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迷貨のご利用は計画的に! ~幼女投資家の現代ダンジョン収益記~  作者: 旅籠文楽


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41/61

41. 不人気ダンジョンはショート寸前

体調不良のため一昨日にお休みを頂きました。すみません。

(現在は回復しております)

 


     [2]



 リゼが帰宅した後に、彼女が持ち帰った衣装に着替えてメイクも済ませてから、ミサキの車に乗って錦糸公園へと向かう。

 別に車で行くほどの距離でもないんだけれど……掃討者はダンジョンの最寄りにある駐車場は無料、または格安で利用できるという特権がある。


 ミサキが軽く調べてくれたところによると、錦糸公園の駐車場――というより、公園の敷地内にある『ひがしんアリーナ』という総合体育館側にある駐車場なんだけれど、そこはダンジョンに潜る掃討者は『1日無料』で利用できるらしい。

 日付を(また)がない限り時間制限なく停められるので、撮影を終えた後に軽く潜ってみるつもりでいるスミカたちにとっては、無料も同然で利用できるわけで。

 だったら探索のあとに買い物をして帰ることも考慮して、車で行こうという話になったのだ。


「風はないけれど、適度に涼しいね。これなら汗を掻かずに済みそう」

「やっぱ自然が多いと、気温もちょっと下がるんすかねー」


 錦糸公園は墨田区内ではかなり広い公園で、緑の量も多い。

 そのお陰か、体感温度は自宅よりも涼しいぐらいで、スミカは安堵していた。


 なにしろ今のスミカは、リゼが持ってきた衣装――いかにも陽射しを吸収しそうな真っ黒のゴシック&ロリータ服に身を包んでいるのだ。

 ロココ文化を思わせるフリルなどの装飾が過多でちょっと重たい服は、なんとも動きにくくて暑苦しい。

 もし公園内が初夏に相応しい暑さだったなら、それなりにつらい撮影になっていただろうことは、想像に難くなかった。


「スミカ、これを持ってくれ」

「……お?」


 リゼから手渡されたのは、花束――なんだけれど。

 包まれているのは薔薇やガーベラ、カーネーションに代表されるような、花束を作るのに定番の花ではなく。

 それは、かすみ草(・・・・)だけで作られた花束だった。


「へえ、なかなか洒落(しゃれ)てるね」


 かすみ草は他のメインとなる花を強調する『添え花』として花束に使われることが殆どなので、これ単品を花束にするのは非常に珍しい。

 けれど――かすみ草は本来、充分に主役を張れる魅力を秘めた花でもある。

 こうして単独で花束を作ると、そのことがとても判りやすかった。


「胸元に花束を抱えている()で、逆光のポートレートを撮る。まずは横から、次に正面からだな。レフレックスを私が持つので、撮影はミサキが頼む」

「はいはい、了解っすよ」


 リゼがレフレックスと呼んでいるのは、いわゆるレフ板のこと。

 特に逆光で撮影する場合には、必須となるアイテムだ。


 ――というわけで、照明係と兼任して撮影監督も務めるリゼからの注文に、その都度(つど)応じつつ、それから30分ほど撮影を行った。

 撮影の傍らにリゼとミサキが話してくれた内容によると、彼女たちのバンドが次に出す新譜は『Funeral Witch』というタイトルになるらしい。

 そのまま直訳すると『葬送の魔女』という意味になるだろうか。


 なのでリゼは、ジャケ写にも『葬送』っぽさがある()が撮りたいらしい。

 なるほど――真っ黒なゴスロリ服は、確かにある意味で葬送感を伴う服装だと、言えなくもない気がする。


 純白の髪を持ち、血を思わせる濃い真紅の瞳をもつスミカの容姿は、少なからず人間離れしているところがある。

 しかも背中からは黒い双翼まで生えているのだから、尚更だ。

 そんな容姿の少女がゴスロリ服まで着た写真に、『Funeral Witch』というタイトルが添えられているのは……なるほど、一種の説得力はあるかもしれない。


 デジタル一眼のカメラなので、撮影した写真はその場で確認できる。

 リゼもミサキも満足する()が撮れたことで、無事に撮影は終了となった。


「とても良い表情だった。演技慣れしているように思えたが?」

「高校生の頃に部活でちょっとね。入部してたわけじゃないんだけれど」


 当時、演劇部の部長を務めていた女性と付き合っていた関係で、演者不足の際によく駆り出されていたから。

 演技慣れしているとすれば、そのせいだろう。


「なるほど。チカはこういうの苦手だから、助かったよ」

「……そうなの?」

「うむ。チカはほら――性格の良さが顔に出過ぎているだろう? 笑顔の撮影ならとても良い仕事をしてくれるんだが、今回のジャケ写のように『葬送』をテーマにした暗い()を撮りたい場合には不向きなんだよ」

「ああ……。判る気はする……」


 チカは根っからの善人であり、朗らかで、いつも笑顔を絶やさない。

 そんな彼女が暗い表情を浮かべているところは、正直想像しづらいから。リゼが言いたいことは理解できるような気がした。


「な、なんだかちょっと、人が集まってきてるっすか……?」


 ミサキの言葉に、慌てて周囲を見回すと。

 確かに彼女の言う通り、いつの間にかスミカたちの周囲に、ちょっとした人垣ができているように思えた。


 これは――多分、芸能人とかが撮影してるとでも誤解されたかな?

