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迷貨のご利用は計画的に! ~幼女投資家の現代ダンジョン収益記~  作者: 旅籠文楽


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27. 〈投資家〉

 


     [4]



 掃討者ギルド施設の2階から4階には、スミカが思っていたよりも沢山の販売店が入っており、見て回るだけでもなかなか楽しかった。

 ダンジョンから産出されたアイテムを売る店、キャンプ用品を扱う店や、配信用の撮影ドローンを販売する店など、客が求める商品の種類ごとに店舗が特化されているため、商品のラインナップが豊富で面白い。


 それぞれの店舗に貼り出されているポスターを見て知ったんだけれど、掃討者の本免許を所持していたり、あるいは掃討者として一定の活動実績を有していたりすると、どの店でも商品価格の割引が受けられるようだ。

 本免許の所持だけでも『全品2割引』というのだから、馬鹿にできない。


 スミカが欲している鎚矛(メイス)は、受付窓口の女性職員が言っていた通り、2万円程度で売られていたんだけれど……。

 結論から言えば、スミカはそれを購入しなかった。

 どうせ近日中に本免許を取るつもりだから。その後に購入すれば4000円が浮くのかと思うと、どうしても購入に踏み切れなかったのだ。


 ――吝嗇家と笑わば笑え。

 無駄遣いを許容できない性格なので、こればかりはどうしようもないのだ。


「ごめんね、フミの負担が増えちゃうと思うけれど……」


 掃討者ギルドを出て、すぐ向かいにある白鬚東アパートへ向かう道中に。

 心苦しさから、スミカはフミに軽く頭を下げた。


 購入していない以上、今日のところは武器無しでダンジョンに潜るしかない。

 もちろん、ピティは武器無しでも討伐に苦労しない魔物ではあるけれど。とはいえ武器を持っている人が居るなら、魔物の攻撃を3度も回避する、なんて迂遠な討伐方法はまず選ばないわけで。

 おそらく今日は、ほぼ全てのピティをフミが対処することになるだろう。


「いえ、気にしないでください。4000円を無駄にできない気持ちは私にもよく判りますので、むしろ共感しかないです」

「そう言ってくれると助かるよ……」

「そもそも、私でスミカ姉様のお役に立てるなら、喜びでしかないです」


 屈託のない笑顔を浮かべながら、そう言ってくれるフミ。

 申し訳ないけれど、今回は彼女の優しさに甘えさせて貰おう。


「代わりにアイテムの回収は任せてくれて良いから」


 フミに向けて、肩に掛けているレザーバッグ――『魔法の鞄』をポンと軽く叩いてみせる。

 この鞄はB5ノートがかろうじて入るかな、というぐらいの大きさなのに、中に『1000kg』までなら幾らでもアイテムを収納できる優れモノだ。


 本来なら魔物のドロップアイテムを回収して、2人のリュックサックが満杯になるたびに、地上に戻ってアイテムを処分しなければならないところだけれど。

 この『魔法の鞄』があれば、ほぼ無尽蔵にバッグの中にアイテムを回収できるため、その手間をほぼ無視することができる。


 しかも地面に落ちているアイテムを見ながら、頭の中で(収納しよう)と思うだけで即座に回収作業が完了するのだから、本当に便利。

 戦闘では役に立てなくとも、これで少しは貢献できる筈だ。


「私としてはそれだけで充分に助かります。それにスミカ姉様が居てくだされば、ダンジョンの中で迷うことが無いのも有難いですし」

「うん、そっちも任せて」


 受付窓口で手続きを済ませて、白鬚東アパートダンジョンの中へと入る。

 入ってすぐの『石碑の間』でミネラルウォーターのペットボトルを1本購入。

 もちろん購入とは言っても、代金は無料なんだけれどね。


(……沢山購入して『魔法の鞄』に入れておけば、飲み物代が浮くのでは?)


