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迷貨のご利用は計画的に! ~幼女投資家の現代ダンジョン収益記~  作者: 旅籠文楽


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23. 判断が早い

 


     [2]



 その日の夜、スミカは自宅に帰ることにした。

 なにしろ、もうチカと一晩エッチをしても問題ないぐらい、体調も回復しているわけだからね。必要以上にリゼたちの家に厄介になるのは迷惑だろう。


「最後に我儘をひとつ言っても構わない?」

「スミカには花粉症を治してもらった恩がある。何なりと言ってくれ」

「そう? よかったら私の自宅まで、みんなで送って貰えないかなと思って」

「送るのは構わないが……。みんなで? 4人全員でか?」

「うん。ちょっとみんなに見せたいものがあるから」


 スミカにそう言われて、4人は首を傾げていた様子だったけれど。

 4人とも特に用事などはないらしく、提案はすぐに承諾して貰えた。


 白鬚東アパートダンジョンがあるのは、東京23区で言うと墨田区になるわけだけれど。

 実は白鬚東アパートはちょうど区境に近い場所に建っており、西の隅田川を渡れば荒川区に、北の旧綾瀬川を渡れば足立区に、北東の荒川を渡れば葛飾区にと、様々な区へすぐに入ることができる。

 リゼたち4人が住むマンションがあるのは、その葛飾区だ。ミサキが運転する車に乗り込み、一行は錦糸町駅の近くにあるスミカの自宅へと向かう。


「広々としていていいね、ハイエース」

「バンド活動をする上では、このぐらいのサイズは()るっすからねー」


 助手席でナビ役を務めながら、スミカがそう感想を告げると。運転席のミサキがちょっぴり嬉しそうにそう答えた。

 なんでも、このハイエースはミサキの私物らしい。喜んでいるところから察するに、ミサキも自分の車を気に入っているんだろう。


「やっぱり人だけでなく、色々と嵩張(かさば)る物を載せる必要があるの?」

「そうっすねー。まず楽器としてギターが2本とベースが1本、ワンマンライブの場合にはこれにフルセットのドラムも積み込むっす。あとウチのバンドではCDやグッズの販売もやってるんで、それだけでダンボール何箱分かはあるっすね。他には弾き語り用に電池駆動のアンプとか、いざという時に車中泊できるように毛布とかも常時積んでるっすから――」