 レフ板まで使用していたせいで、周囲の人からは本格的な撮影をしているように見えたのかも知れない。


「話しかけられても面倒だし、さっさとダンジョンに移動しましょうか」

「そうだな、そうしよう」

「了解っす!」


 すぐに合意に至ったので、スミカたちは足早に移動を開始。

 事前に調べておいた情報によると、ダンジョンの入口は錦糸公園内のやや北寄りにあるらしい。


 園内に設置された全体図を確認しながら、なんとなくの見当をつけた位置にまで移動すると。自衛隊の天幕が立てられているのが遠目に確認できた。

 たぶんあの天幕のすぐそばに、ダンジョンの入口があるんだろう。


「――掃討者の方ですか?」


 天幕に到着すると、自衛隊員の男性が立って出迎えてくれた。

 肯定代わりに3人でステータスカードを提示し、利用の手続きをする。

 男性はスミカがゴスロリ服を着ていることに、一瞬だけ驚いた顔をしていたけれど。特に何も言わず、手続き自体は(すみ)やかに済ませてくれた。


 天幕のすぐ裏側にあったダンジョンの入口から地下へと潜り、『石碑の間』へと到着する。

 公園内もそれなりに涼しかったけれど、地下へ潜ったことで更に気温が1~2度下がったような気がした。

 この様子だと夏場に暑さを避ける目的でダンジョンを利用するのも、普通にアリな気がする。積極的に通って冷房費を抑えようかなあ……。


「先客の姿はなし、か……。聞いていた通り不人気ダンジョンなのだな」

「あまり人が来ないと魔物が溢れるリスクがあるっすけど、大丈夫なんすかね?」

「――ちょっと調べてみましょうか」


 石碑の間の中央に存在する『石碑』。

 この石碑は普通に見ただけだと、何も書かれていないただの石板なんだけれど。

 実は《鑑定》の異能を持っていれば、この石碑から様々な情報を読み取ることができると、そう掃討者資格の仮免講義中に聞いたことがある。


 まだ試したことはないけれど《鑑定》の異能ならスミカも持っている。

 というわけで、さっそく異能を使うことを意識しながら、まじまじと石碑を見つめてみると――。




+----+

□錦糸公園ダンジョン


 階層数 :全32階層

 安全階層:4、8、12、16、20、24、28


 【魔物許容限界】

  第1階層:97%(あと3日)

  第2階層:94%(あと6日)

  第3階層:94%(あと6日)


  第5階層:100%

  第6階層:100%

  第7階層:100%


   ・

   ・

   ・


+----+




 石碑の表面に突然、文字が浮かび上がって見せた。

 ぼんやりと光る文字には、ダンジョンの情報が記されている。


 ここ錦糸公園ダンジョンは全部で『第32階層』まで存在し、4の倍数の階層は魔物が存在しない『安全階層』になっているらしい。

 また、魔物の許容限界は第1階層が『97%』に達しており、第2階層と第3階層も『94%』と、かなり限界が近くなっているようだ。


 許容限界が『100%』に達した階層からは、魔物がより上の階層にまで溢れるようになってしまう。

 本来棲息している魔物よりも、高レベルの魔物が闊歩するようになってしまうため、掃討者にとっては危険な状態だ。


 もちろん第1階層が『100%』になれば、地上に魔物が氾濫してしまう。

 実際に現状のまま魔物が増え続ければ、早くも3日後には魔物が地上に溢れ出ることになるようだ。


 なお、安全階層には『魔物が侵入できない』ため、第5階層以降に棲息する魔物が第4階層よりも上にまで出てくることはない。

 なので第1~3階層の魔物さえちゃんと間引きすれば、とりあえず地上に魔物が溢れる事態は避けることができるわけだ。


「なんか、最速あと3日で氾濫するらしいんだけど」

「……その情報は、まず地上の自衛隊員に伝えておいたほうが良いのでは?」

「そうかも……」


 もし自衛隊員がこのことを把握していなければ、3日後に結構な惨事が発生する可能性がある。

 というわけでスミカたちは踵を返し、一旦地上へ出ることにした。






 

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日間総合111位、日間ローファンタジー3位、

週間総合114位、週間ローファンタジー4位に入っておりました。


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