28. 投資の効果
とりあえず[筋力]だけ増やすのも変な気がするから。
迷貨を追加で5枚消費して、フミの残り5つの能力値も強化してみる。
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■投資対象 - 人物001
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レイゼイ・フミ
人間種/12歳/女性
〈剣士〉 - Lv.1 (113/341)
[筋力] 12+1
[強靱] 10+1
[敏捷] 13+1
[知恵] 8+1
[魅力] 7+1
[幸運] 10+1
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◆投資総額:6 gita
・魔力配当(6%)
・相互攻撃透過
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投資による強化は、全く問題なく成功した。
各能力値に『+1』の補正が付いたことで、全部で6ポイントの増加。
掃討者はレベルアップを迎えるたびに『2種類の能力値が1ずつ増加する』ことが多いと、掃討者ギルドで受けた仮免許の講義中に教わっている。
なので合計6ポイント増えるというのは、能力値に3レベル分の下駄を履かせるようなもの。地味ではあるけれど、結構大きい効果なんじゃないだろうか。
フミの話によると、スミカが投資で強化した能力値は、フミのステータスカードで見た時にも『+1』と表記されているらしい。
ただし、ステータスカードを見るだけだと、一体何が原因で『+1』されているのかまでは判らないようだ。
(……この『魔力配当』とか『相互攻撃透過』って、何なんだろ?)
ウィンドウの下部に記載されている文字列を眺めながら、スミカがそんなことを思っていると。
疑問に答えるように、スミカの視界に新しいウィンドウがひとつ表示された。
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◇魔力配当(6%)
投資対象者が魔力を得る時、そこに同行しているかのように
投資総額に応じた魔力配当を得ることができる。
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◇相互攻撃透過
あなたと投資対象者の攻撃は互いの身体を透過する。
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魔力配当の数値は、迷貨を1枚消費して[筋力]だけ増やしていた時は『1%』と書かれていた筈だ。
迷貨を合計6枚消費した今は『6%』に増えているので、おそらく迷貨を1枚投資するごとに、魔力配当は1%ずつ増えていくんだろう。
(投資対象が魔力を得れば、私も分け前が貰えるってことか……)
極端な話をすれば――スミカはダンジョンに全く入らなくとも、自分のレベルを上げることができるようだ。
投資の対象者、つまりフミがダンジョンに入って魔物を狩猟して魔力を稼いでくれれば、彼女が稼いだ魔力の『6%』がスミカにも入ってくる。
『同行しているかのように魔力が得られる』と書かれているぐらいだから。
投資によってスミカが魔力の分け前を得ても、投資対象者のフミが得る魔力の量自体が目減りすることは無さそうだ。
もう1つの『相互攻撃透過』も、まあ……無いよりはいいんじゃないかな?
そのうちスミカが武器を購入して、2人で肩を並べて戦うようになったとしても、お互い気兼ねなく武器を振り回せるってことだからね。
「フミ、ちょっとお願いがあるんだけれど」
「あ、はい。何をすれば良いですか?」
「ちょっと私のことを『攻撃するつもり』で、軽く殴ってみてくれない?」
「――へっ?」
要請した言葉に、フミは面食らったような顔をしてみせたけれど。
もちろんちゃんと事情を説明すれば、理解してもらうことができた。
結論から言えば――フミが手のひらでスミカの肩を叩こうとした攻撃も、鞘に収めた状態の剣でスミカを殴ろうとした攻撃も、どちらもスミカの身体を透過して、空振りのようになった。
ただし、フミの手は普通にスミカの身体に触ることはできるし、ハイタッチの要領でお互いの手のひらをぶつけるような行為も問題なく行える。
ハイタッチには『攻撃の意思』が無いだろうから、その辺で透過するかどうかを判断しているんだろうか。
「これは、なかなか面白いですね。スミカ姉様が弓とかをお使いになれば、前衛の私を気にせず攻撃することができるのでは?」
「なるほど、そういう使い方が……」
つい先程『無いよりはいいかな』と思ってしまったのを、心の中で反省する。
確かに誤射を気にせず遠距離攻撃できるのは、結構なメリットだろう。
