47. 第3階層を好き勝手にする
先週末は多忙にしておりましたため、本日ぶんもやや短めです。ゆるして。
(今話分は日曜に書いております)
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階段を下りきって、錦糸公園ダンジョンの第3階層に侵入する。
ここも第1~2階層と同じく、魔物の数がだいぶ増えている筈だから。
遭遇してしまう前にと、取り急ぎ第3階層を『投資対象』として登録する。
その時点でスミカの視界に、階層についての様々な情報が表示された。
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■投資対象 - 階層004
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錦糸公園ダンジョン・第3階層
【フロア】
種別 :地下通路+小部屋(石造り/照明アリ)
階層サイズ:100%
上り階段 :1ヶ所
下り階段 :1ヶ所
【特殊区画】
(なし)
【グーラ】
基本棲息数: 120体
増殖数 :+ 60体/日
許容量 :6000体
【ゾンビドッグ】
基本棲息数: 40体
増殖数 :+ 20体/日
許容量 :2000体
【ゾンビ】
基本棲息数: 40体
増殖数 : +20体/日
最大数 :2000体
【採取オーブ】
配置数 :3基
再配置間隔:24時間毎
【宝箱】
配置数 :1個
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◆投資総額:0 gita
(配当なし)
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第3階層に棲息する魔物は、予め聞いていた通りグーラのようだ。
第1階層のゾンビや第2階層のゾンビドッグも続投するようだけれど、新登場のグーラに較べればやはり個体数は少ない。
(――さて、どう弄ってみようかな)
階層の情報を眺めながら、スミカは内心でにんまりと笑みを浮かべる。
《階層投資》の異能を手に入れてからというもの、これまでスミカはその効果を確認するために、最低限の投資しかしてこなかった。
あまりダンジョンに大きな変更を加えれば、そのことに他の掃討者が気づく可能性があると思ったからだ。
だけど――ここは不人気ダンジョンとして有名な錦糸公園ダンジョン。
しかも不衛生であるため、大変に嫌われているゾンビとゾンビドッグの生息圏を通過しなければ、絶対に来ることができない第3階層。
わざわざ不快な思いをして、こんな場所にまで来る掃討者がそれほど居るとも思えないから――。この階層になら、ある程度は投資で好き勝手な変更を加えてしまっても大丈夫だろう。
「ふふふ……♥」
「な、なあミサキ。スミカがヤバい笑顔を浮かべているんだが?」
「人間離れした外見を持つ幼女って、ヤバそうな顔も似合うっすよねえ……」
外野の声は無視しつつ、まずは宝箱の配置数をどんどん増やしてみる。
とりあえず金貨10枚ぶんを宝箱に投資してみた結果、こうなった。
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■投資対象 - 階層004
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錦糸公園ダンジョン・第3階層
【宝箱】
配置数 :11個(+10)
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◆投資総額:10 gita
・迷貨配当(10%)
・階層地図
・階層転移
・位置把握(宝箱)
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錦糸公園ダンジョンは他のダンジョンに比べて宝箱が少なめのようで、初期状態だと各階層に1個ずつしか配置されていないんだけれど。
金貨10枚を投資したことで、配置数が一気に『11個』へと大激増。
これだけ数が多ければ、普通にダンジョン内を探索しているだけでも、それなりに発見できるんじゃないかと思う。
もちろんスミカの場合は、投資したことで『階層地図』が視れるようになっているし、地図上で宝箱の位置も確認できる。
宝箱は回収するたびに、新しい宝箱が同階層内の別の場所に再生成されるから、配置数自体も多いことも相俟って、地図を確認すれば効率よく回収していくことができるだろう。
