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迷貨のご利用は計画的に! ~幼女投資家の現代ダンジョン収益記~  作者: 旅籠文楽


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33/61

33. 大鎌と思念会話

 



 なぜ『大鎌』なんて奇妙な武器を購入したかというと、理由は単純で。

 信じられないぐらいこの武器が、安かったからだ。


 元々スミカが買う予定だった鎚矛(メイス)は、掃討者ギルド2階の武具販売店に、以前と同じ2万円程度で売られていた。

 今なら2割引が適用されるお陰で16000円で購入できる。もちろん、それで特に不満は無かったんだけれど。

 武具店の目立たない隅に『激安特価品』のシールが貼られて、置かれていたこの大鎌は、なんとそのお値段――6000円。

 ちゃんと2割引も適用されるので、たったの4800円で買えてしまう。


 武具店の店員さんに話を聞いてみたところ、この『大鎌』という武器は、宝箱などからたまに発見されることがあるらしいんだけど、とにかく掃討者には不人気な武器らしい。

 2メートル近い長さの柄があり、その先に鋭利で巨大な刃が付いている大鎌は、サイズが馬鹿でかいせいで持ち運びに苦労する。

 折り畳んだりもできないし、金属の刃部分に重量が集中しているため、携行時のバランスも酷く悪いそうだ。


 掃討者は仕事上必要であるため、武器を携行することが法律で認められているけれど。武器の携行時には必ず『武器を持っていることが周囲には判らない』ように配慮することが義務付けられている。

 多くの掃討者が、楽器ケースや釣竿用のケースなどを持ち歩き、その中に武器を収納しているのはそのためだ。

 武器を裸のまま携行していると、周囲の人達を威圧してしまうことになりかねないからね。これは当然の義務だとスミカも思う。


 なのでこの大鎌も、持ち歩く際には周囲に武器と判らないように、隠す必要があるんだけれど……。

 布を巻き付けて隠すだけだと、シルエットが見えてしまうから、勘の良い人なら気づくだろうし。それに、鞘のように刃の部分を覆うものが無いので、布が切れて街中で武器が露出してしまうことがあるかもしれない。

 じゃあ何かのケースに収納しよう――と考えても、大鎌がそのまま入れられるようなケースなんて存在しない。となれば当然『特注』で用意することになるので、非常に高く付いてしまう。


 それに武器として使うにも、大鎌は大変に微妙で。

 まず、単純に扱いが難しい。大鎌での攻撃は遠心力に任せて『大振り』するか、もしくは内側に刃が付いていることを活かして、相手の背後側から『引き斬る』かの、主に2つしかないんだけれど……。


 前者の『大振り』は刃の先端から突き刺すような攻撃になるため、威力充分ではあるものの命中範囲が狭く、また武器の使用者から見て横方向からの攻撃なので、狙った場所に命中させるのが難しい。

 また、文字通り大振りするような動作になので、それなりに場所を取った攻撃になってしまう。単身(ソロ)での探索なら良いけれど、同行する仲間が居る場合に広さに制限のあるダンジョンの中で大振りを行えば、一緒に戦う仲間に迷惑が掛かったり、時には攻撃に巻き込んでしまう可能性さえ有りそうだ。


 後者の『引き斬る』は、相手の盾を無視して攻撃できるというメリットが、一応無くはないんだけれど。まず敵の後ろに刃を回して、こちらに向かって引くという手順が必要になるため、攻撃のテンポが悪い。

 しかも、敵を懐に入れてしまう格好になるため、この攻撃をすると敵からの攻撃を防いだり避けることができなくなってしまう。当然、敵の攻撃をこちらの武器で防ぐこともできず、完全に無防備だ。


 そういった、とにかく『扱いづらい』という一言に収束する、様々な理由を店員さんの口から聞かされる程に。6000円なんていう破格になるのも、納得感しかなかった。

 けれども、同時に――スミカが買う分には、それらの問題の多くは解決できるのではないかと、そう思えたのも事実だ。


 まず『携行性の悪さ』についてだけれど、これは魔法の鞄を持つスミカにとっては、全く問題にもならない。

 鞄に入れてしまえば、武器の大きさは問題にならず、重さを感じることも無くなるからだ。武器を携行していることだって周囲の誰にもバレる筈がない。


 そして『大振り』で仲間の行動を邪魔したり、誤って仲間を攻撃に巻き込んでしまうかもしれない問題については、〈投資家〉の能力が解決してくれる。

 なぜなら――スミカの攻撃は『投資対象者の身体を透過する』からだ。

 この効果のお陰で、スミカがどんなに大鎌を大振りしても、刃がフミを傷つけたり、長い柄がフミに当たって行動を邪魔したりすることはない。


 これは『相互攻撃透過』という投資効果の一部なので、フミが繰り出した攻撃もまた、スミカに命中することはない。

 なので、他に誰かが居れば別だけれど。フミと2人きりで探索する分には、ダンジョンの通路であっても、お互いを気にせず武器を振るうことが可能だ。


 大鎌で上手く敵を攻撃する難しさ、みたいな部分はどうしようもないけれど。

 多くの問題が解決するスミカになら、間違いなく大鎌に『4800円』を超える価値を見出だせるのも事実。

 というわけで――少し悩みつつも、お値段に負けて買ってしまったのだ。


「頑張って大鎌の扱いに慣れないとですね」

「そうだね。とりあえず大振り主体で戦うけれど、あまり気にしないで良いから」

「はい。私は自分の戦いをしますので」


〔あ、そういえば――フミの[幸運]をもう1点上げたいんだけど、良い?〕


 敢えて言葉には出さず、思念会話でフミにそう問いかける。

 既にドローンでの配信を開始している以上、スミカの『投資』の効果については伏せたほうが良いのかなと思ったからだ。


 別に『隠したい』とまで思っているわけじゃないけれど。

 視聴者へ親切に情報を開示してあげる理由も、特に無いからね。


「はい。戦闘感覚が大きく変わってしまう[敏捷]以外でしたら、スミカ姉様の好きにして貰って大丈夫です」


 フミからそう許可が貰えたので、早速スミカは魔法の鞄から『迷宮金貨』を6枚取り出す。

 その金貨をすぐに消費して、フミの[強靱]と[幸運]をそれぞれ『+2』から『+3』へと強化した。




+----+

■投資対象 - 人物001

-

レイゼイ・フミ

 人間種(ノルン)/12歳/女性


  〈剣士〉 - Lv.1 (113/341)


