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迷貨のご利用は計画的に! ~幼女投資家の現代ダンジョン収益記~  作者: 旅籠文楽


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48/61

48. 『安全区域』を設置する

 



 それからスミカたちは、近い位置にある宝箱から回収して回る。

 この階層だけで11個も宝箱が配置されているわけなので、候補はよりどりみどり。そのお陰で、あまり歩き回らなくても効率よく回収していくことができる。


「これは、配信できる内容じゃないな……」

「でしょう?」


 リゼが苦笑しながら漏らした言葉に、スミカもまた軽く苦笑しながら答える。

 今回のダンジョン探索では、誰も配信を行っていない。

 自宅を出る前に、今回は配信をなしにして欲しいと、予めスミカからお願いしておいたからだ。


 掃討者に探索中の配信が推奨されているのは、他の掃討者からの自衛のため。

 錦糸公園ダンジョンは大変に不人気な場所であるため、そもそも他の掃討者が誰もいない。こんな場所では他人からの襲撃なんて警戒する必要もないのだ。


 それなら最初から配信を行わないでいるほうが、色々と人に見られたくない部分が多いスミカにとっては都合が良い。

 秘密主義なつもりはないけれど。とはいえ、せっかく自分が使える風変わりな能力を、わざわざ誰かに詳しく教えてあげるほど酔狂でもないからね。


 例えば――まるで位置を把握しているかのように次々と宝箱を発見しては、箱ごと『魔法の鞄』の中に収納していく様子なんてものは、他人から見れば非常に興味を掻き立てられるものではあるだろう。

 配信すれば間違いなく、かなりの視聴回数は稼げる。

 ……でも、そのぶん厄介事も付き纏うようになる可能性が高い。

 ともすれば、凄くズルをしているようにも見える光景だから、尚更ね。


「ちなみに宝箱からは、どんなものが手に入ってるんすか?」


 スミカが箱ごと魔法の鞄に回収している都合上、リゼとミサキは宝箱の中にどんな中身が入っているのかを見ていない。

 気になるのも当然なので、とりあえずスミカはその場に立ち止まり、魔法の鞄の中身を確認していく。


「えっと……まず宝箱1コにつき、金貨が1枚と銀貨が5枚手に入ってるね」

「……それは、固定なのかい?」

「固定だね。少なくとも、ここまでに回収した6個の宝箱からは、必ずこの枚数の金貨と銀貨が出てる」


 なので、現時点で既に金貨6枚と銀貨30枚が手に入っている。

 最近は金貨の消費ペースがだいぶ増えがちになっていたので、手持ちを増やせるのは非常に嬉しいところだ。


 ちなみにスミカは、それとは別に『銀貨63枚』を獲得していたりする。

 これは、現在の階層に金貨10枚の投資を行ったことの『配当』によるものだ。




+----+

◇迷貨配当(10%)


