日本も深く関わっている。
なので日本国内で掃討者が祝福のレベルアップによる若返りを経験しても、それにより戸籍上の年齢が減じられることはない。
運転免許証を始めとした各種本人確認証もそのまま利用でき、記載されている本人の年齢が改められることもないため、これを提示すれば店舗でお酒や煙草は問題なく購入できる。
ただし、容姿が大きく変わった場合は、ちゃんと手続きをして運転免許証などの写真を更新する必要はあるけれどね。
というわけで、答えは『1』。
ただし法的に許されるとはいえ、身体の年齢が若返っている以上、飲酒や喫煙があまり推奨されない行為であることは言うまでもない。
身体が若返っても、精神的には分別のついた大人なんだから。もしお酒や煙草を呑むのなら、あくまでも自己責任でということだ。
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□誤答で不合格になる問題
『禁忌肢』と呼ばれ、特に医師国家資格試験などにある。
(ただし実際には禁忌肢をn個以上選ぶと不合格、みたいな感じらしい)
例えば特定の症状がある患者への対処法を問う問題などで、誤りなだけでなく患者の命を危険に晒すような対処の選択肢を選んでるようだと、『コイツに医師資格はやれねーわ。勉強し直してこい!』と判断されちゃうわけだ。
似たようなものに『減点選択肢』というものもあるらしく、これは文字通り選ぶと加点されないばかりが減点されてしまうものらしい。
作者は見たことがないんだけれど、技能士系の資格に出ることがあるとか。




