37. 鍵も罠も関係ない
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「マジっすか……」
思わず、思念会話にするのも忘れて、そう声が漏れ出てしまった。
掃討者ギルドで受けた講義で、講師の中島から『ダンジョン内で人通りが少ない場所、特に袋小路によく配置される』と聞いていたから。
これまで幾度となく、フミと一緒にそういう場所を探し回ったりもしたにも拘らず、結局一度として見つけることができなかった宝箱。
それが――今回ばかりは、探し始めてたったの5分で発見できてしまった。
理由は言うまでもない。
スミカが新しく得た《階層投資》の異能、それを利用して自分たちが今居る『東京都庁第一本庁舎ダンジョン』の『第1階層』への投資を行った結果、現在の階層の地図を自由に確認できるようになったからだ。
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◇階層地図
あなたは階層の全図をいつでも頭の中に展開できる。
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◇位置把握(宝箱)
階層の全図に宝箱の位置情報が追加される。
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心の中で(地図を確認したい)と思うだけで、いつでもスミカは頭の中に、まるで3Dホログラフィーのような立体的で正確な地図を描くことができる。
この地図はスミカの意思ひとつで縮尺を自由に変えることが可能で、しかも地図上には現在スミカたちが居る場所に『青色のマーク』が付いている。
もはや今後、スミカたちがダンジョンで迷うことは絶対に無いだろう。
無論これだけでも、充分にチートな能力である筈なのに。
更にもう1つ――『位置把握(宝箱)』の効果が、かなりヤバい。
頭の中に地図を展開すると、もれなく『紫色のマーク』が3ヶ所に付いている。
このマークが示す位置に『宝箱』があることは、容易に想像がついて――。
……そして実際に、今こうして発見してしまったわけだ。
〔今後はもう、宝箱を見つけ放題になりそうですね〕
〔なるだろうねえ……〕
スミカが居れば、宝箱のある位置が常に判る。
宝箱の元まで移動する間に遭遇する障害は、フミが居れば敵ではない。
となればフミの言う通り、今後は2人だけで宝箱を確保し放題になりそうだ。
宝箱の中には必ず、それなりの量の迷宮貨幣が入っているらしいから。積極的に宝箱を回収して回れば、投資の元手を増やすことができる。
スミカはより〈投資家〉の天職を活用できるようになるだろうし、その結果フミの能力が更に強化され、彼女の無双っぷりにもより磨きがかかることだろう。
〔今後の課題は『鍵』と『罠』ですね〕
〔おっと、そっか。その問題があったね……〕
ダンジョン内に配置される宝箱には『鍵がかかっている』ことや、『罠が仕掛けられている』ことがある。
原則として、難易度が低いダンジョンほど鍵も罠も無いことが多く、逆に難易度が高めのダンジョンだと、両方ともセットされていることが多い。
なので例えば、初心者向けとして知られる『白鬚東アパートダンジョン』で宝箱を見つけても、それに鍵や罠が掛かっていることは絶対にないんだとか。
〔解除には〈盗賊〉とか〈斥候〉の天職を持つ人が必要なんですよね〕
〔うん。そういう話だね〕
鍵を開けたり罠を解除するためのスキルは、〈盗賊〉や〈斥候〉の天職を持つ人でなければ、なかなか修得できない。
なので、これらの天職の人が不在のパーティでは、宝箱を見つけてもスルーすることもあるようだ。
鍵はともかく、罠のほうは迂闊に発動させてしまうと、パーティに被害が出るかもしれないからね。
安全を重視する場合には、それも必要な判断なんだろう。
(……これって《鑑定》は有効なのかな?)