「うわ、それは大変ね……。あ、次の角を左ね」

「了解っす。そういえば、スミカさんの家には、このサイズの車は流石に停められないっすよね? 近くで停めれる場所を探さないと」

「あ、大丈夫。ウチは一軒家なんで普通に停められるから」

「マジっすか⁉ 23区内で一軒家とは、また凄いっすねー。驚きっす」

「その程度で驚いていたら、身が持たないと思うよ?」

「そうっすかね? いやー……それにしてもアレっすね。ハイエースの車内に幼女が2人も乗ってると、どっかで(かどわ)かしてきた感が凄いっす」

「ああ……。そういうネットスラングもあったねえ」


 ミサキの言葉を受けて、思わずスミカは苦笑してしまう。

 同時に、女の子たちに誘拐されるならそれもいいかな、と思ったりもした。


「左の建物の門の前で、一旦車を停めて貰える?」

「え? なんか高い(へい)が延々と続いてるんすけど……。ここの門の前で?」

「うん、お願い」

「えぇええ……?」


 (いぶか)しく思っていることを表情に出しながらも、ミサキは言われた通り、門の前でハイエースを停めてくれる。

 スミカが助手席からリモコンを操作すると――10秒弱の時間を掛けて、大きな門がズズズッと自動的に開いていき、程なく車が敷地内へ入れるようになった。


「え、マジっすか……。こ、この凄い豪邸に、お住みで?」

「うん。豪邸といっても建てたのは祖父と祖母だから、()いだだけの別に私は凄くないけれどね。あ、入ってすぐ右にガレージがあるから、そっちに車を入れて」

「り、了解っす」


 リモコンを操作して、ガレージのシャッターも開けておく。

 シャッターを操作した時点で、ガレージの内外にある照明が自動的にONになるので、夜間でも視界に困ることはない。


「うわ、ハイエースバンでも余裕で入るサイズのガレージっすね……。普段はここに車は何も停めてないんすか?」

「うん。昔は祖父の車があったけど、相続税を払うために売っちゃったから」

「な、なるほど……」


 ガレージ内に車を停めると、後ろの3人が我先にと車外に飛び出した。


「こ、これは凄い……」

「ひゃあ……。これはまさに、金持ちの豪邸やなー」

「スゴーイ! ヒッローイ、デス!」


 リゼとチカ、パティの3人がそれぞれに感嘆の声を上げる。

 これだけ驚いて貰えるなら、来てくれるようお願いした甲斐があるね。


「スミカさん。家の間取りはどんな感じなんすか?」

「8SLDKだね。あ、地下室も入れると8SSLDKになるのかな」

「――8SSLDK⁉ 何ソレ、聞いたこともないっす⁉」


 少し遅れて車から降りたミサキの問いに答えると。彼女が一番大きな声を上げて驚いてみせた。

 まあ、驚く気持ちもよく判る。なかなか普通は聞かないサイズだよね。


「スミカ。これが私達に見せたいものだったんだな?」


 リゼが問いかけてきたその言葉に対し、スミカは首を左右に振る。


「いや、見てほしかったのは、この家の地下室」

「地下室? 何か面白いものがあるのか?」

「そうだね。ある意味では、リゼにとって何より欲しいものかもしれない」

「私が欲しいもの……。ううむ、想像がつかないな」


 首を傾げながら、考え込むリゼ。

 小声でぶつぶつと「何か貴重な楽器でもあるのか……?」と(こぼ)しているけれど。残念ながら、それだと正解にはまだ結構遠い。


「ま、実際に見たら判るよ。とりあえず上がっていって?」

「……あ、ああ。お邪魔させて貰うよ」


 4人を連れて、家の中に入る。

 玄関に廊下に居間にと、案内していく経路上にある空間のひとつひとつに、4人全員がいちいち驚くものだから、なかなか足が進まなかったけれど。

 ようやく居間の脇にあるエレベーターに着いたので、そこから地下室へ降りた。


「ワオ! シアタールームデスネ!」

「すっげーっす! お金持ちマジパネェっす!」


 パティとミサキが、驚きに再び大きな声を上げる。

 そう、スミカの自宅にある地下室。それは映画の視聴が趣味だった、祖父と祖母が(かつ)て愛用していた、広々としたシアタールームだ。


「これがスミカが見せたかったものか……」

「うん。感想はどう?」

「凄いな。こんな家に住むのは、まさに夢だろう」

「じゃあ――住まない?」

「……は?」


 スミカの提案に、リゼが驚きで一杯の表情を浮かべる。

 いつも冷静で淡々としている彼女にしては、なかなか珍しい顔だと言えた。


「祖父と祖母は生前にこの地下室で、深夜でも早朝でも時間を問わずに、大音量で毎日のように映画を楽しんでいたらしいの。――つまり、この部屋の防音は完璧と言って良いと思う」

「ふむ……?」

「今リゼたちが住んでいるマンションの部屋だと、昼間以外にはギターやベースの練習ができないし、ドラムのチカに至っては近所の楽器店で練習スタジオを借りないと、全く楽器練習ができないんでしょ?

 家賃はいまのマンションと同額ぐらいを払って貰えれば充分だから、どうかな。ここに住めば24時間いつでも、チカも交えて存分に楽器演奏ができるけど?」

「――今から我々はキミの犬だ。好きなように使ってくれ」

「判断が早い」


 全く間を置かず即答したリゼに、思わずスミカは笑ってしまう。

 スミカひとりで住むには広すぎる家だったからね。同居人が増えてくれて、しかも家賃まで払ってくれるなら、それはスミカにとっても有難い話なのだ。





 

-

□葛飾区


 東京23区の中では北東の端に位置する区。JRで言うと総武本線の新小岩駅、常磐線の亀有駅と金町駅が区内にある。

 ほぼほぼ住宅地で、東京23区内でアクセスも良いわりに家賃相場はそこそこ安め。葛飾区に住み、日中は他の区に働きに出る人も多い。


 演歌で有名な『矢切(やぎり)の渡し』はタイトルにもある通り、千葉県松戸市の矢切へと向かう渡し船に乗る様子を唄ったものだが、この渡し船の出発地点は葛飾区の柴又だったりする。

 この渡し船は2025年現在も毎日ではないが運行されており、片道200円で乗船できる。ただし渡し先は別に観光地ではないので特に見るものもなく、基本的には往復で乗船して柴又へ戻ってきたほうが良い。

 観光するなら、柴又帝釈天(たいしゃくてん)で縁日が開かれる『庚申(こうしん)の日』がお勧め。庚申の日には荒天でない限り、渡し船も運行しているらしい。


 葛飾区は『創作物に恵まれている区』で、人によっては東京23区の中で最も有名だと思うかもしれない。特に、嘗て漫画誌の中で週刊少年ジャンプが突出して無双していた時代などはマジで。

 葛飾区を有名にした創作物には、特に『男はつらいよ』・『こちら葛飾区亀有公園前派出所』・『キャプテン翼』の3つが挙げられる。


 『男はつらいよ』は「私、生まれも育ちも葛飾柴又です。帝釈天(たいしゃくてん)で産湯をつかい~」という有名なセリフからも判る通り、舞台は葛飾区の柴又が中心。

 『こちら葛飾区亀有公園前派出所』は名前の通り『亀有公園前派出所』を舞台とした漫画。『亀有公園』は実在するが『亀有公園前派出所』は実在しない、というのはわりと有名な話。一方で実在しない筈の『葛飾警察署』が、のちに本当に爆誕してしまったりと、なかなか面白いエピソードもあったりする。

 『キャプテン翼』は静岡県の南葛市が舞台だから違うでしょ、と思われるかもしれないが、この『南葛』は著者の高橋先生の出身校『東京都立南葛飾高等学校』にちなんだもの。作中には葛飾区っぽい風景も登場していたりする。

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― 新着の感想 ―
賃貸収入も大事だよね。(建前)
この主人公、凄い勢いで女を囲ってる……!
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