 一瞬そんな考えが頭の中にちらついたけれど、ぶんぶんと振り払う。

 流石に、掃討者全体を応援するために行われている国の施策を、私だけ有効活用しすぎるのは、あまり良いことではないだろうからね。


「そういえば、私の天職についての話をしたいんだけど」

「スミカ姉様の天職――確か〈投資家〉という話でしたね」

「うん。よく覚えてたね」

「流石に印象的だったので、覚えてますよ」


 石碑の間の奥にある階段を2人で下りながら、スミカが話を切り出すと。フミは楽しげに笑いながら、そう答えてみせた。

 まあ、殆どの天職は『魔物と戦うための職業』という感じのものばかりだから。その中で〈投資家〉という職業名は……うん、異彩だし記憶にも残るよね。


「〈投資家〉なんだけど、簡単に言うと『投資した相手の能力値を上げる』効果があるみたいなんだ」

「……えっ? そ、それは、結構凄いのでは?」

「もしかしたら凄いのかも? まだ試してないから、判らないけど」

「リゼさんに投資して、試したりはしなかったんですか?」


 不思議そうな表情で、そう訊ねてくるフミ。

 彼女に対し、スミカは頷きながら答える。


「最初に『投資』する相手は、できればフミにしたかったからね」

「わ、私……ですか?」

「うん。ダメ?」

「――駄目じゃないです! 全ッ然、駄目じゃないです!」

「そ、そう?」


 なぜか急に大きな声で、そう力説するフミ。

 よく判らない反応だけど、嫌じゃないのなら良かった。


「で、お願いがあるんだけれど。最初に『投資』なしで1回魔物と戦ったあとに、次は『投資』アリで戦ってみてもらってもいい?」

「なるほど。私が投資の効果を実感できるかどうか、試したいわけですね」

「うん、そういうこと」

「承知しました。ではまず、最初に1戦してからですね」


 そんな会話をしながら、階段を下りきって『第1階層』へと侵入する。

 ここから先は、いつ魔物との戦闘になってもおかしくないわけだけれど――。


 とはいえ、もし魔物が近くにいれば、接敵する前にフミが察知する筈だし。

 そもそもピティは、武器を手にしたフミなら一瞬で倒せるので、あまり警戒するような相手でもない。

 なのでダンジョンに入っても、もう緊張は殆ど感じなくなっていた。


「あっちに3体居ますね」

「現在位置はちゃんと把握しておくから、好きに歩き回って大丈夫だよ」

「ありがとうございます」


 フミに先導されるままに、スミカは着いていく。

 今回のダンジョン探索は、魔物を探すのも、倒すのもフミがやってくれるので、本当にただ着いていくだけになりそうだ。

 ……頭の中に『金魚のフン』という単語が、軽くちらついた。


 通路の角を曲がった先で、3体のピティと遭遇。

 フミはその3体を、抜剣して1秒も経たないうちに、全て切り裂いてしまった。


 なんと鮮やかな剣捌きだろう――と、見ていて思わず感心してしまう。

 フミが3度繰り出した斬撃は、かろうじて目で追うことはできたけれど。同じ動きが自分にもできるかと問われれば、答えは完全に『ノー』だ。


「凄いね。この間よりも手際が良くなったんじゃない?」

「小柄な身体と、この剣の長さを前提とした戦い方を祖父と一緒に模索して、練習してきましたので。その成果が出ているのかもしれません」

「おおー、なるほど」


 フミが使っている片手剣は、長さが大体80cmぐらい。

 普通の大人になら、わりと何も考えず振り回せる程度の長さだろうけれど。小柄なフミにとっては身長の3分の2に相当する長さになる。

 その辺を踏まえた練習というのは、確かに大事そうだ。


「ではスミカ姉様、早速」

「ん、了解。ちょっと待ってね」


 倒したピティがゴムボールを2個落としていたので、まずそれを回収する。

 頭の中で(回収!)と念じるだけで、離れた場所に落ちているアイテムも即座に回収して収納できるので、本当に便利だ。


 さて――現在スミカが持っている異能(フィート)は、全部で4つ。