スミカはそう考えながら、心の中で(この宝箱について知りたい)と念じる。
すると、いつも通りスミカの視界にひとつのウィンドウが現れた。
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宝箱(ランク1)/迷宮設置物
ダンジョン内の無作為な場所に配置される宝箱。
迷宮貨幣とランダムアイテムが1つ格納されている。
開封者の[幸運]が高いほど中身が良くなりやすい。
鍵は掛けられていない。
『矢の罠』が仕掛けられている。
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〔――おっ〕
〔どうかしましたか?〕
〔罠はあるけど鍵は掛かってないね。《鑑定》があれば調べられるみたい〕
〔スミカ姉様、ちょっと万能過ぎませんか……?〕
軽く呆れたような視線を向けてくるフミに、スミカは苦笑するしかない。
まあ、あくまで鍵と罠の有無を調べられるだけで、解除はできないんだけど。
とはいえ――有無が確実に判別できるだけでも、意味は大きいか。
鍵も罠もない場合には、堂々と宝箱を開けることができるわけだし。
罠がある場合でも、どんな罠か事前に判れば、脅威の予測が立てられる。
例えば今回は『矢の罠』だから(箱の正面側に立たなければ矢は飛んでこないのでは?)と、そんな風に推測したりできるわけだ。
罠はないけど鍵は掛けられている、というケースの場合には、フミと2人で宝箱を抱えて『石碑の間』あたりまで運び、〈盗賊〉や〈斥候〉の人を探して依頼し、開けて貰うという手も考えられる。
宝箱は重たいだろうけれど、2人掛かりなら持てなくはなさそうだしね。
あるいは、いつも通り『魔法の鞄』に入れて運ぶという手も――。
〔――あっ〕
〔スミカ姉様……?〕
〔ごめん、ちょっと試してみたいことがあるんだけど、良い?〕
〔はい、もちろんです〕
許可を得て、早速スミカは宝箱の収納を試みる。
すると――スミカとフミの目の前にあった宝箱が、消滅した。
無論、消えた理由は言うまでもない。
〔………………〕
〔うん……。フミが何が言いたいかは、判るよ……〕
フミから向けられている視線が、雄弁に『チートですよね?』と語っている。
自分でもわりとそう思えてしまうだけに、反論の余地がない……。
魔法の鞄の中に右手を入れて、現在収納されている内容を確認してみる。
新しく追加されたのは『宝箱』と――『迷宮銀貨』が28枚と『クロスボウ』、『ボルト』、『治癒の霊薬(ランク1)』の5つかな。
ボルトというのは、クロスボウ用の矢のことらしい。
なのでこの2つのアイテムは、たぶん宝箱に仕掛けられていた『矢の罠』を構成する一部で、本来の中身とは別枠で手に入ったものだろう。
〔……なるほど。収納しちゃえば鍵や罠の有無なんて、何も関係ないと〕
〔アッ、ハイ。そうみたいです……〕
〔チートここに極まれり、ですねえ……〕
なんだろう……。別に責められているわけじゃないのに、不思議と良心の呵責に似た、いたたまれないような気持ちになる。
あ、でも、ジト目でこっちを見てくるフミは大変に可愛らしいです。
定期的にこの目でスミカのことを見てくれないかなあ、とも思う。
〔とりあえず、便利に利用できるものを、使わない手はないですよね〕
〔それはそう〕
頭の中にダンジョンの地図を展開すると、宝箱がある位置を示す『紫のマーク』が3ヶ所に付いていた。
いま宝箱のうち1つを回収したわけだから、残るマークは2ヶ所になると思ったんだけれど。
どうやら1つを回収した時点で、即座に新しい宝箱が1つ、階層内に生成される仕組みになっているようだ。
――つまり、宝箱は枯渇することがない。
スミカとフミの体力が続く限り、幾らでも回収して回ることができるわけだ。
というわけで、それ以降はひたすら『紫のマーク』が示している位置を積極的に目指し、発見した宝箱を収納して回った。
最終的に回収した数は、なんと『14箱』。
確認しようがないけれど――多分、掃討者が1日で回収した宝箱の数としては、世界記録なんじゃないだろうか。
欲しかった迷宮貨幣がどんどん集まるものだから。だいぶテンションが上がっていた実感が、スミカにはある。
おそらくはフミも途中で楽しくなって、多少なりに舞い上がっていたんだろう。
そのせいで――スミカもフミも、自分たちが探索する様子を『ドローンで撮影して配信している』という事実を、いつしかすっかり忘れていたのだった。
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日間総合149位、日間ローファンタジー6位に入っておりました。
ありがとうございます、偏に皆様のお陰です。今後も投稿を頑張ります。




