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迷貨のご利用は計画的に! ~幼女投資家の現代ダンジョン収益記~  作者: 旅籠文楽


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34. ゴブリン戦

 



 コーン! コーン! と、フミが腰に下げた鞘を片手剣の腹で叩き、幾度となくダンジョンの中に音を響かせる。

 ゴブリンは獣型の魔物に較べれば知恵がある魔物だ。なので、こうして意図的に音を立てれば、あちらからやってきてくれるらしい。


 実際、フミが立てた音に誘われて、通路の曲がり角の向こうから2体のゴブリンたちが姿を見せた。

 身長こそスミカやフミと殆ど変わらないぐらいだけれど、全身がモスグリーンに近い色をしていて、人とは全く異なる生き物だと見ただけで判る。

 また、顔が――特に口元と耳のあたりが、人間の顔とは違って、明らかに歪んだ造りをしていて。見ているだけで言葉にしがたい不快感を覚える。


 『異端職』の天職を得たスミカは、その瞬間から人ではなくなり、人型の魔物に変貌してしまっているわけだけれど――。

 自分の種族が『吸血姫(カルミラ)』であり、ゴブリンではなかったことに、心底ほっとする思いがした。

 もし自分が、こんな見た目になっていたらと思うと、ぞっとする。


「グギャギャッ!」

「ギャフッ! ギャフッ!」


 ……聞こえてくる鳴き声(?)もまた、非常に不快なものだ。

 フミと話すだけなら思念会話で充分だから、次からこのダンジョンへ来る時には耳栓を持ってこようか――なんて、そんなことさえ考えてしまう。


 見れば、フミも露骨に眉を(ひそ)めていた。

 とはいえ眼差しは真剣で、ちゃんと戦闘に臨む心構えができていることも判る。




+----+

ゴブリン - Lv.5


  [筋力]  9

  [強靱] 10

  [敏捷]  7


  [知恵]  3

  [魅力]  5

  [幸運]  6


 スキル:〈棍棒術Ⅰ〉〈投擲術Ⅰ〉


 保有魔力:35×100

 ドロップ:迷宮銀貨、黒ビール、棍棒、スキルジェム〈投擲術〉


+----+




 試しに《鑑定》の異能を使ってゴブリンを()てみると、ゴブリンのレベルや能力値、持っているスキルや魔力、ドロップアイテムなどの情報を確認できた。

 というか、倒す前から何のアイテムを落とすかまで判るなんて……なんだか本当にゲームみたいだな、とスミカは内心で思う。


(……意外と能力値が高いな)


 それぞれの能力値は、一般的な大人の平均値が大体『7』ぐらい。

 なのでこのゴブリンは、スミカたちと大差ない程度の小柄な身体をしていながらも、普通の大人より優れた[筋力]や[強靭]を有しているわけだ。

 そんな相手が棍棒を持っているわけだから――何度も殴られれば普通に殺されることだって有り得ると、そう思っておいたほうが良いだろう。


(というか、ゴブリンは普通にレベルが『5』もあるんだね……)