  [筋力] 12+2

  [強靱] 10+3

  [敏捷] 13+2


  [知恵]  8+1

  [魅力]  7+1

  [幸運] 10+3


-

◆投資総額:20 gita


 ・魔力配当(20%)

 ・相互攻撃透過

 ・位置把握

 ・思念会話


+----+




 投資対象の情報を表示させ、ちゃんとフミの能力値が増えていることを確認。

 [幸運]は討伐した魔物がドロップアイテムを残す確率に影響するため、高ければ高いほど金銭収入が良くなる。

 [強靱]については、万が一フミが魔物の攻撃を喰らってしまった時のために、保険として一応増やしておいた。多分、敵から受けるダメージを減らす役割がある能力値だと思うからね。


(……お?)


 投資対象の情報が記されているウィンドウを眺めていたスミカは――ふと、あることに気づく。

 確か、ちょっと前までは『思念会話(送信専用)』と書かれていた筈の項目。

 そこに今は送信専用の表記が消えて、単に『思念会話』とだけ書かれていた。

 これって、つまり――。


〔フミ。多分だけど、思念会話でフミからも話せるようになったかも〕


「えっ――⁉ ほ、ホントですか⁉」


〔うん、本当本当。ちょっと試しにやってみてくれないかな? 心の中で、私に伝えたいと思いながらメッセージを思い浮かべれば良いから〕


「や、やってみます……」


 フミはそう答えると、まるで戦闘前にするような、集中した目つきになって。

 それからじっと、スミカのほうを見つめてみせた。

 ……なんだか真っ直ぐな目で見られると、可愛がりたくなるなあ。


〔えっと――スミカ姉様、お慕いしています〕

〔ありがとね、フミ。私もフミのことが好きだよ〕

〔……! 本当に声に出さずに話せるんですね……!〕


 驚きに目を見開くフミ。

 まあ、考えるだけで相手に言葉が伝われば、最初はそう思うよね。


〔たぶん1人に対して金貨20枚分の投資を行うことが、思念会話で双方向の会話ができるようになる条件なんだと思う〕

〔なるほど……。慣れれば言葉を実際に発するよりも、頭の中で考えるほうが早そうですから、思念会話は戦闘にも活かせるかもしれませんね〕

〔そうだね。なるべくこっちで会話して、練習するようにしよっか〕

〔はい、お願いします。……配信を見ている人には、退屈かもしれませんが〕


 フミはそう言ってみせるけれど、スミカはそれほど心配していない。

 なにしろ、今日が初配信なのだ。なんの予告も宣伝もせず、いきなり開始された初配信を視聴しようなんて酔狂な人は、せいぜい1人か2人ぐらいのものだろう。

 どんなに多くても5人を超えていることはまず無いだろうから。その程度の人数の視聴者なんて、気にするようなものではない。


(あくまで『自衛』がメインだしね)


 配信を行っていることが防犯になるなら、それで良い。

 別に、沢山視聴されて承認欲求を満たしたいという思いなど、無いのだから。


〔スミカ姉様。近くに2体居ます〕

〔了解。ここは確か『ゴブリン』が出るんだよね?〕

〔はい。ネットで調べた時に、そう書いてありました〕


 コミックや小説などのファンタジー作品はもちろん、RPGを始めとしたゲームにも頻出のモンスターである『ゴブリン』。

 多くの作品では、ザコの代表格のような扱いを受けているモンスターだけれど。実際に戦えば、彼らがザコである筈がないとすぐに判るはずだ。


 何しろ、人型の魔物であるため、彼らは武器を使いこなすことができる。

 剣や槍などを持っている個体はもちろんながら、木の棒や石を持っている個体であっても、決して甘く見ることはできない。

 なぜなら――木の棒で殴ったり、石を投げてぶつけたり。その程度のことでも、人を殺すには充分な威力があるからだ。


〔私が前衛を務めますので、スミカ姉様はゴブリンの攻撃の対象にならないよう、私を上手く使いつつ遊撃してください〕

〔ん、了解〕


 戦闘技術の無いスミカが、ゴブリンと真正面から対峙するのは危険だ。

 特に今は、扱いが難しい大鎌が得物ということもあって、真っ当にゴブリンと戦えば普通に負けることすら有り得る。


 それよりは――対人戦を想定した訓練を日頃からしているフミに任せるべきだ。

 彼女の腕前と才覚があれば、おそらく2~3体のゴブリンぐらいは軽くいなせるだろうしね。


 というわけで、スミカの立ち位置はフミの後ろ。

 必要と状況に応じて前に出て攻撃を繰り出し、そして再びフミの後ろに隠れる。

 そんな臆病(チキン)な戦い方をするのが、スミカの役割だ。





 

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― 新着の感想 ―
大鎌が! 大鎌がちゃんとした説明されてる! 格闘ゲーみたいな、現実的には有り得ない動きさせてる作品が多かったりするのに! ちゃんと想像してくれてる! 良作! 素晴らしい!
武器の携帯性を考えると長物は厳しいですね。 チェロケースなら入るかな?
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