 階層から迷宮貨幣が産出されたとき

 投資総額に応じた迷宮貨幣の配当を得ることができる。


+----+




 宝箱から迷宮貨幣を手に入れると、自動的にその10%が《投資口座》の残高に追加で手に入る。

 貨幣の入手量が10%増しになるのは、スミカにとって地味に嬉しい。


「お金以外だと、ショートソードが1本とハンドアックスが1個、あとはランク1の治癒の霊薬が2本と、ランク1の奇跡の霊薬が2本だね」

「おお、霊薬(ポーション)系が手に入っているのは嬉しいな」

「本当にそっちは、私らで貰って良いんすか?」

「うん。私は貨幣のほうが嬉しいからね」


 宝箱の分配は既に相談済みで、中に入っている迷宮貨幣は全てスミカのものに、それ以外のアイテムは全てリゼとミサキのものに、と分けることになっている。

 宝箱は原則として、貨幣とアイテムの両方が中に入っているからね。1つ回収するたびに、間違いなくお互いの利益が増えている筈だ。


 ……まあ、迷宮金貨は1枚あたり約30万円の価値があるので、明らかにスミカのほうが多く利益を得ていたりするわけだけれど。

 宝箱の回収にはスミカの〈投資家〉の能力がフル活用されているということで、そこは許して貰うしかない。

 そもそも、人への投資でも階層への投資でも、基本的に金貨の負担は全てスミカがひとりで担っているわけだしね。


「霊薬は最終的に手に入った量を半分にするとして……ショートソードは私が予備の武器として貰っても?」

()っすよ。ハンドアックスはギルドに売って、私の小遣いにするっす」

「ちょっと質問なんだけれど、『治癒の霊薬』と『奇跡の霊薬』って、どういうアイテムなの?」


 早くもアイテムの分配を決めようとしている2人に、スミカはそう問いかける。

 まあ別に《鑑定》で詳細を()ても良いんだけど。地図とにらめっこして探索ルートを決めるのに忙しいので、口頭で教えて貰えるならそのほうが早い。


「簡単に言えば、治癒の霊薬は飲むと『怪我』が治り、奇跡の霊薬は『病気』も含む状態異常各種が治る」

「へー、用途がそれぞれ別の薬なんだね」

「ランク1だと効果はそれほど高くないが、それでも窓口に持ち込めば5万円ぐらいで買い取って貰えるな。もちろん市場で取引すればそれ以上の値段が付く」

「大体その倍の値段で取引されてるっすね」

「へえー」


 1本10万となると、結構なお値段だ。

 とはいえリゼの説明によると、ランク1の霊薬でも指の骨折とかインフルエンザぐらいなら余裕で治せてしまうらしい。

 怪我や病気で数日苦しむことに較べれば、10万円という金額は、それほど大きい負担でも無いのかもしれないね。


「――あ、グーラ4体が接近中っす」


 〈狩人〉の天職を持つミサキは、周囲の探知能力に長ける。

 まるでフミのように、まだ視認できる場所にいない魔物の接近にさえ、いち早く気づいてくれるのでとても頼もしい。


「歌おうか?」

「いや、グーラだけなら別にいい。多少は私たちも働いておかないと、分け前を貰うのが心苦しくなるからな」

「それはそうっす」

「歌うのはゾンビかゾンビドッグが来たら頼むよ」

「ん、了解。じゃあ2人に任せるね」


 この階層に棲息する魔物の『グーラ』は、いわゆる『グール』と同じくゾンビの上位にあたる魔物なんだけれど。

 ゾンビと違って新鮮(フレッシュ)な死体ではなく、皮膚が完全に硬化しているお陰で戦闘しても体液とかが飛び散ったりしないし、腐食による悪臭も殆どしない。


 固い身体を持つぶん、本来はゾンビよりも手強い相手なんだけれど。

 リゼやミサキからしてみれば、悪臭がしない時点でゾンビよりも遥かに倒しやすい相手らしく、彼女たちはグーラと戦うのはあまり嫌がらない。


 ……ちなみにスミカからすると、グーラはゾンビよりも戦いにくい相手だ。

 なぜならグーラは、『グール』の女性個体のことだから。

 明らかに時間経過した死体ではあるんだけど……ちゃんと、一見しただけで女性だって判る顔や身体つきをした魔物なんだよね。


 相手が女性でさえあるなら、問答無用で好意を抱いてしまうスミカにとっては。

 明らかにアンデッドであるとはいえ――女性のグーラに対して大鎌を振るうのは、酷く抵抗感を覚える行為なのだ。

 讃美歌を歌って倒す分には、それほど抵抗もないんだけどね……。


「2人とも、お疲れさま」

「なに、良い運動になった」

「そっすね。動く(まと)を狙うのは訓練になるっす」


 スミカが掛けた労いの言葉に、笑顔で応じる2人。

 ちなみにスミカは戦闘を眺めていただけだ。

 スミカがサボっていても、2人ともスミカの2倍近いレベルがあるだけあって、ものの数分でグーラを簡単に討伐している。


「次の小部屋で休憩するから」

「……む? 休憩が必要なほど疲れていないが?」

「いや、ちょっと試したいことがあってね」


 通路を1分ほど歩くと、すぐにその先にある小部屋へと到着する。

 まあ小部屋とは言っても、畳数に治せば50畳以上はあるんだけどね。

 ダンジョンの中だと、100平米を超える程度なら基本的には『小部屋』だ。


「もしかして、ここを『安全区域』にするんすか?」

「そそ」


 問いかけてきたミサキに、スミカは首肯する。

 探索に便利な転移ポイントを増やすために、第3階層の中央にある小部屋を『安全区域』にすることについては、既に2人にも説明済みだ。


 というわけで、早速スミカは《階層投資》の画面を自身の視界に表示させる。




+----+

■投資対象 - 階層004

-

錦糸公園ダンジョン・第3階層


 【フロア】

  種別   :地下通路+小部屋(石造り/照明アリ)

  階層サイズ:100%

  上り階段 :1ヶ所

  下り階段 :1ヶ所


 【特殊区画】

  (なし)


 【グーラ】

  基本棲息数: 120体

  増殖数  :+ 60体/日

  許容量  :6000体


 【ゾンビドッグ】

  基本棲息数:  40体

  増殖数  :+ 20体/日

  許容量  :2000体


 【ゾンビ】

  基本棲息数:  40体

  増殖数  : +20体/日

  最大数  :2000体


 【採取オーブ】

  配置数  :3基

  再配置間隔:24時間毎


 【宝箱】

  配置数  :11個(+10)