 東京都庁第一本庁舎ダンジョンに棲息する魔物は『レベルのわりに強い』という話だけれど。そもそものレベル自体も、スミカが思っていた以上に高い。

 レベル『1』の魔物であるピティの次に戦うわけだから、てっきりゴブリンはレベルが『2~3』ぐらいの魔物かと思っていたんだけれど……。


 まあ、メインで戦うのはフミなわけだし、彼女がこのダンジョンへ来たいと言ったんだから、今更どうこう言うこともない。

 正直――ゴブリンのレベルが『5』だからといって、フミが負けるとは全く思えないしね。


「――ハアッ!」


 迫りくる2体のゴブリンが、フミの目の前まで来た瞬間に。ダンジョンの中に、白刃の一閃が煌めいた。

 2体のゴブリンは、どちらも右手に棍棒を持っていたんだけれど。そのゴブリンたちの利き腕を――フミはたった一度の斬撃で、両方とも()ね飛ばす。


「グギャオオオオ‼」

「グギィイイ‼」


 痛みのあまりに、一際大きくて耳障りな声を上げるゴブリンたち。

 どう見ても隙だらけになっているところに、スミカは地面スレスレから(すく)い上げるように大鎌を振るい、巨大な刃をゴブリンの腹部からブッ刺した。


 大鎌の一撃は、やっぱり上手く当てることさえできれば強烈みたいで。

 腹を抉られたゴブリンの身体が、すぐに光の粒子へと身体が変わって消滅する。


 スミカが倒した側とは別の、もう1体のゴブリンも。見ればいつの間にか胸元に深々とフミの片手剣が突き刺さっていて。

 引き抜くと同時に大量の血が吹き出て、程なく全身が光の粒子へと変わる。


 やはりと言うべきか、レベル『5』のゴブリンでも、フミにとっては簡単に倒してしまえる相手でしかないようだ。

 ちなみに、今しがた血に塗れたフミの剣は、ゴブリンの身体が光の粒子になって消滅すると同時に、付着していた血もまた消え失せていた。

 どうやら、ちゃんと魔物にトドメを刺せば、血糊を落とす必要はないらしい。


〔スミカ姉様、銀貨が出てます〕

〔おっ、ホントだ〕


 消滅する直前に2体のゴブリンが居た場所に、それぞれ1枚ずつの銀貨が地面に落ちていた。

 一旦『魔法の鞄』に収納した上で、スミカはそれを手元に取り出す。


 黒ずみひとつ無い、とても綺麗な銀貨だ。

 サイズは金貨と同じく、500円玉よりも一回り大きいぐらいかな。


 こうして手に取ってみると――この銀貨も問題なく『投資に使用できる』ことが、感覚的に理解できた。

 同時に、この銀貨の額面価値が『1eliza(エリザ)』だということも判る。


 金貨のほうは確か『1gita(ギータ)』だった筈だけれど。それと等しい価値になるためには、この銀貨が100枚必要なことも理解できた。

 つまり『1gita=100eliza』ってことだろう。


〔この銀貨だと、100枚集めれば金貨1枚分として使えるみたい〕

〔100枚ですか……。集めるのはなかなか大変そうですが、宝箱だけに期待するよりは、1枚ずつでも魔物から出てくれるほうが嬉しいですね〕

〔そうだね。幸い、ドロップ率はわりと高そうだし〕


 2体倒して2枚出たのだから、そう判断しても良いだろう。

 あるいは、予め投資してフミの[幸運]を少しでも上げておいた効果が、出ているだけかもしれないが。


〔近くに魔物の気配はありません〕

〔今回は採取オーブの場所が判らないから、適当に歩いていいよ〕

〔了解です〕


 いつも通り、スマホで掃討者ギルドの公式サイトを開き、この東京都庁第一本庁舎ダンジョンの地図を開いているんだけれど。

 残念ながら、今日の採取オーブがこの第1階層のどこに配置されているかの情報は、掲載されていなかった。

 不人気ダンジョンなので、情報を更新する人が誰も居ないんだろうね。


 適当に歩けば、行き止まりにぶつかることも多いだろうけれど。

 宝箱はダンジョンの袋小路に配置されやすいので、それも無意味ではない。


〔――聞こえました。多分3体ですね〕

〔オッケー、誘い出す?〕

〔そうしましょう〕


 フミは先程と同じように鞘を叩き、スミカは強く柏手(かしわで)を打つようにしながら音を立てて、ゴブリンの集団を誘い出す。

 音さえ立てればあちらから来てくれる、というのはなかなか便利だ。


 程なく、スミカの耳にも聞こえるぐらいに、判りやすく足音を立てながら3体のゴブリンたちが駆け寄ってきた。

 2体は先程のゴブリンと同じく、手に棍棒を持っているが。

 残るもう1体は――。


〔気を付けて。たぶん石を投げてくる〕

〔……それは厄介ですね〕


 両腕を使って胸元に沢山の石を抱えながら、こちらへ走って来ていた。

 明らかに投げるための石だろう。投石器(スリング)は持っていないみたいだけれど、普通に投げられるだけでも充分な脅威になる。


 ある程度離れた場所で、ゴブリンは胸元に抱えていた石を地面にバラ撒く。

 あとは逐一地面から拾いながら、石をこちらへ投げるつもりなんだろう。


(ん……?)


 その様子を見ていたスミカは、ふとあることに気づく。

 敵の手元を離れた今なら――もしかしたら回収(・・)できるのでは?


 試しに頭の中で、地面に置かれた石を魔法の鞄に『収納』しようと意識すると。

 果たして――スミカの思った通り、地面に置かれた沢山の石が、一瞬のうちに全て消え去った。

 投げようと思っていた石が瞬時に消失したことに、ゴブリンの1体がわたわたと判りやすく慌てている。


〔――わ! スミカ姉様、ナイスです!〕


 フミはすぐに、スミカがやったことに気づいたようだ。

 遠距離攻撃さえ封じれば、それだけで敵の脅威は大幅に減少する。


 戦闘はフミに任せつつ、魔法の鞄の中に右手を入れて現在収納されているアイテムを確認してみると。『ダンジョンの石』というアイテムが14個追加されていることが判った。

 試しに1個取り出してみると、今はとても小さくなったスミカの手に、ちょうど収まるサイズの石のようだ。

 まあ、良くも悪くもスミカの体躯はゴブリンと同じぐらいだから。彼らにとって扱いやすい石は、スミカにとっても同じことが言えるんだろう。


「せー、のっ!」


 大きく振りかぶり、ゴブリンに向かって上手投げで石を投げつけてみる。

 近い距離から投げつけられた石には、流石に反応できなかったんだろう。投石はゴブリンの眉間に、思い切りぶつかった。


「グギャアアアア!」


 かなり痛かったらしく、棍棒を取り落として大きな声を上げるゴブリン。

 隙が生まれれば、当然それを無駄にするフミではない。

 即座にゴブリンの喉に――深々とフミの剣が突き立てられた。


〔流石だね、お見事〕

〔ありがとうございます〕


 1体が消滅し、残るゴブリンはあと2体。

 棍棒持ちのもう1体をフミが封じ込めてくれたので、石を消されたことで武器を何も持たない無防備な1体のほうへ、スミカは突っ込む。


 勢いよく横薙ぎに振るった大鎌が――ゴブリンの頸部に命中して。

 大鎌の巨大な刃が、ゴブリンの頭を綺麗に()ね飛ばした。


〔……お、お見事〕


 軽く戸惑いが混ざった語調で、そう告げるフミ。

 予期せず発生したグロい絵面に、スミカは頬を引き攣らせるばかりだ。

 幸いというべきか――すぐにゴブリンの胴体も頭部も、光の粒子に変わってくれたお陰で、まじまじと見つめずには済んだけれど。





 

投稿開始から無事に2ヶ月経過しました。

いつもお読みくださりありがとうございます。


今後の投稿継続の判断材料にしたいと思いますので

よろしければ率直な評価点をお入れ頂けましたら幸いです。

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― 新着の感想 ―
ダンジョン設定、主人公の強くなる方法の分かりやすさと特異性が練られていて面白いです
めちゃめちゃ面白いのでこのままの方向性でぜひ!
一気読みしました!斬新で面白いです!
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