それと、宝箱に金貨10枚目を投資した時点で、新たに『階層転移』という投資効果みたいなものが追加されている。
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◇階層転移
錦糸公園ダンジョン内からなら、いつでも第3階層へ転移できる。
同行者が居る場合には一緒に転移することも可能。
転移先には『階段』か『安全区域』がある地点のみ選択できる。
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「………………」
つまり、今後は第1階層に入った時点で、いきなり第3階層まで転移してくることができるようになったみたいだ。
いや、確か『石碑の間』もダンジョンの一部ではあった筈だから……。なんなら第1階層に入る必要さえなく、一気に第3階層スタートさえできるのかも。
なんとも凄いし、便利なものでもあるんだろうけれど。
注意点すべき点としては、ダンジョンに入っていきなり『第3階層』へ来ることは可能でも、逆はできないということだ。
帰る時にはちゃんと第2階層と第1階層を通る必要があるので、帰路での戦闘のために充分な余力を残しておく必要はあるだろう。
なお『階層転移』で転移できる位置は、第3階層内の『階段』か『安全区域』がある地点に限られる。
もちろん階段は、いま第2階層から下りてきた『上り階段』と、より先の階層へ進むための『下り階段』があるから、現時点で転移できるのはこの2ヶ所だ。
逆に言えば、このどちらかの位置へ行きたい時には、第3階層内で転移するのも有効な使い方になる。
別に他の階層に居る時じゃないと転移できない、ってわけじゃないしね。
第3階層内に『安全区域』というのは存在しないみたいだけれど……。
これは、どうやら【特殊区画】のひとつとして、金貨1枚を投資すれば階層内に新たに設置することも可能らしい。
『安全区域』は名前の通り、魔物が侵入してこない区域のこと。
ダンジョンによっては特定の小部屋などにもともと設置されている区域で、掃討者からは『魔物が侵入してこない安全な休憩所』としてよく利用されているとか。
無論、転移ポイントとして利用できるからには、スミカにとってはより重要な意味を持つわけだけれど。
(……とりあえず、第3階層の真ん中にでも『安全区域』を設置してみようかな)
階層地図を眺めながら、スミカはそう考える。
上り階段は階層内の端っこに、下り階段はその逆側の端っこにある。
なので中央あたりに『安全区域』を設置すれば、転移ポイントの候補が増えることで、宝箱を回収するために便利に活用できると思うのだ。
「……スミカ? 完全に黙ってしまったようだが、どうした?」
「おっと。ごめんね、いま説明する」
とりあえず、ここまでの一連の流れをリゼとミサキに全て説明する。
スミカにとって2人はとても大切な恋人。愛を囁いたことも、身体を重ね合ったこともある、特別な相手だ。
なので当然、彼女たちに対して自身の能力などを隠しておくつもりはない。
「……なんというか」
「いやもう、凄すぎてなんも言えないっすよ……」
一通りの話を聞き終わった2人が、呆れたような表情で苦笑してみせる。
自分でも『投資』によってかなり異常なことができていると思うだけに、スミカもまた2人には苦笑で応えるしかない。
「しかし、転移か……。ここにきて完全に、SFじみた能力になったな」
「とりあえず、ちょっと体験してみたいっすね!」
「ん、試しにやってみよっか。リゼも良い?」
「……構わないが、手を繋いで貰っても?」
「もちろん」
アンデッドには讃美歌を歌うだけで対処できるため、大鎌はだいぶ前に不要と判断し、魔法の鞄へ収納している。
なので空いている右手と左手で、それぞれリゼとミサキの手を取った。
(では、下り階段の位置へ『転移』を――)
スミカが頭の中で、そう意識すると。
瞬く間に――スミカたちの周囲にあった景色が一変した。
いや、もちろんダンジョン内の景色は、基本的に代わり映えがしないから。そういう意味では、今までとほぼ同じではあるんだけれど。
スミカたちの左右にあった壁が、今はどちら側にも無くなっていたり。
すぐ背後にあった筈の上り階段が無くなり、それと入れ替えのように、正面側により先の階層へと下りることができる階段が現れているのだ。
「……ヤバいな、これ」
「間違いなく、ヤバいっすね」
リゼとミサキが、誰にともなくそう言葉を発する。
スミカもまた、2人の言葉には完全に同意するしかなかった。
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