-

◆投資総額:10 gita


 ・迷貨配当(10%)

 ・階層地図

 ・階層転移

 ・位置把握(宝箱)


+----+




 現在は『(なし)』とだけ書かれている【特殊区画】の欄を注視。

 すると現在スミカたちが居る位置、つまりこの小部屋に設置可能な【特殊区画】の候補が視界に表示される。

 また、設置可能なそれぞれの区画の効果が、スミカの頭に自然と理解できた。




+----+

【特殊区画】


 ・『安全区画』を設置(金貨1枚)

 ・『魔物部屋』の設置(金貨1枚)

 ・『ボスルーム』を設置(金貨10枚)


+----+




 『安全区画』は文字通り、魔物が存在しない安全な場所。

 設置した区画へは魔物が外部から侵入できなくなるほか、区画内に魔物が自然発生することも無くなるようだ。


 『魔物部屋』だと逆に、魔物が常に配置される場所になるようだ。

 配置される魔物の個体数はスミカの側で設定でき、掃討者が部屋の中に侵入した場合には、そのパーティ人数に関係なく魔物全員との戦闘になる。

 ……とだけ説明すると、恐ろしい処刑部屋のように思えるかも知れないけれど。

 『魔物部屋』に配置された魔物は、室内に侵入しない限り襲って来ないし、侵入者が部屋から逃げれば追いかけることもないので、大して危険でもないようだ。


 『ボスルーム』は……まあ、大体名前から察せる通りのもの。

 設置したダンジョンと階層に応じて、強力な魔物(ボスモンスター)が1体だけ配置される部屋だ。

 これは先程の『魔物部屋』と異なり、侵入者は区画内に入ったが最後、閉じ込められての戦闘になる。

 逃げ場がない戦いになるので、当然危険度で言えばこちらのほうが遥かに上だ。

 と言っても、ボスモンスターの姿は部屋の外からでも視認できるので、よっぽど迂闊な人でない限り安易に入ったりはしないだろうけれど。


(……まあ、とりあえずは『安全区画』だよね)


 どれも面白そうな【特殊区画】ではあるけれど。残念ながら『階層転移』の転移先に選べるのは『安全区域』だけ。なので、今回は選択の余地がない。

 他の2つについても、そのうち設置してみたいところではあるけれどね。


 というわけで、金貨1枚を消費して小部屋を『安全区域』に設定。

 すると――小部屋の四方にある出入口の全てに、半透明の蒼い障壁のようなものが出現した。

 どうやら魔物は、この障壁を超えて中に入ることはできないらしい。


「ミサキ、近くに魔物はいる?」

「3体のがいるっすね。そのうち1体はゾンビドッグっすけど」

「ちょっとこの部屋まで誘導してきてくれない?」

「なるほど、了解っす!」


 事情を説明したうえで、探索能力に長けるミサキにそう依頼する。

 その上でスミカは、新たに自身の視界に表示されている『安全区域』に関連したウィンドウのほうへ思考を切り替えた。




+----+

□安全区域/錦糸公園ダンジョン・第3階層

-

 入場料 :(なし)

 利用制限:(なし)

 滞在制限:(なし)


 区画許容量:100/100


+----+




 設置した安全区画には幾つかの設定を行うことができるようだ。


 『入場料』は名前の通り、この安全区域に入ろうとする人に料金を課す設定。

 設定すると蒼い障壁が魔物だけでなく、掃討者の通行も阻むようになる。

 その場合には障壁の脇に集金装置が設置され、そこに規定の入場料を納めることで通行が可能になるようだ。

 入場のたびに支払いが必要とか、あるいは一度支払えば日付が変わるまでは何度でも通行できるようにするとか、その辺の設定も可能。

 なお入場料に設定できるのは迷宮貨幣だけで、日本円は使えないようだ。


 『利用制限』は安全区画の利用者を制限する設定。

 特定の人だけが利用できる場所にすることもできれば、逆に特定の人だけは利用できない場所にする、ということもできる。

 あるいは『男性は入れない』とか、『15歳以上じゃないと入れない』なんて設定にすることも可能なようだ。


 『滞在制限』は安全区画にどれぐらい滞在できるかの設定。

 区画内で『1時間』過ごした人は強制的に追い出す、とかそういうやつだね。

 もちろん追い出された場合でも、入場料を払えば再入場は可能。


「……なんか、安全区画に入場料を設定できるみたいなんだけどさ」

「ほほう、面白いな」

「いま設定したらどうなると思う?」

「ミサキを虐めるのはベッドの上だけにしてやれ」


 リゼが苦笑しながら、そう叱ってきた。

 はーい、そうしまーす。





 

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〇〇しないと出れない部屋、とかつくれそうですね(まて
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