「とりあえず、また1回戦ってみて貰っても良いかな? 金貨はあと94枚あるから、フミの能力値をもっと上げることも可能だけど。こういうのは段階的にやったほうが良い気がするし」
「それはそうですね。では、ちょっとやってみます」
ダンジョン内を少し歩くうちに、すぐにフミが魔物の気配を察知。
2体で襲いかかってきたピティを、例によってフミは瞬殺する。
(――速くなってる)
戦ってる様子を後ろから見たスミカは、すぐにそのことに気づいた。
フミの動きは、まだ目で追うことができているけれど……本当にギリギリだ。
たぶん[敏捷]をあと1ポイントでも増やせば、フミがどんな風に身体を動かして戦っているのか、スミカの目で完全には捉えられなくなりそうだ。
「す、スミカ姉様! これは凄いですよ!」
「実感があった?」
「はい! 明らかに本来以上の実力が出てます!」
当事者のフミもそう言うぐらいなので、能力値強化の恩恵は充分にあるようだ。
フミが言うには、今までより素早く動けたのはもちろん、ピティの体を剣で切り裂くのも、これまでよりずっと簡単に行えたんだとか。
この辺りには[筋力]を増やした効果が出ているんだろう。
「早速、もっと能力値を上げてみる?」
「あ、いえ――更なる強化は、現在の感覚をしっかり掴んでからでお願いします。とりあえず、あと4~5戦ぐらいさせて貰ってもいいですか?」
「もちろん。フミが納得いくまで、存分に」
「じゃあ、早速狩りに行きましょう! あっちに3体居ますので!」
楽しそうにそう告げながら、ダンジョン内を足早に先導するフミ。
フミが楽しそうにしてくれるだけで、スミカもまた嬉しい気持ちになる。
――こんにちは、死ね! とでも言わんばかりに、戦闘になる度に襲いかかってくるピティ達を、素早く剣で撫でるだけで光の粒子に変えていくフミ。
完全な無双状態だ。殺されゆくだけのピティが、ちょっとだけ憐れにも思う。
結局6回ほど戦ったあとに、再びフミへの投資を行った。
現在『+1』されている能力値を『+2』に強化するには、迷宮貨幣が『2枚』必要となるようだ。
なので全部の能力値を強化するなら、合計で18枚の消費になる。
もちろん、そのぐらいの負担なら、全然駄目ではないんだけれど――。
「あ、では強化するなら[知恵]と[魅力]以外でお願いします。たぶんどちらも私の戦い方には不要な能力値なので」
投資を行う前に、フミにそう先手を打たれてしまった。
ちなみに[知恵]は『魔術』の効果に、[魅力]は『魔法』の効果に、それぞれ影響する能力値だ。
なのでフミの言う通り、〈剣士〉である彼女には重要度が低いものだろう。
とはいえ……女の子として[魅力]とかは大事にして欲しい気もするが。
「それよりも、スミカ姉様ご自身の能力値も強化されては?」
「あー……。実はこの『投資』って、自分自身には行えないんだ」
「え、そうなんですか……」
《人物投資》の異能の説明文には、明確に『自分自身は投資対象にできない』と書かれている。
『自己投資』って言葉は、そろそろ辞書に載りそうなぐらい一般的な名詞のような気がするんだけれど。残念ながら、そういう使い方はできないようだ。
あくまでも〈投資家〉は、他人に投資して魔力の分け前を貰うことで自分自身の利益とするのが本分、ってことなのかな。
「じゃあ、フミの身体能力値の3種類と……あとは[幸運]も増やしちゃうね?」
「はい。ありがとうございます」
能力値の[幸運]は、倒した魔物がアイテムを遺す確率に影響する。
金銭的な収入に直接影響するので、これは非常に重要だ。
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■投資対象 - 人物001
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レイゼイ・フミ
人間種/12歳/女性
〈剣士〉 - Lv.1 (113/341)
[筋力] 12+2
[強靱] 10+2
[敏捷] 13+2
[知恵] 8+1
[魅力] 7+1
[幸運] 10+2
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◆投資総額:14 gita
・魔力配当(14%)
・相互攻撃透過
・位置把握
・思念会話(送信専用)
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というわけで、更に投資した結果がコチラ。
2枚消費×4種類の能力値で、追加で投資した迷宮貨幣は8枚になる。
ちゃんと投資した各能力値に『+2』が付いているのを確認して一安心。
また、予想していた通り魔力配当が『14%』に増加。
更には――。
「……『位置把握』と『思念会話』?」
何だか、新しい単語も追加されているようだった。




