26. フミの滞在
今週末は多忙のため短めです。ゆるして。
それから、フミと2人で家を出て掃討者ギルドへと向かう。
自転車がギルドにあるので、往路の移動はジョギングで。
この時期は午前中だと、少し肌寒い気温だけれど。走ったぶん身体が温まることを考慮すると、そのぐらいのほうが却って心地良くもある。
一般的にジョギングとランニングの違いとは、『会話ができること』だと言われている。
ランニングは時速に換算すると大体『8km』以上のペースで走るので、これだと併走する人と会話をする余裕はあまりない。
歩いているのと変わらない時速4kmよりは早く、けれどランニングと違って時速8kmには満たない速さ。この範囲内がジョギングで、走りながらでも問題なく会話を楽しむことができる。
もちろんジョギング程度のペースでも、普段運動を全くしない人だとそれなりの負荷にはなるから。会話を楽しむためには、走ることに多少慣れている必要はあるけれどね。
その点、普段から時折ジョギングを楽しんでいるスミカは特に問題ないし、バリバリの運動少女であるフミについては言うまでもない。
というわけで、移動中にフミと色々な話をする。
2週間ぶりに会ったわけなので、話の種は幾らでもあった。
「――あっ、そうだ。食事中に言い忘れていたことがあるのですが」
ふと、思い出したかのようにフミがそう告げる。
「うん? どうしたの、フミ」
「よろしければスミカ姉様のご自宅に、暫く泊まらせて頂けないでしょうか?」
「それは別に構わないけれど……週明けには学校があるんじゃないの?」
わざわざ『暫く』と言ってくるぐらいだから、フミが希望しているのは1泊以上の滞在、つまり月曜日以降も泊まりたいってことなんだろう。
でも、そうなると――学校を欠席する必要があると思うんだけれど。
「私は天職と一緒に剣を得たあと、普通にピティを剣で倒したじゃないですか」
「うん。あっという間に3体のピティを倒してたよね」
「その時の話を祖父にしたんですが。魔物を斬って『殺す』ことに抵抗を覚えないなら、私には掃討者として大成する素質があると、祖父がそう太鼓判を捺してくれたので。ひとまず学校は1週間ほど休んで、掃討者の本免許の取得を優先しようかと考えていまして」
「なるほど……」
確かにフミほど掃討者をやるのに向いていそうな人など、他には思いつかない。
彼女の持つ剣の腕前や魔物の察知能力は、それほど優れたものだ。
ましてフミは〈剣士〉という、彼女のためにあるような天職まで手に入れたわけだから。もはや掃討者を本格的な生業とすることに、不安はないだろう。
それを思えば――確かに1週間ぐらいなら学校を休んでも、さして問題ではないのかもしれない。
資格試験さえ無事に浮かれれば、就職が約束されるようなものだしね。
「フミのご両親も承知しているんだよね?」
「はい、祖父だけでなく父母からも、ちゃんと許可は得ています」
「それなら私は別に構わないよ。あとで一応フミのご両親と電話で少し話をさせて貰うけれど、好きなだけ自宅に泊まっていって」
「ありがとうございます!」
というわけで、フミが1週間ほど泊まることになった。
……間違っても彼女に手を出してしまわないよう、向こう1週間は私の理性に、沢山頑張って貰うことになりそうだ。
「じゃあ、早速今日から本免許の講義を受ける?」
「いえ。まずは申請手続きだけして、受講は明日からにしようかと。今日のところはダンジョンに潜って、少しお金を稼いでおきたいです」
「ん、了解。じゃあ私もそうしよう」
どうせ本免許は早期に取るつもりだったし、フミに合わせない理由がない。
大学を辞めたスミカには、時間の余裕が幾らでもあるしね。
――と、そんな会話をしているうちに、無事に掃討者ギルドへと到着した。
掛かった時間は大体40分ぐらい。距離のわりに、ちょっと時間が掛かり過ぎのような気もするけれど……。
とはいえ、スミカにとっては身体が小さくなって以降、初めてのジョギングで。歩幅に違和感を覚えながらの移動だったわけなので、これは仕方ないかな。
ギルドに入ってすぐの受付窓口に立っている女性に話しかけて、まずは自転車のことについて切り出す。
すると、車庫に自転車を2台預かっていることは、職員の間で情報共有してくれていたらしく、すぐに応対して貰えた。
「一応、本人確認だけさせて頂けますか?」
「あ、ではついでに本免許の受講と受験の申請手続きをお願いします。そちらでも本人確認が必要だと思いますので」
「なるほど、承知いたしました。受講は本日から?」
「いえ、明日から受けるつもりです」
というわけで、本人証明として掃討者の仮免許を提示。
手早く受講と受験の申請書に記入して、手続きを済ませる。
預かっている自転車に関しては、勝手に車庫に入って持っていって構わないという許可を得た。
「もし車庫に立ち入るところや、自転車を持ち出すところを誰かに見咎められました場合には、職員の上埜が許可を出したとお伝え下さい」
「ありがとうございます、そうします」
「他に何かお訊ねになりたいことはありますか?」
「そうですね……。武器が欲しいのですが、こちらで購入可能でしょうか?」
スミカは祝福のレベルアップを経験した際に『魔法の鞄+1』と、その中に入っていた『迷宮金貨100枚』を手に入れているけれど。
この2つは、明らかに武器として使用できるものではない。なので今後掃討者として活動することを考えると、武器を何か1つは手に入れておく必要がある。
「販売してはおりますが……剣や槍などは購入に本免許が必要です。お急ぎでないようでしたら、武器の購入は本免許を取得された後にされてはいかがでしょう?」
「あ、いえ。まさに鎚矛を買おうと思ってましたので」
「そうなのですね。刃が付いていない武器でしたら仮免許でも購入可能ですので、この建物の2階にあります販売店でお求めください」
それから窓口の女性は「予算は2万円程度をお考えくださいね」と、情報を付け足してくれた。
ちょうど2~3万円ぐらい済めばいいなと、そう思っていたので有難い。
「武器屋は私も見てみたいですね……! 早速向かいますか?」
「うん、行ってみよう」
予想はしていたけれど、武器を売る店にはフミも興味があるようだ。
多分、安ければ剣ではなく『刀』を購入して使いたいと考えているんだろう。