 [真祖]と[吸血]、そして《迷宮投資家》と《人物投資》だ。

 言うまでもなく、前者2つは『吸血姫(カルミラ)』に関連した異能。なので〈投資家〉の天職に関係する異能は、後者の2つになる。




+----+

《迷宮投資家》/異能


 自身のレベルの5倍まで『投資対象』を持つことができ

 その状態を常に把握することが可能となる。


 あなたと投資対象は互いを攻撃できなくなる。

 投資総額に応じて毎日『投資報酬ポイント』を得る。


-

《人物投資》/異能


 人物を『投資対象』として登録可能になる。

 ただし自分自身は投資対象にできない。


 『迷貨』を投資して対象者の能力を強化できる。


 対象者が魔力を得る時、そこに同行しているかのように

 あなたも少量の魔力を得ることができる。


+----+




 それぞれの異能の効果は、こんな感じ。

 重要なのは《人物投資》の側で、『迷貨』を投資して対象者の能力を強化することができるというもの。


 これは魔法や魔術による強化(バフ)と違って、永続的な能力強化だ。

 ただし相手を投資対象から解除すると、流石に効果も失われるみたいだけれど。


「フミのことを『投資対象』として登録するけど、良い?」

「はい!」


 フミを投資対象にしよう――と頭の中で意識すると。

 スミカの視界に、まるでゲームのようなウィンドウが1つ表示された。




+----+

■投資対象 - 人物001

-

レイゼイ・フミ

 人間種(ノルン)/12歳/女性


  〈剣士〉 - Lv.1 (113/341)


  [筋力] 12

  [強靱] 10

  [敏捷] 13


  [知恵]  8

  [魅力]  7

  [幸運] 10


-

◆投資総額:0 gita


 (配当なし)


+----+




 どうやら『投資対象』に登録した時点で、相手のステータスを見ることができるようになるらしい。

 やはりと言うべきか、身体能力値はスミカよりフミのほうが遥かに高いようだ。


 ちなみにフミによると、自分が投資対象として登録されたことは、全く判らないらしい。

 なのでやろうと思えば、ダンジョン探索中に遭遇した他の掃討者を、勝手に自分の投資対象として登録する――なんてことも、可能ではあるんだろう。


「どうですか、スミカ姉様?」

「ごめん、もうちょっと待ってね」


 あとは『迷貨』を投資することで、フミの能力値を増やすことができる。

 この迷貨とは『迷宮金貨』のこと。

 つまり、スミカが祝福のレベルアップで手に入れた『魔法の鞄』に最初から入っていた『迷宮金貨100枚』のことだ。


 というわけでスミカは『魔法の鞄』から、とりあえず10枚分の迷宮金貨を取り出してみる。

 頭の中で(取り出そう)と考えるだけで、スミカの手のひらに出現した10枚の綺麗な金貨。

 500円玉よりも一回り大きいサイズなので、もしこれが純金か、もしくは高純度の金貨なら、その金銭価値は結構なものだろう。


 売れば充分な金額になりそうだけれど――今は考えないことにする。

 お金を手に持ったまま、頭の中で(フミの[筋力]に投資する)と意識すると。手のひらから1枚の金貨が消滅し、同時にウィンドウに変化が生じた。




+----+

■投資対象 - 人物001

-

レイゼイ・フミ

 人間種(ノルン)/12歳/女性


  〈剣士〉 - Lv.1 (113/341)


  [筋力] 12+1

  [強靱] 10

  [敏捷] 13


  [知恵]  8

  [魅力]  7

  [幸運] 10


-

◆投資総額:1 gita


 ・魔力配当(1%)

 ・相互攻撃透過


+----+




 フミの[筋力]の欄に『+1』という表示が加わっている。

 金貨の消費さえ惜しまなければ、どうやら本当に投資対象の能力値を増やすことができるようだ。





 

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